屋根裏の魔女、恋を忍ぶ

如月 安

文字の大きさ
173 / 194
第二部

第70話 事態、動くー02

しおりを挟む
 ――バケモノめ。

 長椅子に深く凭れ、男は呻いた。体に力が入らない。息をする度、肺に走る痛みを少しでも逃すため、浅い呼吸を繰り返す。おかしいぞ。どこをどう間違えて、こうなった――――。


 ハーバルランド外交官夫人を脅し、うまく王宮に侵入できた。
 あとは、ターゲットを消すだけ。あと少しで、帳消しにできる。あのお方のお怒りを解ける。そう思ったのに――
 下卑た笑いが満ちる中、お仕着せに身を包んだ配下のひとり――最近入ってきた女だ――が、すっと右手を上げたのだ。

「質問があります」

 ここに連れて来る前、使い物になるか試してみた。
 非力な小娘のような外見に似合わず、そこそこ銃の腕は立った。お仕着せのスカートの下、白く細く柔らかそうな足首に巻いた帯革を想像して、知らず頬が緩んだ。
 もちろん、配下には、女より遥かに腕の立つ強者を揃えている。しかし、実力は劣ろうとも、華がある女がいるとやはり気分がいい。贔屓目に、柔らかく頷いてやる。

「いいとも」
 
 つれない視線をこちらに向けて、アナベルと名乗った女は口を開いた。

 ――アナベル。そんな名の白アジサイがあったな。なかなかどうして、この娘の纏うお高く止まった空気に、ぴったり合うじゃないか。

「あと五人、いたはずです。彼らはどこに?」

 おや、と内心でひっそり首を傾げる。

「……別のルートで侵入している。詳細は、君らが知る必要はない」

 配下のうち、最も手練れの暗殺者は、別の門から侵入させた。この作戦には、何よりも大事な己の命がかかっている。失敗は許されない。「それでは――」とアナベルは淡々とした口調で続ける。

「ロンサール姉妹と修道士モンクの関係は?」

 ――おいおい。この場でそんなことを言い出して、どんな目に遭うかも分からないほど、愚かではないだろう?

「……それも、知らなくていい」

「では、ターゲットの男は、何者です? 裏切り者ですか?」

「……知らなくていい」

 そうですか――と応えたアナベルの気の強そうな眼差しから目を逸らして、ため息をつく。

 ――残念だ。

 気に入っていたのに。この状況でなければ、してやることもできた。
 愚か者だって、そう嫌いでもないのだ。女なら、可愛がりようはいくらでもある――だが、この場ではどうしようもない。壊すしかない。惜しむように、思わずため息をついた。

「……どうやら、鼠が紛れ込んでいたようです」

 酷薄な声を落としたのを合図に、部屋の空気は一変した。

 瞬く間に、腕の立つ男達が細く小さなアナベルの身体を取り囲む。薄嗤いを浮かべ、目をぎらつかせた手下たちは舌を嘗めずった。

 まったく意外なことに、アナベルは少しも怯んだ様子を見せなかった。
 ゆっくりと顎を引き、海色の瞳をゆらりと揺るがせる。
 次にはてっきり、スカートをたくし上げ、白い足に差した銃を抜き取る――と思ったのに、彼女はマントルピースに鎮座する銀の燭台に手を伸ばした。


 そうして、現在。

 配下の男たちは一人を除いて、絨毯の上に転がっている。一様に白目を剥き、口から泡を吹いて。
  目の前で、バケモノが北極海のような瞳をすうっと眇めた。細い手の中で、おそらく王宮の侍女によって曇りなく磨き上げられた燭台が、眩しいほどに光っている。

「――訊かれたことに答えろ。侵入した他の五人はどこだ? 修道士モンクとレディ・リリアーナ・ロンサールの関係は?」

 真夜中に降る雪を思わせる冷淡な声を浴びて、まるで怯えた小鹿のように自身の体が強張る。

「まあまあ」と穏やかな声で女を遮ったのは、糸のような目をした男である。
 こいつは、どういう事情で俺の配下になったのだったか。確か、なかなか使える奴だから、と誰かが連れてきた。
 特に目立った取り柄もない、毒にも薬にもならない男――いつか捨て駒くらいにはなるか、と手元に置くことにした。それが――
 
「あまり責め立ててやるなよ、アナベル。彼、肋骨が折れちゃってる。可哀想じゃないか」

 糸目を一層細めて、男は言った。アナベルと呼ばれた女が、ふっと皮肉っぽく笑う。

「よく言う」

「…………こんな真似をして、ただで済むと思うな。貴様らがどこに逃げようと、修道士モンクを裏切れば、地獄に――」

 言いかけた途中、ぷっ! と吹き出した糸目の男が、「失礼」と口許を押さえた。

「いや、ごめんなさい。人の本気マジを、笑っちゃいけないですよね」

 反省――とでも言いたげに、男は片手を胸に当てる。

「オウミ、遊んでないで早く。何なら私がやる」

 女の掌中で銀に光る燭台に視線が引き寄せられ、胸がすうっと冷える。
 言われたオウミは、弱ったように眉尻を下げて、俺にむかって声を潜めた。

「すみません、彼女、ちょっと短気で。アナベル、暇なら……そこらへんの伸びてる連中、縛っといたら?」

 呆れたように海色の目を細めて、アナベルは「だいじょうぶ」と応えた。

「目が覚めても、もう、欲望のままには動けない。二度と」

 淡々と、こともなげに発された声を聞いて、視線を下げる。高級な絨毯の上に投げ出されている、配下たちの手足。いずれも歪な方向を向いている。あそこまで曲がった手足は、いつか元に戻るのだろうか、と考えて、もう治す時間などないのだと気付く。
 
 作戦は、失敗したのだ。

 失態を咎める、あのお方の穏やかな声が過る。

 ――『困ったね。僕に黙って、こんな下手を打たれちゃあ』

 些細な出来心。最初はちょっとした小遣い稼ぎのつもりだった。

 ――『そうだな……王宮にいる男をひとり、消しておいで。どうだい? 他愛もないことだ。それで、手打ちにしてやろう』

 修道士モンクを裏切った人間は、普通には死ねない。遠い東に、罪人に残酷な刑を科すことで有名な国がある。修道士モンクはそこの王宮のやり口を、いたく気に入っている。悠久の歴史と突き詰められた美学を感じるらしい。

 けれど、俺は、失敗したのか――――?

「良かったね」

 オウミは俺に向かってにっこり笑った。

「君だけは傷が浅いぞ。今から、たっぷりお喋りできる」

 じとり、全身に汗が滲む。自分は、怖いのだ。この状況が。あの女の、人ならざるものを思わせる動き。配下の者を打ちのめすときも、眉一つ動かさなかった。氷の彫像のような無表情。この女は、害虫を踏み潰すよりもためらいなく、自身の命を消すだろう――

「……貴様ら、何者だ?」

 震える声で問うたその時――

 外交官室のドアが、外側から叩かれた。

 ――助かった。
 
 思わずほっとした自分に気づいて、ぎくりとした。助けなど、来るわけがない。ここは王宮だ。けれど、衛兵や王宮騎士が乗り込んでくることを、自分は期待している。
 自分は、この得体の知れない女を畏れている。
 理屈じゃない。同じ部屋にいたくない。逃げ出したい。

「どなたか、いらっしゃいますか? 王宮内に侵入者があった模様です。室内の安全確認をさせていただきたく――」

 一生、シャトー・グリフに閉じ込められてもいい――ここから連れ出してくれ。
 アナベルとオウミが眉を顰め、顏を見合わせた。かと思えば、躊躇いもせず、ドアノブに手を伸ばす。

「……うわぁ。お前ら、ここにいたのかよ」

 ドアの向こうから気安い声が聞こえ、己の期待が泡沫に消えたことを知る。

 紫紺の騎士が、後ろ手にドアを閉めながら室内に足を踏み入れてくる。――ブルソール国務卿の騎士が、なぜこんな場所にいるんだ。

「レオン?」

「ああ、そっか。ここの外交官夫人、ギャンブル依存症で有名だったね。利用されたか。――いやあ、悪い悪い」

 レオンと呼ばれた紫紺の騎士は、少しも悪いと思ってなさそうな軽い口ぶりで言いながら、トレードマークの不気味な白仮面をあっさりと脱いだ。さっぱりと整った顔立ちが現れる。

「俺、しくじったみたい。プファウ達の方が罠で、ブルソールに見抜かれた」

 仮面は指の先に引っかけられ、器用にくるくる回っている。アナベルが、ふうん、と感情の読めない顔で頷く。オウミは両手を上げて軽く肩を竦めて見せた。

「まあ、五人もいれば、逃げるくらいなんとかなるだろ」

「それより、レオンも来たならちょうどいい。そいつ、早く吐かせて。修道士モンクが、レディ・リリアーナを気に入ってるらしい」

 へえ――と凍った眼差しがこちらを向いた途端、びくり、と心臓が跳ねた。

「得意分野でしょう」

 壁際で腕を組んだ女が、しれっと続けて言う。

 なんだろう? これは? どういうことだろう? 俺はどうなる? さっぱり分からない。
 混乱した頭で、必死に考える。雑に散らばったピースを組み合わせ、必死に考える。

 ああ、そうか……。俺は、俺は――

 アナベルに言われて、二人の男がこちらに向き直る。レオンと呼ばれた男が、物珍しそうに瞳を瞬いた。

「へええ。この人が、あの有名な修道士の頭巾党モンクスフードの幹部にして、強制売春の元締め? ハイドランジアから騙して連れてきた少女たち、こき使ってたって? 人は見かけによんないなぁ。普通にエロそうではあるけど、そこまでエロそうな顔でもないじゃん?」

 青灰色の瞳が、三日月の弧を描く。男の手が、自身の左肩に伸びてきて、ぎくりとするが、その手は軽く埃を払っただけだった。

「敗けて逆らえない弱いものから搾取して、楽しんだか?」

 軽く触れられただけで、全身が強張った。さっき女に折られた肋骨がズキズキと痛み、思わず顔をしかめる。

「だけど、この程度ならオウミ一人でいけんだろ。俺ちょっと、すごいこと思いついちゃってさ。天才かもしれん。ここに来たのはマジ偶然。おい、おっさん、良かったな。オウミに訊かれて、耐えた人間は今までいない。すごい技が見られるぞ。――冥途への、いい土産になる」

 明るい声で言いながら、部屋の隅に掛けられた絵画を外したかと思うと、額縁の裏を調べ始めた。
 そのまま、レオンという男はこちらへの興味を失ったように、「さがしものはなんですかあ」と調子っぱずれな歌を小声で口ずさみ始める。オウミが柔らかく微笑む。

 こいつは、たいしたことなさそうだ。捨て駒くらいにはなるか。そう思っていた――

「すごい汗だけど、大丈夫かい? 事情はわかってる。修道士モンクを裏切ったら、報復が怖いものね」
 
 優しい口調の中に潜む、底知れないもの。

 ああ、わかった。

 ――俺は、間違えた。


「急ごう。無駄に長引かせるのは、お互いの為にならないもんね」

 優しい声が、問いかけてくる。
 額から吹き出る汗が玉を結んで、目に入る。激しく瞬きながら、必死で首を横に振る。

「大丈夫だ。アナベルは、レオンの方、手伝ってやって。何を思い付いたかは知らんけど。修道士モンクは恐ろしい男だから、この彼、頑張っちゃうだろうからね。だけど――」

 アナベルは呆れた溜め息を落としながら、銀の前髪をかき上げた。涼しい声で、「早くね」とだけ言うと、素直にレオンの方に向き直る。
 そうして、どこか上の空の様子で、アナベルは呟いた。


「……令嬢の……知り合いの中に、修道士モンクがいる……?」


 この女は、間違いなくヤバい。

 だけど、違う。本当にヤバいのは――――


 ――ここまで登って来るのは、苦労した。

『おかえり。今日はどうだった?』

 かつて、陽が当たらない黴臭い小屋に帰る度、生まれて一度も化粧をしたこともない窶れて醜い母は必ずそう聞いた。
 いいことなんかあるわけない。つまらない親から生まれてしまったばっかりに。周りにいるのは、つまらない人間ばかり。生まれる場所を、間違えた。
 欲しい物は、何も手に入らなかった。

 ――おかしいじゃないか。

 俺は頭がいいのに。周りの奴らはみんな、馬鹿だ。慎ましくも穏やかな生活? そんなもの、ゴミとしか思えなかった。

 だから、何もかも捨てた。

 際限なく湧き上がる欲を、満たして生きてきた。一流の家に住み、一流の品に囲まれ、一流の女を抱いた。
 うまくやってきた。
 天性の、この勘のお陰だ。人の欲望を、金の湧く泉を、嗅ぎ当てる一流の勘。

 修道士モンクには逆らわない。気に入ってもらえるように、誰よりも多く上納金を納めてきた。
 少しばかり欲をかいて、賭場の他に強制売春にも手を出したのが良くなかった。金は湯水のように湧いたが、どこで知られたのか、青竜の騎士に摘発を受けた。

 あのお方の、不興を買う羽目に。

 全身はもう、シャワーを浴びたようにぐっしょりと汗で濡れている。

 ああ違う。間違えた。ずっとずっと、登っていたはずだったのに。

 気づけば――今、深い深い、底にいる。もうどうやったって、這い上がれない。

 オウミと呼ばれる男の、柔和そうな顔が綻ぶ。
 自慢にしてきた勘が、警鐘を鳴らす。一番やばいのは――――


「――すぐにおわるよ」


 ――――――この男だ。

 あぁ……と咽喉の奥から掠れた声が漏れて、自分が泣き出したいのだと気づく。もう二十年以上、顔も見ていない母の声が、聞こえた気がした。

 ――『おかえり。今日はどうだった?』

 オウミの手が、俺の方に伸びてくる。


 母ちゃん! 母ちゃん! と大声で叫び出したかった。


 

 
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

処理中です...