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冬は間近
冬は間近③
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ニコラスが夕食時に廃城に戻ってきた。皆が歓迎し、ひとしきり挨拶などを交わすとニコラスはトニとダグマに馬の様子を見てほしいと連れ出した。
「食事が終わってからでもいいだろ」
ダグマは難色を示したが、ニコラスがどうしても今見てほしいと言うので三人で連れ立って出ていった。
夜風が冷たく、厨房兼食堂から出るとトニが大きな体を縮こまらせた。
「ここは寒そうだな。雪はかなり積もるのか?」
「低いとはいえ、山だからな。上下水道があるから通路は雪が積もらないがな」
ダグマの言葉にトニが持っていた松明で足元を照らした。通路の横は細い水路だ。今は下水が見えるが確かに薄っすら湯気が上がる。
「浴場のお湯か」
「いや、引いてきている水がそもそも温めの湧き水なんだ」
二人の会話を耳にしながらニコラスは自分の松明を持ち替えて辺りを見渡した。
「一面雪になる。備えがなければここは地獄の牢獄さ。備えがあればそう悪くはないけど」
ダグマと冬を越したことがあるニコラスは言うが、ダグマは「だから備えている。今年も問題ない」と返した。
「十人くらい増えても余裕か?」
ニコラスの言葉にトニが「十人? 興行の一行でも泊めるのか?」とその数に驚いていた。
「元のダグマ騎士団さ。全員に声を掛けて、断りを入れてきたヤツ以外の人数だ」
トニが横に居るダグマに炎を向けた。照らされたダグマは顎を引く。
「近いだろ。火を近づけるな」
「皆を呼び寄せてどうするつもりなんだ」
ニコラスは家畜小屋の中に入る前に松明を入口に挿した。
「守るんだ」
「何から何を守るんだ、ニコラス」
トニも松明を挿して腕を組む。ダグマは家畜小屋に寄りかかり顎を掻いた。
「アデリーだ。領主の娘なんだが、侵略してきた隣の領主から探されているらしい。アデリーの領地は今やアデリーしか正当な相続人が居ないからな」
トニは顔をしかめ、絶句した後に絞り出すように口を開く。
「領主──アデリーの親は殺されたのか」
ニコラスは低い声で「ああ。アデリー以外は全員な。だからアデリーが生き延びていれば、アデリーの領地になる。領民が生きていると証言したから、その馬鹿者は未だにその領地を手に入れられていない。そうなると、どうなる? 血眼で探すってわけさ」と、不機嫌に説明した。
トニは険しい顔のまま、二人を見比べていた。どちらも冗談を言っている顔ではない。
「いやいや、十人やそこらで守り切れるのか? 相手の規模を知らないが、俺達はもう騎士ではないだろ。たとえ技術があっても武器や防具はどうするんだ」
ニコラスは戸惑うトニに「じゃあ、トニはあの子を守ってやりたくないのか! 俺達は一度赤毛を失っているのに、再び同じ思いをしたいのか?」と詰め寄った。
「守ってやりたい気持ちはあるが、絶望的な状況なら結局守りたいものも守れないだろ」
黙って二人を言い争わせていたダグマが手を挙げ制した。
「既に王に書状は出している。その馬鹿者領主を告発してある。ただ、国は動くまで時間がかかるのが常、その間何があるかわからないから、人を集めたのだ」
トニはまだ考えあぐねている様子で腕を組んで俯いていた。
「情報は確かなのか?」
顔を上げて二人に問う。ニコラスがうなずき「俺が直接調べてきたからな」と答えた。
「お前が妙に俺をここに誘った理由がハッキリしたが、もっと平和な理由かと思っていた。でもまぁ、我々の宿命と思えば受けざるを得ないな。赤毛のアンナを守れなかった過ちを、アデリーで返すのも悪くはない、か」
トニに「お前や皆が居てくれたら俺は嬉しく思う」と、ダグマが言うと、トニは破顔した。
「隊長にそんな言葉をかけられたらやらないわけにはいかないな。アンタにはずっと命を預けてきたし、この先もその気持ちは変わらない」
「俺もだ、ダグマ。あんたは俺達の目標であり憧れだった。こんな萎えた土地にいる人間じゃないのに……まったく」
ダグマは夜空を見上げて口を開いた。
「いや、俺はここが性に合ってる。静かでいい」
ニコラスも「確かに、俺も結構好きだ。冬にあんたとのんびり火に当たりながら酒を飲んで、ナイフなんか作ったりして……楽しかった。また今年ものんびりした冬を過ごしたいものだ」と、続いた。
「でも十人も来るなら静かになんて過ごせないだろ?」
トニの突っ込みにまぁなと苦笑したニコラスが「騎士団の頃に戻ったような感じになるだろうな」と言うと、ダグマがやれやれと体を起こした。
「戻るか」
トニが「馬はいいのか?」と言うと「呼び出す為の嘘だろ、気付けよ」とニコラス。ダグマが「そうだ、これから部屋にアデリーが来るから、ニコラスは宿の方に居てくれ」と口にすると二人は鋭く反応した。
「え、いつの間にそんな関係になったんだよ」
「ニコラス、お前ならわかるだろ。預かり物の確認だ」
「そんなこと言って、なぁ? トニ」
「そうだな。ダグマは結局女にモテるからな。アデリーは幼さが残るけど素直で美人だし」
フンと鼻を鳴らしたダグマが「トニは最近どうやらベッラから言い寄られてるだろ。人のことより自分のことで精一杯じゃないのか?」とトニに反撃されていた。
「おい、なんでいつも俺は蚊帳の外なんだ? 見てくれだけなら騎士団イチの俺を差し置いて皆くっつきやがって」
不満そうなニコラスにダグマが「見てくれが良いと胡散臭くなるからな。残念だったな、ニコラス」と肩を組んだ。
「食事が終わってからでもいいだろ」
ダグマは難色を示したが、ニコラスがどうしても今見てほしいと言うので三人で連れ立って出ていった。
夜風が冷たく、厨房兼食堂から出るとトニが大きな体を縮こまらせた。
「ここは寒そうだな。雪はかなり積もるのか?」
「低いとはいえ、山だからな。上下水道があるから通路は雪が積もらないがな」
ダグマの言葉にトニが持っていた松明で足元を照らした。通路の横は細い水路だ。今は下水が見えるが確かに薄っすら湯気が上がる。
「浴場のお湯か」
「いや、引いてきている水がそもそも温めの湧き水なんだ」
二人の会話を耳にしながらニコラスは自分の松明を持ち替えて辺りを見渡した。
「一面雪になる。備えがなければここは地獄の牢獄さ。備えがあればそう悪くはないけど」
ダグマと冬を越したことがあるニコラスは言うが、ダグマは「だから備えている。今年も問題ない」と返した。
「十人くらい増えても余裕か?」
ニコラスの言葉にトニが「十人? 興行の一行でも泊めるのか?」とその数に驚いていた。
「元のダグマ騎士団さ。全員に声を掛けて、断りを入れてきたヤツ以外の人数だ」
トニが横に居るダグマに炎を向けた。照らされたダグマは顎を引く。
「近いだろ。火を近づけるな」
「皆を呼び寄せてどうするつもりなんだ」
ニコラスは家畜小屋の中に入る前に松明を入口に挿した。
「守るんだ」
「何から何を守るんだ、ニコラス」
トニも松明を挿して腕を組む。ダグマは家畜小屋に寄りかかり顎を掻いた。
「アデリーだ。領主の娘なんだが、侵略してきた隣の領主から探されているらしい。アデリーの領地は今やアデリーしか正当な相続人が居ないからな」
トニは顔をしかめ、絶句した後に絞り出すように口を開く。
「領主──アデリーの親は殺されたのか」
ニコラスは低い声で「ああ。アデリー以外は全員な。だからアデリーが生き延びていれば、アデリーの領地になる。領民が生きていると証言したから、その馬鹿者は未だにその領地を手に入れられていない。そうなると、どうなる? 血眼で探すってわけさ」と、不機嫌に説明した。
トニは険しい顔のまま、二人を見比べていた。どちらも冗談を言っている顔ではない。
「いやいや、十人やそこらで守り切れるのか? 相手の規模を知らないが、俺達はもう騎士ではないだろ。たとえ技術があっても武器や防具はどうするんだ」
ニコラスは戸惑うトニに「じゃあ、トニはあの子を守ってやりたくないのか! 俺達は一度赤毛を失っているのに、再び同じ思いをしたいのか?」と詰め寄った。
「守ってやりたい気持ちはあるが、絶望的な状況なら結局守りたいものも守れないだろ」
黙って二人を言い争わせていたダグマが手を挙げ制した。
「既に王に書状は出している。その馬鹿者領主を告発してある。ただ、国は動くまで時間がかかるのが常、その間何があるかわからないから、人を集めたのだ」
トニはまだ考えあぐねている様子で腕を組んで俯いていた。
「情報は確かなのか?」
顔を上げて二人に問う。ニコラスがうなずき「俺が直接調べてきたからな」と答えた。
「お前が妙に俺をここに誘った理由がハッキリしたが、もっと平和な理由かと思っていた。でもまぁ、我々の宿命と思えば受けざるを得ないな。赤毛のアンナを守れなかった過ちを、アデリーで返すのも悪くはない、か」
トニに「お前や皆が居てくれたら俺は嬉しく思う」と、ダグマが言うと、トニは破顔した。
「隊長にそんな言葉をかけられたらやらないわけにはいかないな。アンタにはずっと命を預けてきたし、この先もその気持ちは変わらない」
「俺もだ、ダグマ。あんたは俺達の目標であり憧れだった。こんな萎えた土地にいる人間じゃないのに……まったく」
ダグマは夜空を見上げて口を開いた。
「いや、俺はここが性に合ってる。静かでいい」
ニコラスも「確かに、俺も結構好きだ。冬にあんたとのんびり火に当たりながら酒を飲んで、ナイフなんか作ったりして……楽しかった。また今年ものんびりした冬を過ごしたいものだ」と、続いた。
「でも十人も来るなら静かになんて過ごせないだろ?」
トニの突っ込みにまぁなと苦笑したニコラスが「騎士団の頃に戻ったような感じになるだろうな」と言うと、ダグマがやれやれと体を起こした。
「戻るか」
トニが「馬はいいのか?」と言うと「呼び出す為の嘘だろ、気付けよ」とニコラス。ダグマが「そうだ、これから部屋にアデリーが来るから、ニコラスは宿の方に居てくれ」と口にすると二人は鋭く反応した。
「え、いつの間にそんな関係になったんだよ」
「ニコラス、お前ならわかるだろ。預かり物の確認だ」
「そんなこと言って、なぁ? トニ」
「そうだな。ダグマは結局女にモテるからな。アデリーは幼さが残るけど素直で美人だし」
フンと鼻を鳴らしたダグマが「トニは最近どうやらベッラから言い寄られてるだろ。人のことより自分のことで精一杯じゃないのか?」とトニに反撃されていた。
「おい、なんでいつも俺は蚊帳の外なんだ? 見てくれだけなら騎士団イチの俺を差し置いて皆くっつきやがって」
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