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帰郷
帰郷③
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皆でぎゅうぎゅうになりながら一泊した。朝になり出発して見た道中の風景にアデリーはどんどん言葉数が減っていった。
見覚えのある場所も、それ以外の場所も、何もかも活気が失われて時すら止まっているようだった。たまに見かける領民も反応が薄く、アデリー一行を見ても頭をもたげるくらいのものだった。
「見るのが辛いか」
今日も一緒に馬に跨っているダグマがアデリーに声をかけた。アデリーは素直にうなずく。
「まだ一年も経っていません。それなのに、どうしてこんなに別の景色みたいになってしまったのでしょう。民もまるで元気がないし、とても心配で──」
ここまで話すと、目をゴシゴシとこすって視界を明瞭にした。再び、辺りを一望すると、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「私は逃げたけれど、その間苦しんでいた人達もいたということですよね。私が廃城で笑って日々を過ごしている間──」
遠くに見える痩せた牛と、その牛を使って農地を耕す痩せた男。
「──苦しんでいたんだわ。私は自分のことしか考えていなかった。父や母や兄が居ないなら、領民を守るのは私の役目なのに」
ダグマはアデリーの体に片腕を回すと自分の方へと抱き寄せた。
「お前自身、立て直す時間が必要だった。それだけだ。民は苦しかったかもしれないが、同じようにアデリーも苦しんでいた。時が来て、少しは傷が癒えたろ。だから次だ。これから領地も立て直すんだ」
アデリーはもう一度目を擦った。泣いている場合ではない。泣きたくなどないのに溢れてくる涙が憎かった。
「私、ずっと自分が出来ることを探していましたけど、今ならハッキリわかります。そうじゃなかったんだわ。やらなければならないことがあったんです。領地を取り戻し、領民を幸せにしなければ」
ダグマが背後で笑ったのを感じた。それは包み込むような、安堵するような、そんな笑い方だった。
「よし、気持ちは固まったな。何が起きようと目標は一つだ。領地を取り戻す。そうだな?」
「はい」
遠くに懐かしい領主館が見えてきても、アデリーの心は喜びを感じなかった。そこに住まう人が家族でなかったら、もうそれは自分の家とは呼べない。領地だって、様変わりして荒れ果てていたら故郷とは思えないのだ。
「もう一度、私の故郷だと思えるようにしなければ」
呟いた声がダグマにも届いていただろうが、ダグマは何も言わなかった。ただ、アデリーを包みこんだ腕に僅かに力を込めて応えてくれていた。
アデリーの生家、領主館まで来ると門周辺に野盗のような人々が屯していた。アデリーはゾッと寒気がしたが、後ろを歩いていたニコラスとロセの乗った馬が前へと歩み出た。
「先に行こう」
ニコラスがそういうと、ダグマは後ろを歩いていた元騎士団たちに手を挙げて止まるように合図を送った。それから、自らの馬も綱を引いて止める。
ニコラスたちが近づいていくと野盗のような男たちが門の前に立ちふさがった。十人位なので、アデリー一行と数は変わらない。ただ、相手は身なりも整えず、ヒゲや髪もいつ手入れしたのかわからないような有り様だ。
「おっと、この先は許可なく入れねぇよ。名を名乗れ」
「ここに来いと言われてきている。アデリーが会うと言っているとお前んとこの一番偉い奴に言ってこい」
ニコラスも相手に合わせているのか、いつもより随分尊大な態度だった。
「ああ、嫁に来るって奴か。しかし、手ぶらとはな。持参金はなしか? え?」
下品な笑いが沸き起こるがニコラスはため息を一つ吐いただけだった。ニコラスは手で追い払うようにしてから「無駄話はいい。話しに行くつもりがないなら自分たちで行くから退いてくれ」と、告げた。
「ああ、そういうことなら通りゃいい。中にも護衛がいるから変な気は起こさないことだ。しかし、お前もその後ろの奴らも護衛なんだろ? 武器は持っててもひ弱くて話にならんだろ」
笑いが起こっていたが、アデリーの方が笑ってしまいそうだった。近衛騎士団だった人達に向けてその評価はあまりにも相手の力量を見誤っている。とはいえ、ニコラスが来る時に話していたように、まるで警戒していないようですんなり通してくれたのは助かった。無闇に剣を交えたら、この下品な人達はたちまちやられてしまうだろう。
「やれやれ、ひ弱とか……。ま、確かにあれだけ身体に脂肪を蓄えていれば剣を刺すのにやや力がいるかもな」
ダグマのボヤきが聞こえていた。どうやら、相手があまりにも不甲斐ないのでガッカリしているようだった。
「戦いたかったですか?」
アデリーの問いには即「いや」と返答した。
「強い人間ほど手数が少ないのが基本。戦わずして勝つのが最高の戦士だ」
下品な笑い方をしながらアデリーを見上げている男たちにはダグマの声は届いていない。アデリーは澄ました顔で男たちの間を抜けていった。
見覚えのある場所も、それ以外の場所も、何もかも活気が失われて時すら止まっているようだった。たまに見かける領民も反応が薄く、アデリー一行を見ても頭をもたげるくらいのものだった。
「見るのが辛いか」
今日も一緒に馬に跨っているダグマがアデリーに声をかけた。アデリーは素直にうなずく。
「まだ一年も経っていません。それなのに、どうしてこんなに別の景色みたいになってしまったのでしょう。民もまるで元気がないし、とても心配で──」
ここまで話すと、目をゴシゴシとこすって視界を明瞭にした。再び、辺りを一望すると、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「私は逃げたけれど、その間苦しんでいた人達もいたということですよね。私が廃城で笑って日々を過ごしている間──」
遠くに見える痩せた牛と、その牛を使って農地を耕す痩せた男。
「──苦しんでいたんだわ。私は自分のことしか考えていなかった。父や母や兄が居ないなら、領民を守るのは私の役目なのに」
ダグマはアデリーの体に片腕を回すと自分の方へと抱き寄せた。
「お前自身、立て直す時間が必要だった。それだけだ。民は苦しかったかもしれないが、同じようにアデリーも苦しんでいた。時が来て、少しは傷が癒えたろ。だから次だ。これから領地も立て直すんだ」
アデリーはもう一度目を擦った。泣いている場合ではない。泣きたくなどないのに溢れてくる涙が憎かった。
「私、ずっと自分が出来ることを探していましたけど、今ならハッキリわかります。そうじゃなかったんだわ。やらなければならないことがあったんです。領地を取り戻し、領民を幸せにしなければ」
ダグマが背後で笑ったのを感じた。それは包み込むような、安堵するような、そんな笑い方だった。
「よし、気持ちは固まったな。何が起きようと目標は一つだ。領地を取り戻す。そうだな?」
「はい」
遠くに懐かしい領主館が見えてきても、アデリーの心は喜びを感じなかった。そこに住まう人が家族でなかったら、もうそれは自分の家とは呼べない。領地だって、様変わりして荒れ果てていたら故郷とは思えないのだ。
「もう一度、私の故郷だと思えるようにしなければ」
呟いた声がダグマにも届いていただろうが、ダグマは何も言わなかった。ただ、アデリーを包みこんだ腕に僅かに力を込めて応えてくれていた。
アデリーの生家、領主館まで来ると門周辺に野盗のような人々が屯していた。アデリーはゾッと寒気がしたが、後ろを歩いていたニコラスとロセの乗った馬が前へと歩み出た。
「先に行こう」
ニコラスがそういうと、ダグマは後ろを歩いていた元騎士団たちに手を挙げて止まるように合図を送った。それから、自らの馬も綱を引いて止める。
ニコラスたちが近づいていくと野盗のような男たちが門の前に立ちふさがった。十人位なので、アデリー一行と数は変わらない。ただ、相手は身なりも整えず、ヒゲや髪もいつ手入れしたのかわからないような有り様だ。
「おっと、この先は許可なく入れねぇよ。名を名乗れ」
「ここに来いと言われてきている。アデリーが会うと言っているとお前んとこの一番偉い奴に言ってこい」
ニコラスも相手に合わせているのか、いつもより随分尊大な態度だった。
「ああ、嫁に来るって奴か。しかし、手ぶらとはな。持参金はなしか? え?」
下品な笑いが沸き起こるがニコラスはため息を一つ吐いただけだった。ニコラスは手で追い払うようにしてから「無駄話はいい。話しに行くつもりがないなら自分たちで行くから退いてくれ」と、告げた。
「ああ、そういうことなら通りゃいい。中にも護衛がいるから変な気は起こさないことだ。しかし、お前もその後ろの奴らも護衛なんだろ? 武器は持っててもひ弱くて話にならんだろ」
笑いが起こっていたが、アデリーの方が笑ってしまいそうだった。近衛騎士団だった人達に向けてその評価はあまりにも相手の力量を見誤っている。とはいえ、ニコラスが来る時に話していたように、まるで警戒していないようですんなり通してくれたのは助かった。無闇に剣を交えたら、この下品な人達はたちまちやられてしまうだろう。
「やれやれ、ひ弱とか……。ま、確かにあれだけ身体に脂肪を蓄えていれば剣を刺すのにやや力がいるかもな」
ダグマのボヤきが聞こえていた。どうやら、相手があまりにも不甲斐ないのでガッカリしているようだった。
「戦いたかったですか?」
アデリーの問いには即「いや」と返答した。
「強い人間ほど手数が少ないのが基本。戦わずして勝つのが最高の戦士だ」
下品な笑い方をしながらアデリーを見上げている男たちにはダグマの声は届いていない。アデリーは澄ました顔で男たちの間を抜けていった。
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