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第四章 いくつもの謎
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ただちに全員で移動する。私室のロッジで休憩しているブラウバウムを訪ねる。
「あの時消されていた録画……?」
「ええ、思い出してください。思い出せる範囲でいい」
誠の真剣な顔に、オーストリア生まれのイケメンは退き気味だ。
「ええと……。いくつかあったな……。『相棒』の再放送だろ……? 日曜劇場に朝ドラに……後は午後ロードか……あれを観ようとして消されてることに気づいたんです」
ブラウバウムは額に拳を当てて、必死で思い出している。
「午後ロード……? ブラウバウムさん、放送してたのはなんでした?」
七美が横から割り込む。なにか琴線に触れたらしい。
「ああ、古いアクション映画ですよ。スティーブン・セガールの『沈黙の要塞』。駄作扱いされてるが、私は好きでして……」
「ああ……ああああああーーーーーっ!」
ブラウバウムは最後まで言うことができなかった。七美が大声を上げたからだ。
「どしたの……七美ちゃん……?」
誠も篤志も、刑事二人もポカンとしている。
「バカバカ! 私のバカ! なんでもっと早く気づかなかったの!? あの手を使えばできるじゃない!」
幼なじみは半狂乱だ。なにかを見落としていたらしい。
「七美、七美ってば。落ち着け! なにに気づいたんだ!?」
誠は彼女の方に手を置き、眼を覗き込んで語りかける。
「ああ……ごめん……。もっと早く気づいてるべきだったよ……。ほんとごめん……。取りあえず、映画を観た方が早いと思うよ……。これかな……」
七美は深呼吸して自分を落ち着かせる。
スマホを取り出して、定額の映画視聴コンテンツを呼び出す。
スティーブン・セガールの『沈黙の要塞』が始まる。
「だいぶ後半になる……。あ、この辺だ……。よく見てて」
きれいな指が、早送りを通常再生に戻す。主人公がそれまで雇われていた会社に裏切られ、報復のために潜入するシーンだ。
(これは……。こんな手があったのか……? 確かにこれなら……)
主人公が、武装した敵が待ち受ける施設に忍び込む。そのために一工夫するシーンだ。目から鱗が落ちる気分だった。
「あ……。そうか……。これだ! これなら銃声の問題は解決できるじゃないか!」
誠が興奮して言う。
「確かに……こんなシーンあったんだ……。ずいぶん昔に観たからすっかり忘れてたよ……。うかつだった……」
ブラウバウムも、不覚だったという顔で得心する。
このトリックなら、山瀬のグロックにサプレッサーが着いていなかった説明がつく。同時に、隣室の綾音に銃声が聞こえなかったことも。
「ほんとーにごめん! うっかりしてた……観たことあったのに、『沈黙の要塞』って聞くまで完全に忘れてたよ」
七美がすまなそうになる。
事件解決に重要なヒントを知っていながら失念していた。ミステリー研究会所属のプライドが許さないのだ。
「いや、むしろありがとう七美。これでいろいろな糸がつながったよ」
誠は幼なじみの手を握り、笑顔で感謝を述べる。
「犯人は、『沈黙の要塞』を観た人が、トリックに気づくのを恐れて録画を消した……?」
横で見ていた篤志が推理する。
「恐らくは。七美が映画のタイトルを聞くまで、トリックに思い当たらなかったんだ。消した判断は間違ってなかったな」
誠が不敵な笑顔で相手をする。
「だが……むしろやぶ蛇になってしまった……。犯行の後に録画を消しているのを、百瀬君が撮影していて、高森君が疑問を持ってしまったばかりに」
沖田が苦笑する。犯人はむしろ墓穴を掘ったことになる。
「てことは……」
誠の中で、もう一つ糸がつながる。
「警視、警部。ボヤ騒ぎの後の燃えかすは、警察に保管されていますね?」
沖田と速水に近づいて、大きな声で言う。
「ああ。警察の保管庫にあるが……。まさか……?」
沖田がにわかに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「おそらくそのまさかです。指紋採取と分析をお願いします」
誠がにやりとしながら要求する。
「ええと……警視、なにがまさかなんです? 俺にはさっぱり……」
速水は、まだピンときていない。
「いいから速水警部。県警にボヤ騒ぎのときにかき集めた物を、徹底して調べさせてください。きっとなにか出てきます」
沖田は質問には答えず切り返す。
「わかりました……」
速水はスマホを取り出し、不満そうな顔で電話をかける。
「だいぶ霧はうすくなってきた……。後は、誰がどうやって二人を殺したか。その物証を手に入れないと」
誠は凜とした表情で断じた。
「あの時消されていた録画……?」
「ええ、思い出してください。思い出せる範囲でいい」
誠の真剣な顔に、オーストリア生まれのイケメンは退き気味だ。
「ええと……。いくつかあったな……。『相棒』の再放送だろ……? 日曜劇場に朝ドラに……後は午後ロードか……あれを観ようとして消されてることに気づいたんです」
ブラウバウムは額に拳を当てて、必死で思い出している。
「午後ロード……? ブラウバウムさん、放送してたのはなんでした?」
七美が横から割り込む。なにか琴線に触れたらしい。
「ああ、古いアクション映画ですよ。スティーブン・セガールの『沈黙の要塞』。駄作扱いされてるが、私は好きでして……」
「ああ……ああああああーーーーーっ!」
ブラウバウムは最後まで言うことができなかった。七美が大声を上げたからだ。
「どしたの……七美ちゃん……?」
誠も篤志も、刑事二人もポカンとしている。
「バカバカ! 私のバカ! なんでもっと早く気づかなかったの!? あの手を使えばできるじゃない!」
幼なじみは半狂乱だ。なにかを見落としていたらしい。
「七美、七美ってば。落ち着け! なにに気づいたんだ!?」
誠は彼女の方に手を置き、眼を覗き込んで語りかける。
「ああ……ごめん……。もっと早く気づいてるべきだったよ……。ほんとごめん……。取りあえず、映画を観た方が早いと思うよ……。これかな……」
七美は深呼吸して自分を落ち着かせる。
スマホを取り出して、定額の映画視聴コンテンツを呼び出す。
スティーブン・セガールの『沈黙の要塞』が始まる。
「だいぶ後半になる……。あ、この辺だ……。よく見てて」
きれいな指が、早送りを通常再生に戻す。主人公がそれまで雇われていた会社に裏切られ、報復のために潜入するシーンだ。
(これは……。こんな手があったのか……? 確かにこれなら……)
主人公が、武装した敵が待ち受ける施設に忍び込む。そのために一工夫するシーンだ。目から鱗が落ちる気分だった。
「あ……。そうか……。これだ! これなら銃声の問題は解決できるじゃないか!」
誠が興奮して言う。
「確かに……こんなシーンあったんだ……。ずいぶん昔に観たからすっかり忘れてたよ……。うかつだった……」
ブラウバウムも、不覚だったという顔で得心する。
このトリックなら、山瀬のグロックにサプレッサーが着いていなかった説明がつく。同時に、隣室の綾音に銃声が聞こえなかったことも。
「ほんとーにごめん! うっかりしてた……観たことあったのに、『沈黙の要塞』って聞くまで完全に忘れてたよ」
七美がすまなそうになる。
事件解決に重要なヒントを知っていながら失念していた。ミステリー研究会所属のプライドが許さないのだ。
「いや、むしろありがとう七美。これでいろいろな糸がつながったよ」
誠は幼なじみの手を握り、笑顔で感謝を述べる。
「犯人は、『沈黙の要塞』を観た人が、トリックに気づくのを恐れて録画を消した……?」
横で見ていた篤志が推理する。
「恐らくは。七美が映画のタイトルを聞くまで、トリックに思い当たらなかったんだ。消した判断は間違ってなかったな」
誠が不敵な笑顔で相手をする。
「だが……むしろやぶ蛇になってしまった……。犯行の後に録画を消しているのを、百瀬君が撮影していて、高森君が疑問を持ってしまったばかりに」
沖田が苦笑する。犯人はむしろ墓穴を掘ったことになる。
「てことは……」
誠の中で、もう一つ糸がつながる。
「警視、警部。ボヤ騒ぎの後の燃えかすは、警察に保管されていますね?」
沖田と速水に近づいて、大きな声で言う。
「ああ。警察の保管庫にあるが……。まさか……?」
沖田がにわかに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「おそらくそのまさかです。指紋採取と分析をお願いします」
誠がにやりとしながら要求する。
「ええと……警視、なにがまさかなんです? 俺にはさっぱり……」
速水は、まだピンときていない。
「いいから速水警部。県警にボヤ騒ぎのときにかき集めた物を、徹底して調べさせてください。きっとなにか出てきます」
沖田は質問には答えず切り返す。
「わかりました……」
速水はスマホを取り出し、不満そうな顔で電話をかける。
「だいぶ霧はうすくなってきた……。後は、誰がどうやって二人を殺したか。その物証を手に入れないと」
誠は凜とした表情で断じた。
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