71 / 99
晩秋
晩秋⑤
しおりを挟む
各自カゴを三つ抱えてきていた。夕方にはカルロが荷馬車で駆けつけてくれると約束していたので、歩いて持ち帰る量よりずっと多くのキノコを狩れる。それに、ダグマ達が猪を狩ったらそれも荷馬車で持ち帰れるのだ。
大きなカゴにアカハツタケとカラハツタケをいっぱいに積んだベッラが他のカゴと一緒に置いておくためにアデリーの近くまでやってきた。
「一つ一つは重くないのに、これだけ揃うと重いのなんのって」
ベッラが苦労して運んでいた。アデリーがキノコを探す手を止めて駆け寄るとカゴの片方を持った。
「あら、ありがとう。助かるわ」
二人でゆらゆらとしながらカゴを運んでいく。
「さっきの話だけど」
ベッラはやや抑え気味の声量でアデリーに話しかける。
「アンナって人。あの人たちにとって、とても大事な人なのね。なんだか妬けるわ。入り込む余地がないみたいで……ちょっと落ち込むわね」
最後の言葉が気になってチラリとベッラを見た。ベッラもそれを察して軽く肩を竦める。
「恋愛に時間なんて関係ないのよ。出会って間もなくても、好きになることもあるわ。それなのに、この場に居もしない相手がライバルだなんて、ね。記憶って美化されるから、時として生身の人間より厄介な相手なのよ。近くに居れば嫌なところとかも見えるけれど、居ないと最高の記憶しか残ってないものね」
なんとなく、ベッラがダグマを気に入っているのには勘づいていたが、こうはっきり言われるとアデリーはただ黙って密かに落ち込むしかなかった。憧れる女性が同じ男の人を好きなら、本当に勝ち目なんてこれっぽっちもない。
「そうでしょうか……。記憶は美化されますけど、決して触れられません。素敵な思い出を新しく紡ぎ出せるほうが良いんじゃないでしょうか」
勇気付けているのか、自虐的な遊びをしているのか、アデリーには判断できない。ベッラを励ますと自身が落ち込むという、嫌なループに迷い込んでいるようだ。
「慰めてくれてありがとう。そうね、ここで負けたら欲しいものも手に入らないわ。頑張ってみよう」
ベッラはニッコリと微笑むとカゴを置きましょうと言うので、まだ目的の場所まで距離があるもののアデリーは素直に従いカゴを置いた。するとベッラがアデリーを力強く抱きしめる。
「可愛いアデリー。あなたは生きているだけで私や皆を明るくしてくれているって知っていた? いつも一所懸命で、可愛らしくて大好きよ。何もできないと悩んでいるけれど、アデリーが居てくれるだけで私達は幸せなの。わかった?」
柔らかな胸に顔が埋まってしまいそうだ。アデリーは藻掻きながら顔を上げて、ベッラを抱き返した。
「ベッラさん。私はあなたみたいになりたいわ。本当に憧れてるの」
「まぁ、嬉しいことを言うのね。私が娼婦だったと知っているのに……嘘でも嬉しいわ」
「嘘じゃありません。こんな魅力的な女性を他に知りませんから」
更にベッラがアデリーをキツく抱きしめる。
「可愛い子。あのロセすら懐柔させる力は本物ね。私もあなたの虜だわ」
「あのあの……胸に押しつぶされそうです!」
あははと声を上げると、ベッラはアデリーを解放し、もう一度軽く抱きしめるとまたカゴを持った。
「胸を大きくする方法を知りたい?」
アデリーは自分の胸を見下ろしてから、その貧弱さに素直に「聞きたいです」と答えていた。
「男に愛されることよ。だから、恋をするといいわ」
妖艶な笑みを浮かべて「あと少しだから自分で持っていくわ」と宣言し、ベッラはカゴを運んでいった。
アデリーは去っていくベッラの姿を見送りながら、もう一度自分の胸元を見下ろしていた。恋はしているけれど、愛してもらえる確率は低そうだ。なんせ、あの魅惑的なボディに素敵な性格のベッラが相手なのだから。
その時だった。ベッラの悲鳴に弾かれたように顔を上げた。ほんの少し先で尻餅をついたベッラと興奮した猪が対峙していた。
猪は興奮すると攻撃性が増し、その牙と恐ろしい力で人間を突き上げるのだ。
「ベッラさん!」
アデリーもまた悲鳴に近い声でベッラの名を叫んでいた。
大きなカゴにアカハツタケとカラハツタケをいっぱいに積んだベッラが他のカゴと一緒に置いておくためにアデリーの近くまでやってきた。
「一つ一つは重くないのに、これだけ揃うと重いのなんのって」
ベッラが苦労して運んでいた。アデリーがキノコを探す手を止めて駆け寄るとカゴの片方を持った。
「あら、ありがとう。助かるわ」
二人でゆらゆらとしながらカゴを運んでいく。
「さっきの話だけど」
ベッラはやや抑え気味の声量でアデリーに話しかける。
「アンナって人。あの人たちにとって、とても大事な人なのね。なんだか妬けるわ。入り込む余地がないみたいで……ちょっと落ち込むわね」
最後の言葉が気になってチラリとベッラを見た。ベッラもそれを察して軽く肩を竦める。
「恋愛に時間なんて関係ないのよ。出会って間もなくても、好きになることもあるわ。それなのに、この場に居もしない相手がライバルだなんて、ね。記憶って美化されるから、時として生身の人間より厄介な相手なのよ。近くに居れば嫌なところとかも見えるけれど、居ないと最高の記憶しか残ってないものね」
なんとなく、ベッラがダグマを気に入っているのには勘づいていたが、こうはっきり言われるとアデリーはただ黙って密かに落ち込むしかなかった。憧れる女性が同じ男の人を好きなら、本当に勝ち目なんてこれっぽっちもない。
「そうでしょうか……。記憶は美化されますけど、決して触れられません。素敵な思い出を新しく紡ぎ出せるほうが良いんじゃないでしょうか」
勇気付けているのか、自虐的な遊びをしているのか、アデリーには判断できない。ベッラを励ますと自身が落ち込むという、嫌なループに迷い込んでいるようだ。
「慰めてくれてありがとう。そうね、ここで負けたら欲しいものも手に入らないわ。頑張ってみよう」
ベッラはニッコリと微笑むとカゴを置きましょうと言うので、まだ目的の場所まで距離があるもののアデリーは素直に従いカゴを置いた。するとベッラがアデリーを力強く抱きしめる。
「可愛いアデリー。あなたは生きているだけで私や皆を明るくしてくれているって知っていた? いつも一所懸命で、可愛らしくて大好きよ。何もできないと悩んでいるけれど、アデリーが居てくれるだけで私達は幸せなの。わかった?」
柔らかな胸に顔が埋まってしまいそうだ。アデリーは藻掻きながら顔を上げて、ベッラを抱き返した。
「ベッラさん。私はあなたみたいになりたいわ。本当に憧れてるの」
「まぁ、嬉しいことを言うのね。私が娼婦だったと知っているのに……嘘でも嬉しいわ」
「嘘じゃありません。こんな魅力的な女性を他に知りませんから」
更にベッラがアデリーをキツく抱きしめる。
「可愛い子。あのロセすら懐柔させる力は本物ね。私もあなたの虜だわ」
「あのあの……胸に押しつぶされそうです!」
あははと声を上げると、ベッラはアデリーを解放し、もう一度軽く抱きしめるとまたカゴを持った。
「胸を大きくする方法を知りたい?」
アデリーは自分の胸を見下ろしてから、その貧弱さに素直に「聞きたいです」と答えていた。
「男に愛されることよ。だから、恋をするといいわ」
妖艶な笑みを浮かべて「あと少しだから自分で持っていくわ」と宣言し、ベッラはカゴを運んでいった。
アデリーは去っていくベッラの姿を見送りながら、もう一度自分の胸元を見下ろしていた。恋はしているけれど、愛してもらえる確率は低そうだ。なんせ、あの魅惑的なボディに素敵な性格のベッラが相手なのだから。
その時だった。ベッラの悲鳴に弾かれたように顔を上げた。ほんの少し先で尻餅をついたベッラと興奮した猪が対峙していた。
猪は興奮すると攻撃性が増し、その牙と恐ろしい力で人間を突き上げるのだ。
「ベッラさん!」
アデリーもまた悲鳴に近い声でベッラの名を叫んでいた。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる