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薬師ロセ
薬師ロセ①
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アデリーが見つけた少女の名はロセというらしい。
アデリーは上水道の木の葉を掃除しながら、一人なのを良いことに盛大なため息をついた。なんせロセの名を教えてくれたのは本人ではなく、カルロだったのだ。
「君たちは喧嘩でもしてるのか?」
到着してたった二日でカルロは全員分のベッドを組み立てて、おまけにカルロ親子が住む部屋の戸や雨戸まであっという間に作り上げてしまった。直ぐに住めるように整ったので、馬車で一番近くの街まで買い出しに行ってくれることになった。カルロはアデリーに必要なものを聞くために切り立った崖にある上水道掃除をしているアデリーのもとへと赴いたということだった。
「なぜ……そう思うの?」
小声で問い返すアデリーにカルロは自分の額を掻いてみせた。
「そりゃ、ロセはアデリーを見ようともしないしな。買い物に行くってなって、ロセに聞いたんだよ。『アデリーは今の服を売りたいらしいけど、あれしか着るものがないみたいなんだ』ってさ。多めにあるなら貸してやってと言いたかったんだけど」
カルロは肩を竦めて「『売る必要なんてないじゃない! 毎日、日曜日みたいな格好をしてればいいのよ』って怒られちまったよ」と、困り顔だ。
「そう……」
日曜日は教会へ行くために、誰もがありったけのおしゃれをしていくのだ。それを揶揄しているらしい。アデリーの服は、普段着には不釣り合いらしいが、アデリーはこれしかもっていない。しかも、これまではこれで生活していたのだ。そんな風になじられても困るし、それをカルロに言うのは門違いというものだった。
「喧嘩はしてないのよ。ただ、私が一方的に嫌われているだけなの。たぶん、非常識なことをしたんじゃないかしら……気が付かずにやっていそうだし」
何度か話してみようと試みたが、ロセはあからさまにアデリーを避けた。全員で食事をしていてもアデリーだけを無視するのだ。
「そうかな。アデリーが物を知らないのはなんとなくわかるけど、不快に思ったことなんてないけどな」
アデリーは弱々しく微笑んで「きっと言ってはいけないことを言ったのよ。もし、口を利いてくれたらどうして怒っていたのか聞いてみたいし、ちゃんと謝りたいと思ってるわ」と、伝えた。
ただ、その機会が来るとは思えない。ほんとうに朝の挨拶すら返してくれないのだから、取り付く島もなかった。これだけ小さなコロニーで徹底的に無視をされるのは毎度身を切られるような辛さだ。惨めで寂しい。皆の前では普通にしていてもらわねば、憐れむ視線に泣いてしまいたくなる。
「あの……この話をしなくちゃならない? 私は出来ればしたくないの。ロセに好かれるように努力してみるから……その、そっとしておいて」
声が震えてしまい、アデリーは唇を引き結んで目を閉じた。込み上げてきた涙を押し止めると、カルロに背を向けて上水道掃除を続けた。
「正直、何をどれくらい用意しなければならないのかわからないし、お金はないの。だから私の分は何も要らないということにして」
カルロの事は嫌いではない。ただ、この話はもうしたくなかった。実際、換金してない貴金属しか持ち合わせていないし、それを無闇に見せるなとダグマに叱られた。
「なんかゴメンよ。泣かせるつもりは──」
アデリーはカルロの方へと勢いよく振り返ると「待って! 泣いてないわ。こちらこそごめんなさい。私、人付き合いも上手ではないみたいなの」などと、やたらと卑屈になって追い返してしまった。
「俺や母さんはアデリーが好きだよ。じゃあ、行くね」
消え入りそうな声で「気をつけてね」というのが精一杯だった。冷たくされても泣きたくなるのに、優しくされるとまた涙腺が緩むのだ。
立派な上水道を元通りにするということだけが、何もかも上手くいかないアデリーに許された大事な仕事だった。仕事に没頭していれば悲しみから逃れられる。
掃除しても水の通り道は残念ながら途切れている。ダグマが話していたとおり、石工に石で壊れた水路を直してもらわないとならないだろう。とはいえ、掃除をすればより近くまで水が自ら流れてくれるようになるのはかなり便利だ。
アデリーは上水道の木の葉を掃除しながら、一人なのを良いことに盛大なため息をついた。なんせロセの名を教えてくれたのは本人ではなく、カルロだったのだ。
「君たちは喧嘩でもしてるのか?」
到着してたった二日でカルロは全員分のベッドを組み立てて、おまけにカルロ親子が住む部屋の戸や雨戸まであっという間に作り上げてしまった。直ぐに住めるように整ったので、馬車で一番近くの街まで買い出しに行ってくれることになった。カルロはアデリーに必要なものを聞くために切り立った崖にある上水道掃除をしているアデリーのもとへと赴いたということだった。
「なぜ……そう思うの?」
小声で問い返すアデリーにカルロは自分の額を掻いてみせた。
「そりゃ、ロセはアデリーを見ようともしないしな。買い物に行くってなって、ロセに聞いたんだよ。『アデリーは今の服を売りたいらしいけど、あれしか着るものがないみたいなんだ』ってさ。多めにあるなら貸してやってと言いたかったんだけど」
カルロは肩を竦めて「『売る必要なんてないじゃない! 毎日、日曜日みたいな格好をしてればいいのよ』って怒られちまったよ」と、困り顔だ。
「そう……」
日曜日は教会へ行くために、誰もがありったけのおしゃれをしていくのだ。それを揶揄しているらしい。アデリーの服は、普段着には不釣り合いらしいが、アデリーはこれしかもっていない。しかも、これまではこれで生活していたのだ。そんな風になじられても困るし、それをカルロに言うのは門違いというものだった。
「喧嘩はしてないのよ。ただ、私が一方的に嫌われているだけなの。たぶん、非常識なことをしたんじゃないかしら……気が付かずにやっていそうだし」
何度か話してみようと試みたが、ロセはあからさまにアデリーを避けた。全員で食事をしていてもアデリーだけを無視するのだ。
「そうかな。アデリーが物を知らないのはなんとなくわかるけど、不快に思ったことなんてないけどな」
アデリーは弱々しく微笑んで「きっと言ってはいけないことを言ったのよ。もし、口を利いてくれたらどうして怒っていたのか聞いてみたいし、ちゃんと謝りたいと思ってるわ」と、伝えた。
ただ、その機会が来るとは思えない。ほんとうに朝の挨拶すら返してくれないのだから、取り付く島もなかった。これだけ小さなコロニーで徹底的に無視をされるのは毎度身を切られるような辛さだ。惨めで寂しい。皆の前では普通にしていてもらわねば、憐れむ視線に泣いてしまいたくなる。
「あの……この話をしなくちゃならない? 私は出来ればしたくないの。ロセに好かれるように努力してみるから……その、そっとしておいて」
声が震えてしまい、アデリーは唇を引き結んで目を閉じた。込み上げてきた涙を押し止めると、カルロに背を向けて上水道掃除を続けた。
「正直、何をどれくらい用意しなければならないのかわからないし、お金はないの。だから私の分は何も要らないということにして」
カルロの事は嫌いではない。ただ、この話はもうしたくなかった。実際、換金してない貴金属しか持ち合わせていないし、それを無闇に見せるなとダグマに叱られた。
「なんかゴメンよ。泣かせるつもりは──」
アデリーはカルロの方へと勢いよく振り返ると「待って! 泣いてないわ。こちらこそごめんなさい。私、人付き合いも上手ではないみたいなの」などと、やたらと卑屈になって追い返してしまった。
「俺や母さんはアデリーが好きだよ。じゃあ、行くね」
消え入りそうな声で「気をつけてね」というのが精一杯だった。冷たくされても泣きたくなるのに、優しくされるとまた涙腺が緩むのだ。
立派な上水道を元通りにするということだけが、何もかも上手くいかないアデリーに許された大事な仕事だった。仕事に没頭していれば悲しみから逃れられる。
掃除しても水の通り道は残念ながら途切れている。ダグマが話していたとおり、石工に石で壊れた水路を直してもらわないとならないだろう。とはいえ、掃除をすればより近くまで水が自ら流れてくれるようになるのはかなり便利だ。
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