『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』

夢窓(ゆめまど)

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悪魔の唐揚げ・尋問編

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王宮の地下牢。
 縄で縛られた間者の前に、香ばしい匂いが漂った。

「……な、なんだ、その匂いは……」

 アドレが横目で私を見る。
「……メイベル」

「はいっ! 唐揚げ、揚げたてです!」
 私は胸を張って、お皿を差し出した。
「尋問に使ってください。これぞ――悪魔の唐揚げです!」

 影たちがゴクリと喉を鳴らす。

 皿を差し出され、仕方なく口にした間者。
「……っ!? な、なんだこれ……!? 外はカリッ、中はじゅわっ……! も、もっと……もっと欲しい……!」

 アドレが冷酷に命じる。
「吐け。全部吐いたら、食わせてやる」

「い、言うっ! 言うからっ! 全部話すからぁぁぁ! だからもっと食わせてくれぇぇぇ!!」

 牢の中に、涙とよだれで必死に証言する声が響いた。



 そのやり取りを眺めていた影たちが、顔を見合わせてひそひそ声を漏らす。

「……やっぱりあの唐揚げは、ビールなしだと悪魔だな」
「ああ。中和されないから、欲望だけが暴走する」
「俺たちは……経験済みだからな……」

 ぞっとしたように肩を震わせる影たち。

 そんな彼らの横で、私はにこにこと胸を張った。
「揚げたては最高ですよねっ!」

 影たち全員が、同時に頭を抱えた。

(殿下と影の温度差)

 尋問が終わった後。
 地下牢の前室で、アルバート殿下が指先で唐揚げをつまみ、ひょいと口に入れた。

「……やはり旨いな。唐揚げとビール、最高の組み合わせだ」
 殿下は満足そうに頷く。

 だが、影たちは一斉に青ざめて首を振った。

「殿下、それは……殿下だからこそです」

「……?」

「我らは任務中、酒を口にできません。
 あの唐揚げをビールなしで食べれば……あっという間に、頭の中が“もっと、もっと”で埋め尽くされるのです……!」

 影たちは肩を震わせ、遠い目をした。

「……俺は一晩中、唐揚げの幻に追われた……」
「……寝ても覚めても“もう一個”しか考えられなくなる」
「……二度と素面では口にしたくない……」

 彼らの声は恐怖そのものだった。

 殿下はぽかんと彼らを見渡し、そして小さく吹き出した。

「……なるほど。影には毒、私にはただの酒の肴、か」
 黒猫ポーチを撫でながら、心底楽しそうに笑った。

(メイベル登場・ご褒美唐揚げ)

 影たちが青ざめて震える中、私は両手に大皿を抱えて部屋に入った。

「お待たせしました~! 唐揚げ第二弾、揚げたてですよ!」

 香ばしい匂いに、殿下の顔がぱっと明るくなる。
「おお、待っていた! やはり君の唐揚げは最高だ」

 私は嬉しそうに胸を張った。
「唐揚げは――がんばった人へのご褒美ですから!」

 ――その一言に、影たちが一斉に石像のように固まった。

「ご、ご褒美……?」
「……いや、違う、違うぞ……」
「もう二度と……素面では……」

 肩をがくがく震わせる影たちの横で、殿下は豪快に笑いながら唐揚げを頬張った。

「ほら見ろ。酒と合わせればただの旨い肴だ。
 ……やはり、君は手放せないな、メイベル」

「え? なんですか?」
 無邪気に首をかしげる私に、殿下はビールを掲げ、意味深に微笑んだ。

 影たちはただただ、無言で唐揚げの皿を見ないようにしていた。


(悪魔のお持ち帰り)

 皿を片付けながら、私はふと思い出したように声をあげた。

「あっ、そうだ! 影の皆さんにも――」

「……え?」
 影たちが揃って顔を上げる。

「勤務中ですもんね。お酒と一緒に食べられないから……」
 にこにこと笑いながら、私は包みを取り出した。
 油を吸った紙袋に、ぎっしり詰められた黄金色の唐揚げ。ビールつき

「お持ち帰り用、ちゃんとパックしてあります!」

 
唐揚げパックを差し出す私に、影たちは凍りついたように固まっていた。

「……っ、メイベル様……」

「勤務中ですもんね」
 私はにっこり笑う。
「だから、お持ち帰りして――家でビールと一緒に食べてください。ビールつけますね。」

 その言葉に、影たちは一斉に息を呑んだ。

「……家で……ビールと……」
「そ、それなら……!」
「中和される……!」

 握った拳が震える。
 殿下がグラスを掲げて笑った。
「そういうことだ。唐揚げは酒と共に、だな」

 フリードリヒも短く言った。
「……任務の褒美としては上等だ」

 影たちは、ようやく安堵の息を吐き、両手で大事そうにパックを受け取った。

(これで……帰宅後は……)

 その夜。
 影たちの家々の窓から、ほのかな灯りが漏れていた。
 黄金色の唐揚げと、冷えたビール。
 涙を浮かべながら箸を進める影たちの姿が、そこにあった。

「……うまい……っ! これだ……これが本来の姿……!」

 任務の疲れを吹き飛ばす、至福の一口。
 影たちはようやく、唐揚げを“ご褒美”として味わうことができたのだった。


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