【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編

ヴァンパイアの王の憂鬱

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――カツンカツン……


 巨大な月に照らされた古城を歩くのは、この国で唯一、紅の瞳を持つヴァンパイアの王・ティーダだった。一族は皆、妖艶でほとんどが若々しい姿を保っているが、こうしていられるのも生命の力に満ち溢れた人の生血を糧としているからだと言われている。

そして主に狙われるのは力の持たない悠久の民たちだった。他の国には武器を持ち、戦いに慣れた者がいる。雷の国の民などがよい例だろう。ヴァンパイアはこの世界が創生された遥か昔、人間を捕食していたことがあり、犠牲になった民を抱えた悠久の王が激昂したのはいうまでもない。しかし、当時のヴァンパイアの王は第一位の実力を誇っており、悠久の王が苦戦したという言い伝えが残っている。

 ティーダは見晴(みはらし)のよい塔のバルコニーの手摺へもたれかかる。冷たく流れる風が彼の艶やかな髪を揺らし、古城の空気を巻き上げてまた空へと帰っていく。なんの面白みもない景色と空。この国はいつでも黒、赤……そして不気味なほどに巨大な月の光りのみが交差しており、悠久のように色鮮やかな風景はどこにもなかった。

 かつての比較的温和なヴァンパイアの王たちが花を育てようと試みたが、太陽の光など届かぬこの国でそれを叶えることはやはり難しいらしい。初めて悠久の地に足をつけ、吸血行為を行おうとした若いヴァンパイアが己の国との違いに衝撃を受けたのはいうまでもない。日の光が苦手とする彼らは、悠久の日が暮れてから行動にでるが、それでもあの国の鮮やかさや風の匂いはいつでもあたたかく甘い香りがするのだ。

さらに恵まれた豊かな大地と、偉大な王に守られた瑞々しい民たちの生血は極上だった。いらぬ衝突を避けるためにも捕食こそしなくなったが、今でさえ行き過ぎた吸血行為により悠久の民を殺してしまう未熟なヴァンパイアもいる。それに対し、キュリオが激怒するのはわかる。しかし、悠久の民とて動物の血や肉を食らい生きていることには変わりない。人を殺せば悪で、動植物を殺すのは善とされる道理は一体何なのだろうか。

「世の中ってのは理不尽なもんだな……」

 空を見上げ、ひとり呟いた彼の声に答えはない。自分の代で何かが変わるとは思えないが、なにせ敵が多い。現時点で少なくとも、悠久の王と精霊王は自分を嫌っているはずだからである。

「キュリオの子供なのか? あのガキ。また煩いのが増えるのはごめんだぜ――」

思い出すのは優しい雰囲気に包まれた穢(けが)れの知らぬ純粋無垢な赤子の瞳。その赤子が将来キュリオのようになるかと思うとため息が出そうなティーダだった――。

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