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匂い
引っかかる
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一嶌久希は最近、つがいが最近よく使うリップクリームの匂いに引っかかりを覚えていた。
彼のつがいである澄也は、ショートカットが良く似合う中性的な美人で、自分の見せ方をよく知っている。彼の身につけるものには、すべてこだわりが詰まっている。
そんな彼のお気に入りを取り上げるわけにもいかず、結局久希は口を閉ざす。
仕事へ行く前に、久希は澄也にキスをしようと思ったのだが、澄也はちょうど件のリップクリームを塗っているところだった。唇を近づける手前でほんの少し迷いが出てしまった。
「久希さん、もしかしてこの匂い嫌い?」
澄也は久希の変化を感じ取り、顔の前でリップクリームを振って見せた。これには降参するしかなかった。
「嫌いというほどではないのだが、あなたの匂いと混ざってしまうのが、残念で」
澄也に出会う前までは、オメガの甘ったるい匂いはむしろ苦手だった。だが、澄也の放つ匂いは別だ。常に嗅いでいたいと思うほど好ましい。
「わかった。じゃあコレは家では使わない」
澄也はあっさり言って、コットンになにやら液体をしみ込ませ、さっさと落としてしまった。
「無香料の奴にするね。久希さんにキスしてもらえなくなったら困るから」
「あ、ああ」
めまいがするほど可愛いことを言われてしまった。
「もしかして、化粧品の匂いも嫌?」
「うん、だが、美しく装った澄也を見るのは好きだ」
「よかった。俺も好き」
澄也はふわりと笑う。
「もちろん、澄也はそのままでも美しいと思っている」
久希が真剣な顔で言うので、澄也は満足して笑みを深めた。
頭に浮かんだ言葉をそのまま言ってしまった、みたいな調子だったので余計に嬉しい。
久希はアルファの男性らしく、オメガとは違った美しさがある。直線的な眉、きりりとした目元。そして均整のとれた逞しい体。
だが澄也が惹かれたのは、この素直さだ。
久希は慈しむように、澄也の髪に触れた。それから、眉、まぶた、鼻筋、くちびるを優しくなぞる。
彼の指は首筋から鎖骨に下りてゆき、胸の先端でくるりと円を描いた。
どこまで行く気なのか、面白がっていた澄也だが、彼の指が中心線からへそへ降りたあたりで余裕がなくなった。
もう少し――。
と思うところで彼の指がピタリと止まる。
「帰ったら、いいだろうか」
「……いいよ」
仕事へ出かける久希を玄関まで見送って、内側からカギをかけると、澄也はドアに頭をくっつけた。
「帰ってくるまで待てるかな」
無理。とすぐに自答する。
そこで、洗濯籠に放り込まれた久希のパジャマを取り出して、ベッドに持ち込んだ。
彼の匂いを嗅ぎながら、自分で処理してしまおうと思うのだがどうにも満足できない。
クローゼットから肌着やジャケット、ネクタイを集めてベッドの上にこんもりと積み上げる。そこに頭を突っ込んだら、ようやく満足できた。
久希の匂いに包まれたら、あとは邪魔な服を脱ぎ捨てる。
ゆるく立ち上がった自分のものに手を伸ばしながら、先ほどの久希の熱っぽいまなざしと指先の感触を思い出す。
「久希さん……」
そこへ久希が扉をバーンと開けて入ってきた。
「澄也! 聞き忘れていた、今日は何が……」
おそらく夕食のリクエストでも聞きに来たのだろう。そんなのメッセージで済ませればいいものを。
二人はしばし固まった。
先に動いたのは澄也だ。ぴゃっと布の塊に引っ込んで、布団もかけて引きこもる。
すると、久希が電話をかけ始めた。
「一嶌だ。すまないが、今日の予定すべて午後にずらしてくれ」
驚いて澄也が頭をひょっこり出した時にはもう通話を終えていて、久希はスーツの上着を脱ぎながら、ベッドを覗き込んだ。
「こんな状態のつがいを、ひとりにしておけないだろう」
ネクタイを外し、スラックスも脱いでハンガーに掛ける。
「それもちょうだい」
澄也はここまで来たら、恥じらうよりも欲望に従うつもりだ。
「これは午後からまた着るんだ」
「ぱんつは履き替えたっていいだろ」
「……欲しいのか」
無言でうなずく。
「ワイシャツは?」
「いる」
まだぬくもりの残る下着を手に入れて、澄也は喜んで匂いを嗅いだ。
「本人は要らないのか」
「早く触って」
彼のつがいである澄也は、ショートカットが良く似合う中性的な美人で、自分の見せ方をよく知っている。彼の身につけるものには、すべてこだわりが詰まっている。
そんな彼のお気に入りを取り上げるわけにもいかず、結局久希は口を閉ざす。
仕事へ行く前に、久希は澄也にキスをしようと思ったのだが、澄也はちょうど件のリップクリームを塗っているところだった。唇を近づける手前でほんの少し迷いが出てしまった。
「久希さん、もしかしてこの匂い嫌い?」
澄也は久希の変化を感じ取り、顔の前でリップクリームを振って見せた。これには降参するしかなかった。
「嫌いというほどではないのだが、あなたの匂いと混ざってしまうのが、残念で」
澄也に出会う前までは、オメガの甘ったるい匂いはむしろ苦手だった。だが、澄也の放つ匂いは別だ。常に嗅いでいたいと思うほど好ましい。
「わかった。じゃあコレは家では使わない」
澄也はあっさり言って、コットンになにやら液体をしみ込ませ、さっさと落としてしまった。
「無香料の奴にするね。久希さんにキスしてもらえなくなったら困るから」
「あ、ああ」
めまいがするほど可愛いことを言われてしまった。
「もしかして、化粧品の匂いも嫌?」
「うん、だが、美しく装った澄也を見るのは好きだ」
「よかった。俺も好き」
澄也はふわりと笑う。
「もちろん、澄也はそのままでも美しいと思っている」
久希が真剣な顔で言うので、澄也は満足して笑みを深めた。
頭に浮かんだ言葉をそのまま言ってしまった、みたいな調子だったので余計に嬉しい。
久希はアルファの男性らしく、オメガとは違った美しさがある。直線的な眉、きりりとした目元。そして均整のとれた逞しい体。
だが澄也が惹かれたのは、この素直さだ。
久希は慈しむように、澄也の髪に触れた。それから、眉、まぶた、鼻筋、くちびるを優しくなぞる。
彼の指は首筋から鎖骨に下りてゆき、胸の先端でくるりと円を描いた。
どこまで行く気なのか、面白がっていた澄也だが、彼の指が中心線からへそへ降りたあたりで余裕がなくなった。
もう少し――。
と思うところで彼の指がピタリと止まる。
「帰ったら、いいだろうか」
「……いいよ」
仕事へ出かける久希を玄関まで見送って、内側からカギをかけると、澄也はドアに頭をくっつけた。
「帰ってくるまで待てるかな」
無理。とすぐに自答する。
そこで、洗濯籠に放り込まれた久希のパジャマを取り出して、ベッドに持ち込んだ。
彼の匂いを嗅ぎながら、自分で処理してしまおうと思うのだがどうにも満足できない。
クローゼットから肌着やジャケット、ネクタイを集めてベッドの上にこんもりと積み上げる。そこに頭を突っ込んだら、ようやく満足できた。
久希の匂いに包まれたら、あとは邪魔な服を脱ぎ捨てる。
ゆるく立ち上がった自分のものに手を伸ばしながら、先ほどの久希の熱っぽいまなざしと指先の感触を思い出す。
「久希さん……」
そこへ久希が扉をバーンと開けて入ってきた。
「澄也! 聞き忘れていた、今日は何が……」
おそらく夕食のリクエストでも聞きに来たのだろう。そんなのメッセージで済ませればいいものを。
二人はしばし固まった。
先に動いたのは澄也だ。ぴゃっと布の塊に引っ込んで、布団もかけて引きこもる。
すると、久希が電話をかけ始めた。
「一嶌だ。すまないが、今日の予定すべて午後にずらしてくれ」
驚いて澄也が頭をひょっこり出した時にはもう通話を終えていて、久希はスーツの上着を脱ぎながら、ベッドを覗き込んだ。
「こんな状態のつがいを、ひとりにしておけないだろう」
ネクタイを外し、スラックスも脱いでハンガーに掛ける。
「それもちょうだい」
澄也はここまで来たら、恥じらうよりも欲望に従うつもりだ。
「これは午後からまた着るんだ」
「ぱんつは履き替えたっていいだろ」
「……欲しいのか」
無言でうなずく。
「ワイシャツは?」
「いる」
まだぬくもりの残る下着を手に入れて、澄也は喜んで匂いを嗅いだ。
「本人は要らないのか」
「早く触って」
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