3 / 96
第1章
3.森を抜けよう
しおりを挟む家の周りの結界を越えた。いよいよ旅立ちのときだ。
朝だけど魔の森は鬱蒼としていて暗い。魔物や獣、そして鳥の声があちこちから聞こえてくる。わたしにとってはしょっちゅう狩りに来ているからいつもの光景だけどね。
出発前におばあちゃんから貰った地図を開いて見てみる。森の南側にザイルの街への道がある。ここを目指せばいいんだね。
まだ午前中だけど暗くなるまでになるべく距離を稼ぎたい。よし、少し足早に歩こう。
あっ、ローズマリーみっけ! ローズマリーは薬草の一種でお肉の下味に使うと臭みが消えて美味しいんだよね。ちょっと摘んでいこう。
採取したローズマリーをぽいぽいとアイテムバッグへ放り込んでいく。
さらにそれから1時間ほど歩いた。食料はなるべく現地調達しようと思っていたから最低限しか持ってきていない。野営するまではなるべく立ち止まりたくなかったので歩きながら持ってきたパンを口にする。
少し歩いたあと探知魔法で周囲を探ってみる。すると南西30メートルのところに魔物がいるのが分かった。
気配を消して様子を窺いつつそっとその標的に近づいていく。遠目に確認したのは体長5メートルほどもある、上半身が鳥で下半身が獣の形をした魔物、グリフォンだ。
「あれは……グリフォンか。今日の晩ごはんにしよう!」
『何か手伝う~?』
「ありがとう、シフ。大丈夫だよ! あのくらいだったら剣だけでも倒せるよ」
飛んで逃げられてしまうと面倒くさいので、気づかれないように背後からの不意打ちを狙うことにする。
剣を抜き標的の背後から音を消してゆっくりと接近する。あと5メートルという所まで近づいたところで勢いよく飛び上がった。そして剣を左から右に振り抜き横一文字にグリフォンの首を刈り取る。
『ギィッ!』
首を取る一瞬だけ悲鳴を上げたがグリフォンはゆっくりとその巨大な体を横たえた。
食べるためなの。ごめんね。セシルはグリフォンに心の中で合掌する。
倒したグリフォンをその場で捌く。
羽根と爪と嘴、そして魔石は売れそうだから一応バッグに入れておこう。お金は全く持ってないから売れるものは取っておかないとね。
血抜きは洗浄魔法で済ませて骨と内臓はあとで焼却しよう。いらない部位は焼却しておかないと血の匂いで他の魔物が来てしまうからね。
そうして捌いた肉を部位ごとに小分けにしてアイテムバッグに入れていく。これだけあれば数日分の食糧は大丈夫かな。
わたしは飲み水を出したり火を起こしたりといったことは全て魔法で済ませてしまう。だから要らないものを焼却するのも魔法を使う。
森に火が移るといけないので廃棄するものの周囲に小さな結界を張った。その結界の中で魔法で高熱の炎を起こして焼却する。
「よし、今日の晩ごはんが確保できたぁ!」
そうしてときどき襲いかかってくる魔物を倒しながら再び歩く。そして日が傾き始めるまでひたすら南を目指した。
「そろそろ野営の準備をしよう」
今は夕方の5時くらいだろうか。まだ明るいものの準備をしている間に暗くなってしまうだろう。野営の準備は早めに始めないとね。
森の中に少しだけ開けた草地を見つけた。そこに半径5メートルほどのドーム状の結界を張る。そして枯れ枝を集めて魔法で火を起こす。よし、焚火ができた。
焚火から少し離れた所にテントを張ってグリフォンのお肉の下拵えを始める。さっき採ったローズマリーを細かく風魔法で乾燥させて刻む。それを捌いて開いたグリフォンの肉に塩と一緒にすり込む。そうして下味をつけた肉に串を刺して焚火で炙りながら、バッグから持ってきたパンを取り出す。
「んんーっ、いい匂い! 途中でローズマリーを見つけたのはラッキーだったなぁ」
『ね~ね~、セシル。人間の町に着いたらなんか楽しいことあるかな?』
突然精霊たちが現れた。風の精霊シフが楽しそうに町のことを尋ねてきた。
「わたしもまだ町へ行ったことないからどんな所なのか想像もつかないよ」
わたしも楽しみなんだよね。おばあちゃん以外の人に会えるから。
『俺は今日なんかちょっと退屈だったぞ! 明日は俺に魔物を倒させろ!』
「サラが暴れると森に火が付いちゃうから駄目だよ」
サラが退屈しているみたいだけど森で火魔法を使うと危ないんだよね。森は木や草に火が付きやすくて延長しちゃうからね。
『明日はうちが獲物狩ったげるからまかせ~な』
『ウトウト』
水の精霊ディーがやる気満々だ。だけど土の精霊ノームはちょっと転寝しているみたい。
「んじゃ、明日はディーにお任せします! お、そろそろお肉焼けたみたい」
焼けたお肉からとても美味しそうな匂いが漂う。その匂いでお腹がグゥ~と鳴った。
パンを齧りながら、焼けたお肉に齧り付く。お肉はジューシーですごく美味しかった。
初めて一人で食べる晩ごはんはシフたちがいてもやっぱり寂しい。おばあちゃんはもうご飯食べたかな。今頃何してるかなぁ……。
わたしは胸に湧いてくる寂寥感を感じないように上空を仰ぐ。
すると木々に囲まれてそんなに広くはない夜空にたくさんの星が散らばっているのが見えた。とても綺麗だった。
32
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる