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弓師トニ
弓師トニ④
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夜、厨房でベッラの作った美味しい鰻の団子スープを食べてから、ロセと二人で部屋へと向かった。たまたまだが、同じ頃に食事を終えたダグマと二人の後に続いていた。
「──それでね、ニコラスが次に街へと行くときに薬を売ってきてもらうようにお願いしたわけ。そしたら、相場がわからないからって渋るのよ」
「あら、売れるほど薬を作れたの?」
「そりゃあ、やる時はやる女ですもの」
ずっと止まらないお喋りにダグマが「よく喋るな」と呆れるがそれでもロセは止まらない。
「そりゃ話せばストレス発散できるもの」
「その割にはつい最近までアデリーとは話さなかったろ?」
「だってこの子は領主の娘でしょ。私、領主ってヤツが死ぬほど憎いんですもの。どうしょうもないじゃない」
アデリーが無視されていたのは領主の娘だったかららしい。理由がわかって良かったけれど、なぜロセは領主を嫌いなのだろうか。
「領主の娘って言っても逃げてきた身だぞ? そしたら今は領主の娘じゃなくて平民だろ」
ダグマの正論にもロセは反論する。
「ロバに産まれたら、違うところに移り住んでもロバだもの。領主の出なんで極悪人だと思うじゃない。でもね、この子は案外染まってなかったし、そろならってことで、私は気持ちを入れ替えたの」
ロバに例えられて、ちょっと笑いそうになったアデリーだがそれを堪えて質問する。
「なぜそこまで領主を嫌うの?」
「それは簡単、悪い人間だからよ。お爺ちゃんを追い出したんだから。黒死病を治せなかった罰に街から追い出されたのよ! 酷い悪評まで触れ回ってね。ほんと、くたばれクソ領主め」
最後は口悪く罵って、アデリーの方がダグマの耳にも入っているのにとオロオロしてしまった。当の本人、ロセはまるで気にしてはいないでまだ続けた。
「領主のどこが偉いのよ。お爺ちゃんはそりゃぁ一所懸命病を治そうとしたのよ。その時、領主様はどこでなにをしていたのやら? 酒や女に興じていたに違いないわ!」
「おいおい、そりゃ見て言ってるわけじゃないだろ? 真実以外は口にするべきじゃないな」
ダグマに苦言を呈されてもまだ鼻息荒く「でも、領主のオヤジだってお爺ちゃんのことをなんにも知らないくせにあることないこと言いふらしたんですからね! 私だって言いたいことを言わさせてもらいます」と、折れないのだった。
アデリーは自分の親しか見ていなかった為に、少し前なら反論していただろう。領主だってちゃんと皆のために働いているし、善人だと主張していたはずだ。でも、隣の領地からアデリーの土地を狙って酷いことをしたのも、やはり領主だ。今なら色々な人間がいることを身を以て知っているので黙っていた。
「ま、薬師だってペテンを働く奴はいるしな。どんな仕事をしていたって、いい人間も悪い人間も居るんだ。だから、領主だから云々ってのは決めつけになる。口を閉ざしておくといい。それを聞いて悲しくなる奴もいるだろうよ」
ダグマはロセの話に区切りを付けて、アデリーを呼びかけた。
「それはそうと、アデリー。お前一人で定期的に俺の部屋に来い」
ダグマの命令に、ロセのほうが過大に反応して振り返った。
「ちょっと! どういうこと!? 慰み者にするつもりなら──」
聞いているアデリーのほうが顔から火を噴きそうだ。なんてことを大声ではなしているのか。
「は! なんでそうなる。俺はアデリーの貴重品を預かってるからそれを確認しにこいって話をしてるだけだぞ」
「それならそうと先に言うべきだわ! 何を急に言い出したのかと思って心臓が止まりそうだったわよ」
「勝手に早合点しただけだろ……まったく」
そこでダグマはあらためて「そういうことだ。しかし……お前はかなり強力な盾を手に入れたな。これならロセを突破しなけりゃ、男は手を出せまい」と、半ば呆れてロセの勇姿を称えていた。
腰に手を置いたロセが「当たり前でしょ。この子はお嬢様なのよ? 私が守らなくて誰が守るのよ」と、否定することなくダグマの言葉を受け入れていた。
「この前までのお前はどこへ行ったのやら。とにかく部屋に辿り着けないから道を塞ぐな。進め、進め」
夜風の冷たい夜だったが、アデリーはなんだか温かい布に包まれた気持ちになっていた。あれだけ難しかったロセとの関係が改善し、今やロセがアデリーを守ってくれようとしてさえいる。それは心から嬉しいことだった。
「──それでね、ニコラスが次に街へと行くときに薬を売ってきてもらうようにお願いしたわけ。そしたら、相場がわからないからって渋るのよ」
「あら、売れるほど薬を作れたの?」
「そりゃあ、やる時はやる女ですもの」
ずっと止まらないお喋りにダグマが「よく喋るな」と呆れるがそれでもロセは止まらない。
「そりゃ話せばストレス発散できるもの」
「その割にはつい最近までアデリーとは話さなかったろ?」
「だってこの子は領主の娘でしょ。私、領主ってヤツが死ぬほど憎いんですもの。どうしょうもないじゃない」
アデリーが無視されていたのは領主の娘だったかららしい。理由がわかって良かったけれど、なぜロセは領主を嫌いなのだろうか。
「領主の娘って言っても逃げてきた身だぞ? そしたら今は領主の娘じゃなくて平民だろ」
ダグマの正論にもロセは反論する。
「ロバに産まれたら、違うところに移り住んでもロバだもの。領主の出なんで極悪人だと思うじゃない。でもね、この子は案外染まってなかったし、そろならってことで、私は気持ちを入れ替えたの」
ロバに例えられて、ちょっと笑いそうになったアデリーだがそれを堪えて質問する。
「なぜそこまで領主を嫌うの?」
「それは簡単、悪い人間だからよ。お爺ちゃんを追い出したんだから。黒死病を治せなかった罰に街から追い出されたのよ! 酷い悪評まで触れ回ってね。ほんと、くたばれクソ領主め」
最後は口悪く罵って、アデリーの方がダグマの耳にも入っているのにとオロオロしてしまった。当の本人、ロセはまるで気にしてはいないでまだ続けた。
「領主のどこが偉いのよ。お爺ちゃんはそりゃぁ一所懸命病を治そうとしたのよ。その時、領主様はどこでなにをしていたのやら? 酒や女に興じていたに違いないわ!」
「おいおい、そりゃ見て言ってるわけじゃないだろ? 真実以外は口にするべきじゃないな」
ダグマに苦言を呈されてもまだ鼻息荒く「でも、領主のオヤジだってお爺ちゃんのことをなんにも知らないくせにあることないこと言いふらしたんですからね! 私だって言いたいことを言わさせてもらいます」と、折れないのだった。
アデリーは自分の親しか見ていなかった為に、少し前なら反論していただろう。領主だってちゃんと皆のために働いているし、善人だと主張していたはずだ。でも、隣の領地からアデリーの土地を狙って酷いことをしたのも、やはり領主だ。今なら色々な人間がいることを身を以て知っているので黙っていた。
「ま、薬師だってペテンを働く奴はいるしな。どんな仕事をしていたって、いい人間も悪い人間も居るんだ。だから、領主だから云々ってのは決めつけになる。口を閉ざしておくといい。それを聞いて悲しくなる奴もいるだろうよ」
ダグマはロセの話に区切りを付けて、アデリーを呼びかけた。
「それはそうと、アデリー。お前一人で定期的に俺の部屋に来い」
ダグマの命令に、ロセのほうが過大に反応して振り返った。
「ちょっと! どういうこと!? 慰み者にするつもりなら──」
聞いているアデリーのほうが顔から火を噴きそうだ。なんてことを大声ではなしているのか。
「は! なんでそうなる。俺はアデリーの貴重品を預かってるからそれを確認しにこいって話をしてるだけだぞ」
「それならそうと先に言うべきだわ! 何を急に言い出したのかと思って心臓が止まりそうだったわよ」
「勝手に早合点しただけだろ……まったく」
そこでダグマはあらためて「そういうことだ。しかし……お前はかなり強力な盾を手に入れたな。これならロセを突破しなけりゃ、男は手を出せまい」と、半ば呆れてロセの勇姿を称えていた。
腰に手を置いたロセが「当たり前でしょ。この子はお嬢様なのよ? 私が守らなくて誰が守るのよ」と、否定することなくダグマの言葉を受け入れていた。
「この前までのお前はどこへ行ったのやら。とにかく部屋に辿り着けないから道を塞ぐな。進め、進め」
夜風の冷たい夜だったが、アデリーはなんだか温かい布に包まれた気持ちになっていた。あれだけ難しかったロセとの関係が改善し、今やロセがアデリーを守ってくれようとしてさえいる。それは心から嬉しいことだった。
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