美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
131 / 131
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
 山々は春の息吹に満ちていた。茶色一辺倒だった山肌は直ぐに緑色に染まり、蝶々が飛び回る様になったいた。

 スリの背に乗るアリシャとエドは丘の下に広がるドナ村を眺めていた。

 イライザ一向に破壊されたのか、建物の一部は扉が土の上に放置されたり、壁の一部に穴が開けられたりしている。

「片付けと修理が必要ね」

 アリシャの言葉に、隣で馬に跨がるボリスが「回復クリシュナの力で建物はなおせないのかな?」と、言った。

「直せねぇよ」

 エドが即答したので残念とボリスは肩をすくめていた。

「直してから行きたいけど……」

 既に森を抜けようとしているストルカ国の兵士たちを見渡した。

「俺はもう行かなきゃならないらしい」

 背後で馬が嘶いた。その馬にはドクとレゼナが乗っている。

「大仕事が待っているからな。ボリス王としてやらねばならんことは国の立て直しだ」

 ドクの言葉にボリスは目を回して見せて「王になんかなりたくないのに」と言ったが、もう観念していることは皆、知っていた。

 イライザがなくなりボリスに回復クリシュナの力が転生すると、ストルカ国の兵たちは歓声を上げて喜んだ。圧政からの解放され誰もイライザを弔う気持ちがないのは明らかだった。中には遺体を踏み付けたりしようとしたものまでいて、アリシャが力を使いそれを止めたほどだった。

「寂しくなるわね……」

 アリシャは感傷的になっていた。ボリスをサポートするため、ドクとレゼナがストルカ国に戻ることになったのだ。元々王宮にいた二人はボリスに付き添うには適任だとレオに諭されてのことだった。そのレオはアリシャを手伝うと言って残ってくれることになっている。

「私達は敵対しているわけじゃないでしょ。会えるわよ」

 レゼナは明るく返すが、その目には涙が光っていた。

「さぁ、王がのんびり最後尾にいたらおかしい。行きなさい」

 レオの一言で、ボリスたちはストルカ国へと旅立っていった。ボリスはルクを連れてストルカ国に行く。アリシャを刺そうとしたのだから村には置いておけないという判断だった。ルクは精神を病んでしまっていてどのみち村で働くのは無理なのだ。ボリスが世話をしてくれるならとナジも同意していた。

「村の人が減ってしまいましたね」

 去っていくボリス達を見送りながらアリシャが呟いた。レオは「うむ」と短く返す。

「ほら、アリシャ。見てみろよ」

 アリシャの背後でエドが橋の方を指さした。今まさに橋を渡ろうとする人々の姿があった。隣村の住人たちもドナ村に移住することになっている。アリシャが防御カライズの主だと聞いて、自ら移ってくると言った人々だ。

「あ、最後尾見てみろよ。ウィン。あいつ、いつもちょっと間が抜けてんな。ドクたちが行っちまってから来るとか……ほら、アヴリルが何か抱いてるぞ」

 アリシャがスリの体に手をついて伸び上がって川の向こう岸に目を凝らした。

「え? ねえ、赤ちゃんじゃない? エド、スリを走らせましょう!」

 エドが背後からアリシャの頬にキスをして「村はすぐに賑やかになるさ」とスリの横腹を軽く蹴った。

「そうやってみんなが見てる前でエドってば!」

 良いじゃないかとエドの明るい声がした。

「なぁ、イライザが女のふりしてた理由知りたいか?」

 イライザの話はしたくないが、それには少し興味が湧いて「なぜなの?」と、馬の足音に負けぬように声を張った。

「俺と結婚するためだ。正式な王子と結婚すればイライザが王座につくのは容易いからな。回復クリシュナの力だけじゃ足らないと思っていたらしい」

「エドとイライザが……」

「だから俺たちはストルカを出たんだ。これ以上アイツに振り回されたくなかったしな」

 スリの後をココが楽しそうに追いかけてきた。ココの足元には冬の寒さに耐えた小麦が青々と茂っている。

「アイツがおかしなやつで良かった」

 なだらかな坂を辿って橋の近くまで下りてきていた。相変わらず元気そうなリリーがアリシャたちに手を振る。

「アリシャや皆に会えて感謝だな。アイツのことは死ぬほど嫌いだけど」

 アリシャもイライザに言いたいことが山ほどあるが、その点ではまるっきり同意だった。

「宿屋を再開しなきゃ!」

 元気よく宣言すると「その前にさ……」と、エドがスリの歩みを落としながら囁く。

「邪魔者も消えたし子供を持つか」

 一気に頬を染めたアリシャにエドが笑う。




しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ねむちゃん
2025.03.10 ねむちゃん

すごーく面白かった。目が離せないほどに一気に読んじゃいました。

解除
蒼真まこ
2022.09.17 蒼真まこ

西洋ヨーロッパ風の世界観と料理がとても素敵でした。
読みに来るのが遅くなってすみません。ファンタジー小説大賞頑張ってください!(投票しました)

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。