廃城の泣き虫アデリー

今野綾

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秘密

秘密⑥

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 二人のやり取りを見守っていたダグマが立ち上がった。

「とにかく、一応大事にならなくて良かった。今回の件で、もうこれまでみたいな緩さじゃダメだとわかった。安心して暮らせないなら意味がないだろ。手始めに大門を直す。それから扉に鍵がかかようにしよう」

 ロセが先に「大門は時間がかかりそう。先に部屋の鍵がつけたほうが良さそうだわ」と、反応した。

「ああ、そうだ。部屋のことはちょっと考えたんだが、お前たち二人は一緒の部屋を使ったらどうだろう。二人のほうが何かと安心だろ」

 ロセとアデリーは顔を見合わせた。最近のロセなら同じ部屋でも問題ないように思った。ロセの表情を見る限り、ロセも拒否反応は示していなかった。

「入るならアデリーの部屋がいいわね。広くて暖炉も上等だもの」

 やはりロセはこの案に乗り気らしい。そこでダグマがアデリーはどうなのかと目で問う。

「あ……、私も良いと思います。鍵の取り付けもひとまず一部屋で済むし、冬場の薪の消費も減ると思いますから」
「そうか。それなら二人の部屋の鍵をつけよう。若い女が二人なら最優先させても誰も文句はないだろうし」

 部屋を見渡したロセが「ベッド二つでも余裕ね」と、確認した。

「じゃあ、カルロに話しておく。ロセのベッドを移動することになるから、ロセがカルロのところに合理して二人で作業をしてくれ」

 ダグマに指示されロセは返事をする前にアデリーを見て、再びダグマを見上げた。

「アデリーの傷に薬を塗ってからにするわ。カルロには少し待っててもらうように言って頂戴」

 またダグマの顔が曇ったように感じた。ダグマはもしかしてアデリーが負傷したことに責任を感じているのだろうか。アデリーの保護者のような言い方をしていたこともあったし、そうなのかもしれない。

「そりゃ、もちろんそっちのほうが先で構わん。話はしておくから、後からカルロのところに行ってくれ」

 ロセは異存ないようで、二つ返事で答えてダグマの背中を見送っていた。ダグマが完全に姿を消すと、ロセは首を斜めに倒し考え込む。

「ダグマが変なのよ。アデリーも気がついた?」

 ロセもダグマの様子がおかしいことが気にかかっているようだ。アデリーもいつものおおらかな雰囲気がないダグマがとてもひっかかる。

「そうよね。いつもニコニコしているわけではないけれど……今日のダグマはなんだか気落ちしているような気がするわ」

 頷きながら服を脱ぐように言われ、そのままロセは服を脱ぐのに手を貸していく。

「アデリーが気を失っている時、ダグマがアデリーの手を握って言ったのよ。『アンナ、目を開けてくれ』って。アンナって誰かしら」
「アンナ……」

 一度も聞いたことがない。アデリーがここに着いてからそれほど長くはないのでわからなくても仕方がないけれどその人がどんな人なのか気になってしまう。

「あんたの横にいる間ずっとあんな感じ。思い詰めたような顔をしてるのよね」

 アデリーが服を脱ぐと腹部に布が充てられていた。じわりと滲む血がリルの起こしたことが現実のことだったことを物語っていた。

「傷は深くないし化膿もしてないから」

 ロセはテキパキとテーブルから桶を取って、なかに浸してあった布を絞った。

「薬を染み込ませてあるの。ちょっと染みるけど、まぁ耐えて」

 アデリーの傷を押さえていた布を剥がす時、傷と布が一体化していて引っ張られてピリピリとした。

「お薬代、払わなきゃ」

 痛さに耐えて顔を仰向かせたまま言うと、そこにぬっとロセが顔を出した。

「リルは元々おかしな奴で、しかもそれを知っていたのに黙っていたから……その、悪いと思ってるのよ。それに、アデリーは私を助けようとして剣を抜いたことはわかってる。だから、今回はいいわ。この傷は本来、私のだったと思うことにしたから薬代は要らない」

 言うだけ言うと引っ込んで、再び布を引っ張っていく。

「ありがとう……あ、痛い!」
「多少は気合で耐えなさいよ」

 ジリジリ布を剥がしていくのが、なんとも嫌な感じなのだ。地味に痛いし、苦痛が長い。

「痛い!」

 時々、声が出てしまうほど強烈だ。

「もー、じゃああなたのためよ。一気にいくわ」

 それはせっかく塞がり始めた傷に障るのではないかと反論しようとした矢先、ロセは宣言通りベリッとくっついた布を剥がした。

「ちょ、ちょっと……!」

 悲鳴に近い非難の声を上げたが、ロセは布を手にご満悦だ。

「一気にやって正解だわ。傷も開いてないし。次からこうしましょ」

 涙が滲んだ目で恨めしくロセを見つめたが、ロセは機嫌よく布を新しいものに替えて、勢いよくアデリーの腹に押し付けた。

「ああ、もう!」

 今度は傷口に薬が染みて目の前に火花が散ったようになった。

「元気になって良かったわね」

 非難の声だったのに、ロセはその声がなかなかに大きかったことをそう評した。傷口が塞がるまで繰り返すというロセの言葉にアデリーは珍しく軽く悪態をついて、慌てて口を塞ぐのだった。


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