稲荷神社の御使い狐を助けたら、お礼に願いを叶えてくれるというので喫茶『さくらんぼ』ごと、異世界に引っ越しました。

冨山乙女♪

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第壱章 冒険喫茶『さくらんぼ』本日開店

幕間 月夜のティータイム

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 ホワイト・シャイニー・パレスの一室。ゲオルグはバルコニーに出て、月を眺めていた。手には昼間、カナデの分と一緒に購入した【翡翠の小太刀】が、握られている。
 「まさか、従弟殿に『弟子にしてくれ‼』と言われる日が来るとはな」
 ゲオルグは嬉しそうに呟く。
 「本当に弟子になさるおつもりですか?同じ小太刀まで準備なさって」
 灯りもついていない部屋に、女性の落ち着いた声だけが響く。
 ゲオルグは室内に戻り、テーブルの上に置いてあるティーポットを持ち上げた。カップにお茶を注ぎながら、「エリサ。キミもどうだい?」と隠遁している忠実な騎士である女性を茶会に誘う。
 「・・・・・」
 返事はない。ゲオルグは気配を探り、「怒らせてしまったかな?」と音もなく去ったエリサに、見せなかったロケット式になっているペンダントを懐から取り出した。
 その写真には、王太子時代の父王とナズナの姉のタマエが、紋付き袴と白無垢姿で写っている。
 「さすが、双子の姉妹。従弟殿も一目見ただけで、叔母上の息だと分かってしまう」
 そう言いながら、ゲオルグは執務机の引き出しの奥から、全体写真を取り出す。
 それは新郎新婦を挟んで、ナズナとナズナに抱かれた幼いゲオルグ、ハヤテに、タマエとナズナの祖父、ソウベエが写っていた。
 「色々話したけど、カナデは僕との関係も、この世界の事も、叔母上、ナズナから聞かされていないみたいだったな‼」
 「まさか、この世界に戻って来るなんて思わなかったのよ‼」
 声に驚いて振り返るとナズナとハヤテが、バルコニーに立っていた。
 「叔母、上?」
 ゲオルグは目の前に立っている少女を、穴が開くくらい見つめた。
 ナズナが居心地悪そうに身動ぎする。薄桃色のワンピースの裾をぎゅっと握りしめて、上目遣いでゲオルグを見る。
 「じろじろ見ないで‼」
 ナズナの頬がみるみる紅くなっていく。ゲオルグは目を細めて、「失礼しました。お久しぶりです。叔母上」と言って、ナズナの前に跪いた。
 ナズナはふぅっと息を吐くと、ゲオルグに立つ様に促す。
 ゲオルグが立ち上がるのと部屋の扉が、音もなく開いたのは同時だった。
 「っ⁉」
 部屋に入って来たのはエリサと妹のルナだった。エリサはゲオルグの他に人影を確認した途端、苦無を投じた。
 苦無は真っ直ぐにナズナの身体に突き刺さるはずだった。だが、ナズナが投じられた苦無に手をかざし、「停止して落ちなさい‼」と言うと苦無は床に突き刺さった。
 「っっ⁉・・・・、お下がり下さい。ゲオルグ様‼」
 エリサはレイピアを抜き、正眼に構える。エリサの紅の瞳がナズナを捕らえる。
 ゲオルグが止める間もなく、エリサは身を低くして床を蹴った。一瞬の間合いでナズナとの距離を詰めたエリサはレイピアを突き出した。
 「もらった‼」
 だが、エリサのレイピアはナズナの身体を貫くことはなかった。
 ナズナの姿は陽炎の様に消え、エリサは辺りを警戒する。
 「相変わらずね、エリサ。出来れば、その物騒な得物を仕舞って、月夜のティータイムなんてどうかしら?」
 ナズナはエリサの背後にまわり、エリサの背中に向かって手をかざしている。ナズナの手の上で風が、野球ボール大の大きさの球体を形作っていった。
 「っ⁉まさか、ナ、ズナ、様?」
 エリサがレイピアから手を離したのを見て、ナズナも風の球体を握りしめる。
 一瞬、部屋の中に突風が吹いて、翠の羽衣を纏った、緑の髪をツインテールに結った女性がナズナの耳元で「主様~‼もういいの~?」と言ってナズナが頷くと、ナズナの影の中に消えていった。
 「流石は菩薩如来様‼何十年も四神を統べておられるとは、このハヤテもうお側を離れません‼」
 ハヤテが嬉々としてナズナに宣言すると、ナズナはため息を吐く。
 「いつの間にか、記憶が戻ってるし・・・」
 ナズナの呟きに、ゲオルグが声を掛けようとした時、それまで沈黙を続けていったルナが口を開いた。
 「ゲオルグ兄様。エリサ。こちらは?」
 ゲオルグとエリサは顔を見合わせる。どう紹介したものか?
 「はじめまして。王女様。私はナズナといいます。ゲオルグとエリサのお友達よ」
 ルナとの挨拶を終えると、ナズナはルナとエリサに手伝わせ、ハヤテに預けていったバスケットの中身をテーブルにセッティングしていく。
 「ふぅっっ⁉さすがに、子供の姿だと体力も大人と違って、大立ち回りした後の給仕役はしんどいわね‼」
 ゲオルグは苦笑しつつ、席に着くと「どうして子供の姿に?」と質問する。
 ナズナはテーブルの上に並べたクッキーを手にする。
 「やっぱり、このクッキーにも付加されているみたいね⁉」
 ゲオルグは質問を無視するナズナに腹をたてる訳でもなく、目の前のクッキーを手にして、アイテム情報を表示する。
 
 【さくらんぼ特製クッキー  魔法防御➕0.5】

 「これは?」
 ゲオルグが尋ねるとナズナがげんなりした顔をハヤテに向ける。
 「全く、わたしはタマエじゃあないのよ‼若返れば、菩薩如来の力もあんたの記憶も戻らないと思ったのに・・・。もう1つ厄介な能力を・・・・⁉」
 「ナズナ様~‼やっと再会出来たというのに、あまりなお言葉。このハヤテ、ナズナ様の為に・・・・」
 ハヤテの口上をナズナはぴしゃりと遮り、「あのね、わたし達はタマエに全ての力を押しつけて、『表の世界』に戻ったの‼普通でいたいのよ‼」と言うと5色の宝玉を取り出した。
 「この中に入ってくれると有難いのよね?ステータス、隠せるしね」
 ハヤテは身震いした。
 「また、捨てられるのですか?ソウベエ様も、タマエ様も、ナズナ様まで~‼」
 ナズナは問答無用でハヤテと四神を宝玉に封じた。
 「ごめんね・・・・・」
 ナズナの呟きをゲオルグとエリサは聞こえないフリで、ルナはクッキーを頬張ることでスルーする。
 「何も聞かないのね?」
 ナズナがルナに尋ねる。
 「ゲオルグ兄様の母上が異世界の方というのは聞いています。それに、この世界にはそういう方が沢山いますから」
 ルナの返答にナズナは安堵する。
 (いろいろ説明する手間が省けるわ♪)
 

 「ナズナ。昼間、カナデに会ったよ」
 ゲオルグの言葉にナズナが頷く。
 「聞いてるわ。貴方と武器屋に行ったって」
 「ハッサンのギルドに入ったんだね?」
 「成り行きで、ね・・・・」
 ナズナは横目でベッドサイドに置いてある小太刀を確認する。
 「カナデに何を話したのか、聞かせて貰えるかしら?」
 ナズナはティーポットから全員のティーカップにお茶を注いでいく。
 「いい香り♡」
 「【アップルティー】よ。水筒に入れて持ってきていったのを、空になったティーポットに入れ直して、火の魔法で温め直して蒸らしておいたの」
 エリサはアイテム情報を表示してみる。
 【アップルティー  体力回復➕0.3  リラックス効果付与】
 「リラックス効果付与?」
 「言ったでしょ?月夜のティータイムをって」
 「なるほど。ティータイムはリラックスする為の時間だから、ハーブを煎じたんですね⁉」
 ゲオルグの言葉にナズナは頷いて、「じゃあ、聞かせて貰えるかしら?ゲオルグ」と声を掛けた。

 ゲオルグは昼間、カナデに会ったときのことを3人の女性に話始めた。
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