【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編

混乱の気配

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 ――ふたりが二度目の眠りに落ちてしばらくすると……


 朝の仕事にいそしむ従者たちの声や足音がポツリポツリと聞こえはじめ、広間ではあるじを迎えるばかりとなった大臣や女官がにわかにざわめいていた。
 それもそのはず、いつもならばすでにこの場にいるはずの王の姿が見えないからだ。

 どんなに睡眠時間が短くとも人の世界でいう午前五時頃には隙のない装いで広間へ姿を現すキュリオ。
 そしてこの初老の大臣は彼に仕えて早五十年。
 執務の関係でキュリオの起床が早まることはあろうとも、遅れたことはただの一度もなかった。

 "散策に出られているに違いない! "そうあってほしいと願う大臣は焦りを押し隠しながら周りへ問う。

「……誰か、キュリオ様をお見掛けした者は?」

「い、いいえっ……」

 真っ先にそう答えたのは隣りに立つ女官だ。有り得るはずのない事態に不安な表情を浮かべる彼女はオロオロと挙動を乱している。
 さらに情報を集めようと聞きまわるが、結局その場にいた数十名の従者から王の目撃情報を得る事はできずに大臣は広間を飛び出した。

「……っおぬし!」

 咄嗟に目の前を通った女官へ勢いのままに訪ねる。

「キュリオ様を見ておらんかっ!?」

「え? あ……」

 呼び止められた彼女は"そういえば……"と言わんばかりの顔をして振り返る。

「ノックいたしましたが御返事がございませんでしたので、まだおやすみになられているのかと……」

 そこから急に口角を上げた彼女は、手にしていた何かを目の前に広げ……――

「見てください大臣! どうです!? 可愛いでしょうっ!!」

 動物の耳をモチーフにしたフード付きの可愛らしい幼児服が視界いっぱいに揺れる。

「…………」

 呆気にとられポカンとしている大臣を余所よそに女官は瞳を輝かせながら小さな服を抱きしめ、恍惚の色を浮かべて続ける。

「はぁーーっ
早い者勝ちであの子に着せる服が決まりましたの!!
早起きした甲斐がありましたわっっ!!」

 今度は鼻歌を歌いながらその服とダンスをはじめたため、大きな手がかりを得た大臣は早々に話を切り上げようと女官を宥める。

「ま、まぁ……キュリオ様がお咎めになるとは思わないが……ほどほどに、な……」

「はぁーいっ」

 なんとも言い難い会話をふたりが交わしている頃、ここ最近の出生状況を確認していた数人の家臣たちが向こうからやってきた。

「大臣殿、昨日保護された赤子の件ですが……」

「おぉ! 早いな。で、どうだった?」

「……はい、それが……――」

 歯切れの悪い家臣に嫌な予感がよぎる。
 ――それから報告を聞き終えた大臣は驚きのあまり呆然と立ち尽くしてしまった。

「なんということだ……」

「我々、キュリオ様に御報告をと参った次第でありますが……
大臣殿、大丈夫ですか?」

 いまにも倒れてしまいそうな大臣へ心配そうに声をかけてきた若い家臣たち。
 王に仕える従者は年寄りに優しく、真面目な者が多い。逆に勝気で、城に笑いを齎すのは女官や侍女に多い傾向が昔からあると聞く。

 しかし……

(……あの赤子が城にもたらすのは笑いではなかったか……)

 そしてようやく口を開いた彼は、もう一度見落としがないか確認するよう指示し――

「キュリオ様には儂から御報告申し上げる。下がってよいぞ」

「畏まりました。よろしくお願いいたします」

 丁寧に頭を下げ、その場から立ち去る彼らを見送った後……大臣は城の最上階にある王の寝室へと急いだ。

「…………」


”悠久の民ではないかもしれない……? ”

"はい、ここ最近生まれた赤子で所在が不明な者はおりません。人攫い、迷子の届け出もなく、いまのところ該当者なしです "


 先ほどのやりとりを思い出しながら、大臣はキュリオの部屋の前で勢いよく立ち止まり顔をあげる。不安に駆られた鼓動が上がった息を助長させ、嫌な汗が額を伝った。

(……他国の民が悠久の地へ赤子を置き去りにしたと?
そんなことをして喜ぶのは奴等しかいないっ……!)

「……っ……」

 目の前に広がる重厚で美しい扉はかたく閉じられ、悠久に君臨するキュリオ王がまだ眠っているであろうことは明らかだった。

 彼がもってきた報告は朗報か悲報か……
 それはキュリオにしかわからないものだった――。
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