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訪問者
訪問者⑤
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トニとニコラスが持ち帰った新鮮な鹿肉で、廃城で初めてパーティーを開いた。酒は騎士たちが持ち込んだエール、鹿肉は塩を振り素焼きにしたところにワインビネガーで味付けをしたプラムと蕪の甘酢あんをたっぷりかけたもの、それから林檎のガレット。
アデリーは薄く伸ばした小麦粉の液に林檎のコンポートをのせ、火が通った生地を畳んで手際よくつつんでいく。これをひたすらに繰り返しているのに、作ったそばからどんどん手から手へと渡りテーブルに乗る前に消えていってしまう。大人気じゃないとベッラが褒めてくれた。けれど、アデリーは今すぐ自分も椅子に腰掛けてガレットを頬張りたかった。匂いだけでは腹は満たされないし、ずっと働いているので甘いもので癒されたかった。
「あら、林檎のコンポートを沢山作った甲斐があったわね。この分だと春になる前にはすっかりお腹の中に収まるわ」
ベッラがコンポートが入っていた空の壺を数えて、その後追加で食料庫から片手に乗るほどの大きさの壺を二つ出してきてくれたのだ。
「残りは何個ですか?」
「十はないわね。でもジャムならまだあるわよ」
食べ物をダメにしてしまうのは嫌だが、早めに尽きて冬の楽しみが減るのも残念だ。
「そろそろガレットを作るのは終わりにします」
「え、アデリーはまだ食べてないじゃない!」
「でも、林檎のコンポートがなくなったら林檎のパイが焼けなくなります。後で作り方を教えてもらって作るのを楽しみにしていたのに」
洋梨のコンポートがまだあるわよと励まされたが、アデリーは林檎のパイが食べたかった。洋梨も好きだが林檎の方がもっと好きなのだ。
「アデリー。君の焼いたガレットは今まで食べたどのパンケーキより美味しいぞ!」
酔った騎士の一人が杯を上げながら赤い顔でアデリーのガレットを褒めた。するともう一人が「俺はここに定住するぞ。美味い食事に美人揃いだ。ここより良い所なんてありっこないからな」と声を張ると、皆がそうだそうだと次々に声を上げる。
「しかも浴場付きだぞ。ここに居たら十歳は若返るな」
陽気な笑い声が厨房兼食堂を満たしていく。
「アデリー、代わるよ。アンタもお食べ」
カリーナが席を立ってやってくるとアデリーにそっと言って代わってくれた。
「ありがとうございます。お腹が空き過ぎて気絶してしまいそうでした」
持っていた平匙(ひらさじ)をカリーナに手渡すと近くで聞いていた騎士の一人が「じゃあ、明日は俺達が作ってあげようじゃないか。頑張って作ってくれた礼をしなきゃな」と言った。
ダグマはそれを聞いて傾けていた杯をテーブルに置いた。
「やめとけ、やめとけ。俺達が作るのはただ焼いただけ、ただ煮ただけで美味くないだろ。それなら違った形で礼をしたほうがいい」
「じゃあ、そうしよう。なんなりと御用命ください、お嬢様」
酔って居るからそんな言い方なのか、元々こんな人なのか会ったばかりだからわからない。ただ、みんなとにかく陽気でよく笑う感じの良い人ばかりだ。
席を立ってやってきたニコラスが「何か飲む?」とアデリーに尋ねた。アデリーは酒類は飲みたくなかったのでそれを断った。
「アデリー。あの日のこと、怒ってるかい? あんな伝え方をして悪かったよ」
ニコラスの顔に浮かぶ後悔を見て、アデリーは沢山の感情が湧き上がった。それらは怒りからは程遠い感情で、言葉にすると共感なのかもしれない。
「いいえ。いずれは知らなきゃならないことです。今の私は優しい人に囲まれていますから、今で良かったと思えたので大丈夫です。あの……そんなに苦しまないでください。それはそれで私も辛くなります」
実際、とても辛い事だったがロセの優しさやダグマの気遣い、皆の温かさで痛みは相当軽減された。そして、とても言い難い話を買って出てくれたニコラスには感謝していた。きっとニコラスだって言いたくなかったはずだ。アデリーが傷付くことを承知の上で覚悟を決めて言ったはずなのだから。ダグマもロセもそう言っていた。
「抱き寄せても構わないかな。アデリー」
いつもは軽い調子で接してくるニコラスが許可を求めてきたことにアデリーはなんだか心が震えていた。自分からニコラスに抱きついて「当たり前だわ。そんなに壁を築かないで」と声を震わせた。ニコラスがアデリーの背に手を回し「君はアンナじゃないのにな。すまなかったよ」と小さな声で言った。
やり取りを聞いていたベッラが二人を同時に抱き締めて「なんだか私もこの輪に入りたくなっちゃったの」と笑わせてくれた。誰も茶化さず、優しい笑いが二人を包んでいた。
アデリーは薄く伸ばした小麦粉の液に林檎のコンポートをのせ、火が通った生地を畳んで手際よくつつんでいく。これをひたすらに繰り返しているのに、作ったそばからどんどん手から手へと渡りテーブルに乗る前に消えていってしまう。大人気じゃないとベッラが褒めてくれた。けれど、アデリーは今すぐ自分も椅子に腰掛けてガレットを頬張りたかった。匂いだけでは腹は満たされないし、ずっと働いているので甘いもので癒されたかった。
「あら、林檎のコンポートを沢山作った甲斐があったわね。この分だと春になる前にはすっかりお腹の中に収まるわ」
ベッラがコンポートが入っていた空の壺を数えて、その後追加で食料庫から片手に乗るほどの大きさの壺を二つ出してきてくれたのだ。
「残りは何個ですか?」
「十はないわね。でもジャムならまだあるわよ」
食べ物をダメにしてしまうのは嫌だが、早めに尽きて冬の楽しみが減るのも残念だ。
「そろそろガレットを作るのは終わりにします」
「え、アデリーはまだ食べてないじゃない!」
「でも、林檎のコンポートがなくなったら林檎のパイが焼けなくなります。後で作り方を教えてもらって作るのを楽しみにしていたのに」
洋梨のコンポートがまだあるわよと励まされたが、アデリーは林檎のパイが食べたかった。洋梨も好きだが林檎の方がもっと好きなのだ。
「アデリー。君の焼いたガレットは今まで食べたどのパンケーキより美味しいぞ!」
酔った騎士の一人が杯を上げながら赤い顔でアデリーのガレットを褒めた。するともう一人が「俺はここに定住するぞ。美味い食事に美人揃いだ。ここより良い所なんてありっこないからな」と声を張ると、皆がそうだそうだと次々に声を上げる。
「しかも浴場付きだぞ。ここに居たら十歳は若返るな」
陽気な笑い声が厨房兼食堂を満たしていく。
「アデリー、代わるよ。アンタもお食べ」
カリーナが席を立ってやってくるとアデリーにそっと言って代わってくれた。
「ありがとうございます。お腹が空き過ぎて気絶してしまいそうでした」
持っていた平匙(ひらさじ)をカリーナに手渡すと近くで聞いていた騎士の一人が「じゃあ、明日は俺達が作ってあげようじゃないか。頑張って作ってくれた礼をしなきゃな」と言った。
ダグマはそれを聞いて傾けていた杯をテーブルに置いた。
「やめとけ、やめとけ。俺達が作るのはただ焼いただけ、ただ煮ただけで美味くないだろ。それなら違った形で礼をしたほうがいい」
「じゃあ、そうしよう。なんなりと御用命ください、お嬢様」
酔って居るからそんな言い方なのか、元々こんな人なのか会ったばかりだからわからない。ただ、みんなとにかく陽気でよく笑う感じの良い人ばかりだ。
席を立ってやってきたニコラスが「何か飲む?」とアデリーに尋ねた。アデリーは酒類は飲みたくなかったのでそれを断った。
「アデリー。あの日のこと、怒ってるかい? あんな伝え方をして悪かったよ」
ニコラスの顔に浮かぶ後悔を見て、アデリーは沢山の感情が湧き上がった。それらは怒りからは程遠い感情で、言葉にすると共感なのかもしれない。
「いいえ。いずれは知らなきゃならないことです。今の私は優しい人に囲まれていますから、今で良かったと思えたので大丈夫です。あの……そんなに苦しまないでください。それはそれで私も辛くなります」
実際、とても辛い事だったがロセの優しさやダグマの気遣い、皆の温かさで痛みは相当軽減された。そして、とても言い難い話を買って出てくれたニコラスには感謝していた。きっとニコラスだって言いたくなかったはずだ。アデリーが傷付くことを承知の上で覚悟を決めて言ったはずなのだから。ダグマもロセもそう言っていた。
「抱き寄せても構わないかな。アデリー」
いつもは軽い調子で接してくるニコラスが許可を求めてきたことにアデリーはなんだか心が震えていた。自分からニコラスに抱きついて「当たり前だわ。そんなに壁を築かないで」と声を震わせた。ニコラスがアデリーの背に手を回し「君はアンナじゃないのにな。すまなかったよ」と小さな声で言った。
やり取りを聞いていたベッラが二人を同時に抱き締めて「なんだか私もこの輪に入りたくなっちゃったの」と笑わせてくれた。誰も茶化さず、優しい笑いが二人を包んでいた。
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