中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six

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12話 舞い込む出来事

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 リト君は地面にちょこんと体育座りをして、膝を抱えるようにして座っていた。両肘を膝に乗せて、ぽかんとした表情で俺の方を見ている。いつもなら、自分がしていることを、俺が代わりにしているからか、何したらいいのかわからないんだろう。時折、俺のツルハシの扱いが悪いと、「そうじゃないですよ」と指摘をしてくれるおかげで、石炭もだいぶ集まってきた。掘っても掘っても出てくるのは石炭と石ばかり、石はこの先クラフトで必要な時が来るかも知れないので、回収しておこう。

「しかし、随分と回収したな……」

 俺はツルハシを地面に突き立てて、深く息を吐いた。額ににじんだ汗を手の甲でぬぐうと、じわっと疲労が実感として押し寄せてくる。そういえば――借り物のツルハシにも、耐久値って表示されるのか? ふと気になって、視線をインベントリに向けた。

〈インベントリ〉
木の槍:6/10
石の斧:9/10
木材:3
パン:3
木の実:16
鉄のツルハシ:80/100
石:32

――
石炭:32
石炭:32
石炭:32
石炭:28

「うおぉっ!? なんだこれ!」

 俺は思わず驚きの声を上げた。洞窟内に俺の声がこだまのように響き渡る。その声にリト君も反応し、ビクッと肩をすくめる。リト君から借りた鉄のツルハシにもちゃんと耐久値が表示されるのもそうだが、何より驚いたのは石炭の数、……これまでは16個が上限だったはずなのに、今は――32個!? 倍……いや、正確には2スタックに!? これが〈ストックLv1〉の効果ってやつか……! しかもクエストタブが淡く光り、まるで「おめでとう」と言わんばかりに俺の視界に入り込んでくる。

《サブクエスト達成! 報酬獲得!》
鉱石を採掘しろ!
報酬:経験値+20、スキルポイント+1、能力値振り分け+1

 まさかサブクエストまで達成できるとは……。この世界の人と交流すると、こんなに恩恵を受けられるとはな……。俺が1人頑張ったところでこの洞窟に辿り着くのは当分先だっただろうし、石炭を獲得するのも無理だったかもしれない。この世界では人との関りは”報われる”。そう思うと、胸の奥がほんのり暖かくなってきた。

 現世では他人と関わると面倒ごとが増えることばかり……いや、これ以上は止めておこう。今は現世じゃないんだ、しっかりこの世界と向き合っていくか。

「急に大声上げてどうしたんですか!?」

 リト君は胸を抑え、目を見開いて尋ねた。俺も落ち着きを取り戻すように咳払いで空気を変える。

「あぁ、ごめんよ。リト君、そろそろ石炭を持つのは限界になってきたかも……」

 俺がそういうと、彼はどこか微笑ましげに首を傾げ、小さく笑った。

「結構長いこと掘ってましたもんね、いつもならとっくに帰ってますよ」

 俺は残りのインベントリを埋めるようにツルハシで石炭を回収し、ツルハシをリト君に返した。リト君はスッと立ち上がり、お尻についた土をパンパンと手で払った後、リュックを背負い、ツルハシを背中に縛り上げた。

「ありがとうございます、おかげで今日はラクが出来ました!」

 いやいや……お礼を言いたいのはこっちだよ。石炭も手に入ったし、いいこと尽くしなんだから。俺は笑顔を向ける彼に、笑顔を返した。

「さぁ、そろそろ夕方になるかな? 早いところ、この洞窟を出ようか」

 ふと天井を見上げる。この洞窟に入って3時間ほどが経過しており、帰る時間を考慮するとここらが潮時だろう。

「そうですね……あ、そうだ。今日は僕のお家に寄ってってくださいよ!」

 リト君が声を弾ませながら前に出る。大きくつぶらな瞳がこちらを真っすぐ見つめているが、今日出会った人を家に誘うって……この子には警戒心というのはないのかね?

「お家に?」

 思わず問い返すと、リト君は胸を張って答えた。

「はい、一応、村の宿をやってて、結構評判いいんですよ?」

 宿? まさか村にそんな施設があるとは……。小さな村といえど、侮れないな。まぁ、でも石炭をどうやって渡すか考えていたし、村の場所を把握するのにも絶好の機会だな。

「……そっか、じゃあ、立ち寄らせてもらおうかな? 石炭も渡さないといけないしね」

「じゃあ、決まりで!」

 リト君は小走りで壁の松明に息を吹きかけ、一つ……また一つと火が消されていく。先程まで洞窟を明るく照らしていた火が消えるたびに、この洞窟は本来の静かな自然へと戻っていった。彼は手に持った松明で前方を照らしながら、来た道を慎重に引き返す。さすがの俺も不安定な足場に耐性が付いたのか、足取りが軽く、リト君の後ろにピッタリとくっついて洞窟を抜けることができた。洞窟の外に出ると、茜色に染まった空が視界いっぱいに広がり、木々の隙間からこぼれる太陽の光は弱まりつつある。

「すっかり暗くなってきたな。リト君、村まではどのくらいかかるの?」

「そんなにかかんないですよ、30分あれば辿り着きますから」

 リト君は松明の火を息を吹きかけて消し、リュックの中にしまいながら答えた。そのまま歩き出したリト君の横を歩幅を合わせて歩き、軽い談笑を交わしながら村に向かった。村に到着したころ、ふと空を見上げると、いつの間にか空は闇に包まれ、家々の灯りがぽつぽつと点りはじめていた。

 ”村”と聞いて田舎の風景を想像していたが、実際に目にしたそれは想像よりもずっと整った場所だった。レンガを敷き詰めた頑丈な壁に、木製の梁を組み合わせた洋風の家屋が並び、屋根の装飾も洒落ている。道は石畳で舗装され、ところどころに設置された街灯が、やわらかな光で夜道を照らしていた。遠くからは牛の鳴き声が聞こえ、風に乗ってほんのりと牧場の匂いが届く。都市の便利さと田舎のぬくもりが同居する、不思議と落ち着く村だった。とはいえ、夜が近づくと、あの日を思い出し、胸の鼓動が早くなる。

「うわぁ、暗いな……大丈夫? なんていうか……モンスターとか……」

 俺は周囲をキョロキョロと見渡してゾンビがいないか警戒をする。こんなところで襲われたら、リト君を守りながら撃退するって相当至難の業だぞ? ソワソワしている俺を横目にリト君はクスっと笑った。

「大丈夫ですよ、多分おじさんが言ってるのはゾンビの事でしょ? あの人たちは明るい場所や狭い場所には現れないので街灯がついてる村や町には基本入ってきません。ごく稀に別のモンスターが襲ってくることもありますが、それを気にしてたら生活できませんから」

 リト君はそう言いながら、歩くのを止めなかった。なんだ、ゾンビの存在を知っているのか。いや、それもそうか。モンスターの存在を知っているんだ、ゾンビが出てくることも把握しているか。それに今さらっとゾンビの習性を教えてくれたな。俺は彼の小さな背中がすごく頼もしく思えた。”気にしていたら生活できない”……か。

 静かに胸に手を当てて、鼓動が少しずつ落ち着いているのを確かめる。確かに俺は酷く神経質になっていたのかもしれないな。いきなりこの世界に飛ばされて、ゾンビに襲われた。何もわからないからこそ”怖かった”のかもしれない。ちょっとずつでもいい、この世界を知ることが出来たら、彼のように頼もしくなれるのかも……な。

「ねぇ! ユウタおじさん! はやくぅ~!」

 遠くでリト君が手を振り、俺を待っている。どうやら少し考えているうちにかなり距離を生んでしまっていたようだ。俺は手を振るリト君に笑顔で応えた後、少しだけ小走りで追いかけた。リト君の後を付いていくこと数分。急に立ち止まったリト君は目の前の家を指さし、振り返った。

「ここが僕のお家《オーベルジュ》という宿です、さぁ、中に入ってください!」

「へぇ、凄く立派な宿だね。外観もオシャレだ」

 リト君に案内されたその宿は、まるで絵本から飛び出したような外観だった。外壁は赤褐色のレンガ造りで、要所要所に深みのある木の梁が組まれており、木と石の温もりが調和している。玄関上には風に揺れる木製の看板が吊るされており、そこには手描きのような文字で〈Inn〉と書かれていた。扉の脇には彩りを添えるように鉢植えの花がいくつか並べられ、木製のベンチもひとつ設置されている。宿の窓からはほのかな明かりが漏れ、温かな空気が外まで漂ってくるかのようだった。2階建ての建物は、ぱっと見でも10部屋以上はありそうな大きさで、村の中ではかなり立派な造りだ。なるほど……「評判がいい」とリト君が言っていたのも頷ける。

(これだけ立派な宿だ。きっとリト君のパパも親切で凄く優しい人なんだろうな……――)

 そう思いながら、リト君がガチャっと扉を開けると、突然怒号が響き渡る。

「くぉらぁ! このバカリトがぁー! いつまで外をほっつき歩いてんだ!」

 調理器具のお玉が、リト君の頭にカツンッと甲高い音を立ててぶつかった。「いったーい!」と叫びながらリト君は頭を抑えてその場にうずくまる。俺は何が起きているのか理解できず目を見開いてただ茫然と立ち尽くす。

「はっ!? え、あ、ちょ!」

 パッと視線を奥に向けると、そこにはリト君のパパさんらしき人物が物凄い形相でリト君を睨んでいる。オレンジ色のハンチングを深くかぶり、短く刈られた白い髪の毛がチラリとのぞいている。年季が入った顔たちでくっきりとしたほうれい線があるが、目や鼻、口はリト君にそっくりだな。背丈は俺と同じぐらいで、細身の体に白いロングTシャツを腕まくりし、むき出しになった腕は俺と違ってしっかりと引き締まっている。紺色のエプロンを肩から掛けて、黒のズボンと革靴を履いている。店主兼料理人をしているのだ一瞬でわかった。その男がツカツカと歩み寄ると、筋肉質のごつい拳を迷いなくリト君の頭へ振り下ろした。

「何度も言ってるだろう! 夜は危険だから昼になったら帰って来いって。石炭も取って来てねぇじゃねぇか! ったく……ん? アンタ誰だ?」

 リト君は「パパ、ごめんなさぁい!」と涙目になりながら必死に頭を抑える。俺は彼と目がバッチリ合ってしまい、思わず顔が硬直し、まるで石のように思考が停止する。まさか、こんなに優しいリト君のパパがこんなに怖い人だったとは。彼の怒りの矛先はそのまま俺に向けられる。

「もしかして、アンタがウチの息子を連れまわしてくれたのか!? 夜まで連れて回すとはいい度胸してるじゃねぇか! ”誘拐”だっていうなら覚悟はできてんだろうな!?」

 彼は地面に転がっているお玉を力任せバッとに拾うと、俺にその先を向けた。その目は息子を守らんとするパパの目をしていた。だが……それ以上に怖すぎる! 俺がたじろいていると、リト君が頭を抑えながらゆっくりと立ち上がった。

「ち、違うよパパ。僕がこの人と一緒に居ただけだよ。それに石炭もちゃんととってきたんだってば~」

 頭を手でさすりながら、涙目で訴える。それでも彼の怒りは収まらないようだ。なおも気迫のこもった眼差しをリト君に送り、気圧されてしまったのか、リト君は少しうつむいて、ぶすっとふてくされてしまう。ここは、怖いと言っている場合じゃないな。大人として、常識のある行動をとるべきだろう。俺はその場で姿勢を正し、ゆっくりと頭を下げた。

「申し訳ありません、この度は私の勝手な都合でリト君をこんな時間まで連れまわしてしまいました。リト君は決して悪くありません。私の名前は中島佑太。すぐ近くの森で生活をしている者です」

 俺の行動にちょっとずつ怒りが収まってきたのか、彼は、お玉をクルッと手の中で回すと、そのまま柄を肩にかけるように乗せた。まるで武器でも構えるような仕草に、俺は思わず息をのむ。

「ったく、リトは俺の大事な一人息子だ。なんかあったら心配するだろ。もうちょっと”親”がいるってことを配慮してくれよ……――」

 そう言って彼は軽くため息をつき、受付カウンターへ戻ると、そこで立ち止まってクルリとこちらへ向き直った。

「ほら、こっちこいよ。お客さんだろ? 受付してやるからこっちに来な」

 ん? まさか、俺をお客さんだと思ってる? そう思いながら、俺は唾を飲み込み、渋々受付に向かった――
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