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第五部
第49話 女神様の誕生日①
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そして時間は刻一刻と過ぎていき、学校では更に美桜の誕生日に備えての準備が内密に行われていた。
この学校公認(ただし、年間予定には汲まれていない)のイベントは主に、陽キャが場を取り締まる。何故そこまでするのかは正直謎だが、残念だったな勇気ある戦士達よ。
中学からの付き合いが僕、伊月、そして鈴菜さんの3人しかいないからこそ知られていないこと。まぁ知らせるつもりなんてそもそも無かったけど。
美桜はいつも通りの通常運転──制服を完璧に着こなし、背筋は曲がることなく真っ直ぐ、それにサラサラな髪がそよ風の影響で凛と舞っている。
誰もが認める学校の美少女。妬む者もいるかもしれないが、彼女は温厚で、誰に対しても平等だ。わかっていて誰かを敵に回すようなことはしない。
……しかし、それが『外面』だということを忘れないでほしい。
誰もが認める学校の美少女? ──果たして本当にそうだろうか?
少なくとも、通学路にて僕の横を歩いている美桜は今日という日こそ憂鬱に感じることはないだろう。今にも倒れてしまいそうに顔が悪い。
「……大丈夫か?」
「……はい。何とか、平気です。今日……今日という日がどうしてあるのかが私にはわかりません。どうして4月30日は『うるう年』ではないのでしょうか。年に1回ではなく、4年に1回程度の正式な誕生日でしたら、もう少しこの苦痛にも耐えられたのかもしれません」
……うわぁ。スゴい。やっぱり幼馴染って似るもんなんだな。1週間前の僕と全く同じようなこと言ってるよ。
そう、これこそが本当の美桜。
目立つため、頂点にいるために美少女をしているのではない。みんなの憧れの女神様でいるために愛想を振り撒いているのでもない。
全ては、みんなが勝手に作った妄想の中の美桜だ。現実の美桜は、どこにでもいるありふれた女子高生の1人に過ぎない。だから──今日という日を嫌うのだ。
「で、でも、受け取らないんだろ? 例年同様」
「当たり前です。見ず知らずの人達が渡してきたものなんて、怖くて手をつけられません」
「……そんなに嫌なら、いっそのこと本性出せば?」
「それは嫌です。……こんな私は、湊君だけ知ってればいいんです。私の外面を他人なんかに教えるわけありません。湊君だけが、知ってくれていればそれで」
「……っ!!」
好きで愛想振り撒いているわけじゃない。そんなことはわかってた。
けど、そこにそんな意図があるなんて……ヤバい、変に意識し始めちゃった。な、何か別の話題を……!
「そういえば、昨日は村瀬君とどちらに?」
「えっ? あ、ああ。ちょっとな。あいつに付き合わされた……」
話題を変えようとしていたら、美桜の方から変えてくれるとは思わなかった。
伊月に付き合わされた、というのも嘘ではないが、どちらかと言えば僕に付き合ってもらった……の方が正しいのかも知れない。
「……そうですか。……でしたら、私も着いていけばよかったです」
むっくりと頬を膨らませ、如何にも拗ねた様子の美桜。1人で男の家に残されたことが、そんなに嫌だったのだろうか? だからと言って、本人へのサプライズのつもりで買い物に行ったというのに、美桜が着いてきては意味がない。
そういう意味では、かなり理不尽に拗ねられている。……どうすればいいのよ。
「あぁ……うん。それは悪かった、ごめんな」
「……気にしてませんから、大丈夫です」
嘘ですよね。絶対まだ根に持ってるって。
同居を始めて気がついたこと──美桜は意外と拗ねたりすることが多い。理由は多々に渡るが、そのどれもに共通するのが『僕』だ。
今回の場合で言うと、おそらく自分を放っていったことへの感情からだろう。
「…………」
「ど、どうした? そんなに睨んできて」
「……何でもありません。ウキウキしてる自分にトドメを刺していたところです」
「どういうことですか……?」
それだけ今日という日を恨んでいる……ということだろうか? 美桜の言うことは時々謎めいたものを感じる。
「あっ、そうです。湊君は、今日何が食べたいですか?」
「いいよ別に。今日の主役は美桜なんだし、今日ぐらいは僕が美桜の好物作ってやるよ」
前にお弁当を作ってもらった際に、今まで知らなかった美桜の好物を女神様自身からたんまりと教え込まれた。
美桜が自分の誕生日をどう考えているのかはわからない。普段文句を言わずに通う優等生の女神様の欠片も無くなるほど、この日だけは『行きたくない』と拒絶するほどだ。
僕の予想よりも遥かに行きたくないと豪語しているに違いない。
けれど、そんな彼女の心情を知らない学校の連中も、そしてそんな彼女の心情を知る僕も、1年でたった1日しかない美桜の誕生日を──特別に考えている。
お祝いをしたい、喜んでもらいたい。
結局のところ、観点はそこに行き着くのだ。まあ行き過ぎてそもそもの目的から脱線してしまった人もいるだろうが。実際に、僕達はこの目で何度も見てきた。
だが根底はみな同じなはずだ。
現に僕も──美桜が産まれたこの日と君に、お祝いをしたい。でなければ休日にわざわざプレゼントを買いに行くなんてことしなかっただろう。
すると美桜はちょっと不機嫌な気分が収まったのか少し照れた顔をしていた。
「……それでは、今日の献立は何ですか?」
言い慣れていないのだろう、とても初々しさが感じられる発言だった。
同居してもうすぐ1ヶ月──今日初めて聞いた彼女からの献立メニューの質問に、僕は「そうだなぁー」と少し考える素振りを見せてから……、
「じゃあ、グラタンにでもするか!」
家出してきてその日に「食べたい」と懇願された彼女の好きな料理にすることにした。
「……はい!」
この学校公認(ただし、年間予定には汲まれていない)のイベントは主に、陽キャが場を取り締まる。何故そこまでするのかは正直謎だが、残念だったな勇気ある戦士達よ。
中学からの付き合いが僕、伊月、そして鈴菜さんの3人しかいないからこそ知られていないこと。まぁ知らせるつもりなんてそもそも無かったけど。
美桜はいつも通りの通常運転──制服を完璧に着こなし、背筋は曲がることなく真っ直ぐ、それにサラサラな髪がそよ風の影響で凛と舞っている。
誰もが認める学校の美少女。妬む者もいるかもしれないが、彼女は温厚で、誰に対しても平等だ。わかっていて誰かを敵に回すようなことはしない。
……しかし、それが『外面』だということを忘れないでほしい。
誰もが認める学校の美少女? ──果たして本当にそうだろうか?
少なくとも、通学路にて僕の横を歩いている美桜は今日という日こそ憂鬱に感じることはないだろう。今にも倒れてしまいそうに顔が悪い。
「……大丈夫か?」
「……はい。何とか、平気です。今日……今日という日がどうしてあるのかが私にはわかりません。どうして4月30日は『うるう年』ではないのでしょうか。年に1回ではなく、4年に1回程度の正式な誕生日でしたら、もう少しこの苦痛にも耐えられたのかもしれません」
……うわぁ。スゴい。やっぱり幼馴染って似るもんなんだな。1週間前の僕と全く同じようなこと言ってるよ。
そう、これこそが本当の美桜。
目立つため、頂点にいるために美少女をしているのではない。みんなの憧れの女神様でいるために愛想を振り撒いているのでもない。
全ては、みんなが勝手に作った妄想の中の美桜だ。現実の美桜は、どこにでもいるありふれた女子高生の1人に過ぎない。だから──今日という日を嫌うのだ。
「で、でも、受け取らないんだろ? 例年同様」
「当たり前です。見ず知らずの人達が渡してきたものなんて、怖くて手をつけられません」
「……そんなに嫌なら、いっそのこと本性出せば?」
「それは嫌です。……こんな私は、湊君だけ知ってればいいんです。私の外面を他人なんかに教えるわけありません。湊君だけが、知ってくれていればそれで」
「……っ!!」
好きで愛想振り撒いているわけじゃない。そんなことはわかってた。
けど、そこにそんな意図があるなんて……ヤバい、変に意識し始めちゃった。な、何か別の話題を……!
「そういえば、昨日は村瀬君とどちらに?」
「えっ? あ、ああ。ちょっとな。あいつに付き合わされた……」
話題を変えようとしていたら、美桜の方から変えてくれるとは思わなかった。
伊月に付き合わされた、というのも嘘ではないが、どちらかと言えば僕に付き合ってもらった……の方が正しいのかも知れない。
「……そうですか。……でしたら、私も着いていけばよかったです」
むっくりと頬を膨らませ、如何にも拗ねた様子の美桜。1人で男の家に残されたことが、そんなに嫌だったのだろうか? だからと言って、本人へのサプライズのつもりで買い物に行ったというのに、美桜が着いてきては意味がない。
そういう意味では、かなり理不尽に拗ねられている。……どうすればいいのよ。
「あぁ……うん。それは悪かった、ごめんな」
「……気にしてませんから、大丈夫です」
嘘ですよね。絶対まだ根に持ってるって。
同居を始めて気がついたこと──美桜は意外と拗ねたりすることが多い。理由は多々に渡るが、そのどれもに共通するのが『僕』だ。
今回の場合で言うと、おそらく自分を放っていったことへの感情からだろう。
「…………」
「ど、どうした? そんなに睨んできて」
「……何でもありません。ウキウキしてる自分にトドメを刺していたところです」
「どういうことですか……?」
それだけ今日という日を恨んでいる……ということだろうか? 美桜の言うことは時々謎めいたものを感じる。
「あっ、そうです。湊君は、今日何が食べたいですか?」
「いいよ別に。今日の主役は美桜なんだし、今日ぐらいは僕が美桜の好物作ってやるよ」
前にお弁当を作ってもらった際に、今まで知らなかった美桜の好物を女神様自身からたんまりと教え込まれた。
美桜が自分の誕生日をどう考えているのかはわからない。普段文句を言わずに通う優等生の女神様の欠片も無くなるほど、この日だけは『行きたくない』と拒絶するほどだ。
僕の予想よりも遥かに行きたくないと豪語しているに違いない。
けれど、そんな彼女の心情を知らない学校の連中も、そしてそんな彼女の心情を知る僕も、1年でたった1日しかない美桜の誕生日を──特別に考えている。
お祝いをしたい、喜んでもらいたい。
結局のところ、観点はそこに行き着くのだ。まあ行き過ぎてそもそもの目的から脱線してしまった人もいるだろうが。実際に、僕達はこの目で何度も見てきた。
だが根底はみな同じなはずだ。
現に僕も──美桜が産まれたこの日と君に、お祝いをしたい。でなければ休日にわざわざプレゼントを買いに行くなんてことしなかっただろう。
すると美桜はちょっと不機嫌な気分が収まったのか少し照れた顔をしていた。
「……それでは、今日の献立は何ですか?」
言い慣れていないのだろう、とても初々しさが感じられる発言だった。
同居してもうすぐ1ヶ月──今日初めて聞いた彼女からの献立メニューの質問に、僕は「そうだなぁー」と少し考える素振りを見せてから……、
「じゃあ、グラタンにでもするか!」
家出してきてその日に「食べたい」と懇願された彼女の好きな料理にすることにした。
「……はい!」
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