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晩秋
晩秋②
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晩御飯の時、当然の如くヤマドリダケの美味しさに皆が歓喜した。その機会に乗じてアデリーはキノコ狩りに自分もついていきたいと誰ともなしに言ってみた。
「猪が出るのよ? アデリーはのんびりしてるから危ないわよ」
真っ先に反対したのはロセだった。ただ、横から「俺もお供しようか。暫くここに滞在するつもりだし」と、弓師のトニが助け舟を出した。
「えー、俺も行きたいのにそうやってトニは良いところ持っていきやがって」
ニコラスは明日から少し遠出するらしい。ダグマに依頼された品々の買い出しの他に、皆が作った商品も託されているのだと語っていた。
「俺も行くか」
そこで意外なことにダグマもキノコ狩りに参加すると言い出した。まだ門が完成していないのに出掛けると言い出すなんて思ってもいなかった。そこで、鈍いアデリーでも昼間のベッラが話していた内容を思い出して、自分のせいだと確信した。ダグマはアデリーが怪我したことを気にかけているし、また危険な目に合うかもしれないと思っているのだろう。
「あの……皆さん、私に過保護すぎませんか?」
仕事を投げ出してまでついてきてもらうなんて、まるで手のかかる子どものようだ。ロセだって反対している理由はアデリーの心配をしてくれているからだし、皆がとにかく過敏になっている。
それに答えたのはなぜかトニだった。
「君は……赤毛だし──」
「止めなよ、トニ。アデリーは俺達のアンナじゃない」
ニコラスがトニの言葉に割って入ったが、それをまたダグマが「止めとけ」と一喝し黙らせた。二人は即座に口を閉ざし、なんだか妙な間が生まれていた。
三人の中で一番先に笑顔を作ってトニが場を繕う。
「とにかく、俺が行くよ。暇だしね」
そこにダグマも憮然として言う。
「俺も猪が居るなら狩りたいから行きたいだけだ」
ダグマはやはり行くらしい。ニコラスが一人だけ不満そうに「なんだよ、俺も行きたかったのにな。久しぶりに狩りするのも楽しそうだ」と、ブツブツ。
カリーナがやっと元通りの空気に戻った場を更に盛り上げようと話に加わった。
「アタシも行きたいけど窯に火を入れるから暫く動けないわ。ま、食べられればそれでいい。それより、アデリーの作ったこのハムを食べたかい? この子はどんどん料理の腕を上げちまって、そのうちベッラの仕事を奪っちゃうかもしれないよ」
冗談にも程がある。アデリーはパンしか一人で作れるものがないのだ。しかも、カリーナは何種類もパンが焼けるのに、アデリーはまだ一種類のみ。他にも少しずつ教えて貰ってはいるけれど、何もかも一人で担うにはまだ先のことだ。
頬を染めたアデリーが「まだまだですから。ベッラさんのお仕事をとるなんてことはないので」と、否定するとベッラが咀嚼していたハムをゴクリと飲み込んだ。
「あら、私も負けずに上達しちゃうから大丈夫よ! まだまだ負けないんだから」
カリーナの息子、カルロが嬉しそうに頬杖をついて言う。
「良いねぇ。俺達はただ日々を送っているだけでどんどん美味しくなる料理にありつけるんだ。最高だよ」
「それでも母親の味が一番だろ?」
カリーナのふりに、カルロは隣に座る母をそっとハグして「当たり前だよ、母さん。俺は母さんの味で育ったんだからさ」と返していた。
微笑ましいやり取りがアデリーには羨ましくて、カルロに嫉妬してしまっていた。母親がすぐ隣にいてくれるなんて幸福なことだ。それが当たり前だった時には気が付かなかったが、今ならよくわかる。
ここに居る人たちはカリーナとカルロ、ゴーダとマリオ以外、家族が近くにいる人はいない。大きな街ですら、こんなに孤独な人の集まりはあまりないことだ。アデリーは逆にこの状況に救われていた。皆も孤独だからこそ、互いを支え合って生きている。ロセは天涯孤独らしい。アデリーはまだ家族が亡くなっているわけではないと信じているが、もしかするとロセと同じ可能性もゼロではない。
そんなふうに考えながらも、寂しさは完全には払拭できなかった。いつか、生まれ故郷に戻りたい。そして家族を探したい。そんな気持ちで仲の良い親子を眺めるのだった。
「猪が出るのよ? アデリーはのんびりしてるから危ないわよ」
真っ先に反対したのはロセだった。ただ、横から「俺もお供しようか。暫くここに滞在するつもりだし」と、弓師のトニが助け舟を出した。
「えー、俺も行きたいのにそうやってトニは良いところ持っていきやがって」
ニコラスは明日から少し遠出するらしい。ダグマに依頼された品々の買い出しの他に、皆が作った商品も託されているのだと語っていた。
「俺も行くか」
そこで意外なことにダグマもキノコ狩りに参加すると言い出した。まだ門が完成していないのに出掛けると言い出すなんて思ってもいなかった。そこで、鈍いアデリーでも昼間のベッラが話していた内容を思い出して、自分のせいだと確信した。ダグマはアデリーが怪我したことを気にかけているし、また危険な目に合うかもしれないと思っているのだろう。
「あの……皆さん、私に過保護すぎませんか?」
仕事を投げ出してまでついてきてもらうなんて、まるで手のかかる子どものようだ。ロセだって反対している理由はアデリーの心配をしてくれているからだし、皆がとにかく過敏になっている。
それに答えたのはなぜかトニだった。
「君は……赤毛だし──」
「止めなよ、トニ。アデリーは俺達のアンナじゃない」
ニコラスがトニの言葉に割って入ったが、それをまたダグマが「止めとけ」と一喝し黙らせた。二人は即座に口を閉ざし、なんだか妙な間が生まれていた。
三人の中で一番先に笑顔を作ってトニが場を繕う。
「とにかく、俺が行くよ。暇だしね」
そこにダグマも憮然として言う。
「俺も猪が居るなら狩りたいから行きたいだけだ」
ダグマはやはり行くらしい。ニコラスが一人だけ不満そうに「なんだよ、俺も行きたかったのにな。久しぶりに狩りするのも楽しそうだ」と、ブツブツ。
カリーナがやっと元通りの空気に戻った場を更に盛り上げようと話に加わった。
「アタシも行きたいけど窯に火を入れるから暫く動けないわ。ま、食べられればそれでいい。それより、アデリーの作ったこのハムを食べたかい? この子はどんどん料理の腕を上げちまって、そのうちベッラの仕事を奪っちゃうかもしれないよ」
冗談にも程がある。アデリーはパンしか一人で作れるものがないのだ。しかも、カリーナは何種類もパンが焼けるのに、アデリーはまだ一種類のみ。他にも少しずつ教えて貰ってはいるけれど、何もかも一人で担うにはまだ先のことだ。
頬を染めたアデリーが「まだまだですから。ベッラさんのお仕事をとるなんてことはないので」と、否定するとベッラが咀嚼していたハムをゴクリと飲み込んだ。
「あら、私も負けずに上達しちゃうから大丈夫よ! まだまだ負けないんだから」
カリーナの息子、カルロが嬉しそうに頬杖をついて言う。
「良いねぇ。俺達はただ日々を送っているだけでどんどん美味しくなる料理にありつけるんだ。最高だよ」
「それでも母親の味が一番だろ?」
カリーナのふりに、カルロは隣に座る母をそっとハグして「当たり前だよ、母さん。俺は母さんの味で育ったんだからさ」と返していた。
微笑ましいやり取りがアデリーには羨ましくて、カルロに嫉妬してしまっていた。母親がすぐ隣にいてくれるなんて幸福なことだ。それが当たり前だった時には気が付かなかったが、今ならよくわかる。
ここに居る人たちはカリーナとカルロ、ゴーダとマリオ以外、家族が近くにいる人はいない。大きな街ですら、こんなに孤独な人の集まりはあまりないことだ。アデリーは逆にこの状況に救われていた。皆も孤独だからこそ、互いを支え合って生きている。ロセは天涯孤独らしい。アデリーはまだ家族が亡くなっているわけではないと信じているが、もしかするとロセと同じ可能性もゼロではない。
そんなふうに考えながらも、寂しさは完全には払拭できなかった。いつか、生まれ故郷に戻りたい。そして家族を探したい。そんな気持ちで仲の良い親子を眺めるのだった。
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