世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

文字の大きさ
1 / 23

羽の中

しおりを挟む
「ルアーカ!」
 俺を呼ぶ声がする。遠く、遠くから……。
 これは夢?
 だって今、すごくふかふかな毛布に包まれている。少し狭いけど居心地は抜群だ。イシャズのうちのベッドにだって負けないんじゃないか。

「ふかふか……」
 俺はうっとりと毛布に顔をうずめた。おひさまのいい匂いがしてとても暖かい。時々ドンと重たい音がして、まるで心臓があるみたいだった。いや、これって――。
「生きてる!?」

 俺はハッとして顔を上げた。
 まっくらというか、一面ピンクだった。ベッドじゃない……。もぞもぞと這い出すと、巨大な鳥の羽の間にいたことが分かる。
 首は長めで優美な顔立ちだが、くちばしは鋭い。淡いピンクの羽に時々金色が混じる。俺が一人暮らしをしているボロ小屋よりも大きそうだ。
 呆然と見上げていると向こうも目を覚ましたらしい。灰色でしわしわしたまぶたをぱちりと開いた。
 目と目が合ったと思ったら、巨鳥は急に縮んだ。

 立ち尽くすうちに、彼は見る間に人へと姿を変えた。
 縮んだといってもかなりの長身だ。俺より、軽く頭一つ分は大きい。
 毛量の多い、腰まで届く淡いピンク色の髪。怖いくらいに整った目鼻立ちはどこか気品を感じさせた。
 布をぜいたくに使った白のローブを身に着け、わずかに首を傾げると、金色の耳飾りがしゃらりと鳴った。
 彼は身をかがめ、こちらを覗き込む。鮮やかなオレンジ色の瞳の奥の、青い瞳孔まではっきり見えた。
 ああ、炎の色だ――。

「目が覚めたか」
 幼子に接するときのような甘さを感じさせる声だった。そのせいか選択肢から『逃げる』が抜け落ちてしまった。

「……人? それとも鳥?」
「ふむ……、人間の言葉でいうならば、私は精霊と呼ばれる存在だ」
「精霊……初めて見た」

 あれ、精霊って、魔力のない人には見えないんじゃなかったっけ。
 俺には魔力なんてないはずだけど。
 でもこの人は確かにここにいて、それに――。

「すごくきれいだ」

 ああでも、そういえば、イシャズが言っていた。「高位の精霊は肉体を持つ」って。
 この人は本当に、王様みたいだ。
 俺はそこで初めて自分の非礼に思い当たり、慌てて口を押えた。

「どうした?」
「俺、言葉遣いが……なってない・・・・・って言われるんだ」
「ひなが気にすることではない」
「いや、ひなではないよ」

 ポヤポヤと柔らかい茶髪のせいで間違えたのか?
 それとも、痩せすぎて浮いて見える骨や、日焼けで赤く擦り剥けた肌のせいかもしれない。
 だが、彼が何と言おうと、俺はもうすぐ二十歳になる。本当なら早く嫁をもらえとせっつかれる頃だ。
 俺に嫁ぎたい奴なんているはずもないけど。
 うつむいた拍子にふと自分の姿が目に入って、ぎょっとした。

「わっ! はだか!?」
「ひなのくせに妙なところで恥ずかしがる」
 彼は笑いを含んだ声で言った割に、そこらからひょいと布をとって肩から掛けてくれた。
 そして俺の隣に座りこんだ。彼の周りはすごく暖かくて、ほのかに果実のような甘い匂いがした。
 なんだかすごく、すり寄りたくなる。

 必死に堪えてあたりを見まわすと、どうやらここは洞窟の中のようだ。むこうにちらりと青空が覗いている。
 日差しが届いているようでもないのに、不思議とほの明るい。もっと妙なのは、岩をくりぬき、あちこちに布が並べられているところだ。
「え? 仕立て屋さんかなんかなの?」
「いいや、倉庫代わりにしている奴がいるだけだ。ここに置いておくと、私の魔力が染みつくからと」
 彼はさして興味もなさそうに布の山に視線をやった。

 自分を包む布にそっと触れてみた。やたらと手触りがいいことに驚く。そのうえ、きれいな織模様が入っている。これは高級品だ。
 うなっていると、彼は眉を寄せた。

「おまえはコロコロと表情が変わるな。どうした、気に入らないのか?」
「はだかになるのと、布を汚すのどっちがマシか考えてた」
「汚したところで私は困らん」
「布の持ち主は怒るんじゃないの?」
「多少はな。だが、ここは私の巣だ。普段は興味がないから放置しているだけで、どう扱おうが私の勝手だ。それはひなにやる。もう決めた」

 浮かべているのは柔らかな笑みなのに、有無を言わせぬ感じ。
 だけど全然押しつけがましさはない。
 それどころか「やる」と言われて嬉しくなってしまった。持ち主のことを考えれば複雑だけど、もう手放せる気がしない。
「ありがとう」
「それより、痛むところはないか?」

 俺は慌てて首を振った。
 さっき自分の裸を見たとき腹と右足が赤くなっていて、そこがちょっと痒いけど、痛いとまでは言えない。

「死にかけていたわりに元気そうだ」
「死にかけた……?」
 そうだ、俺、いったいどうしてこんな場所にいるんだろう。
 さっき痒いと思った左腹のあたりが急に重たく感じられた。

 俺、いったい何をしていたんだっけ――。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布
BL
ウブで堅物な極道若頭×明るいわんこ系看護師

生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける

てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」 庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。 そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――? 「カラヒ。おれの番いは嫌か」 助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。 どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。 どうして竜が言葉を話せるのか。 所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。

処理中です...