30 / 119
14部
え? なんて言った?
しおりを挟む
「あ、そういえば、対価について話をするの忘れていたなあ」
神の国ラーズの神殿である。ラーズは雷獣の国の人間に自分の切り絵を頼んだ。だが、その対価に何を払うとかいう話をするのを忘れていた。
「価値としていくらくらいを考えたらいいだろうなあ。なにせ、最初に渡したのがジンラの酒だからな。私としても、宝石くらいはあげたいが」
ラーズの神殿にはクーリーフンもいて、クーリーフンは苦笑していた。
「キリエたのしみだなー」
サーラはラーズの話を聞いて楽しみにしている。
「先に渡した方がいいかな。生活には困ってなさそうだったが」
「一番喜ぶのは、ラーズが祭りとかに降臨してあげることじゃない? ラーズはあの国でも人気だよ。何かをあげるよりもその方が喜ぶと思うよ。王様も喜ぶだろうから彼の顔も立つし」
神の降臨は、普通は頼んで実現するものでもない。大金を払ってもどうにかなるものではないので、話をすれば喜ぶこと間違いないだろう。お金は王家がアーロンに払えばすむ話である。
「そうかい? アシュランには一カ所ばかりいくなと言われてるし、それでもいいけどな」
「サーラも一緒に行く」
「サーラも行くか。そういう話はどうやって伝えたらいいかな」
「トルメンタに頼んだら?」
「そうだな。お礼降臨か……まあいいか」
一方、カサンドラの神殿の外では、ヴォルフとソルがいた。珍しい組み合わせである。こちらも、切り絵の報酬をどうするか話していた。
「昨日ルチアと一緒に宝石を掘ったんだよ。それでどうかな」
ヴォルフが言った。その宝石がどれくらいの価値があるのか、ヴォルフはさっぱり知らないが、多分結構な値段がするはずだろうと思っている。
「宝石かあ。いいね。僕も何かあげたいな。だって、あの切り絵とっても気に入ってるんだ」
「君はあそこに行くだけで喜ばれると思うよ」
ヴォルフはそう言って去って行った。
何かあげたい!
ソルは生まれたばかりといってもいいくらいの神である。気に入った物に対して対価を払うということもしたことがなかったので、してみたいと思ったのだった。
ソルはその話をサントスにしてみた。
「なるほど、そういうことなら雲の上の神殿に私と行こうよ」
「うん?」
サントスは最近ソルと会話が出来るのがうれしくて仕方なかった。自分の神としての生に、「子供達と語らう」などという楽しいことが加わるなんて100年前までは思ってもいなかった。子供達が日々成長していくのを横で見ることができる。これも楽しすぎる。
サントスは超ご機嫌でソルを連れてペガサスに乗り、雲の上の神殿に行った。アシュランの間にはアリアスもいた。二人は座って酒を飲んでいたようだ。
ソルはアシュランの間に入ると、サントスの後ろに隠れてちょっと顔を出して頭を下げていた。
「こんにちは」
サントスが挨拶をした。
「やあ」
とアリアスが返した。
「倉庫の物が何か欲しいんです。いいですよね。お父さん」
「ん? うん」
とアシュラン。
「それじゃ」
サントスは用件だけ話すとさっさ部屋を出て行った。
アシュランとアリアスはしばし沈黙し、目を合わせた。
「あいつ今なんて言った?」
「お父さん、だと?」
「やはりそう言ったのか? びっくりした」
アシュランはようやくびっくりした表情になった。
「お父さん……おとうさん?」
アシュランはちょっと動揺しているようである。サントスはアシュランの子供なので、「お父さん」と呼んでも間違いはない。だが、子供達で「お父さん」と呼ぶのは、女の子達くらいのもので、男連中は「アシュラン」と呼んでいた。なぜ突然お父さんなどと呼びだしたのか。
「サントスは超ご機嫌か、怒ってるかのどちらかだな」
アリアスが顎に指をあてて言った。
「何か怒らせるようなことをしたか?」
「いや、してないと思う」
「ほんとか~?」
「してないだろ?」
「私は知らんぞ」
「聞いてこい」
「仕方ないな」
アリアスは部屋を出て行った。
一方サントスとソルは神殿の中にある倉庫にいた。ソルがここに来るのは初めてである。
「あれ?」
倉庫の中には様々な物が置かれてそれぞれ布がかけられていた。かなりの広さである。この神殿の大きさくらいといってもいいくらいだ。
「あのー広くないですか?」
神殿の中の一部屋にしてはどう考えてもおかしい。
「気がついた? ここは空間がちょっと違っててね。広いんだよ。アシュランの木像やら、使わない家具とかが置いてあるんだ。アシュランが気に入らなかったものを置いてあるんだけど、それでもすごい作品だからね。なにせ全部ジェラルドが彫ったんだし」
ソルは布をちらりとあげて中の作品を見た。どれもアシュランの全体像だが、ポーズがそれぞれ違う。大きさもいろいろである。
「好きなの選んでいいよ。それをあげたらいい」
「いいの?」
「いいよ。一生倉庫でいるよりもいいじゃないか」
「そうかな」
そこにアリアスがやってきた。
「サントス、お父さんなんて言うからアシュランがびびってたぞ」
「ははは、余計なことを聞かれたくなかったからさ、あえて言ってみたんだ」
「そうなのか?」
ソルは三十センチ四方の木箱をみつけて中をみていた。
「木像がたくさんある」
サントスとアリアスはソルに近づいて木箱をのぞいた。様々な大きさのアシュランの木像やら、体のパーツなどもあった。
「昔ジェラルドが練習したやつだね。アシュランを掘った物は基本廃棄できないからね」
「これかわいい。これがいいな」
それは十五センチほどの高さの小さい木像である。机の上に飾るには手頃な大きさだ。
「こんなに小さいのでいいの?」
「うん」
「それをどうするんだ?」
アリアスが聞いた。
「人間との物々交換だよ。人間に頼むだけじゃなくて、対価をあげたいってソルが言うから」
「ははは、ソルよ。一番人間が喜ぶのは降臨してやることだぞ」
アリアスが笑いながら言った。
「確かに」
とサントス。
「私が作る太陽の石も人間には大人気だ。欲しかったらいつでもやるぞ」
「ありがとう」
アリアスはソルの頭をなでなでして去って行った。
「ジェラルド様は一杯作ったんだね」
「そうだね。昔一杯練習したみたいだからね。ジェラルドが彫ると時々動いたりするんだよね。倉庫でも動いてるのかな。そう思うとかわいそうな気もするけど」
「もっともらってもいい? 外に出してあげたい」
「いいよ」
ソルは小さいアシュラン像を五体ほど抱えて、雲の上の神殿を後にした。
アリアスはその後アシュランに、「ご機嫌の方だった」と報告し、アシュランは「そうか。びっくりしたー」と胸をなでおろしたのだった。
神の国ラーズの神殿である。ラーズは雷獣の国の人間に自分の切り絵を頼んだ。だが、その対価に何を払うとかいう話をするのを忘れていた。
「価値としていくらくらいを考えたらいいだろうなあ。なにせ、最初に渡したのがジンラの酒だからな。私としても、宝石くらいはあげたいが」
ラーズの神殿にはクーリーフンもいて、クーリーフンは苦笑していた。
「キリエたのしみだなー」
サーラはラーズの話を聞いて楽しみにしている。
「先に渡した方がいいかな。生活には困ってなさそうだったが」
「一番喜ぶのは、ラーズが祭りとかに降臨してあげることじゃない? ラーズはあの国でも人気だよ。何かをあげるよりもその方が喜ぶと思うよ。王様も喜ぶだろうから彼の顔も立つし」
神の降臨は、普通は頼んで実現するものでもない。大金を払ってもどうにかなるものではないので、話をすれば喜ぶこと間違いないだろう。お金は王家がアーロンに払えばすむ話である。
「そうかい? アシュランには一カ所ばかりいくなと言われてるし、それでもいいけどな」
「サーラも一緒に行く」
「サーラも行くか。そういう話はどうやって伝えたらいいかな」
「トルメンタに頼んだら?」
「そうだな。お礼降臨か……まあいいか」
一方、カサンドラの神殿の外では、ヴォルフとソルがいた。珍しい組み合わせである。こちらも、切り絵の報酬をどうするか話していた。
「昨日ルチアと一緒に宝石を掘ったんだよ。それでどうかな」
ヴォルフが言った。その宝石がどれくらいの価値があるのか、ヴォルフはさっぱり知らないが、多分結構な値段がするはずだろうと思っている。
「宝石かあ。いいね。僕も何かあげたいな。だって、あの切り絵とっても気に入ってるんだ」
「君はあそこに行くだけで喜ばれると思うよ」
ヴォルフはそう言って去って行った。
何かあげたい!
ソルは生まれたばかりといってもいいくらいの神である。気に入った物に対して対価を払うということもしたことがなかったので、してみたいと思ったのだった。
ソルはその話をサントスにしてみた。
「なるほど、そういうことなら雲の上の神殿に私と行こうよ」
「うん?」
サントスは最近ソルと会話が出来るのがうれしくて仕方なかった。自分の神としての生に、「子供達と語らう」などという楽しいことが加わるなんて100年前までは思ってもいなかった。子供達が日々成長していくのを横で見ることができる。これも楽しすぎる。
サントスは超ご機嫌でソルを連れてペガサスに乗り、雲の上の神殿に行った。アシュランの間にはアリアスもいた。二人は座って酒を飲んでいたようだ。
ソルはアシュランの間に入ると、サントスの後ろに隠れてちょっと顔を出して頭を下げていた。
「こんにちは」
サントスが挨拶をした。
「やあ」
とアリアスが返した。
「倉庫の物が何か欲しいんです。いいですよね。お父さん」
「ん? うん」
とアシュラン。
「それじゃ」
サントスは用件だけ話すとさっさ部屋を出て行った。
アシュランとアリアスはしばし沈黙し、目を合わせた。
「あいつ今なんて言った?」
「お父さん、だと?」
「やはりそう言ったのか? びっくりした」
アシュランはようやくびっくりした表情になった。
「お父さん……おとうさん?」
アシュランはちょっと動揺しているようである。サントスはアシュランの子供なので、「お父さん」と呼んでも間違いはない。だが、子供達で「お父さん」と呼ぶのは、女の子達くらいのもので、男連中は「アシュラン」と呼んでいた。なぜ突然お父さんなどと呼びだしたのか。
「サントスは超ご機嫌か、怒ってるかのどちらかだな」
アリアスが顎に指をあてて言った。
「何か怒らせるようなことをしたか?」
「いや、してないと思う」
「ほんとか~?」
「してないだろ?」
「私は知らんぞ」
「聞いてこい」
「仕方ないな」
アリアスは部屋を出て行った。
一方サントスとソルは神殿の中にある倉庫にいた。ソルがここに来るのは初めてである。
「あれ?」
倉庫の中には様々な物が置かれてそれぞれ布がかけられていた。かなりの広さである。この神殿の大きさくらいといってもいいくらいだ。
「あのー広くないですか?」
神殿の中の一部屋にしてはどう考えてもおかしい。
「気がついた? ここは空間がちょっと違っててね。広いんだよ。アシュランの木像やら、使わない家具とかが置いてあるんだ。アシュランが気に入らなかったものを置いてあるんだけど、それでもすごい作品だからね。なにせ全部ジェラルドが彫ったんだし」
ソルは布をちらりとあげて中の作品を見た。どれもアシュランの全体像だが、ポーズがそれぞれ違う。大きさもいろいろである。
「好きなの選んでいいよ。それをあげたらいい」
「いいの?」
「いいよ。一生倉庫でいるよりもいいじゃないか」
「そうかな」
そこにアリアスがやってきた。
「サントス、お父さんなんて言うからアシュランがびびってたぞ」
「ははは、余計なことを聞かれたくなかったからさ、あえて言ってみたんだ」
「そうなのか?」
ソルは三十センチ四方の木箱をみつけて中をみていた。
「木像がたくさんある」
サントスとアリアスはソルに近づいて木箱をのぞいた。様々な大きさのアシュランの木像やら、体のパーツなどもあった。
「昔ジェラルドが練習したやつだね。アシュランを掘った物は基本廃棄できないからね」
「これかわいい。これがいいな」
それは十五センチほどの高さの小さい木像である。机の上に飾るには手頃な大きさだ。
「こんなに小さいのでいいの?」
「うん」
「それをどうするんだ?」
アリアスが聞いた。
「人間との物々交換だよ。人間に頼むだけじゃなくて、対価をあげたいってソルが言うから」
「ははは、ソルよ。一番人間が喜ぶのは降臨してやることだぞ」
アリアスが笑いながら言った。
「確かに」
とサントス。
「私が作る太陽の石も人間には大人気だ。欲しかったらいつでもやるぞ」
「ありがとう」
アリアスはソルの頭をなでなでして去って行った。
「ジェラルド様は一杯作ったんだね」
「そうだね。昔一杯練習したみたいだからね。ジェラルドが彫ると時々動いたりするんだよね。倉庫でも動いてるのかな。そう思うとかわいそうな気もするけど」
「もっともらってもいい? 外に出してあげたい」
「いいよ」
ソルは小さいアシュラン像を五体ほど抱えて、雲の上の神殿を後にした。
アリアスはその後アシュランに、「ご機嫌の方だった」と報告し、アシュランは「そうか。びっくりしたー」と胸をなでおろしたのだった。
203
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる