世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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日暮れ

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「ヴェル――」

 声をかけようとしたその瞬間、彼はギュッと身を縮めた。耳をつんざく轟音がして、爆風が巻き起こる。悲鳴を上げる暇もなく、俺はコロコロと床を転がった。小精霊たちもすっかり吹っ飛ばされた。
 起き上がろうにも、あたりにはもうもうと煙が立ち込めていて、まともに目も開けられなかった。

「ヴェル!」
 ゴホゴホとせき込んでいると、不意に柔らかな風が吹き、洞窟内の煙をさらって外へ連れ出していった。
 ハッとしてヴェルを見ると、彼の体から、白い煙が立ちのぼっていた。

 俺はあっけにとられて彼の姿を見つめた。小精霊たちも困惑した様子でチカチカ光っている。
「大丈夫……?」
 俺は何とか立ち上がり、ヴェルに手を伸ばした。
「近づくな!」
 振り払うようなしぐさに少しビクついて、それでも俺は彼のもとへ歩み寄った。
「ヴェル、苦しいの?」
「ダメだ、ルアーカ。今近づけば、君に何をするかわからない」
 
 ヴェルはかすれた声で俺を止めた。片手で顔を押さえ、苦しそうに顔をゆがめている。
 いや、荒い息を吐き、目のふちを赤く染めているその様子はもっと別のものを想像させた。

 発情?
 いや、まさか。
 だけど、心臓はやけに高鳴るし、つられてこっちまで赤面してしまうくらい、色っぽかった。
 指の隙間から俺をじっと見つめる目つきが、切なそうで、それでいて熱くて――。
 近づいたらどうなるのか、知りたいと思ってしまった。

 甘い甘い匂いに誘われて、俺は一歩ずつ彼に歩み寄った。
「ルアーカ、離れろと……」
「どうして?」
「――ッ!」

 彼は息を飲み、次の瞬間俺の手首をつかんで引き寄せた。
 頬に添えられた指先が、迷うように肌の上をうごめく。
 くすぐったくて身をよじると、彼ののどぼとけがはっきりと上下した。
 気だるげな瞬きをして、彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
 期待してしまったことが恥ずかしくて、俺は視線を下げた。

 それを責めるかのように、ヴェルの指が瞼に触れる。
 思わず目をつぶると、ふわりと柔らかなものが唇に触れた。
 
 やわやわと甘噛みするようなキスは、しびれるくらい気持ちよかった。
 もっと欲しくてつま先立ちになりかけたところを、ぐいっと引きはがされる。

 自分の指で唇に触れてぬぐうようなしぐさをしながら、顔を背けきつく目を閉じる。
 ヴェルはさっきよりも苦しそうだった。
 迷っているのがありありとわかる。
 だけど、このまま手を離しちゃいけない気がして、体ごとその手に絡みつく。

「ヴェル、どうして?」
 俺は唇を尖らせて、ヴェルを睨んだ。
「おまえは今、魔力に酔っている。だからダメだ」
「酔ってないよ」
「酔っているんだ」

 駄々っ子に言い聞かせるような言い方にムッとして、俺はもうひなではないことを、見せつけることにした。
 ヴェルみたいにうまくできるかはわからないけれど、彼の手に唇を押し付ける。正解がわからなかったので、そのままヴェルを見上げる。
「してよ」
「ああ、私のひなは、おねだりがうまいのだったな……」
 長い溜息をついたあと、苦虫を噛むみたいな顔つきが、ふと変わる。
 射抜くような目つき、オスの顔だ。

 今度のキスは優しいものではなかった。
 彼は強引に舌をねじ込み、俺の中を掻きまわした。知らない生き物に絡みつかれているようだった。熱い塊が俺の中をうごめき押しつぶし、その度なまめかしく濡れた音が耳に届いてぞくぞくする。
 怖いはずなのに彼の舌が歯列をなめると、体の中心に甘い疼きが走って俺を混乱させた。
 息の仕方もよくわからないまま、うまく呑み込めない唾液が、口の端を伝う。ヴェルがそれをなめとった。
 俺はその隙に、酸欠の体に空気を取り込んだ。

 でも、それで終わりではなかった。
 ヴェルは片手で俺の背中に腕を回し、首筋に吸い付いた。くっきりと丸い跡ができる。
 その赤色に、ふと心配になって、俺は自分の指をぺろりとなめてみた。
「これ、舌まで宝石になっちゃわない?」
「煽るな」
 苛立つような声に、一瞬ぽかんとしてしまう。

「煽るって?」
「こっちが必死にこらえているのに、悪い子だ」
 いつもは見せない荒々しい笑みを浮かべて、ヴェルは俺の手の甲にゆっくりと指を這わせる。むず痒いような、鳥肌が立つような柔らかな触れ方は、治療の時とは明らかに違う。
 彼の手は、鎖骨をたどり服の上からみぞおちをなでた。その時、服が役割を忘れたようにボロボロと崩れ落ちた。
「え!?」

 思わず振り返ると、金色の光が洞窟内に一筋差し込むところだった。
「そっか、日暮れ……」

 自分の素肌がさらけ出されていくにつれ、羞恥心のほうが上回った。
 反射的に逃げかけた体を、ヴェルがさっと救い上げるように横抱きにした。
 寝床へ横たえられたころには、俺の体を隠してくれるものは、もうほとんど残っていなかった。
 ヴェルに染められ、爪まで赤く色づいた手足。腹と足首に散らばる石だけが俺を飾り立てている。
 
 彼が俺の額に手を伸ばす。そこにも、ヴェルの触れた証があって素肌よりも敏感に彼の魔力を感じられた。
 ヴェルの指は額から頬へ、そして唇をかすめた。
 
 期待を込めてじっと見つめていると、ヴェルはほのかに笑った。
 そして、さらけ出された胸元に口づけを落とす。
 右手は探るように胸の中心に触れた。最初はただただ恥ずかしかった。
 ヴェルの長い指が、固くとがったその場所を何度も往復する。そのうちに、なんだか変な感じになってきて、体が小さく跳ねた。

「んっ」

 自分でも驚くくらい甘ったれた声が出て、慌てて口をふさぐ。
 それが聞こえてしまったのか、ヴェルは片手で胸に触れながら、もう片方の胸元に顔を寄せた。
「あ……ヴェルっ……」

 止めたいのか続けてほしいのか、自分でもよくわからない。
 彼は舌先で小さな突起をつつき、そうかと思えば唇でもてあそぶ。そうしながら、チラリと俺に目線をくれた。
 探るような目つきにドクンと心臓が跳ねる。体の芯が熱くなる。

 ヴェルの指がみぞおちを下り、へその周りをぐるりと回り、足の付け根にたどり着く。
 じれったいほどゆっくりと――。
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