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悠久の王・キュリオ編
ダルドとアオイ、ふたりの始まりⅠ
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「キュリオ、……じゃなくて、王。
花の髪飾りを贈る相手って、もしかしてアオイ姫?」
隣りを歩いていたキュリオはダルドの言葉を耳にし、穏やかに微笑みながら視線を合わせる。
「出会った頃のように"キュリオ"で構わないのだが、いつから君は私をそう呼ぶようになったんだろうね」
「……キュリオ、王の力になろうって決めて……、ここで皆と過ごしている間にそう呼び始めた」
昔から立場の違いなど関係なく接してくれるキュリオの傍はとても居心地がよかった。
しかし、その内から溢れる真のキュリオの力は眩いほどの輝きを放っており、最初はどうしたらよいかわからずに躊躇っていたダルドもやがて……他の者たちと接していくうちに彼が王である意味を深く理解するようになる。
「呼び方を皆と合わせる必要はないのだが……気が向いたらでいい。またキュリオと呼んでくれたら私は嬉しく思う」
「う、うん……」
こうして素直な気持ちをダルドにぶつけるたび、彼は戸惑ったように頬を染めながら視線を逸らす癖がある。言葉をあまりうまく口にすることができなくとも、こういった小さな仕草から彼の心境を十分読み取ることができる。
昔となんら変わらぬ人型聖獣へ優しい笑みを向けたキュリオは前方へと視線を戻し、仕立屋(ラプティス)・ロイとアオイのいる広間を目指して歩く。
「話を戻そうか。
あぁ、花の髪飾りはアオイに贈るものだ。中庭に咲く小さなピンク色の花があまりにも彼女に似合うから……ふふっ、そういえば君と一緒によく見ていた花だったな」
数年間、この城に世話になっていたダルドは(恐らくあの花……)と思い浮かべることができた。キュリオやダルドは頻繁にその花の前で足を止めては"少女のような透き通った華凛さがこの花にはある"と何度も話した。
しかしそれ以上に"アオイ姫"に会えばキュリオの贈りたい花飾りのイメージが強く伝わってくる気がしたため、それ以上聞き返すことはしない。
「うん。どの花かわかった。アオイ姫に贈る髪飾りなら魔導書は使わない」
「ありがとうダルド。アオイもきっと喜ぶ」
すなわちデザインから仕上がりまでダルドの手作業というわけだ。精度や強度、能力の向上を求めるならば魔導書の力に叶うものはないだろう。しかし、身に纏うものや装飾品は作り手の思いやぬくもりがすべてだとキュリオは思う。だからこそ手作業を申し出てくれたダルドの気持ちが心から嬉しい。
広間の扉の前でふたりが立ち止まると、家臣らの手によってゆっくりそれが開かれて。
「おかえりなさいませキュリオ様、ダルド様」
女官が近づき微笑みとともに深く頭をさげると、頷いたキュリオはあたりを見回し、聖母のような眼差しを一点へ集中させた。
近づいてきた別の女官からアオイを受け取ったキュリオは頬を寄せながら穏やかな口調で語りかける。
「アオイ、いい子にしていたかい? 私の友人ダルドを連れてきたよ」
「んきゃぁっ」
愛しい娘との抱擁はまるで数日ぶりの再会かのような感動をいつも与えてくれる。
「ダルド、この子が私の娘のアオイだ」
我が子を腕に抱いたキュリオがゆっくりダルドへ近づく。
彼の胸元では真ん丸な瞳をパチクリさせ、こちらの顔をじっと見つめる可愛らしい赤子の姿があった。
「……君がアオイ姫……」
「……?」
初めて見る顔に赤子はキョトンとしているが、ぐずる様子も見せず、ただひたすらにダルドの瞳を見つめている。そんなダルドも彼女の純粋な瞳に吸い寄せられるようにフラリと彼女へ近づくと――
「……っ!」
腕のなかの魔導書がわずかに脈を打ち、なにかと共鳴するようにその存在感を示していた。
(……アオイ姫に、魔導書が反応している……?)
「ダルド? どかしたかい?」
動きを止めた彼の行動を不思議に思ったキュリオが、その手元へと視線をさげる。
「これは……」
武具の誕生を見届けたことのあるキュリオだが、どうもそれとは様子が違う。持ち主である人型聖獣の彼へと"なにが起きている?"と視線で訴えるが、光を纏う魔導書とアオイの顔とを見比べているダルドの真剣な表情から、よほどのこと起きているのだと気づく。
やがてキュリオの視線はアオイへと向けられ、ダルドへは言葉で述べる。
「君の魔導書は一体なにを伝えようとしているかわかるかい?」
「……今までこんなことなかったと、思う。魔導書が自分の意志で輝くなんて……」
そうこう話しているうちに紐は解け、光輝いたページはどんどんめくれ上がり、キュリオとダルドをこれでもかと驚かせる。
「……!?」
しかしどこに止まる素振りも見せぬまま、ある一定の間を行ったり来たりしており、まるで迷っているかのような動きをひたすら繰り返す。
武器が生成されているページこそ堅く閉じられているものの、ダルドの目は魔導書が行き来しているその場所が何であるかを見極めることができた。
「……魔導師の魔方陣が描かれている場所で何かを探してる」
「魔導師? アオイにその力が?」
「……たぶん。でもおかしい。反応しているわりにはその場所にたどり着かない……」
不安な心を隠せないでいるダルドと違い、キュリオの表情はとても嬉しそうだ。
「あぁ、彼女があまりにも小さすぎるせいかもしれないね。
しかしこれで私は確信した。君は紛れもなく悠久の子だ」
魔導師が存在するのは五大国で唯一【悠久の国】だけであり、キュリオの喜びは尚のこと愛しさが一層こみ上げた――。
花の髪飾りを贈る相手って、もしかしてアオイ姫?」
隣りを歩いていたキュリオはダルドの言葉を耳にし、穏やかに微笑みながら視線を合わせる。
「出会った頃のように"キュリオ"で構わないのだが、いつから君は私をそう呼ぶようになったんだろうね」
「……キュリオ、王の力になろうって決めて……、ここで皆と過ごしている間にそう呼び始めた」
昔から立場の違いなど関係なく接してくれるキュリオの傍はとても居心地がよかった。
しかし、その内から溢れる真のキュリオの力は眩いほどの輝きを放っており、最初はどうしたらよいかわからずに躊躇っていたダルドもやがて……他の者たちと接していくうちに彼が王である意味を深く理解するようになる。
「呼び方を皆と合わせる必要はないのだが……気が向いたらでいい。またキュリオと呼んでくれたら私は嬉しく思う」
「う、うん……」
こうして素直な気持ちをダルドにぶつけるたび、彼は戸惑ったように頬を染めながら視線を逸らす癖がある。言葉をあまりうまく口にすることができなくとも、こういった小さな仕草から彼の心境を十分読み取ることができる。
昔となんら変わらぬ人型聖獣へ優しい笑みを向けたキュリオは前方へと視線を戻し、仕立屋(ラプティス)・ロイとアオイのいる広間を目指して歩く。
「話を戻そうか。
あぁ、花の髪飾りはアオイに贈るものだ。中庭に咲く小さなピンク色の花があまりにも彼女に似合うから……ふふっ、そういえば君と一緒によく見ていた花だったな」
数年間、この城に世話になっていたダルドは(恐らくあの花……)と思い浮かべることができた。キュリオやダルドは頻繁にその花の前で足を止めては"少女のような透き通った華凛さがこの花にはある"と何度も話した。
しかしそれ以上に"アオイ姫"に会えばキュリオの贈りたい花飾りのイメージが強く伝わってくる気がしたため、それ以上聞き返すことはしない。
「うん。どの花かわかった。アオイ姫に贈る髪飾りなら魔導書は使わない」
「ありがとうダルド。アオイもきっと喜ぶ」
すなわちデザインから仕上がりまでダルドの手作業というわけだ。精度や強度、能力の向上を求めるならば魔導書の力に叶うものはないだろう。しかし、身に纏うものや装飾品は作り手の思いやぬくもりがすべてだとキュリオは思う。だからこそ手作業を申し出てくれたダルドの気持ちが心から嬉しい。
広間の扉の前でふたりが立ち止まると、家臣らの手によってゆっくりそれが開かれて。
「おかえりなさいませキュリオ様、ダルド様」
女官が近づき微笑みとともに深く頭をさげると、頷いたキュリオはあたりを見回し、聖母のような眼差しを一点へ集中させた。
近づいてきた別の女官からアオイを受け取ったキュリオは頬を寄せながら穏やかな口調で語りかける。
「アオイ、いい子にしていたかい? 私の友人ダルドを連れてきたよ」
「んきゃぁっ」
愛しい娘との抱擁はまるで数日ぶりの再会かのような感動をいつも与えてくれる。
「ダルド、この子が私の娘のアオイだ」
我が子を腕に抱いたキュリオがゆっくりダルドへ近づく。
彼の胸元では真ん丸な瞳をパチクリさせ、こちらの顔をじっと見つめる可愛らしい赤子の姿があった。
「……君がアオイ姫……」
「……?」
初めて見る顔に赤子はキョトンとしているが、ぐずる様子も見せず、ただひたすらにダルドの瞳を見つめている。そんなダルドも彼女の純粋な瞳に吸い寄せられるようにフラリと彼女へ近づくと――
「……っ!」
腕のなかの魔導書がわずかに脈を打ち、なにかと共鳴するようにその存在感を示していた。
(……アオイ姫に、魔導書が反応している……?)
「ダルド? どかしたかい?」
動きを止めた彼の行動を不思議に思ったキュリオが、その手元へと視線をさげる。
「これは……」
武具の誕生を見届けたことのあるキュリオだが、どうもそれとは様子が違う。持ち主である人型聖獣の彼へと"なにが起きている?"と視線で訴えるが、光を纏う魔導書とアオイの顔とを見比べているダルドの真剣な表情から、よほどのこと起きているのだと気づく。
やがてキュリオの視線はアオイへと向けられ、ダルドへは言葉で述べる。
「君の魔導書は一体なにを伝えようとしているかわかるかい?」
「……今までこんなことなかったと、思う。魔導書が自分の意志で輝くなんて……」
そうこう話しているうちに紐は解け、光輝いたページはどんどんめくれ上がり、キュリオとダルドをこれでもかと驚かせる。
「……!?」
しかしどこに止まる素振りも見せぬまま、ある一定の間を行ったり来たりしており、まるで迷っているかのような動きをひたすら繰り返す。
武器が生成されているページこそ堅く閉じられているものの、ダルドの目は魔導書が行き来しているその場所が何であるかを見極めることができた。
「……魔導師の魔方陣が描かれている場所で何かを探してる」
「魔導師? アオイにその力が?」
「……たぶん。でもおかしい。反応しているわりにはその場所にたどり着かない……」
不安な心を隠せないでいるダルドと違い、キュリオの表情はとても嬉しそうだ。
「あぁ、彼女があまりにも小さすぎるせいかもしれないね。
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