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第一部
第89話 友人とは
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温泉から出ると、先に上がっていた筈のオデイエ卿が待ち構えていて、侍女と一緒にあれやこれや世話を焼いてくれた。
部屋に戻ると、伯爵邸の応接室のソファよりもふっかふかのソファーに座らされる。窓の外、白いバルコニーの向こう側には、夕陽色に染まる湾に浮かぶ船の姿。
肩と膝に上質な絹の上掛けを掛けられ、美味しそうな料理と飲み物が、ワゴンで運ばれてきた。
――完全に、病人扱いであった。
(……言えない。これは、言えない)
「船では、思うさま旅行気分を味わい、のほほんと楽しく過ごしておりました」
なんて、言えない。
いたたまれなさ、ここに極まれり、青ざめていると、馬を持ち主に返してきました、とウェイン卿が戻ってきた。
目が合うなり、心配そうに顔を曇らせる。
あれやこれやが記憶に新しいこの胸は、もはや条件反射で、ずきゅんと鳴る。
「令嬢……? 顔色が優れないようですが……食欲がありませんか?」
「いっ、いえ! そういうわけでは! この度は、色々とご配慮くださって、ありがとうございます!」
単に、いたたまれなさ過ぎて、消えたくなっているだけであった。
ウェイン卿は、顔を曇らせたまま、口を開く。
「伯爵邸には早馬を出しました。今日中には連絡が行くでしょうが、レディ・ブランシュとロンサール伯爵は、令嬢に早く会われたいでしょう。明日の朝、出発するつもりですが、もし、体調が優れないなら――」
「いいえ! わたくしは、本当に何ともありませんので。お気遣いありがとうございます」
精一杯、微笑んで見せたが、ウェイン卿の顔は曇ったままだった。
「明日は長旅になります。少しでも、召し上がれますか?」
そう言って、目の前の食事を指し示す。
魚介の出汁たっぷりブイヤベース。牛肉の赤ワイン煮込み。ラタトゥイユ。彩り美しいテリーヌ。シャンピニオンのファルシ。焼きたてのキッシュにバゲット。いずれも、垂涎ものの輝きを放つ。
だがしかし、わたしはやらかした身の上。食欲の赴くまま、美食に舌鼓を打つのは、さすがに人としてどう……?
「……はい、いえ。折角でございますが、あまり、食欲がございませ――」
言いかけた途中で、ウェイン卿の眉間の皺は深まる。瞳は憂いを深める。唇は引き結ばれる。……医者を呼ばれかねない気配を察す。
「……いえ、やはり、ありがたく、頂戴します」
そろそろと海老と野菜のテリーヌに手を伸ばすと、ウェイン卿がさっと手を出し、テリーヌの皿をわたしの目の前に差し出す。
「……まあ、あの、ありがとうございます……!」
気遣いに感動しながら受け取ろうとすると、その赤い瞳を優しく細め、わたしの顔をじっと見つめながら、ありえない言葉を放った。
「ご自分で召し上がれますか?」
(……ゴジブンデメシアガレマスカ……?)
見回すと、さっきまでいた筈のキャリエール卿やオデイエ卿、給士、侍女の姿が忽然と消えている。たまたま用事が重なって出て行ったのか、部屋に二人きりになっていた。
これは……?
……もしや、このわたしが、ウェイン卿に、
――あ、甘やかされている……!?
ここで、「フォークが重すぎて、持てそうもありません」と甘えた声で言ってみたら……?
……あーん? あーん、なの……?
(『友人』って……『友人』って、そんなことまでしてもらえるの……!?)
試しに言ってみたい欲求。溢れ出る汚れた煩悩。そのどちらをも、渾身の精神力で叩き潰す。
「もちろん、自分でいただきます」
努めてきりっと言った途端、ウェイン卿の瞳に落胆の色が浮かんだように見えたのは、きっとこの煩悩が見せた幻だ。
テリーヌはさっぱりした口当たりで、とても美味しかった。一口、口に入れると、途端に食欲が湧いてくる。健康な身体は正直である。頬は緩む。
ウェイン卿はほっとしたようにわたしを見た。
「……お怪我がなかったと聞いて、安心しました」
「はい……。この度は、皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけし、誠に申し訳なく――」
フォークを置いて、恐縮して口を開くと、ウェイン卿は慌てた。
「いえ、そのまま、召し上がっていてください」
……『友人』って、すごい!
あの、ウェイン卿が‥‥‥! このわたしに優しい……!
――それにしても、一体いつ、どの時点で、わたしと友人になっても良い、と思うほどの心境の変化があったんだろう……?
聞いてみたい気もしたが、やはり、止めておく。
友人と言ったって、明日、王都に帰ってしまえば、この人とわたしの人生で交わる点は、きっともうない。
義兄になるノワゼット公爵と顔を合わせる際に、たまたま幸運にもウェイン卿が同席していたら、挨拶を交わせるくらいだろうか?
(……寂しい、なんて思わない)
望まない。願わない。
恋に落ちたその瞬間、決して、ウェイン卿に迷惑はかけるまいと、心に決めたのだ。
(……決めて、いたでしょう?)
ウェイン卿を見ると、入り江に迎えに来てくれた時には、ところどころ土で汚れていたシャツは真っ白だし、全体的にこざっぱりしている。シャワーを済ませ、着替えたのだろう。
「ウェイン卿は、その……お怪我、大丈夫ですか?」
形のいい唇の横の切れたような跡が痛々しい。
「はい、ま……ったく、問題ありません。薄汚い狐に引っかかれただけですから」
にっこり、と細められた瞳の奥が、ほんの一瞬、仄暗く陰った気がしたが、すぐに元の優しい光を宿す。
「狐……? まあ、珍しいですね。メイデイランドには、狐が出るのですか?」
「はい。狡賢いのが一匹、紛れ込んでいたようで。令嬢が気にされることではありません。この先、令嬢の前に現れることは、決して、金輪際、何があっても、ありませんから」
それはそれは美しい笑みを浮かべて、ウェイン卿は言い切った。優しい声で続ける。
「……ところで、わたしもご一緒させて頂いても、構いませんか?」
「はい、もちろんでございます。このテリーヌ、とても美味しいですよ」
ウェイン卿もお疲れで空腹だろうに、気が利かなかった。
では失礼します、と微笑んで、ウェイン卿は真向かいに座った。
(………ウェイン卿と……一緒に食事……)
思えば、ここのところずっと、夢を見ているようだ。
屋根裏からほとんど出たことのなかったわたしの暮らしは、ウェイン卿に命を狙われることになってから、激変した。
最後には心優しい海賊達と船で旅をし、船を降りると、そこにウェイン卿が迎えに来てくれていた。
そして今、私服のウェイン卿と、向かい合ってソファに座り、軽い夕食を食べている。
もう二度と起こり得ない、夢で見ることすら恐れ多い出来事。
―― 一生分の幸せを、貰ってしまったな……。
―― この奇跡のような幸福のことは、生涯、忘れまい。
ウェイン卿は、ロウブリッターについて質問したいのだろうと思っていたが、不思議なことに、それに関しては何も聞かれなかった。
ただ、食事をしながら、とりとめのないことを、ぽつり、ぽつり、と話しただけだった。
§
「さっきの消えっぷりは、我ながら見事なナイスフォローだった……」
アルフレッド・キャリエールが取っ手付きのビアグラスをどんっとテーブルに置き、自画自賛の台詞を呟き、満足げに頷く。
船乗り達の良く通る大声が響く、港町の酒場。その喧騒は隣の席の声をも掻き消す。
一足先に王都に戻る他の大勢の騎士を見送ってから、三人の騎士は、六日ぶりに寛いだ心地で時間を潰していた。
「確かにね。若い男女が景色の良い密室で二人きりで食事。さすがに、これで進展しないわけがないわよね」
パスティスの水割りグラスを空け、意気揚々とお代わりを注文しながら、ルイーズ・オデイエも満足げに頷く。
「ここのところのウェインの憔悴ぶりは、見ていられないものがあったからな。何とか上手く行ってほしい」
ハチミツ入り糖分多めミルクセーキにストローを刺し、ラッドが口を開く。
オデイエとキャリエールは、大きく頷いた。
「帰るまでが勝負よ……! 王都にはライバルが多すぎる。ウィリアム・ロブ卿は令嬢に猛攻してる。たぶんだけど、ロンサール伯爵も親友のロブ卿を押すでしょう? あの見た感じ、押しに弱そうな令嬢が、『お従兄様が仰る通りにいたします』って婚約しちゃいそうで不安だわ……! 絶っ対に嫌だけど、ドーン公爵やハミルトン公爵が参戦してきたら、意外すぎるほど奥手であることが判明したウェイン卿に勝ち目があるとは思えない……!」
ラッドとキャリエールが真剣な顔で頷き、やや青ざめる。
「そうだよ……。ウェイン卿、大丈夫かな……? これで、令嬢が別の男と婚約したりしたら……」
リリアーナが誘拐されてから、無事に見つかるまでのこの一週間のレクター・ウェインの様子を思い出し、三人は青ざめて押し黙った。
「流石に……大丈夫でしょ? いくらうちの騎士が揃いも揃って色恋に疎くて武骨で奥手だって言っても、この状況で二人きりよ? ウェイン卿だって、後がないことはわかってるだろうし!」
「そうだな」
「確かに」
頷くラッドとキャリエールに向かい、オデイエがグラスを呷りつつ、言い募る。
「そうそう、いくら奥手って言っても、抱きしめて愛を囁いてキスするぐらいのことは――」
言いかけたオデイエは、顎が外れそうなほど口をあんぐりと開け、愕然と目を見開くラッドとキャリエールに気付き、言葉を失くした。
「だ、だ、だ、抱きしめ……? イヤイヤイヤ、ダッ、ダメだろう! さすがにそれは……!」
「き、き、き、き……? 犯罪だ、さすがにそれは犯罪だ。けっ、結婚前の男女が、ふっ、ふしだらなっ」
頬と耳を薔薇色に染め、あたふたと言い募る、屈強で清らかな乙女騎士二人を冷ややかに見やり、ルイーズ・オデイエは嘆息交じりに呟いた。
「あー、やっぱ無理かも……」
部屋に戻ると、伯爵邸の応接室のソファよりもふっかふかのソファーに座らされる。窓の外、白いバルコニーの向こう側には、夕陽色に染まる湾に浮かぶ船の姿。
肩と膝に上質な絹の上掛けを掛けられ、美味しそうな料理と飲み物が、ワゴンで運ばれてきた。
――完全に、病人扱いであった。
(……言えない。これは、言えない)
「船では、思うさま旅行気分を味わい、のほほんと楽しく過ごしておりました」
なんて、言えない。
いたたまれなさ、ここに極まれり、青ざめていると、馬を持ち主に返してきました、とウェイン卿が戻ってきた。
目が合うなり、心配そうに顔を曇らせる。
あれやこれやが記憶に新しいこの胸は、もはや条件反射で、ずきゅんと鳴る。
「令嬢……? 顔色が優れないようですが……食欲がありませんか?」
「いっ、いえ! そういうわけでは! この度は、色々とご配慮くださって、ありがとうございます!」
単に、いたたまれなさ過ぎて、消えたくなっているだけであった。
ウェイン卿は、顔を曇らせたまま、口を開く。
「伯爵邸には早馬を出しました。今日中には連絡が行くでしょうが、レディ・ブランシュとロンサール伯爵は、令嬢に早く会われたいでしょう。明日の朝、出発するつもりですが、もし、体調が優れないなら――」
「いいえ! わたくしは、本当に何ともありませんので。お気遣いありがとうございます」
精一杯、微笑んで見せたが、ウェイン卿の顔は曇ったままだった。
「明日は長旅になります。少しでも、召し上がれますか?」
そう言って、目の前の食事を指し示す。
魚介の出汁たっぷりブイヤベース。牛肉の赤ワイン煮込み。ラタトゥイユ。彩り美しいテリーヌ。シャンピニオンのファルシ。焼きたてのキッシュにバゲット。いずれも、垂涎ものの輝きを放つ。
だがしかし、わたしはやらかした身の上。食欲の赴くまま、美食に舌鼓を打つのは、さすがに人としてどう……?
「……はい、いえ。折角でございますが、あまり、食欲がございませ――」
言いかけた途中で、ウェイン卿の眉間の皺は深まる。瞳は憂いを深める。唇は引き結ばれる。……医者を呼ばれかねない気配を察す。
「……いえ、やはり、ありがたく、頂戴します」
そろそろと海老と野菜のテリーヌに手を伸ばすと、ウェイン卿がさっと手を出し、テリーヌの皿をわたしの目の前に差し出す。
「……まあ、あの、ありがとうございます……!」
気遣いに感動しながら受け取ろうとすると、その赤い瞳を優しく細め、わたしの顔をじっと見つめながら、ありえない言葉を放った。
「ご自分で召し上がれますか?」
(……ゴジブンデメシアガレマスカ……?)
見回すと、さっきまでいた筈のキャリエール卿やオデイエ卿、給士、侍女の姿が忽然と消えている。たまたま用事が重なって出て行ったのか、部屋に二人きりになっていた。
これは……?
……もしや、このわたしが、ウェイン卿に、
――あ、甘やかされている……!?
ここで、「フォークが重すぎて、持てそうもありません」と甘えた声で言ってみたら……?
……あーん? あーん、なの……?
(『友人』って……『友人』って、そんなことまでしてもらえるの……!?)
試しに言ってみたい欲求。溢れ出る汚れた煩悩。そのどちらをも、渾身の精神力で叩き潰す。
「もちろん、自分でいただきます」
努めてきりっと言った途端、ウェイン卿の瞳に落胆の色が浮かんだように見えたのは、きっとこの煩悩が見せた幻だ。
テリーヌはさっぱりした口当たりで、とても美味しかった。一口、口に入れると、途端に食欲が湧いてくる。健康な身体は正直である。頬は緩む。
ウェイン卿はほっとしたようにわたしを見た。
「……お怪我がなかったと聞いて、安心しました」
「はい……。この度は、皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけし、誠に申し訳なく――」
フォークを置いて、恐縮して口を開くと、ウェイン卿は慌てた。
「いえ、そのまま、召し上がっていてください」
……『友人』って、すごい!
あの、ウェイン卿が‥‥‥! このわたしに優しい……!
――それにしても、一体いつ、どの時点で、わたしと友人になっても良い、と思うほどの心境の変化があったんだろう……?
聞いてみたい気もしたが、やはり、止めておく。
友人と言ったって、明日、王都に帰ってしまえば、この人とわたしの人生で交わる点は、きっともうない。
義兄になるノワゼット公爵と顔を合わせる際に、たまたま幸運にもウェイン卿が同席していたら、挨拶を交わせるくらいだろうか?
(……寂しい、なんて思わない)
望まない。願わない。
恋に落ちたその瞬間、決して、ウェイン卿に迷惑はかけるまいと、心に決めたのだ。
(……決めて、いたでしょう?)
ウェイン卿を見ると、入り江に迎えに来てくれた時には、ところどころ土で汚れていたシャツは真っ白だし、全体的にこざっぱりしている。シャワーを済ませ、着替えたのだろう。
「ウェイン卿は、その……お怪我、大丈夫ですか?」
形のいい唇の横の切れたような跡が痛々しい。
「はい、ま……ったく、問題ありません。薄汚い狐に引っかかれただけですから」
にっこり、と細められた瞳の奥が、ほんの一瞬、仄暗く陰った気がしたが、すぐに元の優しい光を宿す。
「狐……? まあ、珍しいですね。メイデイランドには、狐が出るのですか?」
「はい。狡賢いのが一匹、紛れ込んでいたようで。令嬢が気にされることではありません。この先、令嬢の前に現れることは、決して、金輪際、何があっても、ありませんから」
それはそれは美しい笑みを浮かべて、ウェイン卿は言い切った。優しい声で続ける。
「……ところで、わたしもご一緒させて頂いても、構いませんか?」
「はい、もちろんでございます。このテリーヌ、とても美味しいですよ」
ウェイン卿もお疲れで空腹だろうに、気が利かなかった。
では失礼します、と微笑んで、ウェイン卿は真向かいに座った。
(………ウェイン卿と……一緒に食事……)
思えば、ここのところずっと、夢を見ているようだ。
屋根裏からほとんど出たことのなかったわたしの暮らしは、ウェイン卿に命を狙われることになってから、激変した。
最後には心優しい海賊達と船で旅をし、船を降りると、そこにウェイン卿が迎えに来てくれていた。
そして今、私服のウェイン卿と、向かい合ってソファに座り、軽い夕食を食べている。
もう二度と起こり得ない、夢で見ることすら恐れ多い出来事。
―― 一生分の幸せを、貰ってしまったな……。
―― この奇跡のような幸福のことは、生涯、忘れまい。
ウェイン卿は、ロウブリッターについて質問したいのだろうと思っていたが、不思議なことに、それに関しては何も聞かれなかった。
ただ、食事をしながら、とりとめのないことを、ぽつり、ぽつり、と話しただけだった。
§
「さっきの消えっぷりは、我ながら見事なナイスフォローだった……」
アルフレッド・キャリエールが取っ手付きのビアグラスをどんっとテーブルに置き、自画自賛の台詞を呟き、満足げに頷く。
船乗り達の良く通る大声が響く、港町の酒場。その喧騒は隣の席の声をも掻き消す。
一足先に王都に戻る他の大勢の騎士を見送ってから、三人の騎士は、六日ぶりに寛いだ心地で時間を潰していた。
「確かにね。若い男女が景色の良い密室で二人きりで食事。さすがに、これで進展しないわけがないわよね」
パスティスの水割りグラスを空け、意気揚々とお代わりを注文しながら、ルイーズ・オデイエも満足げに頷く。
「ここのところのウェインの憔悴ぶりは、見ていられないものがあったからな。何とか上手く行ってほしい」
ハチミツ入り糖分多めミルクセーキにストローを刺し、ラッドが口を開く。
オデイエとキャリエールは、大きく頷いた。
「帰るまでが勝負よ……! 王都にはライバルが多すぎる。ウィリアム・ロブ卿は令嬢に猛攻してる。たぶんだけど、ロンサール伯爵も親友のロブ卿を押すでしょう? あの見た感じ、押しに弱そうな令嬢が、『お従兄様が仰る通りにいたします』って婚約しちゃいそうで不安だわ……! 絶っ対に嫌だけど、ドーン公爵やハミルトン公爵が参戦してきたら、意外すぎるほど奥手であることが判明したウェイン卿に勝ち目があるとは思えない……!」
ラッドとキャリエールが真剣な顔で頷き、やや青ざめる。
「そうだよ……。ウェイン卿、大丈夫かな……? これで、令嬢が別の男と婚約したりしたら……」
リリアーナが誘拐されてから、無事に見つかるまでのこの一週間のレクター・ウェインの様子を思い出し、三人は青ざめて押し黙った。
「流石に……大丈夫でしょ? いくらうちの騎士が揃いも揃って色恋に疎くて武骨で奥手だって言っても、この状況で二人きりよ? ウェイン卿だって、後がないことはわかってるだろうし!」
「そうだな」
「確かに」
頷くラッドとキャリエールに向かい、オデイエがグラスを呷りつつ、言い募る。
「そうそう、いくら奥手って言っても、抱きしめて愛を囁いてキスするぐらいのことは――」
言いかけたオデイエは、顎が外れそうなほど口をあんぐりと開け、愕然と目を見開くラッドとキャリエールに気付き、言葉を失くした。
「だ、だ、だ、抱きしめ……? イヤイヤイヤ、ダッ、ダメだろう! さすがにそれは……!」
「き、き、き、き……? 犯罪だ、さすがにそれは犯罪だ。けっ、結婚前の男女が、ふっ、ふしだらなっ」
頬と耳を薔薇色に染め、あたふたと言い募る、屈強で清らかな乙女騎士二人を冷ややかに見やり、ルイーズ・オデイエは嘆息交じりに呟いた。
「あー、やっぱ無理かも……」
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