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悠久の王・キュリオ編
五の女神・マゼンタⅢ
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侍女に案内され手洗い場へとやってきたマゼンタ。見渡す限り敷き詰められた大理石は傷ひとつない鏡のように美しく磨かれており、その場を取り囲むのは浄化効果のある清らかな水たちだった。そこには時折、甘い香りのする花びらが流れて気落ちした彼女の心を癒していくように足元を過ぎていく。
待機する侍女にタオルを手渡された彼女はベタベタになった顔と顔まわりの髪をバシャバシャと洗う。洗い残しはないかと目の前のおしゃれな銀縁の鏡を覗き込みながら、二の女神・スカーレットから浴びるであろう批難を脳内再生する。
『いい気味だなマゼンタ。キュリオ様のところで泥遊びでもしてきたか?』
「…………」
(これじゃあスカーレットに馬鹿にされてしまうわ……)
次女のスカーレットは嫌味を言うような人間ではないが、ウィスタリアのようにオブラートに包ん柔らかい物言いができない。そして年上にも年下にも容赦がないため、たびたび一番幼いマゼンタと衝突してしまうのだ。
「……ぅー……っど、どうしよ……」
今にも聞こえてきそうなスカーレットの声に頭を抱えてしまう。
背伸びしてウィスタリアにお願いした大人っぽい化粧も、綺麗にセットされた髪もすっかりその姿を失ってしまった。
「……大げさ過ぎたかな、鼻水もでてるし……」
『我ながら迫真の演技っっっ!!』と内心ガッツポーズを取りたいくらいだが、キュリオの瞳は本気で呆れているような……蔑みを含んだ極寒の眼差しだった。
「……っ……」
じわりと流れた涙とともにバラバラに砕けた胸の痛みが心をぼろぼろにしていく。
ウィスタリアは王であるキュリオを心から愛している……しかし、幼いマゼンタも彼女に負けないくらい……その小さな胸にキュリオへの愛を強く想い抱いていた。
「……っやんなっちゃうな……っ……何が正しかったんだ……ろ……っ」
抱えきれない悲しみに耐えかねた彼女は膝を抱えてしゃがみこむ。濡れた頬にうっとおしく髪が張り付くが、それが水によるものなのか涙なのかわからないほどにマゼンタは泣いていた――。
(マゼンタ……私のために……)
妹の優しさに気づいたウィスタリアはすぐその姿を追いかけて抱きしめたい衝動に駆られたが、そんなことをしたらマゼンタの行為がすべて水の泡になってしまう。嫌われる覚悟で彼女が作ってくれたこのチャンスを無駄にしないためにも、覚悟を決めたウィスタリアは目の前のキュリオを真剣な眼差しで見つめたが、マゼンタの一件でさらに気を悪くした彼の眉間には深い皺が寄ってしまっている。
(……ここで逃げてしまったら永遠に変わらない……)
穏やかな笑みを称え、いつの時も歪みのない美しさと輝きを放つこの王はウィスタリアに気を留めることなく何十年もその前を通り過ぎていった。崇高な彼を見つめ続けた彼女はいつしか少女から大人の女性へと成長し、報われぬ想いと体だけがウィスタリアの意志を無視して歳月を重ねていく。
(私はマゼンタのように若くない。きっとこれが最後の……)
「……っ」
焦りと不安が交差し、彼女は震える手をごまかすためにドレスの裾を力いっぱい握りしめた。
そして――
「あ、あの……っ! キュリオ様……っ!!」
「…………」
”呼ばれたから視線を向けた”とでも言いたげなその瞳にはまったく親しみが感じられず、すでに拒絶の意を表しているように見える。
しかし、腹を括った彼女は一生分の勇気を振り絞り――……
「わ、わたしっ……キュリオ様のことが……ずっと……っ!!」
待機する侍女にタオルを手渡された彼女はベタベタになった顔と顔まわりの髪をバシャバシャと洗う。洗い残しはないかと目の前のおしゃれな銀縁の鏡を覗き込みながら、二の女神・スカーレットから浴びるであろう批難を脳内再生する。
『いい気味だなマゼンタ。キュリオ様のところで泥遊びでもしてきたか?』
「…………」
(これじゃあスカーレットに馬鹿にされてしまうわ……)
次女のスカーレットは嫌味を言うような人間ではないが、ウィスタリアのようにオブラートに包ん柔らかい物言いができない。そして年上にも年下にも容赦がないため、たびたび一番幼いマゼンタと衝突してしまうのだ。
「……ぅー……っど、どうしよ……」
今にも聞こえてきそうなスカーレットの声に頭を抱えてしまう。
背伸びしてウィスタリアにお願いした大人っぽい化粧も、綺麗にセットされた髪もすっかりその姿を失ってしまった。
「……大げさ過ぎたかな、鼻水もでてるし……」
『我ながら迫真の演技っっっ!!』と内心ガッツポーズを取りたいくらいだが、キュリオの瞳は本気で呆れているような……蔑みを含んだ極寒の眼差しだった。
「……っ……」
じわりと流れた涙とともにバラバラに砕けた胸の痛みが心をぼろぼろにしていく。
ウィスタリアは王であるキュリオを心から愛している……しかし、幼いマゼンタも彼女に負けないくらい……その小さな胸にキュリオへの愛を強く想い抱いていた。
「……っやんなっちゃうな……っ……何が正しかったんだ……ろ……っ」
抱えきれない悲しみに耐えかねた彼女は膝を抱えてしゃがみこむ。濡れた頬にうっとおしく髪が張り付くが、それが水によるものなのか涙なのかわからないほどにマゼンタは泣いていた――。
(マゼンタ……私のために……)
妹の優しさに気づいたウィスタリアはすぐその姿を追いかけて抱きしめたい衝動に駆られたが、そんなことをしたらマゼンタの行為がすべて水の泡になってしまう。嫌われる覚悟で彼女が作ってくれたこのチャンスを無駄にしないためにも、覚悟を決めたウィスタリアは目の前のキュリオを真剣な眼差しで見つめたが、マゼンタの一件でさらに気を悪くした彼の眉間には深い皺が寄ってしまっている。
(……ここで逃げてしまったら永遠に変わらない……)
穏やかな笑みを称え、いつの時も歪みのない美しさと輝きを放つこの王はウィスタリアに気を留めることなく何十年もその前を通り過ぎていった。崇高な彼を見つめ続けた彼女はいつしか少女から大人の女性へと成長し、報われぬ想いと体だけがウィスタリアの意志を無視して歳月を重ねていく。
(私はマゼンタのように若くない。きっとこれが最後の……)
「……っ」
焦りと不安が交差し、彼女は震える手をごまかすためにドレスの裾を力いっぱい握りしめた。
そして――
「あ、あの……っ! キュリオ様……っ!!」
「…………」
”呼ばれたから視線を向けた”とでも言いたげなその瞳にはまったく親しみが感じられず、すでに拒絶の意を表しているように見える。
しかし、腹を括った彼女は一生分の勇気を振り絞り――……
「わ、わたしっ……キュリオ様のことが……ずっと……っ!!」
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