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21話 クエストの恩恵と揺らめきの部屋
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清掃の行き届いた店内、朝見た時となんら変わらない、その光景になぜか帰ってきた感があるのは、それだけこの宿が過ごしやすかったからに他ならない。勢いよく扉を開けた先には、受付でポカンと口を開けたアルフレッドさんの姿。手にはお客さんの衣類を乗せたカゴを持っており、これから洗濯をする途中だったようだ。
「おい、どうしたんだ? 急に大声出して、何か忘れものか?」
アルフレッドさんに尋ねられるも、息が乱れているせいで受け答えに時間がかかってしまう。しばらく息を整えるのに集中し、「ふぅー」と大きく深呼吸。
「いえ、忘れ物ではないです。リト君は今どこに?」
アルフレッドさんの顔にしわが寄り、凄く怪訝そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「リトなら、今、洗濯しているが……アンタ、またリトを連れまわすんじゃないだろうな?」
俺は扉に手を置いて、淡々とした口調で答える。
「申し訳ないですが、その通りです」
「その通りなのかよ!」
アルフレッドさんは思わずカゴを落としそうになり、必死で持ちこたえる。その様子を聞いていたリト君が受付の奥から顔をひょこっと覗かせた。
「あ! ユウタおじさん!」
パッと明るい表情で、俺を指さしながら、叫ぶリト君に思わず笑顔がこぼれる。トコトコっと駆け寄ってくる、その姿はまるで親鳥の後を追いかける雛鳥のようだ。アルフレッドさんはため息を吐きながら、カゴを持って受け付けの奥に姿を消した。
「どうしたんですか?」
首を傾げ、尋ねてくるリト君に、俺は視線を合わして、耳元で話を持ち掛ける。
「実は、急遽、石が必要なんだけど、人手が足りないんだ。ツルハシを使って、リト君に石を採取してきて欲しんだけど……勿論、タダとは言わないよ」
そういうと、眉間にしわを寄せて「う~ん」と悩み始めた。家の手伝いの事もあるだろうし、無理強いするつもりはないが、頼めるのはリト君しかいない。しばらく考えたあと、リト君は指をピンと立てた。
「え~っとね、小遣いくれるなら、いいですよ! パパには僕から言っておくので、どのくらい手伝えばいいんですか?」
「そうだな、15日ぐらいかな……」
俺がそういうと、リト君は目をギョッと見開き、大声を出そうと口を大きく開いた。
「えっ!? 15むぐっ……!」
俺は咄嗟にリト君の口に右手を当て、左手の指を立てて、口元に当てた。落ち着いたリト君の口から手をどかして、真剣な表情を浮かべたる。
「これはパパには内緒の極秘な任務なんだ……」
「極秘な任務……?」
その瞬間、リト君の目つきが変わった。子供とはいつの時代も、ヒーローのような真似事が好きなのを知っている。
「それで……報酬の方は?」
リト君もノリノリになってきた。悪そうな目つきをしているが、仕草も相まって、むしろ可愛さが増している。さて、報酬か……俺がハンクさんから受け取るのは石の鍬1本につき銅貨5枚、ざっと計算して一日80枚ぐらいか……子供にあげるのは多くない方が良いかな。俺はリト君にだけ見えるように、人差し指を立てる。
「1日銅貨10枚でどうかな?」
リト君は険しい表情浮かべながら、首を傾げると、眉毛をクイッと上げて、ニヤついた。
「それは安すぎでしょ~50枚はくれなきゃ♪」
くっ、さすがに安すぎるか……いや、これは想定内。営業の人が使うテクニックの1つ、「最初に無茶な要求をして、本命の要求を通す」作戦だ! 最初から10枚で落ちるとは思っておらぬぞ……。俺は今度は中指も一緒に立てる。
「ふふ……ならば20枚はどうだ?」
「いや……40枚♪」
「30枚……っ!」
「乗った!」
リト君は指をパチンと鳴らして、悪い目つきでニヤリと笑みを浮かべながら、俺と握手を交わした。
「今日からすればいいんですか?」
リト君に言われて、ふと外に視線を向ける。すでに夕暮れ時になってきていて、リト君を外に出すのは危険だ。それにこの後は俺も拠点に戻ってインベントリを整理する必要もあるし、今日のノルマは達成している。このまま、一度解散するのが無難だろう。俺はゆっくりと首を振った。
「いや、今日は大丈夫だよ。明日の朝からお願いしても良いかな?」
リト君は元気に頷き、優しい笑顔を見せる。
「わかりました。じゃあ明日、準備しときますね」
そう言って、リト君は駆け足でアルフレッドさんの元へ戻っていった。さて、俺もハンクさんとニックさんに伝えないとな。俺は宿を抜けて、急いで武器屋に戻る。
武器屋に到着すると、ニックさんとハンクさんが16本の石の鍬を棚に綺麗に並べていた。朝のドタバタがまるで嘘だったかのように、床に散らばった武器は綺麗に陳列され、最初に訪れた時より、より清潔さを増していた。俺に気が付いたハンクさんは、険しい表情を浮かべ、ズカズカと近寄ると、小袋を取り出した。
「お前さん、どこにいっとったんじゃ? すでに16本は並べ終わっとるぞ? ほれ、残りのお金じゃ」
ハンクさんは小袋を俺の胸に押し当てるように渡してきた。俺は引きつったような笑みを浮かべて、小袋を受け取ると、シュッと吸い込まれるように消え、UIに〈銅貨:80枚〉と表記された。
「すみません、実はある子にお願いをしてきたんです。明日からその子も手伝ってくれます。木はしばらく大丈夫だと思いますので、ニックさん、明日はその子と石を採ってきてもらえると助かるんですが……」
俺がそう伝えると、ニックさんは胸をグッと張り、自信ありげに答える。
「任せてください! よぉし、明日も頑張るぞぉ!」
ニックさんは鼻歌交じりに店の奥に入っていく。ハンクさんは俺の肩をバチンと叩き、
「ほれ、今日はもう遅いから、さっさと帰らんか。明日も大変なんじゃからな、休めるうちに休んでおけ」
「わかりました、それでは明日、また来ますので」
俺はそういって、頭を下げると、扉を開けて、武器屋を後にした。外はすでに日が沈みかけていて、明かりもところどころ点き始めている。ゾンビに遭遇しないクエストもあるし、早いところ、拠点に戻るとするか。拠点に戻り、扉を閉めると、颯爽と向かったのは保管箱だ。インベントリを整理するためにも不要な素材は保管箱に入れていこう。え~っと、今の保管箱とインベントリの中身は……。
〈保管箱〉残:70
毒草:1
毒キノコ:1
神経草:1
毒消し草:6
小麦:3
木の棒:14
原木:4
〈インベントリ〉
鉄の剣:100/100
石の斧:9/10
パン:3
木の実:16
石炭:32
木材:32
木材:32
――
木材:20
木の棒:2
俺は中身を覗きながら考え込む。これだけ素材があるのなら、何も作らないのは勿体ないよな。リト君と何のために石炭をとったのかわからなくなるし。ふと周りを見渡すと、村の様子が脳裏に浮かぶ。陽光に照らされ、木造の家々は柔らかな影を落とし、通りには灯りのついたランタンが揺れていた。人の気配、笑い声、”光”は人を笑顔にする。だが、俺の拠点はどうだ?
土壁に囲まれた薄暗い部屋、壁は冷たく、照明器具といったランプやランタンもない。わずかな隙間から射し込む夕暮れの光すら、部屋の奥までは届かず、空気はどこか淀んでいる。
――明かりが、足りない。
そんな言葉が、頭をよぎった。
「……よし、松明でも作るかな」
俺は、そう決意し、まずは保管箱から、〈木の棒:14〉をインベントリにしまい込み、そのまま作業台へ向かうと、クラフト画面を開く。石炭をとった時に松明のクラフト画面を覗いたことがある。確か、木の棒と石炭で作れたはずだけど、もう一度確認してみるか……。
【松明】×2
必要資材:木の棒1、石炭1
効果:半径5mを照らす。
この拠点程度なら四隅に1個ずつ配置すれば、十分明かりを確保できるはずだ。俺は、作業台の上に木の棒と石炭を配置してクラフトを開始。カチカチっと音を出しながら、結合し、次第に1つの塊から2つへ、分離すると、手で持てるサイズの〈松明〉が淡い光を放ちながら出来上がる。俺はそれを手に取り、インベントリにしまい込み、次の松明をクラフトしようとすると、クエストタブが淡く光っていることに気が付く。
「あ、そういえば、クエスト全然見てなかったな」
かなりのクエストを達成していたのに、夢中で気が付かないとは……。俺は期待を込めて達成したクエストを確認する。
《石の鍬を1本クラフトして、店主に販売しろ!》×16
合計報酬:経験値+85、スキルポイント+1、能力値振り分け+1
《松明をクラフトしろ!》
報酬:経験値+10、スキルポイント+1、火打石1
こんなに達成してたのか!? 経験値の合計95って……まさか、ここまで稼げるとは思わなかったな。順調に成長してきているし、武器も充実し始めた。レベルアップもしているから、新しいスキルを開放するいい機会かもしれないな。
【中島佑太】
レベル:6 スキルポイント:4 能力値振り分け:7
体力:10
筋力:7
敏捷:5
技術:5
感性:5
魅力:5
経験値:65/70(Lv7に必要な経験値)
▮▮▮▮▮▮▯
うん、いい感じだ。明日になれば、今日の通常クエストも達成してるはずだ。よし、今の状況に合いそうなスキルは何だろう……。クラフト系か生活系に絞り込むか……。俺はめぼしいスキルをピックアップしていき、候補となりそうなものを上げていく。
〈クラフトLv2〉
消費ポイント:4
効果:クラフト時のスピード-10%に減少。
〈体調管理〉
消費ポイント:2
効果:体力の消費が-10%減少。
クラフトは今後も重宝するし、この世界で生きていくのに、欠かせないスキルの1つになるだろうし、生活をしていく中で、自動で体調を管理してくれるのは助かる。明日になればクエストは達成して、レベルも上がるだろうから、この二つを獲得する動きで行こうか。とりあえず、まずは〈クラフトLv2〉を獲得しよう。俺はスキルを獲得したあと、残った石炭と木材で松明を全てクラフトした。そして、部屋の四隅に松明を設置し、火打石で明かりを灯す。
ボゥッ……
静かに火を灯した松明の光が、ユラユラと揺らめきながら拠点の壁や床を優しく照らしている。その光は決して強くはない。けれど、暗闇に包まれたこの場所にとって、それは確かな存在だった。俺はこの世界に来て”光”を手に入れたのだ。気づけば、この数日間でいくつものものを作り、出会い、守ってきた。クラフトに戸惑い、食料に困り、そして人との関わりに戸惑いながらも、俺は生きている。そして今――こうして目の前を照らす灯りがある。
心の奥から、じんわりと温かいものが湧き上がるのを感じた。まだ何もかも不安定で、拠点だって不格好で、俺自身だって未熟なままだけれど――それでも、俺は前に進んでいる。少しずつ、確実に。そして、この拠点もまた、俺と一緒に、少しずつ形になっていく。
「……明日も大変だし、今日はもう寝るとするかな」
俺は保管箱に、現状使いそうにない、アイテムをしまい込み、ベッドにゆっくりと腰を掛けた。
〈保管箱〉残:6
毒草:1
毒キノコ:1
神経草:1
毒消し草:6
小麦:3
原木:4
松明:60
木の実:16
石の斧:9/10
火打石:1
〈インベントリ〉
鉄の剣:100/100
パン:3
木材:32
木材:32
――
木材:12
そろそろ、保管箱もスペースがなくなってきたから、クラフトしておかないといけないな。明日になったら、また石の鍬を作って、クエストを確認して……あぁ、まだまだやることがいっぱいある。俺はベッドの上に寝転び、天井を見つめて、そんなことを考えていると、いつの間にか瞼を閉じて、ユラユラと揺らめく松明の光に癒されながら深い眠りについた――。
「おい、どうしたんだ? 急に大声出して、何か忘れものか?」
アルフレッドさんに尋ねられるも、息が乱れているせいで受け答えに時間がかかってしまう。しばらく息を整えるのに集中し、「ふぅー」と大きく深呼吸。
「いえ、忘れ物ではないです。リト君は今どこに?」
アルフレッドさんの顔にしわが寄り、凄く怪訝そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「リトなら、今、洗濯しているが……アンタ、またリトを連れまわすんじゃないだろうな?」
俺は扉に手を置いて、淡々とした口調で答える。
「申し訳ないですが、その通りです」
「その通りなのかよ!」
アルフレッドさんは思わずカゴを落としそうになり、必死で持ちこたえる。その様子を聞いていたリト君が受付の奥から顔をひょこっと覗かせた。
「あ! ユウタおじさん!」
パッと明るい表情で、俺を指さしながら、叫ぶリト君に思わず笑顔がこぼれる。トコトコっと駆け寄ってくる、その姿はまるで親鳥の後を追いかける雛鳥のようだ。アルフレッドさんはため息を吐きながら、カゴを持って受け付けの奥に姿を消した。
「どうしたんですか?」
首を傾げ、尋ねてくるリト君に、俺は視線を合わして、耳元で話を持ち掛ける。
「実は、急遽、石が必要なんだけど、人手が足りないんだ。ツルハシを使って、リト君に石を採取してきて欲しんだけど……勿論、タダとは言わないよ」
そういうと、眉間にしわを寄せて「う~ん」と悩み始めた。家の手伝いの事もあるだろうし、無理強いするつもりはないが、頼めるのはリト君しかいない。しばらく考えたあと、リト君は指をピンと立てた。
「え~っとね、小遣いくれるなら、いいですよ! パパには僕から言っておくので、どのくらい手伝えばいいんですか?」
「そうだな、15日ぐらいかな……」
俺がそういうと、リト君は目をギョッと見開き、大声を出そうと口を大きく開いた。
「えっ!? 15むぐっ……!」
俺は咄嗟にリト君の口に右手を当て、左手の指を立てて、口元に当てた。落ち着いたリト君の口から手をどかして、真剣な表情を浮かべたる。
「これはパパには内緒の極秘な任務なんだ……」
「極秘な任務……?」
その瞬間、リト君の目つきが変わった。子供とはいつの時代も、ヒーローのような真似事が好きなのを知っている。
「それで……報酬の方は?」
リト君もノリノリになってきた。悪そうな目つきをしているが、仕草も相まって、むしろ可愛さが増している。さて、報酬か……俺がハンクさんから受け取るのは石の鍬1本につき銅貨5枚、ざっと計算して一日80枚ぐらいか……子供にあげるのは多くない方が良いかな。俺はリト君にだけ見えるように、人差し指を立てる。
「1日銅貨10枚でどうかな?」
リト君は険しい表情浮かべながら、首を傾げると、眉毛をクイッと上げて、ニヤついた。
「それは安すぎでしょ~50枚はくれなきゃ♪」
くっ、さすがに安すぎるか……いや、これは想定内。営業の人が使うテクニックの1つ、「最初に無茶な要求をして、本命の要求を通す」作戦だ! 最初から10枚で落ちるとは思っておらぬぞ……。俺は今度は中指も一緒に立てる。
「ふふ……ならば20枚はどうだ?」
「いや……40枚♪」
「30枚……っ!」
「乗った!」
リト君は指をパチンと鳴らして、悪い目つきでニヤリと笑みを浮かべながら、俺と握手を交わした。
「今日からすればいいんですか?」
リト君に言われて、ふと外に視線を向ける。すでに夕暮れ時になってきていて、リト君を外に出すのは危険だ。それにこの後は俺も拠点に戻ってインベントリを整理する必要もあるし、今日のノルマは達成している。このまま、一度解散するのが無難だろう。俺はゆっくりと首を振った。
「いや、今日は大丈夫だよ。明日の朝からお願いしても良いかな?」
リト君は元気に頷き、優しい笑顔を見せる。
「わかりました。じゃあ明日、準備しときますね」
そう言って、リト君は駆け足でアルフレッドさんの元へ戻っていった。さて、俺もハンクさんとニックさんに伝えないとな。俺は宿を抜けて、急いで武器屋に戻る。
武器屋に到着すると、ニックさんとハンクさんが16本の石の鍬を棚に綺麗に並べていた。朝のドタバタがまるで嘘だったかのように、床に散らばった武器は綺麗に陳列され、最初に訪れた時より、より清潔さを増していた。俺に気が付いたハンクさんは、険しい表情を浮かべ、ズカズカと近寄ると、小袋を取り出した。
「お前さん、どこにいっとったんじゃ? すでに16本は並べ終わっとるぞ? ほれ、残りのお金じゃ」
ハンクさんは小袋を俺の胸に押し当てるように渡してきた。俺は引きつったような笑みを浮かべて、小袋を受け取ると、シュッと吸い込まれるように消え、UIに〈銅貨:80枚〉と表記された。
「すみません、実はある子にお願いをしてきたんです。明日からその子も手伝ってくれます。木はしばらく大丈夫だと思いますので、ニックさん、明日はその子と石を採ってきてもらえると助かるんですが……」
俺がそう伝えると、ニックさんは胸をグッと張り、自信ありげに答える。
「任せてください! よぉし、明日も頑張るぞぉ!」
ニックさんは鼻歌交じりに店の奥に入っていく。ハンクさんは俺の肩をバチンと叩き、
「ほれ、今日はもう遅いから、さっさと帰らんか。明日も大変なんじゃからな、休めるうちに休んでおけ」
「わかりました、それでは明日、また来ますので」
俺はそういって、頭を下げると、扉を開けて、武器屋を後にした。外はすでに日が沈みかけていて、明かりもところどころ点き始めている。ゾンビに遭遇しないクエストもあるし、早いところ、拠点に戻るとするか。拠点に戻り、扉を閉めると、颯爽と向かったのは保管箱だ。インベントリを整理するためにも不要な素材は保管箱に入れていこう。え~っと、今の保管箱とインベントリの中身は……。
〈保管箱〉残:70
毒草:1
毒キノコ:1
神経草:1
毒消し草:6
小麦:3
木の棒:14
原木:4
〈インベントリ〉
鉄の剣:100/100
石の斧:9/10
パン:3
木の実:16
石炭:32
木材:32
木材:32
――
木材:20
木の棒:2
俺は中身を覗きながら考え込む。これだけ素材があるのなら、何も作らないのは勿体ないよな。リト君と何のために石炭をとったのかわからなくなるし。ふと周りを見渡すと、村の様子が脳裏に浮かぶ。陽光に照らされ、木造の家々は柔らかな影を落とし、通りには灯りのついたランタンが揺れていた。人の気配、笑い声、”光”は人を笑顔にする。だが、俺の拠点はどうだ?
土壁に囲まれた薄暗い部屋、壁は冷たく、照明器具といったランプやランタンもない。わずかな隙間から射し込む夕暮れの光すら、部屋の奥までは届かず、空気はどこか淀んでいる。
――明かりが、足りない。
そんな言葉が、頭をよぎった。
「……よし、松明でも作るかな」
俺は、そう決意し、まずは保管箱から、〈木の棒:14〉をインベントリにしまい込み、そのまま作業台へ向かうと、クラフト画面を開く。石炭をとった時に松明のクラフト画面を覗いたことがある。確か、木の棒と石炭で作れたはずだけど、もう一度確認してみるか……。
【松明】×2
必要資材:木の棒1、石炭1
効果:半径5mを照らす。
この拠点程度なら四隅に1個ずつ配置すれば、十分明かりを確保できるはずだ。俺は、作業台の上に木の棒と石炭を配置してクラフトを開始。カチカチっと音を出しながら、結合し、次第に1つの塊から2つへ、分離すると、手で持てるサイズの〈松明〉が淡い光を放ちながら出来上がる。俺はそれを手に取り、インベントリにしまい込み、次の松明をクラフトしようとすると、クエストタブが淡く光っていることに気が付く。
「あ、そういえば、クエスト全然見てなかったな」
かなりのクエストを達成していたのに、夢中で気が付かないとは……。俺は期待を込めて達成したクエストを確認する。
《石の鍬を1本クラフトして、店主に販売しろ!》×16
合計報酬:経験値+85、スキルポイント+1、能力値振り分け+1
《松明をクラフトしろ!》
報酬:経験値+10、スキルポイント+1、火打石1
こんなに達成してたのか!? 経験値の合計95って……まさか、ここまで稼げるとは思わなかったな。順調に成長してきているし、武器も充実し始めた。レベルアップもしているから、新しいスキルを開放するいい機会かもしれないな。
【中島佑太】
レベル:6 スキルポイント:4 能力値振り分け:7
体力:10
筋力:7
敏捷:5
技術:5
感性:5
魅力:5
経験値:65/70(Lv7に必要な経験値)
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うん、いい感じだ。明日になれば、今日の通常クエストも達成してるはずだ。よし、今の状況に合いそうなスキルは何だろう……。クラフト系か生活系に絞り込むか……。俺はめぼしいスキルをピックアップしていき、候補となりそうなものを上げていく。
〈クラフトLv2〉
消費ポイント:4
効果:クラフト時のスピード-10%に減少。
〈体調管理〉
消費ポイント:2
効果:体力の消費が-10%減少。
クラフトは今後も重宝するし、この世界で生きていくのに、欠かせないスキルの1つになるだろうし、生活をしていく中で、自動で体調を管理してくれるのは助かる。明日になればクエストは達成して、レベルも上がるだろうから、この二つを獲得する動きで行こうか。とりあえず、まずは〈クラフトLv2〉を獲得しよう。俺はスキルを獲得したあと、残った石炭と木材で松明を全てクラフトした。そして、部屋の四隅に松明を設置し、火打石で明かりを灯す。
ボゥッ……
静かに火を灯した松明の光が、ユラユラと揺らめきながら拠点の壁や床を優しく照らしている。その光は決して強くはない。けれど、暗闇に包まれたこの場所にとって、それは確かな存在だった。俺はこの世界に来て”光”を手に入れたのだ。気づけば、この数日間でいくつものものを作り、出会い、守ってきた。クラフトに戸惑い、食料に困り、そして人との関わりに戸惑いながらも、俺は生きている。そして今――こうして目の前を照らす灯りがある。
心の奥から、じんわりと温かいものが湧き上がるのを感じた。まだ何もかも不安定で、拠点だって不格好で、俺自身だって未熟なままだけれど――それでも、俺は前に進んでいる。少しずつ、確実に。そして、この拠点もまた、俺と一緒に、少しずつ形になっていく。
「……明日も大変だし、今日はもう寝るとするかな」
俺は保管箱に、現状使いそうにない、アイテムをしまい込み、ベッドにゆっくりと腰を掛けた。
〈保管箱〉残:6
毒草:1
毒キノコ:1
神経草:1
毒消し草:6
小麦:3
原木:4
松明:60
木の実:16
石の斧:9/10
火打石:1
〈インベントリ〉
鉄の剣:100/100
パン:3
木材:32
木材:32
――
木材:12
そろそろ、保管箱もスペースがなくなってきたから、クラフトしておかないといけないな。明日になったら、また石の鍬を作って、クエストを確認して……あぁ、まだまだやることがいっぱいある。俺はベッドの上に寝転び、天井を見つめて、そんなことを考えていると、いつの間にか瞼を閉じて、ユラユラと揺らめく松明の光に癒されながら深い眠りについた――。
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