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ふてくされる
しおりを挟む理性がどろりと溶けて、ただ彼のくれる良いものに満たされたくなってしまう。
だから俺は彼の手が、俺の芯に触れたときも、おかしいとは思わなかった。
むしろ嬉しくて、泣きそうだった。
ヴェルはとろりとした液体を俺の芯に丁寧に塗り込んだ。
すでに熱を持ち始めていたそこは、寝床からゆっくりと身を起こすように立ち上がる。
自分でもあまり触れたことのないような場所を、ヴェルの長い指が包み込む。小鳥に触れるような慎重さで。
それだけでもかなりまずい状態なのに、彼の長い髪が俺の太ももくすぐった。
羽毛で触れられるような柔らかな刺激が、くすぐったいから気持ちいいに変わるまで長くはかからなかった。
「あ……う……」
変な声が出てしまうのが嫌で、必死に口元を抑える。
だけど、やめてほしいとは言えなかった。
そのあいだヴェルは、熱っぽい視線を俺にずっと向けていた。
恥ずかしすぎて目をそらす。
けれどゆっくりと上下にこすられるうち、そこはますます熱を持ち、パンパンに腫れあがってはじけてしまいそうだった。
気持ちよくて苦しい。
はぁ、はぁ、と荒い呼吸がこぼれた。
そのまま、もっと、もっと、もっと。
もっと触れてほしい。
それなのに、――ヴェルの手が止まった。
彼はのそりと体の位置をずらして、見せつけるように固くなったそこへキスをした。
「――っ、ヴェル!? そんなとこ……」
「ただの挨拶だ」
そう言って、彼は滲み出した透明な露を舐め取った。
「ひえっ」
と、情けない悲鳴を上げてしまい、今更だとしても隠したくなる。
「嫌か」
必死にうなずくと、ヴェルは少しつまらなそうにしたものの、ゆるりと体を起こした。彼は余韻を味わうようにぺろりと唇を舐める。
俺は思わず、膝と膝をこすり合わせた。
舐められるのは、正直困る。でも、ヴェルの手が離れたそこが、寂しくてすうすうする。
続けてとねだるのは恥ずかしすぎたから、代わりにヴェルのローブに手をやって、肩からするっと落としてやる。
中に着ていた白いシャツのボタンを二、三個外したところで、いたずらを咎めるようにヴェルが俺の手をつかまえた。
キスをされる。
もう、唇への刺激だけじゃ足りなくて、俺は彼のローブに自分の体をこすりつけるようにして腰を振った。
痛いくらいに張り詰めたそこを、何とかしたくて、してほしくて。涙があふれてきた。
「あっ、ヴェル……、お願い……」
ヴェルは笑って頷いて、再び俺のものを握りこみ、昂ぶりへ導いた。ゆっくりと、次第に早く。
体の中をしびれるような快感が抜けていった。
「――っ!」
勢いよく白濁が飛び散ると同時に、ふわりと浮くような心地がして、頭が真っ白になった。
知っているようで、まるで知らないことのように感じた。
なんだ、いまの……。
息が乱れて、心臓がバクバクいっている。
こんなに、気持ちいいなんて。
余韻とともに、どっと疲れを感じてしまい、俺はほんのちょっとのつもりで目を閉じた。
そしてそのまま――。
◇
目を覚ました時、珍しいなと思った。
ヴェルが人の姿のまま俺を抱えて眠っている。
彼の長いまつげを眺めているうちに、昨日のことをじわじわと思いだした。
――俺、なんてことを!
動揺しているうちに、ヴェルの瞼がピクリと動き、彼は目を開ける。そして俺を見て、顔を隠すようにして起き上がった。
俺は慌てて彼の両肩にすがった。
「ヴェル、俺、昨日途中で寝ちゃったんじゃない!?」
オレンジの瞳が見開かれ、瞬きするうち翳っていった。
「……気にするのはそこなのか?」
「ん?」
俺はきょとんと首を傾げ、ヴェルは疑わしげに目を細めた。
「おまえは、自分が何をされたかわかっていないようだな」
「わかってるよ。ひなじゃないし、ちゃんとわかってる!」
そう、ヴェルの言葉を借りるなら、発情したんだ。だから、あんなことになった。
それなのに俺は。
「俺、自分ばっかり気持ちよくなって、ヴェルになにもしなかった! ――い、今からでも」
「ルアーカ!」
頭を押さえつけられて、俺の手がすかすか空振りする。
しばらくそうしていたけれど、触らせてくれる気はなさそうだったので、あきらめて膝の上に手を置いた。
「私は、まだ殻のついているようなひなに、なんということを」
後悔のにじむ大きなため息に、俺はムッと口を尖らせた。
「ひなじゃないってヴェルが言ったんじゃないか!」
彼が黙り込むので、俺はだんだん不安になった。
「じゃあ、ヴェル、もうしてくれないの……?」
「私は、おまえに魔力を与えた。私に好意を持つのは当然のことだ」
ヴェルはまるで、それが悪いことのように言う。
「いわばひなに刷り込みをしたようなもの。だが、おまえには、すでに同じことをした人間がいるだろう」
「……うん」
「昨日は我を忘れて、私のものだと主張してしまったが、……ほんとうは、おまえはあの男と結ばれたかったのではないのか」
「それは無理だし」
「私が、おまえを精霊に変えてしまったからか?」
「俺って精霊なの?」
「半分精霊であり、半分は人間だ。だから、まだ人のもとで暮らすこともできる」
無理だよ。
心の中でつぶやいて、俺は膝を抱えた。
そりゃ弱っているところに、魔力と寝床と、とびきりの安心をくれた相手を好きになるのは当然だと言われれば、そうだよなって思うけど。
だけどそれだけじゃないように思う。
でもうまく言葉にできなくて、今度は俺がため息をつきたくなった。
「……のどが渇いたな」
「ああ」
彼は指を差し出して、いつものように水を飲ませてくれた。彼の指先を口に含みながら、チラリと盗み見ると、どことなく居心地が悪そうに視線をそらされる。
だけど俺は見逃さなかった。
ヴェルの目じりが赤く染まっていることを。
それを恥じるように、ヴェルはふるりと体をふるわせて、不死鳥の姿になった。そして羽を片方持ち上げる。
来いと言われて、俺は彼の羽の間に収まった。
暖かなその場所で、内緒話をするように、俺は自然と彼に打ち明けていた。
「確かに俺、あいつのことが好きだったんだと思うよ……」
返事はないけれど、ちゃんと聞いているってわかっている。
「だけど失恋だなって思っても、ちっとも悲しくなかった。俺にはヴェルがいるからって、――そう言ったらコイツ軽いなって思う?」
ヴェルは返事の代わりに羽でぽふぽふした。
本当に、わかってくれたのかな。
ほんの少しの意地悪心を乗せて聞いてみる。
「ヴェルは俺に、出て行ってほしいの?」
ふわっと羽がどかされて、彼はまた人の姿に戻った。
小精霊たちが寝ぼけた様子でヴェルの周りに集った。
だから彼がどんな顔をしているのか、俺の目にもはっきりと見えてしまった。
「……嫌だ」
彼は非常に、ふてくされていた。
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