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悠久の王・キュリオ編
<番外編>ショートストーリー・その1
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アオイの適職
――夕食も終わり、キュリオは気心の知れた極近しい者たちとともにテーブルを囲んでいた。
銀髪の王は微笑みながら彼らの話に耳を傾け、口を付けていたカップをソーサーへ戻すと思い出したように言葉を発する。
「そういえばガーラント。アオイには魔導師の才能があるらしい。喜ばしいことにダルドの魔導書がすでに反応を見せていてね」
嬉しそうに目元をほころばせて腕の中の赤子へと熱視線を向けるキュリオ。
この悠久では能力を持たぬ民の数が圧倒的に多く、もし力に恵まれた者だとしても実力が伴わなければ他人を助けることなど到底無理な話だ。
まして魔導師ともなると数はさらに少ない。剣術や体術のように鍛えれば強くなるというものでもなく、そのほとんどが先天的なものだからだ。
アオイにその稀な才能が秘められていると知ったキュリオは他の誰よりも喜び、彼女の魔導教育を自ら買って出るつもりである。
「ふぉっふぉっふぉっ!
なんと喜ばしいことじゃっ! 姫様とキュリオ様は本当に親子になる運命にあったようですな!」
ガーラントは心の底からふたりの出会いを祝福するように笑い皺を深めて幼い姫を見つめている。
「あぁ、私とアオイは家族になる運命だったんだ」
あえて"家族"と言ったキュリオの言葉をこの時は誰も気にしていなかった。
すると――
「お待ちください! キュリオ様っっ!!」
バンッ!! と、テーブルへ手をつき、身を乗り出して和やかなムードを破壊したのは剣術の教官をしているブラストだった。
「……ブラストうるさい」
騒がしいことを好まないダルドは腕組みをしたまま彼を睨んでいる。
「し、失礼いたしました……っ!」
高貴な人型聖獣に睨まれ慌てて居住まいを正すブラストを、その斜め向かい側に座るキュリオは驚いたように彼を見つめて口を開いた。
「どうかしたかい? ブラスト」
「どうしたんじゃお前さん……なにか思うことでもあるのかの?」
ガーラントまでもが目を丸くし理由を説明するよう促してきた。
「はっ! ……恐れながら申し上げます!! も、もしアオイ姫様が……」
「ふむ?」
ガーラントは見事な顎鬚(あごひげ)をなでながらブラストの言葉に耳を傾けている。
「……けっ、剣士になりたいとおっしゃったら……っ!!
キュリオ様としてはいかがなさるおつもりですかぁああっ!!」
半ばやけくそのようなブラストの叫び声。
「…………」
呆気にとられているキュリオは二、三度瞬きをし……やがて小さく笑った。
「そうだね。アオイがもし剣士になりたいと言うのなら……」
「…………」
と、そこまで考えてキュリオは黙ってしまった。
――……
『きゃぁあっ!!』
小さな彼女は大きな衝撃に耐えられず緑の大地へと激しくその身を打ち付けた。
神剣にいとも容易(たやす)く弾かれてしまったアオイの剣は、大きな弧を描き数メートル先にその刃を突き立ててしまった。
花びらを巻き上げ、身に纏うオーラを抑えながらもその圧倒的な威圧感を隠せずにいる銀髪の王がじわりじわりとにじり寄ってくる。
『立ちなさいアオイ』
いつものような甘美な眼差しは微塵もなく、アオイを見下ろすキュリオの瞳は凍てつくように冷たいものだった。
『……は、はいっ! お父様!!』
よろよろと立ち上がり、己の剣を引き抜くアオイ。
『…………』
傷だらけの彼女の体。重そうに剣を握るその華凜な指先は本来、美しい花を愛でるためにあるものだ。
ところどころに血を滲ませ、時折苦しそうに歪められる彼女の顔を見てしまえば激しい罪悪感に心が締め付けら、呼吸もままならないほどにつらい。
『……行きますっ!!』
何度もめげずに立ち向かってくる彼女はとても美しい。
アオイのひたむきな純粋さがいつしかキュリオの心を動かし、こうして彼は剣の稽古をつけるようになったのだ。
『はぁぁあっ!!』
勢いよく振り下ろされた彼女の剣。
しかし、キュリオは流れるような優雅な身のこなしで軽々と交わしてしまう。
『えいっ!!』
神剣の力を借りずとも、キュリオは十分に強い。
五大国・第二位を誇る彼の実力の上には千年王の精霊王しかいないのだ。
『アオイ、私が次……どんな行動に出るか風の流れを肌で感じてみなさい』
ふっと優しい笑みをたたえたキュリオの顔になびいた艶やかな銀髪が美しく煌めいた。
『風の流れ……?』
父の思いがけない一言に、踏みとどまったアオイ。
『……本当に可愛いね。私のアオイは――……』
その一瞬の隙をついたキュリオは、あっという間に彼女の背後へまわり――
『捕まえた』
後ろから華奢なアオイの体を覆うように抱きしめ、首元に顔を埋めるキュリオ。
彼女の汗さえもほのかな甘い香りを含み、キュリオはたまらずその白い首筋に唇を押し当てた。
『……お、お父様っ……』
慌てふためいたアオイは思わず握りしめていた剣を落としてしまう。
いつのまにかキュリオの手にも神剣は握られておらず、稽古が終わりであることを静かに告げていた。
『こんなところにも怪我をしているね』
腹部にまわされたキュリオの手がアオイの脇腹をなぞり、優しく撫で上げる。
『……っ!?』
背後からサラリと流れた銀の髪がアオイの耳元をくすぐり、感じたことのない感覚に小さな背が震えた。
『……っ!! おと、……さ、まっ!! ……や、やだっ! こんなところでっ!!』
きゅっと強く瞳を閉じた彼女の目尻にはうっすらと涙が浮かんでいるように見える。
『…………』
初心(うぶ)なアオイの反応ひとつひとつがたまらなく愛しく、キュリオは慈しむようにそっと彼女の涙へと唇を這わせる。
『……寝室でなら……いいのかい?』
『……ぁっ……』
キュリオの濡れた吐息と意味ありげな言葉に、全身が甘くしびれるように疼(うず)く。
『……は、はいっ……』
頬を染めて小さく頷いたアオイは、恥ずかしさに肩を震わせながら――
『お願いっ……胸がとても苦しいの……っ!! お父様を想うと……わたしっ……!』
『……アオイ……』
抱きしめていた腕を緩め、彼女の体をこちらに向きなおさせる。が、気まずそうに逸らされてしまった視線。
しかし、態度とは裏腹にあふれた熱い想いがアオイの頬を濡らし……それを見たキュリオは幸せそうに微笑んだ。
『可愛い顔を見せて』
『か、かわいくなんかっ……』
思わずアオイが顔を戻すと、キュリオの長い人差し指がそっと少女の唇に押し当てられた。
『……?』
驚きに瞬きを繰り返すアオイ。
『私の最愛の人を卑下することは、いくらアオイでも許せないな……』
『……っ!!』
あまりの衝撃に口をパクパクさせている彼女が本当に可愛い。
『大好き……お父様っ……!』
『あぁ、私もお前を愛している』
泣き笑いのアオイをそっと抱きしめ、長年の片想いがいま……
――キュリオの妄想の中で成就した。
「……剣士か……いいかもしれないな」
頬を染め、にやける顔を懸命に抑えながらキュリオはボソリと呟いた。
「キュリオ様、いまなんとっ!?」
「そ、それは誠でございますかっ!!」
「…………」
(……キュリオ、やましいことを考えている気が……する)
――夕食も終わり、キュリオは気心の知れた極近しい者たちとともにテーブルを囲んでいた。
銀髪の王は微笑みながら彼らの話に耳を傾け、口を付けていたカップをソーサーへ戻すと思い出したように言葉を発する。
「そういえばガーラント。アオイには魔導師の才能があるらしい。喜ばしいことにダルドの魔導書がすでに反応を見せていてね」
嬉しそうに目元をほころばせて腕の中の赤子へと熱視線を向けるキュリオ。
この悠久では能力を持たぬ民の数が圧倒的に多く、もし力に恵まれた者だとしても実力が伴わなければ他人を助けることなど到底無理な話だ。
まして魔導師ともなると数はさらに少ない。剣術や体術のように鍛えれば強くなるというものでもなく、そのほとんどが先天的なものだからだ。
アオイにその稀な才能が秘められていると知ったキュリオは他の誰よりも喜び、彼女の魔導教育を自ら買って出るつもりである。
「ふぉっふぉっふぉっ!
なんと喜ばしいことじゃっ! 姫様とキュリオ様は本当に親子になる運命にあったようですな!」
ガーラントは心の底からふたりの出会いを祝福するように笑い皺を深めて幼い姫を見つめている。
「あぁ、私とアオイは家族になる運命だったんだ」
あえて"家族"と言ったキュリオの言葉をこの時は誰も気にしていなかった。
すると――
「お待ちください! キュリオ様っっ!!」
バンッ!! と、テーブルへ手をつき、身を乗り出して和やかなムードを破壊したのは剣術の教官をしているブラストだった。
「……ブラストうるさい」
騒がしいことを好まないダルドは腕組みをしたまま彼を睨んでいる。
「し、失礼いたしました……っ!」
高貴な人型聖獣に睨まれ慌てて居住まいを正すブラストを、その斜め向かい側に座るキュリオは驚いたように彼を見つめて口を開いた。
「どうかしたかい? ブラスト」
「どうしたんじゃお前さん……なにか思うことでもあるのかの?」
ガーラントまでもが目を丸くし理由を説明するよう促してきた。
「はっ! ……恐れながら申し上げます!! も、もしアオイ姫様が……」
「ふむ?」
ガーラントは見事な顎鬚(あごひげ)をなでながらブラストの言葉に耳を傾けている。
「……けっ、剣士になりたいとおっしゃったら……っ!!
キュリオ様としてはいかがなさるおつもりですかぁああっ!!」
半ばやけくそのようなブラストの叫び声。
「…………」
呆気にとられているキュリオは二、三度瞬きをし……やがて小さく笑った。
「そうだね。アオイがもし剣士になりたいと言うのなら……」
「…………」
と、そこまで考えてキュリオは黙ってしまった。
――……
『きゃぁあっ!!』
小さな彼女は大きな衝撃に耐えられず緑の大地へと激しくその身を打ち付けた。
神剣にいとも容易(たやす)く弾かれてしまったアオイの剣は、大きな弧を描き数メートル先にその刃を突き立ててしまった。
花びらを巻き上げ、身に纏うオーラを抑えながらもその圧倒的な威圧感を隠せずにいる銀髪の王がじわりじわりとにじり寄ってくる。
『立ちなさいアオイ』
いつものような甘美な眼差しは微塵もなく、アオイを見下ろすキュリオの瞳は凍てつくように冷たいものだった。
『……は、はいっ! お父様!!』
よろよろと立ち上がり、己の剣を引き抜くアオイ。
『…………』
傷だらけの彼女の体。重そうに剣を握るその華凜な指先は本来、美しい花を愛でるためにあるものだ。
ところどころに血を滲ませ、時折苦しそうに歪められる彼女の顔を見てしまえば激しい罪悪感に心が締め付けら、呼吸もままならないほどにつらい。
『……行きますっ!!』
何度もめげずに立ち向かってくる彼女はとても美しい。
アオイのひたむきな純粋さがいつしかキュリオの心を動かし、こうして彼は剣の稽古をつけるようになったのだ。
『はぁぁあっ!!』
勢いよく振り下ろされた彼女の剣。
しかし、キュリオは流れるような優雅な身のこなしで軽々と交わしてしまう。
『えいっ!!』
神剣の力を借りずとも、キュリオは十分に強い。
五大国・第二位を誇る彼の実力の上には千年王の精霊王しかいないのだ。
『アオイ、私が次……どんな行動に出るか風の流れを肌で感じてみなさい』
ふっと優しい笑みをたたえたキュリオの顔になびいた艶やかな銀髪が美しく煌めいた。
『風の流れ……?』
父の思いがけない一言に、踏みとどまったアオイ。
『……本当に可愛いね。私のアオイは――……』
その一瞬の隙をついたキュリオは、あっという間に彼女の背後へまわり――
『捕まえた』
後ろから華奢なアオイの体を覆うように抱きしめ、首元に顔を埋めるキュリオ。
彼女の汗さえもほのかな甘い香りを含み、キュリオはたまらずその白い首筋に唇を押し当てた。
『……お、お父様っ……』
慌てふためいたアオイは思わず握りしめていた剣を落としてしまう。
いつのまにかキュリオの手にも神剣は握られておらず、稽古が終わりであることを静かに告げていた。
『こんなところにも怪我をしているね』
腹部にまわされたキュリオの手がアオイの脇腹をなぞり、優しく撫で上げる。
『……っ!?』
背後からサラリと流れた銀の髪がアオイの耳元をくすぐり、感じたことのない感覚に小さな背が震えた。
『……っ!! おと、……さ、まっ!! ……や、やだっ! こんなところでっ!!』
きゅっと強く瞳を閉じた彼女の目尻にはうっすらと涙が浮かんでいるように見える。
『…………』
初心(うぶ)なアオイの反応ひとつひとつがたまらなく愛しく、キュリオは慈しむようにそっと彼女の涙へと唇を這わせる。
『……寝室でなら……いいのかい?』
『……ぁっ……』
キュリオの濡れた吐息と意味ありげな言葉に、全身が甘くしびれるように疼(うず)く。
『……は、はいっ……』
頬を染めて小さく頷いたアオイは、恥ずかしさに肩を震わせながら――
『お願いっ……胸がとても苦しいの……っ!! お父様を想うと……わたしっ……!』
『……アオイ……』
抱きしめていた腕を緩め、彼女の体をこちらに向きなおさせる。が、気まずそうに逸らされてしまった視線。
しかし、態度とは裏腹にあふれた熱い想いがアオイの頬を濡らし……それを見たキュリオは幸せそうに微笑んだ。
『可愛い顔を見せて』
『か、かわいくなんかっ……』
思わずアオイが顔を戻すと、キュリオの長い人差し指がそっと少女の唇に押し当てられた。
『……?』
驚きに瞬きを繰り返すアオイ。
『私の最愛の人を卑下することは、いくらアオイでも許せないな……』
『……っ!!』
あまりの衝撃に口をパクパクさせている彼女が本当に可愛い。
『大好き……お父様っ……!』
『あぁ、私もお前を愛している』
泣き笑いのアオイをそっと抱きしめ、長年の片想いがいま……
――キュリオの妄想の中で成就した。
「……剣士か……いいかもしれないな」
頬を染め、にやける顔を懸命に抑えながらキュリオはボソリと呟いた。
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