180 / 212
悠久の王・キュリオ編
<大魔導師>との再会Ⅰ
しおりを挟む
人型聖獣の彼が城に慣れるまでの間、キュリオの傍には常にダルドの姿があった。
初めのうちは親の後を追いかける子供のような動きをしていたが、キュリオが重要な仕事のため執務室へ籠ってしまうと、ようやくダルドの好奇心は行動範囲を越えて外へと向けられた。
「…………」
(……キュリオの家はきっと森より広い……)
ここへ来てすぐに城の案内を受けたダルドだが、ひとりで歩き回ればたちまち迷子になってしまうほどに広大な敷地だった。
(ぼくがキュリオの役に立つためにはなにをしたらいいんだろう……)
王様の仕事が手伝えるとは思えないが、キュリオがそう望むのであればダルドは頑張れる。
その前に人の世界の文字が読むことのできないダルドは、まずそこから学ばなくてはならない。
「すこし、だけ……歩いてみようかな……」
ポツリと呟いたダルドは、眼下の庭園を行き来する人の姿をぼんやり眺める。
そこには談笑しながら歩く侍女をはじめ、庭木を手入れする男たちの真剣な顔、そして――……
「……?」
傍らに分厚い本を抱えた青年が慌ただしく建物の脇を横切って行く姿が視界に飛び込んできた。
銀狐だったダルドは動くものにどうしても反応してしまい、暇を持て余していた彼はその姿を追いかけることにした。
――ようやく動き出した人型聖獣の気配に執務室から穏やかに微笑んでいる人物がいた。
「嬉しそうですね。キュリオ様」
主へ目を通してもらう必要がある書類を両手に抱えた従者が、珍しく執務中に別のことを考えていたらしいキュリオに目元を緩ませた。
「あぁ、自立を促すには少し距離を置いたほうがいいと思っていたが、正解だったようだ」
「人型聖獣のダルド様のことでございますね。
しかし、あの方の足が外へ向かわれたのは、キュリオ様へ絶対な信頼を寄せられている証でございましょう」
「ならば私は、ダルドの信頼を裏切らぬよう努力しなくてはいけないな」
キュリオは羽ペンをサラリと走らせ、自身のサインを記したものを待機している別の家臣へと手渡した。
当時のキュリオが言った"自立"は、この数十年後に現れる少女・アオイに向けられることはなかった――。
そしてその先で出会った人物こそ、若かりし日の<大魔導師>ガーラントである。
――歴史を感じさせる古木で作られた壮大な扉の前に立ち、古びた金具に手をかけたキュリオはゆっくり扉をノックした。
コンコン
『はい、どうぞ』
聞き覚えのある幼い声にキュリオはアレスが中にいることを確信して扉を開く。
――ガチャ、ギィ……
重厚感のある扉の合間から顔をのぞかせた小さなアレスの視界には、美しい銀髪をなびかせた憧れのキュリオが微笑みを浮かべて立っていた。
「……キュ、キュリオ様っ!?」
あまりの驚きにあたふたと足踏みする黒髪の魔導師に笑いかけるキュリオ。
「やぁアレス。あまり大きな声では言えないが、明日から君に新しい役目を与えようと思っていてね」
はた、と動きを止めてキュリオの言葉に瞳を輝かせたアレス。
「お、お役目でございますかっ!? 私に……っ!?」
「良かったのぉアレス」
興奮気味の小さな彼の後ろから笑顔を含んだような穏やかな声が響くと――……
「この声……ガーラント?」
初めのうちは親の後を追いかける子供のような動きをしていたが、キュリオが重要な仕事のため執務室へ籠ってしまうと、ようやくダルドの好奇心は行動範囲を越えて外へと向けられた。
「…………」
(……キュリオの家はきっと森より広い……)
ここへ来てすぐに城の案内を受けたダルドだが、ひとりで歩き回ればたちまち迷子になってしまうほどに広大な敷地だった。
(ぼくがキュリオの役に立つためにはなにをしたらいいんだろう……)
王様の仕事が手伝えるとは思えないが、キュリオがそう望むのであればダルドは頑張れる。
その前に人の世界の文字が読むことのできないダルドは、まずそこから学ばなくてはならない。
「すこし、だけ……歩いてみようかな……」
ポツリと呟いたダルドは、眼下の庭園を行き来する人の姿をぼんやり眺める。
そこには談笑しながら歩く侍女をはじめ、庭木を手入れする男たちの真剣な顔、そして――……
「……?」
傍らに分厚い本を抱えた青年が慌ただしく建物の脇を横切って行く姿が視界に飛び込んできた。
銀狐だったダルドは動くものにどうしても反応してしまい、暇を持て余していた彼はその姿を追いかけることにした。
――ようやく動き出した人型聖獣の気配に執務室から穏やかに微笑んでいる人物がいた。
「嬉しそうですね。キュリオ様」
主へ目を通してもらう必要がある書類を両手に抱えた従者が、珍しく執務中に別のことを考えていたらしいキュリオに目元を緩ませた。
「あぁ、自立を促すには少し距離を置いたほうがいいと思っていたが、正解だったようだ」
「人型聖獣のダルド様のことでございますね。
しかし、あの方の足が外へ向かわれたのは、キュリオ様へ絶対な信頼を寄せられている証でございましょう」
「ならば私は、ダルドの信頼を裏切らぬよう努力しなくてはいけないな」
キュリオは羽ペンをサラリと走らせ、自身のサインを記したものを待機している別の家臣へと手渡した。
当時のキュリオが言った"自立"は、この数十年後に現れる少女・アオイに向けられることはなかった――。
そしてその先で出会った人物こそ、若かりし日の<大魔導師>ガーラントである。
――歴史を感じさせる古木で作られた壮大な扉の前に立ち、古びた金具に手をかけたキュリオはゆっくり扉をノックした。
コンコン
『はい、どうぞ』
聞き覚えのある幼い声にキュリオはアレスが中にいることを確信して扉を開く。
――ガチャ、ギィ……
重厚感のある扉の合間から顔をのぞかせた小さなアレスの視界には、美しい銀髪をなびかせた憧れのキュリオが微笑みを浮かべて立っていた。
「……キュ、キュリオ様っ!?」
あまりの驚きにあたふたと足踏みする黒髪の魔導師に笑いかけるキュリオ。
「やぁアレス。あまり大きな声では言えないが、明日から君に新しい役目を与えようと思っていてね」
はた、と動きを止めてキュリオの言葉に瞳を輝かせたアレス。
「お、お役目でございますかっ!? 私に……っ!?」
「良かったのぉアレス」
興奮気味の小さな彼の後ろから笑顔を含んだような穏やかな声が響くと――……
「この声……ガーラント?」
0
あなたにおすすめの小説
【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる