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帰郷
帰郷⑥
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「私はこの地に戻ってきます。新しく領主として届けも出すつもりです。それと、私はここに来る前にゴードンさんの悪事を告発しました。今頃その書状は、王都に届いていることでしょう」
アデリーはダグマに促され、イーリヤ領主ゴードンの悪行をわかり得る限り書き記し、元騎士団の一人に託しておいた。近衛であったが故、ダグマもその仲間たちも王族とは顔馴染であり、直談判できるとのことだった。
「こちらに一緒に来てくださった皆さんには、並みの傭兵では太刀打ち出来ませんし、いままでのことも全て話してあるので言い逃れも出来ません。ゴードンさん、どうされますか? 直ちにここを後にしてくれるなら、私は追いません。自分の領地に戻られたらいかがですか」
ゴードンは青ざめた顔で視線を彷徨わせた。
「告発しただと……ならば領地に逃げても意味がないじゃないか!」
その通りだ。もう、どこに居ようと罪人だし追手が来るだろう。アデリーは長い事言いがかりをつけて父を悩ませ、最終的に死に追いやった男が狼狽し萎んでいく姿を眺めていた。
「ここの地下に牢がありますから、そこで王都からの使いを待つのもいいですし、あるいは短い時間ではありますが自分の領主館で限りある自由を満喫するのもいいと思います。あるいはお逃げになってはいかがですか? 私には関わりないことですので、お好きになさればいい」
ここでダグマが「逃がすのか?」とアデリーに問う。
「どうせ追手が来るでしょうし、好きにしたら良いと思うのです」
アデリーは床に突っ伏して動くことのないリルを見下ろした。出会った頃はこんなに悪い人だとは思わなかった。今は無惨な姿をさらしているが、同情する気にもならない。
「悪人にはそれ相応の未来が待っているはずです。私はこの人にかまけているより、やることがありますから」
ダグマはアデリーの言葉を聞き終えると、ゴードンに歩み寄って問う。
「そういうことだとよ。さて、あんたの選択は? 牢に行くか、まぁ牢以外は俺達には関係ないから出ていくかってところだな」
端とゴードンの顔色が変わった。頬に血色が戻る。
「そうだ! 下には傭兵が未だいるんだぞ! 偉そうにしているがお前らなんか──」
そこまでゴードンが口にしたところで、ダグマが足元にいる息のある傭兵を槍の柄で一気にひっくり返した。傷口に響いたのかその男から小さな悲鳴が漏れていた。
「お前らなんか? なんだ、その先を言ってみろ。話を聞いていたか? 俺達は元近衛騎士団だ。みくびって貰っちゃ困る。こちらは一人で五人は相手に出来るぞ! それでもやり合いたいならやってやるがな」
ダグマの言葉は決して過大ではない。なんせ、元騎士団たちは誰一人として傷を負っていない。相手は皆床に突っ伏しているというのにだ。
アデリーは憐れなゴードンにため息を吐いて語りかける。
「父や母、それから兄を殺めたあなたをこの手で殺してやりたいわ。本当はそうしたい。でも、そんなことをしても皆は戻らない。さっさと私から見えないところに行ってください。残虐な私があなたが飢え死にするまで牢に閉じ込めておきたいとウズウズしてます」
どんな風に家族が命を落としたのか、アデリーは知らない。でも、知っていたら同じ方法でゴードンを殺したいと思うだろう。命が三つなければ叶わないが、そうしたいと強く思うはずだ。
「行って下さい。私の気持ちが変わらないうちに。早く、行って!」
ゴードンは少し迷ったようだったが、皆を一瞥してから、脱兎のごとく逃げ出した。いや、脱兎のごとくというには余りにもヨタヨタと情けなかったが、とにかく部屋から出ていった。
「本当にいいのか」
ダグマがアデリーに確認したが、アデリーは気持ちを変えることなく頷いた。
「捕らえて近くにおいておいたら、私はどんどん醜い気持ちになります。ですから、あとは王様直属の兵にお任せします」
ロセは「私なら大事な家族を攻撃されたらやり返すわ」と、忌々しげにリルを見下ろした。
「ええ、そうね。でも私は生きているからそのロセの気持ちが嬉しいと思えるけれど、亡くなってしまったは人にはなんの価値もないことかもしれないじゃない」
納得いかなそうな顔であったがロセは「そういうものかしらね。わからないけど、そうかもね」と、言った。
アデリーは感謝の意味も込めてロセの手を握り、それからロセに転がっている負傷者に注意を向けた。
「あなたの出番よ。生きている人の治療をお願い」
「え! この人達を助けるつもり?」
「ええ。改心して貰って働いてもらいたいのよ。だって領地は荒れ放題だもの。人手は必要だわ」
ロセはダグマに助けを求めるような視線を送り、反応がないとみるとニコラスを見た。
「ん? 助けるのは別に良いんじゃないか? 皆、金で雇われてただけだろ。仕事を失ったわけだし、残りたい人間には仕事を与えりゃいいのさ」
ロセは手を腰に宛てて「皆、お人好しね! もう! 空いてる部屋はあるの? とにかく傷を清潔な水で洗い流すわよ」と、憤慨しながらしっかりと治療に取り掛かった。
アデリーはおずおずとダグマを見上げ「これでいいでしょうか」と尋ねてみた。ダグマは「いいかどうかはアデリーが決めることだ。でも、良いと思うぞ。寛大な領主様だとは思うが、うまいこと回るように我々が手を貸してやろう」と言って元騎士団たちに視線を投げた。皆、肩を竦めたり、微笑んだりして、異議はないようだった。アデリーは全員に深々と頭を下げ「ありがとうございます」と伝えるとはにかんだ笑みを浮かべて顔を上げるのだった。
アデリーはダグマに促され、イーリヤ領主ゴードンの悪行をわかり得る限り書き記し、元騎士団の一人に託しておいた。近衛であったが故、ダグマもその仲間たちも王族とは顔馴染であり、直談判できるとのことだった。
「こちらに一緒に来てくださった皆さんには、並みの傭兵では太刀打ち出来ませんし、いままでのことも全て話してあるので言い逃れも出来ません。ゴードンさん、どうされますか? 直ちにここを後にしてくれるなら、私は追いません。自分の領地に戻られたらいかがですか」
ゴードンは青ざめた顔で視線を彷徨わせた。
「告発しただと……ならば領地に逃げても意味がないじゃないか!」
その通りだ。もう、どこに居ようと罪人だし追手が来るだろう。アデリーは長い事言いがかりをつけて父を悩ませ、最終的に死に追いやった男が狼狽し萎んでいく姿を眺めていた。
「ここの地下に牢がありますから、そこで王都からの使いを待つのもいいですし、あるいは短い時間ではありますが自分の領主館で限りある自由を満喫するのもいいと思います。あるいはお逃げになってはいかがですか? 私には関わりないことですので、お好きになさればいい」
ここでダグマが「逃がすのか?」とアデリーに問う。
「どうせ追手が来るでしょうし、好きにしたら良いと思うのです」
アデリーは床に突っ伏して動くことのないリルを見下ろした。出会った頃はこんなに悪い人だとは思わなかった。今は無惨な姿をさらしているが、同情する気にもならない。
「悪人にはそれ相応の未来が待っているはずです。私はこの人にかまけているより、やることがありますから」
ダグマはアデリーの言葉を聞き終えると、ゴードンに歩み寄って問う。
「そういうことだとよ。さて、あんたの選択は? 牢に行くか、まぁ牢以外は俺達には関係ないから出ていくかってところだな」
端とゴードンの顔色が変わった。頬に血色が戻る。
「そうだ! 下には傭兵が未だいるんだぞ! 偉そうにしているがお前らなんか──」
そこまでゴードンが口にしたところで、ダグマが足元にいる息のある傭兵を槍の柄で一気にひっくり返した。傷口に響いたのかその男から小さな悲鳴が漏れていた。
「お前らなんか? なんだ、その先を言ってみろ。話を聞いていたか? 俺達は元近衛騎士団だ。みくびって貰っちゃ困る。こちらは一人で五人は相手に出来るぞ! それでもやり合いたいならやってやるがな」
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アデリーは憐れなゴードンにため息を吐いて語りかける。
「父や母、それから兄を殺めたあなたをこの手で殺してやりたいわ。本当はそうしたい。でも、そんなことをしても皆は戻らない。さっさと私から見えないところに行ってください。残虐な私があなたが飢え死にするまで牢に閉じ込めておきたいとウズウズしてます」
どんな風に家族が命を落としたのか、アデリーは知らない。でも、知っていたら同じ方法でゴードンを殺したいと思うだろう。命が三つなければ叶わないが、そうしたいと強く思うはずだ。
「行って下さい。私の気持ちが変わらないうちに。早く、行って!」
ゴードンは少し迷ったようだったが、皆を一瞥してから、脱兎のごとく逃げ出した。いや、脱兎のごとくというには余りにもヨタヨタと情けなかったが、とにかく部屋から出ていった。
「本当にいいのか」
ダグマがアデリーに確認したが、アデリーは気持ちを変えることなく頷いた。
「捕らえて近くにおいておいたら、私はどんどん醜い気持ちになります。ですから、あとは王様直属の兵にお任せします」
ロセは「私なら大事な家族を攻撃されたらやり返すわ」と、忌々しげにリルを見下ろした。
「ええ、そうね。でも私は生きているからそのロセの気持ちが嬉しいと思えるけれど、亡くなってしまったは人にはなんの価値もないことかもしれないじゃない」
納得いかなそうな顔であったがロセは「そういうものかしらね。わからないけど、そうかもね」と、言った。
アデリーは感謝の意味も込めてロセの手を握り、それからロセに転がっている負傷者に注意を向けた。
「あなたの出番よ。生きている人の治療をお願い」
「え! この人達を助けるつもり?」
「ええ。改心して貰って働いてもらいたいのよ。だって領地は荒れ放題だもの。人手は必要だわ」
ロセはダグマに助けを求めるような視線を送り、反応がないとみるとニコラスを見た。
「ん? 助けるのは別に良いんじゃないか? 皆、金で雇われてただけだろ。仕事を失ったわけだし、残りたい人間には仕事を与えりゃいいのさ」
ロセは手を腰に宛てて「皆、お人好しね! もう! 空いてる部屋はあるの? とにかく傷を清潔な水で洗い流すわよ」と、憤慨しながらしっかりと治療に取り掛かった。
アデリーはおずおずとダグマを見上げ「これでいいでしょうか」と尋ねてみた。ダグマは「いいかどうかはアデリーが決めることだ。でも、良いと思うぞ。寛大な領主様だとは思うが、うまいこと回るように我々が手を貸してやろう」と言って元騎士団たちに視線を投げた。皆、肩を竦めたり、微笑んだりして、異議はないようだった。アデリーは全員に深々と頭を下げ「ありがとうございます」と伝えるとはにかんだ笑みを浮かべて顔を上げるのだった。
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