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ダークファンタジア?
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「今年もゴールデンウイークがやってきた。小説の一気読みだー!」
今年はどこの行楽地も観光客で一杯らしい。テレビでは高速道路が渋滞だの、どこかの施設で何時間待ちだのニュースが流れているが、私のゴールデンウィークの予定はすでに決まっている。「ダークファンタジア」という小説の一気読みである。多分、これで私のゴールデンウィークは潰れる。それくらいこの小説は長いのである。私がこの小説に出会ったのは10年ほど前のことである。私はその時十六歳、本当ならば、この小説を読んではいけない。なぜならこの小説は18禁だから。
私の名前は「桜田夢子」である。
高校に入った私は、どうも友人作りに失敗してしまったようだった。友人の輪に入って行けず、担任の先生も気に食わなかった。学校に行こうとすると具合が悪くなり、休みがちになり、不登校になりかけてしまった。そんなとき、家のパソコンでつい、大人の小説を検索してしまった。そしてなにげに読んだ小説にはまったのだった。泣いたり笑ったりして夢中でこの小説を最新話まで読んだ時、私の心は結構浮上していた。憂鬱だった気分がすっかり消えていたのである。それまで、私の世界は高校がすべてだった。学校に行けなくなったら落ちこぼれてしまう。まるで私の人生から脱落してしまうかのように思っていた。今思えばあの時の私は鬱になりかけていたのかもしれない。小説を読んだ後、なぜかわからないが私の視界は開けたのである。
「何も今の高校にしがみつく必要もないじゃん。無理ならやめよ」
そう思い学校に行くと、今まで話したこともなかったクラスメートが「ノートを貸してあげる」と話しかけてきた。どうも私のことを心配してくれたようだ。
その後、2年にあがるとクラス替えももあり、友人も数人できた。ノートを貸してくれた女の子はその後親友といえる存在になった。その友人はアニメ好きで小説もかなり読んでいたが、本になっているものしか読まず、私がいくら、「この小説面白いから読んでみない?」といっても読まなかった。
まあいい、人には好みというものがある。私にはこの小説がぴったりはまったのだ。高校を卒業し、大学に入り、社会に出て就職し、いろいろストレスに感じることがあったが、「ダークファンタジア」を読み返すことで私は乗り越えることができた。世間ではもウェブ小説が流行り、様々な小説が書籍化やらアニメ化された。私もこれらの小説を読んだりもしたが、「ダークファンタジア」ほどはまることはなかった。今ではこの小説もとてつもなく長くなっているが、まったく飽きない。長期の休みがあると、私は小説の読み返しをするのである。
そして今年のゴールデンウイークも、小説を読み返した。これで明日から仕事ががんばれる。そう思い眠りについた。
「…………」
名前を呼ばれた。
(私の名前は夢子よ。ユメコ)
「……もう起きないと。仕事の時間よ」
「……仕事?!」
(寝坊した!?)
飛び起きた私はキョロキョロと周りを見て、側にいる女性を見た。黒髪の女性がいるが、なぜかメイド服のようなものを着ているし、耳も大きくとがっているではないか。
「????」
「ミラが寝坊するなんて珍しいわね」
「ミラ? ……ミラ!?」
私は飛び起きて壁にあった鏡を見た。
茶色いくりくりした髪、頭の上にある猫の耳。といえばあのキャラである。ダークファンタジアに出てくる王妃の侍女のミラだ。
「ミラ!? 私がミラ!?」
「どうしたの? 大丈夫?」
黒髪の女性が心配そうに眺めていた。
「やだー小説の読み過ぎでついに小説に入り込む夢を見るなんて。そうだ。ゆりちゃんに会いに行こう! 着替えなきゃ」
「???」
この部屋には二段ベッドがあることから、ミラは彼女と同じ部屋に住んでいるらしい。私は大慌てでクローゼットにかかっていたメイド服に着替えた。
「ほんとに尻尾がある。なんか奇妙」
ミラは猫の一族で、耳と尻尾があるのが特徴だ。
「夢が覚めないうちに主要キャラに会いたい。神様達は無理かな。私の推しはグレンなんだけどなー」
私は部屋の外に出ておっと足を浮かせた。この世界は蛇の国である。廊下に蛇が数匹いた。
(蛇に攻撃されないかしら。これが蛇よけの腕輪か何かかな)
ミラの腕には細い腕輪がついていた。
(えーと、ゆりちゃんの部屋は確か3階だったはず)
私は階段を上って行った。階段にはでかい蛇などもいたが、ミラはさすが猫の一族。身軽に階段の5段飛びなんてのもできた。
(ものすごくドキドキする。ゆりちゃんに会える!)
私は3階にある部屋を片っ端からノックして開けようとしたが、どの部屋も開かなかった。
「あれ? どういうこと? そうだ。子供達の部屋に行ってみよう」
子供達の部屋も同じ3階にあったはずである。だが、部屋は開かず、廊下もしんと静まりかえっている。行き交う侍女の姿もない。
「どういうこと? もしかして、ゆりちゃんが来る前の世界? そりゃないよ。そんなのつまらないじゃない」
私は誰かに話を聞こうと階段を降りた。すると、先ほど部屋にいた女性に出会った。
「ミラったら、仕事をさぼって何してるの?」
「あのーつかぬことをおうかがいしますが、ゆりって名前の女性、知ってる?」
「え? だれ?」
(嘘だろーーーーーー!)
私は気が遠くなってきた。
「えーっと今って、何年?」
「え?」
「あ、いや、王様って今何歳?」
いくら私でも、年号まで記憶してはいない。王様はゆりちゃんと出会った時、確か85歳だった。
「王様は……何歳だっけ。80は超えてたけど」
女性は首をかしげている。
「84だ」
後ろから声がした。
「そうそう、84歳ですよね。ミカエル様」
「え? ミカエル?」
私は慌てて振り返った。そこにいたのは黒髪の背が高いイケメンである。
(これがミカエル?! 感動! ディーンフジオカに似てる! さすがミカエルだわー)
私はつい感動のあまりうるるんとしていた。
「どうしたんだ?」
ミカエルは私を見て首をかしげている。
「ミカエル様がイケメンなので感動してます。まさかリアルで見ることができるなんて。生きててよかった」
私はつい泣いていた。
「???」
ミカエルは首をかしげながら去って行った。
(……ってことは、ゆりちゃんが来る一年前ってことかあ)
「もー仕事に行くわよ」
私は女性に引っ張られて行った。ミラの仕事は、城の掃除だった。掃き掃除の後はモップを渡されて、廊下のモップがけをしている。城のメイド達の休憩部屋があり、そこに食事なども用意された。朝食を食べ損ねた私は、昼食を完食した。城の中の雰囲気はやはり暗い。メイド達も明るいとは言えなかった。
(来年までの辛抱よ。来年になれば世界が一変するんだから)
私はそう言いたかったが我慢した。
(ミカエルに会えただけでもよかったかな)
「そうだ、ハザーク様の所に行く用事とかない?」
「ないわよ」
「王様に会いたいなあ」
「今日は変よ。何言ってるの?」
メイド仲間は奇妙そうに私を見ている。
(勝手にハザーク様の塔にいっちゃおうかなー……)
などと思っていたら、あらたにメイドが一人休憩室に入ってきた。
「ねえ、ニュースよ。今朝、異世界から来たという女性が街に現われたんですって。王様に話があるって言ってるらしくて、ミカエル様が会いに言ったわ」
「異世界?」
「虎の国のアヤコさんみたいな感じなんじゃないの?」
(ゆりちゃんにしてはおかしいわね。ゆりちゃんは王様のお風呂に落ちてきたはずだし。時期もちょっと早いし)
気になった私は王の間の前を掃除しながらうろうろしていた。
「さっきから行ったり来たりしてないか?」
イケメンの番兵には文句を言われたが、「王様の部屋の前はどこよりもキレイにしたいんです」と言い訳した。
そうこうしていると、ミカエルが王の間の前にやってきた。女性を伴っていたが、その女性の髪は、軽くウェーブがかった金髪である。胸がでかいしスタイルもいい美人だった。耳はとがっていないから異世界から来た女性である。
(パッキンだと? 一体どういうこと!?)
私は混乱した。
(あの女は一体……)
近づいて行こうとしたら、ミカエルとその女は王の間に入ってしまった。
「ちょっと!」
私も入ろうとしたが、番兵に阻止された。
「あの女、王様に会わせちゃだめ」
「何言ってるんだ。控えろ」
「私も話を聞かせて」
「ダメに決まってるだろう」
私は王の間に入ることができなかった。だがミカエルとその女は早々に王の間から出て来た。
「どうかしたのか? 彼女はキャロライン、しばらく城にいることになった。ミラ、彼女の世話をお願いできるか?」
ミカエルに頼まれた私は、「もちろん引き受けます」と胸に手を当てて言ったのだった。キャロラインは客間に通された。ミカエルはその後蛇よけの腕輪を持って来てキャロラインに渡した。ミカエルが去って行くと、キャロラインはとたんに不機嫌そうになった。
「キャロラインさんは、どうしてこの国に来たんですか? 蛇が好きなんですか?」
私はにこやかに聞いてみた。
「蛇? 大っ嫌いよ」
キャロラインはふてぶてしく言った。
「じゃあなんできたのよ」
「あなた、別の魂が入ってるわね?」
キャロラインは私を指して言った。
「なんのことでしょう?」
「面白いわね。運命を曲げようとすると、阻止しようとする者が現われる」
「運命を曲げる?」
「彼女はここには来ないわよ?」
「彼女って?」
「知ってるんでしょ。ゆりって子。私がここに来たことで、彼女の運命は変わるの」
「どう変わるって言うの?」
「変わっても彼女はそこそこ幸せかもね。行き先は聖地だから」
「え……」
「女の幸せは、ハーレムよりも、一人の男と添い遂げることでしょ? ふふふ」
キャロラインは不敵に笑った。私の顔は青ざめていたに違いない。
(聖地? 聖地はまずい、もしゆりちゃんが彼と出会ってしまったら……王様の前に彼に会うのはまずすぎる)
「あなたは一体なんなの? 何の権限があってそんなことをするのよ!」
「さあね、邪魔をしないでちょうだい。あなたは戻りなさい」
キャロラインが手を払った。
「ちょっ!」
意識が遠のくのを感じた。
(ちょっとー!!!)
目覚めると元の私の部屋に戻っていた。どうやら小説の読み過ぎで、おかしな夢をみたようである。時計を見ると6時半だった。
「あーびっくりしたわ。ミカエルはいい男だったなあ。それにしてもあの女、なんなんだ。アメリカ人っぽかったけど」
私はスマホに手を伸ばして、ブックマークからダークファンタジアに飛んだ。更新しているかどうか確かめるためである。しかし、ダークファンタジアの画面は出て来なかった。
「このホームページのアドレスは、現在使われておりません。どういうこと?」
私は続いて「なろう」のアドレスの方に飛んでみた。だがここにも「ダークファンタジア」はなかった。
「は? そうだ。作者さん、Xやってた」
私はXのアプリを開いたが、作者も見当たらなかった。
「嘘でしょ? 後でまた見てみよう」
私はとりあえず支度をして会社に行き、家に帰ってからまた検索をかけた。
「なんでないの? どういうこと!?」
Xで検索をかけていたら、他にも「ダークファンタジアに行けなくなった」とつぶやいている人がいた。
「私だけじゃないんだ。いっぺんに全部消えちゃうなんておかしい」
たとえばログなどは検索すれば出てくるはずである。書籍化はされていないが電子版は作者が出していた。それもなくなっている。さらに、自分が買った電子書籍もなくなっている。
「おかしい。何が……まさかあの夢が原因!? まさか!」
その夜は不安で眠れなかった。翌朝検索をかけても、やはり、「ダークファンタジア」のページには行けなかったのだった。
今年はどこの行楽地も観光客で一杯らしい。テレビでは高速道路が渋滞だの、どこかの施設で何時間待ちだのニュースが流れているが、私のゴールデンウィークの予定はすでに決まっている。「ダークファンタジア」という小説の一気読みである。多分、これで私のゴールデンウィークは潰れる。それくらいこの小説は長いのである。私がこの小説に出会ったのは10年ほど前のことである。私はその時十六歳、本当ならば、この小説を読んではいけない。なぜならこの小説は18禁だから。
私の名前は「桜田夢子」である。
高校に入った私は、どうも友人作りに失敗してしまったようだった。友人の輪に入って行けず、担任の先生も気に食わなかった。学校に行こうとすると具合が悪くなり、休みがちになり、不登校になりかけてしまった。そんなとき、家のパソコンでつい、大人の小説を検索してしまった。そしてなにげに読んだ小説にはまったのだった。泣いたり笑ったりして夢中でこの小説を最新話まで読んだ時、私の心は結構浮上していた。憂鬱だった気分がすっかり消えていたのである。それまで、私の世界は高校がすべてだった。学校に行けなくなったら落ちこぼれてしまう。まるで私の人生から脱落してしまうかのように思っていた。今思えばあの時の私は鬱になりかけていたのかもしれない。小説を読んだ後、なぜかわからないが私の視界は開けたのである。
「何も今の高校にしがみつく必要もないじゃん。無理ならやめよ」
そう思い学校に行くと、今まで話したこともなかったクラスメートが「ノートを貸してあげる」と話しかけてきた。どうも私のことを心配してくれたようだ。
その後、2年にあがるとクラス替えももあり、友人も数人できた。ノートを貸してくれた女の子はその後親友といえる存在になった。その友人はアニメ好きで小説もかなり読んでいたが、本になっているものしか読まず、私がいくら、「この小説面白いから読んでみない?」といっても読まなかった。
まあいい、人には好みというものがある。私にはこの小説がぴったりはまったのだ。高校を卒業し、大学に入り、社会に出て就職し、いろいろストレスに感じることがあったが、「ダークファンタジア」を読み返すことで私は乗り越えることができた。世間ではもウェブ小説が流行り、様々な小説が書籍化やらアニメ化された。私もこれらの小説を読んだりもしたが、「ダークファンタジア」ほどはまることはなかった。今ではこの小説もとてつもなく長くなっているが、まったく飽きない。長期の休みがあると、私は小説の読み返しをするのである。
そして今年のゴールデンウイークも、小説を読み返した。これで明日から仕事ががんばれる。そう思い眠りについた。
「…………」
名前を呼ばれた。
(私の名前は夢子よ。ユメコ)
「……もう起きないと。仕事の時間よ」
「……仕事?!」
(寝坊した!?)
飛び起きた私はキョロキョロと周りを見て、側にいる女性を見た。黒髪の女性がいるが、なぜかメイド服のようなものを着ているし、耳も大きくとがっているではないか。
「????」
「ミラが寝坊するなんて珍しいわね」
「ミラ? ……ミラ!?」
私は飛び起きて壁にあった鏡を見た。
茶色いくりくりした髪、頭の上にある猫の耳。といえばあのキャラである。ダークファンタジアに出てくる王妃の侍女のミラだ。
「ミラ!? 私がミラ!?」
「どうしたの? 大丈夫?」
黒髪の女性が心配そうに眺めていた。
「やだー小説の読み過ぎでついに小説に入り込む夢を見るなんて。そうだ。ゆりちゃんに会いに行こう! 着替えなきゃ」
「???」
この部屋には二段ベッドがあることから、ミラは彼女と同じ部屋に住んでいるらしい。私は大慌てでクローゼットにかかっていたメイド服に着替えた。
「ほんとに尻尾がある。なんか奇妙」
ミラは猫の一族で、耳と尻尾があるのが特徴だ。
「夢が覚めないうちに主要キャラに会いたい。神様達は無理かな。私の推しはグレンなんだけどなー」
私は部屋の外に出ておっと足を浮かせた。この世界は蛇の国である。廊下に蛇が数匹いた。
(蛇に攻撃されないかしら。これが蛇よけの腕輪か何かかな)
ミラの腕には細い腕輪がついていた。
(えーと、ゆりちゃんの部屋は確か3階だったはず)
私は階段を上って行った。階段にはでかい蛇などもいたが、ミラはさすが猫の一族。身軽に階段の5段飛びなんてのもできた。
(ものすごくドキドキする。ゆりちゃんに会える!)
私は3階にある部屋を片っ端からノックして開けようとしたが、どの部屋も開かなかった。
「あれ? どういうこと? そうだ。子供達の部屋に行ってみよう」
子供達の部屋も同じ3階にあったはずである。だが、部屋は開かず、廊下もしんと静まりかえっている。行き交う侍女の姿もない。
「どういうこと? もしかして、ゆりちゃんが来る前の世界? そりゃないよ。そんなのつまらないじゃない」
私は誰かに話を聞こうと階段を降りた。すると、先ほど部屋にいた女性に出会った。
「ミラったら、仕事をさぼって何してるの?」
「あのーつかぬことをおうかがいしますが、ゆりって名前の女性、知ってる?」
「え? だれ?」
(嘘だろーーーーーー!)
私は気が遠くなってきた。
「えーっと今って、何年?」
「え?」
「あ、いや、王様って今何歳?」
いくら私でも、年号まで記憶してはいない。王様はゆりちゃんと出会った時、確か85歳だった。
「王様は……何歳だっけ。80は超えてたけど」
女性は首をかしげている。
「84だ」
後ろから声がした。
「そうそう、84歳ですよね。ミカエル様」
「え? ミカエル?」
私は慌てて振り返った。そこにいたのは黒髪の背が高いイケメンである。
(これがミカエル?! 感動! ディーンフジオカに似てる! さすがミカエルだわー)
私はつい感動のあまりうるるんとしていた。
「どうしたんだ?」
ミカエルは私を見て首をかしげている。
「ミカエル様がイケメンなので感動してます。まさかリアルで見ることができるなんて。生きててよかった」
私はつい泣いていた。
「???」
ミカエルは首をかしげながら去って行った。
(……ってことは、ゆりちゃんが来る一年前ってことかあ)
「もー仕事に行くわよ」
私は女性に引っ張られて行った。ミラの仕事は、城の掃除だった。掃き掃除の後はモップを渡されて、廊下のモップがけをしている。城のメイド達の休憩部屋があり、そこに食事なども用意された。朝食を食べ損ねた私は、昼食を完食した。城の中の雰囲気はやはり暗い。メイド達も明るいとは言えなかった。
(来年までの辛抱よ。来年になれば世界が一変するんだから)
私はそう言いたかったが我慢した。
(ミカエルに会えただけでもよかったかな)
「そうだ、ハザーク様の所に行く用事とかない?」
「ないわよ」
「王様に会いたいなあ」
「今日は変よ。何言ってるの?」
メイド仲間は奇妙そうに私を見ている。
(勝手にハザーク様の塔にいっちゃおうかなー……)
などと思っていたら、あらたにメイドが一人休憩室に入ってきた。
「ねえ、ニュースよ。今朝、異世界から来たという女性が街に現われたんですって。王様に話があるって言ってるらしくて、ミカエル様が会いに言ったわ」
「異世界?」
「虎の国のアヤコさんみたいな感じなんじゃないの?」
(ゆりちゃんにしてはおかしいわね。ゆりちゃんは王様のお風呂に落ちてきたはずだし。時期もちょっと早いし)
気になった私は王の間の前を掃除しながらうろうろしていた。
「さっきから行ったり来たりしてないか?」
イケメンの番兵には文句を言われたが、「王様の部屋の前はどこよりもキレイにしたいんです」と言い訳した。
そうこうしていると、ミカエルが王の間の前にやってきた。女性を伴っていたが、その女性の髪は、軽くウェーブがかった金髪である。胸がでかいしスタイルもいい美人だった。耳はとがっていないから異世界から来た女性である。
(パッキンだと? 一体どういうこと!?)
私は混乱した。
(あの女は一体……)
近づいて行こうとしたら、ミカエルとその女は王の間に入ってしまった。
「ちょっと!」
私も入ろうとしたが、番兵に阻止された。
「あの女、王様に会わせちゃだめ」
「何言ってるんだ。控えろ」
「私も話を聞かせて」
「ダメに決まってるだろう」
私は王の間に入ることができなかった。だがミカエルとその女は早々に王の間から出て来た。
「どうかしたのか? 彼女はキャロライン、しばらく城にいることになった。ミラ、彼女の世話をお願いできるか?」
ミカエルに頼まれた私は、「もちろん引き受けます」と胸に手を当てて言ったのだった。キャロラインは客間に通された。ミカエルはその後蛇よけの腕輪を持って来てキャロラインに渡した。ミカエルが去って行くと、キャロラインはとたんに不機嫌そうになった。
「キャロラインさんは、どうしてこの国に来たんですか? 蛇が好きなんですか?」
私はにこやかに聞いてみた。
「蛇? 大っ嫌いよ」
キャロラインはふてぶてしく言った。
「じゃあなんできたのよ」
「あなた、別の魂が入ってるわね?」
キャロラインは私を指して言った。
「なんのことでしょう?」
「面白いわね。運命を曲げようとすると、阻止しようとする者が現われる」
「運命を曲げる?」
「彼女はここには来ないわよ?」
「彼女って?」
「知ってるんでしょ。ゆりって子。私がここに来たことで、彼女の運命は変わるの」
「どう変わるって言うの?」
「変わっても彼女はそこそこ幸せかもね。行き先は聖地だから」
「え……」
「女の幸せは、ハーレムよりも、一人の男と添い遂げることでしょ? ふふふ」
キャロラインは不敵に笑った。私の顔は青ざめていたに違いない。
(聖地? 聖地はまずい、もしゆりちゃんが彼と出会ってしまったら……王様の前に彼に会うのはまずすぎる)
「あなたは一体なんなの? 何の権限があってそんなことをするのよ!」
「さあね、邪魔をしないでちょうだい。あなたは戻りなさい」
キャロラインが手を払った。
「ちょっ!」
意識が遠のくのを感じた。
(ちょっとー!!!)
目覚めると元の私の部屋に戻っていた。どうやら小説の読み過ぎで、おかしな夢をみたようである。時計を見ると6時半だった。
「あーびっくりしたわ。ミカエルはいい男だったなあ。それにしてもあの女、なんなんだ。アメリカ人っぽかったけど」
私はスマホに手を伸ばして、ブックマークからダークファンタジアに飛んだ。更新しているかどうか確かめるためである。しかし、ダークファンタジアの画面は出て来なかった。
「このホームページのアドレスは、現在使われておりません。どういうこと?」
私は続いて「なろう」のアドレスの方に飛んでみた。だがここにも「ダークファンタジア」はなかった。
「は? そうだ。作者さん、Xやってた」
私はXのアプリを開いたが、作者も見当たらなかった。
「嘘でしょ? 後でまた見てみよう」
私はとりあえず支度をして会社に行き、家に帰ってからまた検索をかけた。
「なんでないの? どういうこと!?」
Xで検索をかけていたら、他にも「ダークファンタジアに行けなくなった」とつぶやいている人がいた。
「私だけじゃないんだ。いっぺんに全部消えちゃうなんておかしい」
たとえばログなどは検索すれば出てくるはずである。書籍化はされていないが電子版は作者が出していた。それもなくなっている。さらに、自分が買った電子書籍もなくなっている。
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