49 / 54
第五部
第47話 女神様の欲しいもの
しおりを挟む
「そういや、美桜は今何が欲しい?」
美桜は片付けを、僕は調理場で夕飯を作りながら彼女に話しかける。
すると美桜はきょとんと首を傾げる。自分でも思ってしまった──あまりにも不自然な質問の流れだったと。だが他にどうやって話を切り込めばいいのかもわからないため、バレないことを祈るばかりだ。
案の定──美桜は少し顔を上げた。
「どうしたんですか? 急にそんなことを訊いてくるなんて」
やはり不自然に思われていたようだ。
美桜は学校全体で設けてられているイベントである、『真城美桜生誕祭』についてあまり関心がないとはいっても、その日は美桜本人の誕生日。美桜が知らないはずもない。
故にここで『誕生日だし欲しいものとか……』みたいなそんな質問をすれば一発アウト。
陰キャは堂々と先陣を仕切るのが苦手なのだ。失敗覚悟で挑んでは僕の負けは確定事項だ。
そのために、ここは誤魔化そう。ごめんな、許してください。
「……別に、細かい理由はないけど。い、伊月が、保健室で鈴菜さんとそんな話をしたって言うから……ついでに、美桜にも訊いてみようかなって、思って……」
「……………」
まだ何か疑う様子を見せる美桜だったが、一応僕の言い分には納得してくれたようだ。
伊月には明日報告を入れることになってるから、そのときにこの事も話して口裏を合わせてもらうことにしよう。
秘密にしておく理由は特にない。
だが、一般的に友達同士で行われる誕生日プレゼントというのは、秘密裏に用意しておくのが定番というか、クラスの女子達がそんなことをしていたのを見かけたというか。
なので僕も、あのときと同じように、当日まで秘密にしておくことにする。
「カノジョさんへのプレゼント……ということでしょうか?」
「そんなところじゃないか。伊月は貢ぎ上手だからな」
「ふふっ。合ってるようで、間違っていそうな例えですね。村瀬君が聞いていたらこの場で怒ってきそうですよ」
「へぇ。わかるもんなんだな」
「……嘘偽りがない人の思考というのは、1番素直ですからね。昼間のやり取りを見るに、きっと村瀬君は“そういう人間”なのだと予想出来ます」
「……さすがなことで」
ご察しの通り、伊月が本当にそのことを鈴菜さんに訊いたのか、僕にはわからない。
許せ美桜。これは、お前にサプライズをするためなんだ。
それに……先程見せた苦笑、おかしいと美桜がそう思ってくれた何よりの証拠。
僕1人の知恵では、果たして現実化出来たかどうか。
「……んで、結局のところ、美桜だったら何が欲しいんだよ」
「そうですね……」
美桜は作業を中断させて真剣に考えているようだ。
それに合わせて僕も作業を中断せざるを得なかった。
「今欲しいものは──特にありません」
「ですよね……」
質問をする前からそうなのではと思ってはいた。
ごく普通のように僕の家の台所使ってるので忘れがちではあるのだが、真城美桜は列記とした『お嬢様』だ。
作法に礼儀。日本の『和』を中心とし、様々な技法を会得している美桜は当然、お嬢様という特殊な人類に分類され、美桜は何不自由ない生活をしてきた。
勝手な偏見かもしれない。
が、こいつにとってはそれが正しい。
現に目の前にいるお嬢様は、さも当然のように『何もない』とそう言い切ってみせた。
決定的瞬間である。
……そうすると参ってしまう。
美桜はあまりにも家庭的な人間故、プレゼントは何を所望するのか、まったく謎なのだ。
僕の勘と直感が当たるとも思えない。……せめて、欲しいものではなく、プレゼントされてみたかった物っていうのは……怪しいか、さすがに。
そんな思考に陥っていると、美桜が「ですが」と付け加えた。
「私は、湊君が選んでくれたものなら何でも嬉しいです」
「……美桜?」
「……覚えていますか? 中学2年生の頃、湊君が私の誕生日にプレゼントでキーホルダーを買ってくれました」
「覚えてるけど」
というか、伊月と今日そのときの話してたからな。少し心臓がドクッと跳ね上がったが、美桜は気づいていない。気づかれたらそれはそれで嫌だけど。
「誕生日に、誰かからプレゼントを貰うなんてこと、家族以外では初めてだったんです。あのときは端的に『大切にする』と言ってしまいましたが、本当は……もっと言いたいことがあったんですよ」
「……お礼言われたしそれで十分だったんだけど」
これは本心だ。
別に誕生日にプレゼントを渡したのは、何かしら欲があった訳ではない。幼馴染だし、誕生日は知っていたから気分で買ったものを渡したにすぎなかったのだ。美桜には、少し失礼なことしたかもしれないけど……喜んでくれた、それだけでもう嬉しかった。
それ以上のことを何も望まない。
男女の仲が敏感になってきた歳頃だ。下手に美桜と関わることは避けてきた。それでも、お前は変わらない口ぶりで『大切にします』と──そう言ってくれたんだ。
「本当、湊君は欲が無いですね。照れてはいますけど」
「そ、そんなんじゃ……!! …………っ」
「私にとって湊君はそれだけ『特別』なんです。だから──湊君から貰ったものなら、それも私にとっては『特別』になります。だから、何だっていいんです。湊君からの贈り物。そういう大前提が大事なので」
「……そ、っか」
いい感じに丸め込まれたが、僕の中でまた1つ問題が提示されてしまった。
何かリクエストがあったときの『何でもいい』という回答ほど、困る回答はない……。
どうしたもんか、と僕には少し頭を悩ませる一夜になってしまった。
美桜は片付けを、僕は調理場で夕飯を作りながら彼女に話しかける。
すると美桜はきょとんと首を傾げる。自分でも思ってしまった──あまりにも不自然な質問の流れだったと。だが他にどうやって話を切り込めばいいのかもわからないため、バレないことを祈るばかりだ。
案の定──美桜は少し顔を上げた。
「どうしたんですか? 急にそんなことを訊いてくるなんて」
やはり不自然に思われていたようだ。
美桜は学校全体で設けてられているイベントである、『真城美桜生誕祭』についてあまり関心がないとはいっても、その日は美桜本人の誕生日。美桜が知らないはずもない。
故にここで『誕生日だし欲しいものとか……』みたいなそんな質問をすれば一発アウト。
陰キャは堂々と先陣を仕切るのが苦手なのだ。失敗覚悟で挑んでは僕の負けは確定事項だ。
そのために、ここは誤魔化そう。ごめんな、許してください。
「……別に、細かい理由はないけど。い、伊月が、保健室で鈴菜さんとそんな話をしたって言うから……ついでに、美桜にも訊いてみようかなって、思って……」
「……………」
まだ何か疑う様子を見せる美桜だったが、一応僕の言い分には納得してくれたようだ。
伊月には明日報告を入れることになってるから、そのときにこの事も話して口裏を合わせてもらうことにしよう。
秘密にしておく理由は特にない。
だが、一般的に友達同士で行われる誕生日プレゼントというのは、秘密裏に用意しておくのが定番というか、クラスの女子達がそんなことをしていたのを見かけたというか。
なので僕も、あのときと同じように、当日まで秘密にしておくことにする。
「カノジョさんへのプレゼント……ということでしょうか?」
「そんなところじゃないか。伊月は貢ぎ上手だからな」
「ふふっ。合ってるようで、間違っていそうな例えですね。村瀬君が聞いていたらこの場で怒ってきそうですよ」
「へぇ。わかるもんなんだな」
「……嘘偽りがない人の思考というのは、1番素直ですからね。昼間のやり取りを見るに、きっと村瀬君は“そういう人間”なのだと予想出来ます」
「……さすがなことで」
ご察しの通り、伊月が本当にそのことを鈴菜さんに訊いたのか、僕にはわからない。
許せ美桜。これは、お前にサプライズをするためなんだ。
それに……先程見せた苦笑、おかしいと美桜がそう思ってくれた何よりの証拠。
僕1人の知恵では、果たして現実化出来たかどうか。
「……んで、結局のところ、美桜だったら何が欲しいんだよ」
「そうですね……」
美桜は作業を中断させて真剣に考えているようだ。
それに合わせて僕も作業を中断せざるを得なかった。
「今欲しいものは──特にありません」
「ですよね……」
質問をする前からそうなのではと思ってはいた。
ごく普通のように僕の家の台所使ってるので忘れがちではあるのだが、真城美桜は列記とした『お嬢様』だ。
作法に礼儀。日本の『和』を中心とし、様々な技法を会得している美桜は当然、お嬢様という特殊な人類に分類され、美桜は何不自由ない生活をしてきた。
勝手な偏見かもしれない。
が、こいつにとってはそれが正しい。
現に目の前にいるお嬢様は、さも当然のように『何もない』とそう言い切ってみせた。
決定的瞬間である。
……そうすると参ってしまう。
美桜はあまりにも家庭的な人間故、プレゼントは何を所望するのか、まったく謎なのだ。
僕の勘と直感が当たるとも思えない。……せめて、欲しいものではなく、プレゼントされてみたかった物っていうのは……怪しいか、さすがに。
そんな思考に陥っていると、美桜が「ですが」と付け加えた。
「私は、湊君が選んでくれたものなら何でも嬉しいです」
「……美桜?」
「……覚えていますか? 中学2年生の頃、湊君が私の誕生日にプレゼントでキーホルダーを買ってくれました」
「覚えてるけど」
というか、伊月と今日そのときの話してたからな。少し心臓がドクッと跳ね上がったが、美桜は気づいていない。気づかれたらそれはそれで嫌だけど。
「誕生日に、誰かからプレゼントを貰うなんてこと、家族以外では初めてだったんです。あのときは端的に『大切にする』と言ってしまいましたが、本当は……もっと言いたいことがあったんですよ」
「……お礼言われたしそれで十分だったんだけど」
これは本心だ。
別に誕生日にプレゼントを渡したのは、何かしら欲があった訳ではない。幼馴染だし、誕生日は知っていたから気分で買ったものを渡したにすぎなかったのだ。美桜には、少し失礼なことしたかもしれないけど……喜んでくれた、それだけでもう嬉しかった。
それ以上のことを何も望まない。
男女の仲が敏感になってきた歳頃だ。下手に美桜と関わることは避けてきた。それでも、お前は変わらない口ぶりで『大切にします』と──そう言ってくれたんだ。
「本当、湊君は欲が無いですね。照れてはいますけど」
「そ、そんなんじゃ……!! …………っ」
「私にとって湊君はそれだけ『特別』なんです。だから──湊君から貰ったものなら、それも私にとっては『特別』になります。だから、何だっていいんです。湊君からの贈り物。そういう大前提が大事なので」
「……そ、っか」
いい感じに丸め込まれたが、僕の中でまた1つ問題が提示されてしまった。
何かリクエストがあったときの『何でもいい』という回答ほど、困る回答はない……。
どうしたもんか、と僕には少し頭を悩ませる一夜になってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる