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13部 番外編
とんだ騒動
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人間に化けての演奏会がなかなか楽しかったらしく、ラメーンは、(他の場所でも演奏してみようか)という気になり妖精達に話してみた。
「いいですね。やりましょう」
「楽しそうですね」
妖精達も乗り気だったので、ラメーンは他の国の城から離れた街の広場などで突然演奏会を開いたりもしてみた。
「すごい!」
「素晴らしい!」
と人々は喜び、子供達も目を輝かせていた。
「すごいよ。お兄さん。ラメーン様が聞いたらきっとびっくりしちゃうよ!」
子供のそんな褒め言葉に苦笑したりしながら、人間界に降りていたラメーンだったが……
ある日ラメーン達は、龍の国の街で演奏会をした。この日は共に演奏する妖精は三人いた。そこに集まった人々は他の街の人々と同じように礼儀正しく聞いていたのだが、演奏が終わり、声をかけてきた者がいた。
「素晴らしい演奏だった。是非王都で演奏してほしい。明日来てほしい」
その男は龍の一族の者で鎧姿だった。龍の一族的に言うならば、騎士の一人といったところだろう。他の者たちよりも格が上そうだ。
「明日は忙しいので無理です」
とラメーンは言ってみた。
「報酬もたっぷり払う。どうしても来てほしい」
「明日は、忙しい」
ラメーンが臆することなく答えると、
「旅芸人風情が! 怪しいやつらだな。連行しろ」
その男は他の兵士達にそう命じた。
「なんて失礼な! この御方は」
ラメーンは抗議しようとした妖精達を制していた。
「しかし」
「いいから。どこに連れて行かれるのか面白いじゃないか」
「えー!?」
その時空の上には、演奏に惹かれてやってきていた風の妖精達がいた。
「ちょ……ラメーン様捕まっちゃうわよ!」
「助けた方がいいかな」
などと妖精達も戸惑っていたが、ラメーンが空を見て口元に指をあてていた。
「助けられたくないみたい」
「あーあ、あの人間達……ばかすぎだね」
「しかし面白いことになったな。どうなるんだろう?」
などと妖精達もこの後の展開が楽しみになってきていた。
ラメーン達は馬車に乗せられてどこかにそろって連れて行かれた。貴人が乗る馬車ではない。幌がある荷馬車である。家畜を移動させるための馬車だろう。結構いやな匂いもする。
「こんな汚い所に……いつまで黙っているんですか?」
妖精達は不愉快そうである。
「そうだな。まあ、もう少し。しかしこんな汚い馬車に乗るのは初めてだ」
「当たり前ですよ」
妖精達はラメーンと一緒なので別段怖くはなかった。ただ展開を面白がっているラメーンに呆れているだけだ。
馬車で三時間以上も揺られて、降ろされた。どうやら王都に連れてこられたようである。
「お前達の荷物は預かって調べさせてもらう」
しかも強引に楽器を奪われた。
「いい加減にしろ!」
男の妖精がくってかかると、兵士達は「黙れ。おとなしくしないならひどい目に遭わせるぞ!」と脅してきた。
「いい、おとなしくしなさい」
とラメーンが妖精を制した。
「しかし」
「いいからいいから」
四人が連れて行かれたのは牢屋だった。
「明日までここにいるように」
そう兵士に言われてそろって同じ牢に入れられた。
「呆れて何も言えないわ」
女の妖精は逆に笑っていた。
「ここが牢屋か……初めて来た」
「当たり前ですよ」
妖精達は口をそろえて言っていた。
「こんなきったない場所に私達を入れるなんて……」
変な匂いもするし、床の上はカビだらけである。
最初に偉そうに言っていた騎士が牢の前にやってきた。
「明日、王弟殿下の誕生日パーティーが開かれる。お前達にはそこで演奏をしてもらう。上手に演奏できたらそのまま解放してやる」
「断ったら?」
「首が胴と別れることになるかもな。我らに逆らうなど愚かなことだ。素直に演奏しろ」
騎士は偉そうに言って去って行った。
「首と胴が別れる……首を斬るってことか?」
ラメーンが妖精に聞いていた。
「もういい加減出ましょうよ。ばかばかしい」
「その前にさっきの男は足でふんずけましょう」
「賛成」
妖精達が口々に言っている。
「お兄さん達はどうしてここに来たの?」
横の牢屋から声が聞こえて来た。
「ん? 子供の声だな。子供がここにいるのか?」
ラメーン達は横を気にしだした。
「どうして捕まったのさ」
「何もしていない。君こそどうしてここにいる? 声からして、君は十八歳くらいだろう?」
とラメーン。
「正解だよ。僕十八歳。僕は盗みさ。お兄さん達も盗みだろう?」
「違う。本当に何もしていない。君はどうして盗みなんてしたんだ? 両親は?」
「いないよ。だから仕方ないんだ。金ないし」
「この国には孤児院なんてものはないのかね?」
「あるよ。でも僕らは嫌われてるから入れないんだ。一族の者でもないし、犯罪者の息子だからだめだってさ」
「犯罪者? 親が人でも殺したのかな?」
「ハロルド様の石像を間違って壊しちゃったんだ」
「え? それが犯罪?」
「そりゃそうだよ。だってハロルド様の石像だし。絶対許されないことなんだよ」
「そう」
「この国ではハロルド様はすっごく崇められてますからね」
妖精が言った。
「石像を壊すだけで重罪なのかもね」
「くだらん」
とラメーン。
「ハロルドの石像ごときで」
「だ、だめだよ。ムチで打たれるよ!」
子供が慌てていた。
「君はさっき僕らと言ったが、君には兄弟でもいるのかね?」
「妹がいるよ」
「じゃあ心配しているだろう」
「大丈夫。牢屋に入るのは一日だけだから。五回ほど棒で殴られたら出られるから」
少年はなんでもないように言っていた。
「慣れてるような口ぶりだね」
「うん。もう慣れっこだよ。だから平気さ」
「…………」
「ラメーン様、もう帰りましょうよ。こんな不愉快な国、一秒だっていたくないです」
女の妖精が言った。
「まあまあ」
「ラメーン様ってば物好きなんだから」
妖精達はぶつぶつ言っている。
ラメーンは腰から下げていたオカリナを外して手に持った。これだけは無事だった。
やがて郷愁が漂うオカリナの音色が響くと、あちこちからすすり泣くような声が聞こえてきた。どうやら他の牢屋に入っている連中もいるようだ。
「お母さん……」
横の牢屋にいる少年のつぶやきが聞こえて来た。
曲が終わったラメーンは顔に手をあてていた。
「……聖地に孤児院が確かあったと思うが」
「ありますよ。たまに、あそこの子供達が神殿に曲を聴きに来てくれるんですよ」
「そうか」
「隣の子を聖地に連れて行く気なんですか?」
「偽善だというのはわかってる。だが、これも縁だ。サン王子と出会ったのも縁だし、隣の子に出会ったのも何か意味があるのかもしれない。少年、仕事をしないか?」
ラメーンは途中から声を大きくして聞いた。
「仕事?」
「仕事だ。雇う条件は、両手がちゃんとあること、なんだが、君は両手はあるか?」
「あるけど……何の仕事?」
「楽器の演奏だ。楽器を習ってほしい。君と、妹、妹は歌は好きか?」
「…………」
少年は沈黙している。
「私は怪しい者ではない。人買いに売ったりしないから安心しなさい」
少年は考えているのか答えはなかった。
「ラメーン様、声だけで安心しろってのも無理ですよ」
妖精はひそひそ声で話した。
「そうですよ。元に戻ったら即信じると思いますが」
「どうせなら明日のパーティーで姿を現してやろうと思ってるんだが」
「主役の殿下だかが腰を抜かしますよ」
「家臣の罪は、上の者の罪も同様だろ?」
ラメーンはにやっと笑っている。
さてその頃神の国、ハロルドはジェイクと剣の打ち合いをしていた。妖精達もそれぞれ剣で戦っている。
「あのーハロルド様」
そこに風の妖精が声をかけた。
「ハロルド様ってば」
「なんだ?」
二人は打ち合いをやめて、ハロルドが妖精に近づいた。
「どうしても黙っておけないんで言っちゃいますが、今龍の国でえらいことが起こってますよ?」
「えらいこと? なんだ?」
風の妖精は小声でぼそっと言った。
「……はあ!? 嘘だろ?」
「本当ですよ」
「あいつ何を考えてるんだ!」
「さあ。それでは~」
風の妖精は去って行った。
ハロルドは頭を抱えている。
(ラメーンのやつ、一体何を考えているんだか)
「うーん……うーん……」
ハロルドは辺りをうろうろしていたが、やがて、「ちょっと用ができた」と言ってペガサスに乗って行ってしまった。
ハロルドが向かったのは雲の上の神殿の対話の間である。
龍の国にも対話できる鏡があるのだ。ハロルドが鏡に触れると、少しして鏡に女性の姿が映った。あわててきたのか女性はゼイゼイ息を吐いている。龍の一族では多い緑の長い髪、美しい顔立ちの若い女性である。角はない。龍の一族では角のない女性も多い。
「お、お久しぶりでございます。ハロルド様のお姿を見ることができて、うれしいです」
龍の国の巫女は息も絶え絶えだった。かなり走ってきたらしい。
「国王にすぐ伝えてほしいことがある」
「はい」
「龍の国の牢屋に、神が一人入っている。すぐ出さないとえらいことになるぞ」
「……今なんとおっしゃいました?」
巫女はきょとんとしていた。話がまるっきり信じられなかったようだ。
「まさかそのようなことがあるはずは……」
「人に化けている時に連行されたらしい。とにかくすぐ出してくれ」
「は、はい、あの、どの神様で?」
「ラメーンだ。音楽の神ラメーン」
「すぐ伝えます!」
ハロルドは不機嫌そうに鏡を閉じた。巫女は大急ぎで国王に謁見したのだった。
龍の国では夕暮れ時、牢屋が騒がしくなってきた。大勢の足音が聞こえてくる。
「ラメーン様!」
「ラメーン様、ラメーン様!」
「どうやらばれたらしい。風の妖精がばらしたな」
ラメーンは口をへの字にしている。妖精達はようやく茶番が終わるとほっとしていた。
ラメーンと妖精達が牢から出ると、外では国王他兵士達がひざを着いて待っていた。一人顔がはれまくっている男がいる。ラメーン達を拉致してきた本人のようだ。殴られたのだろう。
「ラメーン様、このたびは大変申し訳ありませんでした」
若い国王は本当に申し訳なさそうに言い、「申し訳ありませんでした」と兵士達が声を合わせて謝った。
「大変申し訳ありません。死んでお詫びします」
顔が腫れた男が言った。
「君の命なんぞいらん。それよりも君も少しは音楽でもたしなんでみたらどうかね? 剣しか能がないからそのような横暴な性格になるんだ」
「ははー」
男は平伏したまま言った。
「そうだ。国王、私は隣の牢にいた少年が欲しい。すぐここに連れてきてくれ」
「は、はい」
国王は横にいた兵士に指示し、兵士は飛んで行った。やがて少年が兵士と一緒にやってきて、みんながひざをついていたのでびびっていた。
「少年よ。私と聖地に行かないか?」
「え? 聖地?」
少年はラメーンと国王達を交互に見ながら戸惑っている。
「そうだ。聖地だ。君と君の妹、一緒に行こう」
少年は周りの様子からこの人物がただ事ではない人だと思ったのか、うなずいた。
「よかった。じゃあ妹のところに行こう」
「うん」
妖精達は戻ってきた楽器をかついでラメーンについて行った。国王達は、ラメーン達の姿が見えなくなるまで、膝を突いて平伏していた。
少年がラメーンを連れて行ったのは街の外れだった。木の枝や藁で作ったような粗末な家がいくつか並んでいた。大雨でも降ったら崩れそうな家である。少年はその家の一つに入って行き、妹を連れてきた。妹も少年と同じように小汚い服を着ていた。髪も伸び放題である。この家と服装に妖精達の瞳も曇っていた。
「他の家にも子供がいるの?」
ラメーンが聞いた。
「うん。今は四人くらい」
「ここにいても病気になりそうですね」
妖精が寂しげに言った。
ラメーンは全員つれて行くことも考えたが、今ここにいる子供だけを助けても、抜本的解決にはならない。
「とりあえず、君達は連れて行こう。他の仲間については、ちょっと考えるから。聖地に飛ぶぞ」
ラメーンは一同を聖地に連れて行き、そこで妖精達とは別れた。聖地にくると、ラメーンは本来の姿になっていたので、少年も少女もびっくりしてラメーンを見ていた。
ラメーンは聖地にある孤児院にとりあえず二人を連れて行き、世話を頼んだ。二人は食事を食べて風呂に入り、服を着替えた。キレイになると二人とも見違えて見えた。
「おお、かわいくなったじゃないか」
黒髪の兄と妹の瞳は青かった。どちらも整った顔立ちをしている。
「そういえば名前をまだ聞いていなかったな。私はラメーンだ」
「僕はエイデン、妹はマリアナです」
マリアナは不思議そうにラメーンに触れてみていた。ラメーンはマリアナの頭をなでなでした。
「あの、僕に仕事をくれるんですよね?」
少年が聞いた。
「ああ、だがとりあえずは、ちゃんとご飯を食べて、大きくなってほしい」
「僕、ちゃんとお金を稼ぎたいんです」
「ここでの生活は心配しなくていいんですよ」
孤児院の先生が言ってくれた。
「でも……」
「まずはいろいろ学ぶことだよ。いろいろ学んで、生きる知恵をつけよう。私の神官になってほしいが、そうなるには、長い年月楽器の練習をしなければならない。別の生き方をしてもかまわないよ」
「はい」
「どうしても今仕事がしたかったら、勉強しながら、仕事をしなさい。君ができる仕事といったら農場での仕事や、神殿の掃除などになるが」
「なんでもやります」
「とにかく今日はもう寝なさい。マリアナも眠そうだ」
マリアナは目をこすっている。
「あの、ラメーン様は、ハロルド様に会いますか?」
エイデンが思い切ったように聞いた。
「何か伝言でもあるのかな?」
「僕、お父さんの代わりに謝りたいんです。ハロルド様の石像を壊してしまったから」
「ハロルドはそんなことで怒りはしないよ。逆に君の境遇を聞いて怒るだろう。君が気になるなら言っておくよ。君が謝ってたって」
「ありがとうございます」
エイデンは安心したように言っていた。
次の日、ラメーンが孤児院に行ってみると、二人の髪は綺麗にカットされていた。
「おお、キレイになったな」
というと、マリアナは笑っていた。
「先生優しいの。すき」
「そうか。よかったな。私の神官を連れてきた」
「こんにちは」
優しそうな中年の女性の神官が一緒にいた。
「ここでの生活が落ち着いて、その気になってからでいい。彼女に楽器や歌を習うといい」
孤児院にいた他の女の子が「いいなあ」と言っていた。
「君も一緒に習っても良いんだよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「私の方がこちらに来ますよ」
神官が言った。
「そうしてくれるとありがたい」
こうして、二人の聖地での生活が始まった。
しばらくして、神の国で妖精がラメーンに聞いた。
「あの幼い兄妹はどうなりました?」
「ああ、妹の方は音楽的センスがありそうだが兄の方は、しょっちゅうハロルドの神殿に行ってるらしい。どうやらハロルドの神官に憧れてるらしいんだ。父親のことがあったのに、憧れるものなんだなあ」
というと、妖精はぶっと笑っていた。
「仕方ないですよ。ハロルド様は少年達の憧れですからねえ」
「別に傷ついてはいないぞ」
シャリィがラメーンの肩をトントンたたいていた。
「本当に傷ついてはいない」
「他のあばらやの子供達はどうなったんですか?」
「それはもう解決ずみだろう」
「そうですか」
ラメーンが子供達を連れていった二日後のことである。龍の国の対話の鏡が輝きを放ち、大急ぎで巫女が呼ばれて鏡の前にやってきた。鏡にはハロルドが映っている。
「ハロルド様、このたびは、大変申し訳ありませんでした。国王に代わってお詫びいたします」
巫女は頭を下げていた。
「国王も驚いただろうな。まあそれはもういい。ところで巫女は、子供は好きか?」
ハロルドが突然巫女に質問した。
「はい、大好きです」
「そうか。私も子供は好きだ。国の外れに、孤児達があばらやに住んで貧しい生活をしているらしい。巫女は知っているだろうか」
「え? まさか! この国にそんな子供達が!?」
巫女は初めて聞くような感じでかなり驚いている。
「子供は国の宝として、大事に育ててほしいものだ」
ハロルドはつぶやくように言っていた。
「はい。それはもう、わたくしもそう思います。すぐに調べます」
「そうか。巫女が子供が好きでよかった」
ハロルドはちょっと笑顔で言ったので、巫女の頬は真っ赤になっていた。
「はい。子供は大好きです。貧しい生活をしている子供がいるなんて、私も我慢ができませんわ。もうすぐに調べて子供達にちゃんとした生活ができるようにいたします」
「さすが私の巫女は美しいだけではなく頼もしい」
ハロルドがヨイショしたおかげで、巫女は俄然やる気になり、自ら国の外れに出向き、子供達を保護したのだった。この国でも巫女の地位は高い。ハロルドが一度でも対話をしてくれた巫女は、一生遊んで暮らせるほどの金も支給されるのである。
「まあ、なんて狭い孤児院なの? 建て増しなさい」
巫女の一声で孤児院の建て増しも決まった。その後巫女は国王に苦情を述べた。
「陛下。私はもう顔から火がでるほど恥ずかしかったですわ。ハロルド様にあのような指摘をされるなんて。一族以外が入れる孤児院ですのに、入れない子供がいるなんてどういうことなんです。ラメーン様のことといい、陛下には無能な部下しかいないのではないですか?」
実際に神からこのような指摘をされるとは恥ずべきことである。何も知らなかった国王は、部下を呼んで叱責した。
「お前達は、どれだけ私に恥をかかせれば気が済むのだ」
「しかし、陛下、あそこにいた子供達は、犯罪者の子供でして……」
「子供に親の犯罪が関係あるか。ハロルド様がこのことをヒルデリア様にでも言ったらどうなると思うんだ。親がいない子供達はすべて保護せよ。こんなことまで命じなければならんとは、お前達は確かに無能だな」
国王は呆れた様子で臣下達を見下ろしていた。
「陛下、剣の腕だけの乱暴者ばかり取り立てるからこのようになるのですわ。もう少し穏やかで優しい者に街のことを任せたらいかがでしょう。王都はだれもが安心して暮らせる場所でなければなりません」
「そうだな」
こうして街の中もいろいろ改善されたのだった。
「ハロルド様が美しいって言ってくださったわ。ああ、夜に忍んで来てくださらないかしら」
巫女はそっちの期待をしていたが、そちらの希望はなかなかかなうことはなかった。だが、ハロルドと次に対話する時のために、巫女は何度も孤児院に差し入れをどっさりと持って行ったのだった。
「まったくとんだ騒動だったぞ」
ハロルドはこの件に関しては、他の誰かに愚痴ることができなかったために、ラメーンに愚痴りに来ていた。
「最初から神で行けばそんな面倒はなかったじゃないか」
「神でなければ敬わないなんて、おかしいじゃないか。彼らは自分達が一番偉いとでも思ってたんだろう。良い薬だ」
ハロルドはため息をついている。
「あまり国のことには口を出したくはないが、今回はまあしょうがないな。巫女をおだててその気にさせたんだからな。考えてみたら、巫女をおだてるなんて初めてだ」
ハロルドは自分で驚いていた。
「子供のためだ。そのくらいいいだろう」
「私も丸くなったもんだな。以前の私なら巫女をおだてるなんて考えられなかったかもしれない」
「父になったからだろう」
「父か。そうかもな。ラメーンも早く父になったらいいな」
ハロルドがそう言うと、ラメーンは笑っていたのだった。
「いいですね。やりましょう」
「楽しそうですね」
妖精達も乗り気だったので、ラメーンは他の国の城から離れた街の広場などで突然演奏会を開いたりもしてみた。
「すごい!」
「素晴らしい!」
と人々は喜び、子供達も目を輝かせていた。
「すごいよ。お兄さん。ラメーン様が聞いたらきっとびっくりしちゃうよ!」
子供のそんな褒め言葉に苦笑したりしながら、人間界に降りていたラメーンだったが……
ある日ラメーン達は、龍の国の街で演奏会をした。この日は共に演奏する妖精は三人いた。そこに集まった人々は他の街の人々と同じように礼儀正しく聞いていたのだが、演奏が終わり、声をかけてきた者がいた。
「素晴らしい演奏だった。是非王都で演奏してほしい。明日来てほしい」
その男は龍の一族の者で鎧姿だった。龍の一族的に言うならば、騎士の一人といったところだろう。他の者たちよりも格が上そうだ。
「明日は忙しいので無理です」
とラメーンは言ってみた。
「報酬もたっぷり払う。どうしても来てほしい」
「明日は、忙しい」
ラメーンが臆することなく答えると、
「旅芸人風情が! 怪しいやつらだな。連行しろ」
その男は他の兵士達にそう命じた。
「なんて失礼な! この御方は」
ラメーンは抗議しようとした妖精達を制していた。
「しかし」
「いいから。どこに連れて行かれるのか面白いじゃないか」
「えー!?」
その時空の上には、演奏に惹かれてやってきていた風の妖精達がいた。
「ちょ……ラメーン様捕まっちゃうわよ!」
「助けた方がいいかな」
などと妖精達も戸惑っていたが、ラメーンが空を見て口元に指をあてていた。
「助けられたくないみたい」
「あーあ、あの人間達……ばかすぎだね」
「しかし面白いことになったな。どうなるんだろう?」
などと妖精達もこの後の展開が楽しみになってきていた。
ラメーン達は馬車に乗せられてどこかにそろって連れて行かれた。貴人が乗る馬車ではない。幌がある荷馬車である。家畜を移動させるための馬車だろう。結構いやな匂いもする。
「こんな汚い所に……いつまで黙っているんですか?」
妖精達は不愉快そうである。
「そうだな。まあ、もう少し。しかしこんな汚い馬車に乗るのは初めてだ」
「当たり前ですよ」
妖精達はラメーンと一緒なので別段怖くはなかった。ただ展開を面白がっているラメーンに呆れているだけだ。
馬車で三時間以上も揺られて、降ろされた。どうやら王都に連れてこられたようである。
「お前達の荷物は預かって調べさせてもらう」
しかも強引に楽器を奪われた。
「いい加減にしろ!」
男の妖精がくってかかると、兵士達は「黙れ。おとなしくしないならひどい目に遭わせるぞ!」と脅してきた。
「いい、おとなしくしなさい」
とラメーンが妖精を制した。
「しかし」
「いいからいいから」
四人が連れて行かれたのは牢屋だった。
「明日までここにいるように」
そう兵士に言われてそろって同じ牢に入れられた。
「呆れて何も言えないわ」
女の妖精は逆に笑っていた。
「ここが牢屋か……初めて来た」
「当たり前ですよ」
妖精達は口をそろえて言っていた。
「こんなきったない場所に私達を入れるなんて……」
変な匂いもするし、床の上はカビだらけである。
最初に偉そうに言っていた騎士が牢の前にやってきた。
「明日、王弟殿下の誕生日パーティーが開かれる。お前達にはそこで演奏をしてもらう。上手に演奏できたらそのまま解放してやる」
「断ったら?」
「首が胴と別れることになるかもな。我らに逆らうなど愚かなことだ。素直に演奏しろ」
騎士は偉そうに言って去って行った。
「首と胴が別れる……首を斬るってことか?」
ラメーンが妖精に聞いていた。
「もういい加減出ましょうよ。ばかばかしい」
「その前にさっきの男は足でふんずけましょう」
「賛成」
妖精達が口々に言っている。
「お兄さん達はどうしてここに来たの?」
横の牢屋から声が聞こえて来た。
「ん? 子供の声だな。子供がここにいるのか?」
ラメーン達は横を気にしだした。
「どうして捕まったのさ」
「何もしていない。君こそどうしてここにいる? 声からして、君は十八歳くらいだろう?」
とラメーン。
「正解だよ。僕十八歳。僕は盗みさ。お兄さん達も盗みだろう?」
「違う。本当に何もしていない。君はどうして盗みなんてしたんだ? 両親は?」
「いないよ。だから仕方ないんだ。金ないし」
「この国には孤児院なんてものはないのかね?」
「あるよ。でも僕らは嫌われてるから入れないんだ。一族の者でもないし、犯罪者の息子だからだめだってさ」
「犯罪者? 親が人でも殺したのかな?」
「ハロルド様の石像を間違って壊しちゃったんだ」
「え? それが犯罪?」
「そりゃそうだよ。だってハロルド様の石像だし。絶対許されないことなんだよ」
「そう」
「この国ではハロルド様はすっごく崇められてますからね」
妖精が言った。
「石像を壊すだけで重罪なのかもね」
「くだらん」
とラメーン。
「ハロルドの石像ごときで」
「だ、だめだよ。ムチで打たれるよ!」
子供が慌てていた。
「君はさっき僕らと言ったが、君には兄弟でもいるのかね?」
「妹がいるよ」
「じゃあ心配しているだろう」
「大丈夫。牢屋に入るのは一日だけだから。五回ほど棒で殴られたら出られるから」
少年はなんでもないように言っていた。
「慣れてるような口ぶりだね」
「うん。もう慣れっこだよ。だから平気さ」
「…………」
「ラメーン様、もう帰りましょうよ。こんな不愉快な国、一秒だっていたくないです」
女の妖精が言った。
「まあまあ」
「ラメーン様ってば物好きなんだから」
妖精達はぶつぶつ言っている。
ラメーンは腰から下げていたオカリナを外して手に持った。これだけは無事だった。
やがて郷愁が漂うオカリナの音色が響くと、あちこちからすすり泣くような声が聞こえてきた。どうやら他の牢屋に入っている連中もいるようだ。
「お母さん……」
横の牢屋にいる少年のつぶやきが聞こえて来た。
曲が終わったラメーンは顔に手をあてていた。
「……聖地に孤児院が確かあったと思うが」
「ありますよ。たまに、あそこの子供達が神殿に曲を聴きに来てくれるんですよ」
「そうか」
「隣の子を聖地に連れて行く気なんですか?」
「偽善だというのはわかってる。だが、これも縁だ。サン王子と出会ったのも縁だし、隣の子に出会ったのも何か意味があるのかもしれない。少年、仕事をしないか?」
ラメーンは途中から声を大きくして聞いた。
「仕事?」
「仕事だ。雇う条件は、両手がちゃんとあること、なんだが、君は両手はあるか?」
「あるけど……何の仕事?」
「楽器の演奏だ。楽器を習ってほしい。君と、妹、妹は歌は好きか?」
「…………」
少年は沈黙している。
「私は怪しい者ではない。人買いに売ったりしないから安心しなさい」
少年は考えているのか答えはなかった。
「ラメーン様、声だけで安心しろってのも無理ですよ」
妖精はひそひそ声で話した。
「そうですよ。元に戻ったら即信じると思いますが」
「どうせなら明日のパーティーで姿を現してやろうと思ってるんだが」
「主役の殿下だかが腰を抜かしますよ」
「家臣の罪は、上の者の罪も同様だろ?」
ラメーンはにやっと笑っている。
さてその頃神の国、ハロルドはジェイクと剣の打ち合いをしていた。妖精達もそれぞれ剣で戦っている。
「あのーハロルド様」
そこに風の妖精が声をかけた。
「ハロルド様ってば」
「なんだ?」
二人は打ち合いをやめて、ハロルドが妖精に近づいた。
「どうしても黙っておけないんで言っちゃいますが、今龍の国でえらいことが起こってますよ?」
「えらいこと? なんだ?」
風の妖精は小声でぼそっと言った。
「……はあ!? 嘘だろ?」
「本当ですよ」
「あいつ何を考えてるんだ!」
「さあ。それでは~」
風の妖精は去って行った。
ハロルドは頭を抱えている。
(ラメーンのやつ、一体何を考えているんだか)
「うーん……うーん……」
ハロルドは辺りをうろうろしていたが、やがて、「ちょっと用ができた」と言ってペガサスに乗って行ってしまった。
ハロルドが向かったのは雲の上の神殿の対話の間である。
龍の国にも対話できる鏡があるのだ。ハロルドが鏡に触れると、少しして鏡に女性の姿が映った。あわててきたのか女性はゼイゼイ息を吐いている。龍の一族では多い緑の長い髪、美しい顔立ちの若い女性である。角はない。龍の一族では角のない女性も多い。
「お、お久しぶりでございます。ハロルド様のお姿を見ることができて、うれしいです」
龍の国の巫女は息も絶え絶えだった。かなり走ってきたらしい。
「国王にすぐ伝えてほしいことがある」
「はい」
「龍の国の牢屋に、神が一人入っている。すぐ出さないとえらいことになるぞ」
「……今なんとおっしゃいました?」
巫女はきょとんとしていた。話がまるっきり信じられなかったようだ。
「まさかそのようなことがあるはずは……」
「人に化けている時に連行されたらしい。とにかくすぐ出してくれ」
「は、はい、あの、どの神様で?」
「ラメーンだ。音楽の神ラメーン」
「すぐ伝えます!」
ハロルドは不機嫌そうに鏡を閉じた。巫女は大急ぎで国王に謁見したのだった。
龍の国では夕暮れ時、牢屋が騒がしくなってきた。大勢の足音が聞こえてくる。
「ラメーン様!」
「ラメーン様、ラメーン様!」
「どうやらばれたらしい。風の妖精がばらしたな」
ラメーンは口をへの字にしている。妖精達はようやく茶番が終わるとほっとしていた。
ラメーンと妖精達が牢から出ると、外では国王他兵士達がひざを着いて待っていた。一人顔がはれまくっている男がいる。ラメーン達を拉致してきた本人のようだ。殴られたのだろう。
「ラメーン様、このたびは大変申し訳ありませんでした」
若い国王は本当に申し訳なさそうに言い、「申し訳ありませんでした」と兵士達が声を合わせて謝った。
「大変申し訳ありません。死んでお詫びします」
顔が腫れた男が言った。
「君の命なんぞいらん。それよりも君も少しは音楽でもたしなんでみたらどうかね? 剣しか能がないからそのような横暴な性格になるんだ」
「ははー」
男は平伏したまま言った。
「そうだ。国王、私は隣の牢にいた少年が欲しい。すぐここに連れてきてくれ」
「は、はい」
国王は横にいた兵士に指示し、兵士は飛んで行った。やがて少年が兵士と一緒にやってきて、みんながひざをついていたのでびびっていた。
「少年よ。私と聖地に行かないか?」
「え? 聖地?」
少年はラメーンと国王達を交互に見ながら戸惑っている。
「そうだ。聖地だ。君と君の妹、一緒に行こう」
少年は周りの様子からこの人物がただ事ではない人だと思ったのか、うなずいた。
「よかった。じゃあ妹のところに行こう」
「うん」
妖精達は戻ってきた楽器をかついでラメーンについて行った。国王達は、ラメーン達の姿が見えなくなるまで、膝を突いて平伏していた。
少年がラメーンを連れて行ったのは街の外れだった。木の枝や藁で作ったような粗末な家がいくつか並んでいた。大雨でも降ったら崩れそうな家である。少年はその家の一つに入って行き、妹を連れてきた。妹も少年と同じように小汚い服を着ていた。髪も伸び放題である。この家と服装に妖精達の瞳も曇っていた。
「他の家にも子供がいるの?」
ラメーンが聞いた。
「うん。今は四人くらい」
「ここにいても病気になりそうですね」
妖精が寂しげに言った。
ラメーンは全員つれて行くことも考えたが、今ここにいる子供だけを助けても、抜本的解決にはならない。
「とりあえず、君達は連れて行こう。他の仲間については、ちょっと考えるから。聖地に飛ぶぞ」
ラメーンは一同を聖地に連れて行き、そこで妖精達とは別れた。聖地にくると、ラメーンは本来の姿になっていたので、少年も少女もびっくりしてラメーンを見ていた。
ラメーンは聖地にある孤児院にとりあえず二人を連れて行き、世話を頼んだ。二人は食事を食べて風呂に入り、服を着替えた。キレイになると二人とも見違えて見えた。
「おお、かわいくなったじゃないか」
黒髪の兄と妹の瞳は青かった。どちらも整った顔立ちをしている。
「そういえば名前をまだ聞いていなかったな。私はラメーンだ」
「僕はエイデン、妹はマリアナです」
マリアナは不思議そうにラメーンに触れてみていた。ラメーンはマリアナの頭をなでなでした。
「あの、僕に仕事をくれるんですよね?」
少年が聞いた。
「ああ、だがとりあえずは、ちゃんとご飯を食べて、大きくなってほしい」
「僕、ちゃんとお金を稼ぎたいんです」
「ここでの生活は心配しなくていいんですよ」
孤児院の先生が言ってくれた。
「でも……」
「まずはいろいろ学ぶことだよ。いろいろ学んで、生きる知恵をつけよう。私の神官になってほしいが、そうなるには、長い年月楽器の練習をしなければならない。別の生き方をしてもかまわないよ」
「はい」
「どうしても今仕事がしたかったら、勉強しながら、仕事をしなさい。君ができる仕事といったら農場での仕事や、神殿の掃除などになるが」
「なんでもやります」
「とにかく今日はもう寝なさい。マリアナも眠そうだ」
マリアナは目をこすっている。
「あの、ラメーン様は、ハロルド様に会いますか?」
エイデンが思い切ったように聞いた。
「何か伝言でもあるのかな?」
「僕、お父さんの代わりに謝りたいんです。ハロルド様の石像を壊してしまったから」
「ハロルドはそんなことで怒りはしないよ。逆に君の境遇を聞いて怒るだろう。君が気になるなら言っておくよ。君が謝ってたって」
「ありがとうございます」
エイデンは安心したように言っていた。
次の日、ラメーンが孤児院に行ってみると、二人の髪は綺麗にカットされていた。
「おお、キレイになったな」
というと、マリアナは笑っていた。
「先生優しいの。すき」
「そうか。よかったな。私の神官を連れてきた」
「こんにちは」
優しそうな中年の女性の神官が一緒にいた。
「ここでの生活が落ち着いて、その気になってからでいい。彼女に楽器や歌を習うといい」
孤児院にいた他の女の子が「いいなあ」と言っていた。
「君も一緒に習っても良いんだよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「私の方がこちらに来ますよ」
神官が言った。
「そうしてくれるとありがたい」
こうして、二人の聖地での生活が始まった。
しばらくして、神の国で妖精がラメーンに聞いた。
「あの幼い兄妹はどうなりました?」
「ああ、妹の方は音楽的センスがありそうだが兄の方は、しょっちゅうハロルドの神殿に行ってるらしい。どうやらハロルドの神官に憧れてるらしいんだ。父親のことがあったのに、憧れるものなんだなあ」
というと、妖精はぶっと笑っていた。
「仕方ないですよ。ハロルド様は少年達の憧れですからねえ」
「別に傷ついてはいないぞ」
シャリィがラメーンの肩をトントンたたいていた。
「本当に傷ついてはいない」
「他のあばらやの子供達はどうなったんですか?」
「それはもう解決ずみだろう」
「そうですか」
ラメーンが子供達を連れていった二日後のことである。龍の国の対話の鏡が輝きを放ち、大急ぎで巫女が呼ばれて鏡の前にやってきた。鏡にはハロルドが映っている。
「ハロルド様、このたびは、大変申し訳ありませんでした。国王に代わってお詫びいたします」
巫女は頭を下げていた。
「国王も驚いただろうな。まあそれはもういい。ところで巫女は、子供は好きか?」
ハロルドが突然巫女に質問した。
「はい、大好きです」
「そうか。私も子供は好きだ。国の外れに、孤児達があばらやに住んで貧しい生活をしているらしい。巫女は知っているだろうか」
「え? まさか! この国にそんな子供達が!?」
巫女は初めて聞くような感じでかなり驚いている。
「子供は国の宝として、大事に育ててほしいものだ」
ハロルドはつぶやくように言っていた。
「はい。それはもう、わたくしもそう思います。すぐに調べます」
「そうか。巫女が子供が好きでよかった」
ハロルドはちょっと笑顔で言ったので、巫女の頬は真っ赤になっていた。
「はい。子供は大好きです。貧しい生活をしている子供がいるなんて、私も我慢ができませんわ。もうすぐに調べて子供達にちゃんとした生活ができるようにいたします」
「さすが私の巫女は美しいだけではなく頼もしい」
ハロルドがヨイショしたおかげで、巫女は俄然やる気になり、自ら国の外れに出向き、子供達を保護したのだった。この国でも巫女の地位は高い。ハロルドが一度でも対話をしてくれた巫女は、一生遊んで暮らせるほどの金も支給されるのである。
「まあ、なんて狭い孤児院なの? 建て増しなさい」
巫女の一声で孤児院の建て増しも決まった。その後巫女は国王に苦情を述べた。
「陛下。私はもう顔から火がでるほど恥ずかしかったですわ。ハロルド様にあのような指摘をされるなんて。一族以外が入れる孤児院ですのに、入れない子供がいるなんてどういうことなんです。ラメーン様のことといい、陛下には無能な部下しかいないのではないですか?」
実際に神からこのような指摘をされるとは恥ずべきことである。何も知らなかった国王は、部下を呼んで叱責した。
「お前達は、どれだけ私に恥をかかせれば気が済むのだ」
「しかし、陛下、あそこにいた子供達は、犯罪者の子供でして……」
「子供に親の犯罪が関係あるか。ハロルド様がこのことをヒルデリア様にでも言ったらどうなると思うんだ。親がいない子供達はすべて保護せよ。こんなことまで命じなければならんとは、お前達は確かに無能だな」
国王は呆れた様子で臣下達を見下ろしていた。
「陛下、剣の腕だけの乱暴者ばかり取り立てるからこのようになるのですわ。もう少し穏やかで優しい者に街のことを任せたらいかがでしょう。王都はだれもが安心して暮らせる場所でなければなりません」
「そうだな」
こうして街の中もいろいろ改善されたのだった。
「ハロルド様が美しいって言ってくださったわ。ああ、夜に忍んで来てくださらないかしら」
巫女はそっちの期待をしていたが、そちらの希望はなかなかかなうことはなかった。だが、ハロルドと次に対話する時のために、巫女は何度も孤児院に差し入れをどっさりと持って行ったのだった。
「まったくとんだ騒動だったぞ」
ハロルドはこの件に関しては、他の誰かに愚痴ることができなかったために、ラメーンに愚痴りに来ていた。
「最初から神で行けばそんな面倒はなかったじゃないか」
「神でなければ敬わないなんて、おかしいじゃないか。彼らは自分達が一番偉いとでも思ってたんだろう。良い薬だ」
ハロルドはため息をついている。
「あまり国のことには口を出したくはないが、今回はまあしょうがないな。巫女をおだててその気にさせたんだからな。考えてみたら、巫女をおだてるなんて初めてだ」
ハロルドは自分で驚いていた。
「子供のためだ。そのくらいいいだろう」
「私も丸くなったもんだな。以前の私なら巫女をおだてるなんて考えられなかったかもしれない」
「父になったからだろう」
「父か。そうかもな。ラメーンも早く父になったらいいな」
ハロルドがそう言うと、ラメーンは笑っていたのだった。
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