『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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ふたりの兄

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バルツアー様が扉をくぐって入ってきたとき、
彼のがっしりとした肩幅と、姿勢の良さに、村の女性が「ひゃっ」と小さく声を上げた。

けれど私は、特に何とも思わなかった。

むしろ――

(ああ、ロイドお兄様も、朝稽古のあとはあんな感じだった)

つい、そんなことを思ってしまうのだから、自分でも笑ってしまう。



「……私の外見、村では少し浮いているようですね」

紅茶を受け取りながら、バルツアー様が苦笑する。

「いえ。私は慣れておりますので」

「慣れて?」

「兄たちが、二人とも“がっしり系”ですから。
 ロイド兄様とアラン兄様。家では私が一番、肩幅が狭かったくらいです」

私の言葉に、彼は一瞬驚いた顔をしてから――笑った。

「……なるほど。ならば、私は安心して“筋肉を張って”いられるわけだ」



シャルルがふわりと鳴き、バルツアー様の膝に飛び乗った。

その膝の上でまるくなりながら、彼の腕にすり寄っている。

(シャルルも、たぶん慣れているのよね。がっしりした腕に)


その日はいつもよりカフェが静かだった。
シャルルが珍しく、窓辺ではなくカウンターの上に陣取って丸くなっている。

すると、ドアが勢いよく開いた――

「ソフィアちゃあああああん!!」

「えっ――兄様たち!?」



先に突入してきたのは、長男ロイド兄様。
目元を真っ赤にしながら、でかい体で私を抱きしめた。

その後ろからは、次男アラン兄様。
ハンカチが小さすぎて、分厚い指先で器用に涙を拭っている。



「辛かったわよね……! お前が断罪されて追放だなんて……っ!
 どれだけ心配したと思ってるんだぁああ!!」

「うちの妹が! おとなしく猫抱いてるだけで済む子じゃないんですよ!
 魂の芯まで礼儀と筋肉でできてる子なんですから!」

「帰ってこなくてもいい、でも、いつでも帰ってこれる家があるのよおおおお!!」



私は唖然としていた。
猫も、完全に耳を伏せている。

「……兄様たち、落ち着いてください」

「落ち着いてるよォ!!!」(←落ち着いてない)



その時――

「……すみません。ちょっと、いいでしょうか」

辺境伯・バルツアー様が、紅茶のカップを置いて立ち上がった。

ロイド兄とアラン兄、2メートル近い筋肉の塊2人に、
冷静に向き合う。



「ここ、カフェですので。
 あまりにでかい筋肉が同時に泣き崩れると……
 正直、他のお客様が入りにくいです」

「……」

「おふたりが椅子に座っただけで、4席分消えてます」



沈黙。

そして。

「すみませんでしたぁあああ!!!」(※兄弟2人、土下座)



シャルルが、冷たい目で彼らを見ている。

「にゃ……」(訳:ごちゃごちゃうるさい)



私は兄たちに紅茶を入れる。
――平常運転である。


シャルルの胸枕ランキング(猫視点)



第1位:バルツアー様(辺境伯)

「広い、安定してる、呼吸が静か。何より、どかされない。完璧ニャ。」
→ ごろごろ鳴っても微動だにせず、重さにも無言で耐えてくれる。
→ 紳士的に“枕としての責務”を果たす男。

シャルル総評:

「この膝と胸は、猫専用とするべきニャ。」



第2位:ロイド兄様(長男・騎士団長級)

「とにかくでかい!むっちりしてて沈み込む!
でも感情の起伏で鼓動がうるさい時があるニャ……」

→ 泣きながら抱きしめられると、頭が上下して疲れる
→ でも涙がこぼれて湿気ることを除けば最高のマット感

シャルル総評:

「寝心地は良い。だが情緒不安定な日は避けたいニャ」



第3位:アラン兄様(理論派ムキムキ)

「筋肉が整いすぎて、ちょっと固いニャ……。でも温度がちょうどいい」
→ 寝心地より“猫の姿勢を分析してくる”ので落ち着かない

→ 触れると「今のはどこが気持ちよかったですか?」って聞かれる(※猫的に困る)

シャルル総評:

「悪くはないが、寝てるのに“研究対象”になるのは疲れるニャ」



圏外:王太子ハロルド

「論外ニャ。あいつが来たら本棚の上から飛び蹴りするニャ」



「胸筋は寝床。信頼の証。どかす者に、未来はない。」――シャルル談。

「静かにしてくれるなら、体は貸す。
 しゃべりすぎは、即移動ニャ。」
 ── カフェシャルルの看板猫より


『兄たちの怒り ――決して許されぬこと』

夜。
カフェの裏庭にある、静かな小道。

ロイドとアランが並んで立っていた。
その向かいに、バルツアーが腕を組んでいる。

風は冷たいが、誰も口を開こうとはしない。
怒りというものは、ときに沈黙に乗って、より深く伝わる。

 

ようやくロイドが口を開いた。

「……俺は、戦場にいた。
命をかけて、この国を守っていた。
その間に、誰が? 妹を――ソフィアを、追放した?」

 

アランが静かに答える。

「しかも、理由もなく。罪もなく。
ただ“邪魔だった”というだけで。
誰よりも保護すべき家族を、王都から遠ざけて――
何が“王子”だ。何が“国のため”だ。」

 

ロイドは拳を握る。
その音が、骨と皮の間で鈍く鳴った。

「俺が知らなかったことが、悔しい。
あいつ、まだ首が繋がってたよな」

 

アランが口元を歪めた。

「どうすればいいか、って?」

 

そこに、バルツアーの低い声が割って入る。

「……全くです」

 

その一言だけで、空気が張り詰める。

 

ロイドとアランはうなずいた。

「すでに、妹を“取り戻す”段階は終わった。
次は、“代償”を払わせる番だ」

 

その夜、火はまだ燃えていた。
カフェの窓にはやさしい灯りが灯る一方で――

その裏で、兄たちと辺境伯は、
静かに、決して許されぬ者への“覚悟”を固めていた。

 


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