『愛に狂う香り、愛を選ぶ香り ――離婚から始まる私の香り』

夢窓(ゆめまど)

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オーダーメイド香水店、大反響で大成功

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〈クリスティンの香水サロン “MY OWN PERFUME” 開店〉

開店初日。
朝から工場の前に馬車がずらりと並び、
上から下まで宝石で着飾った貴族令嬢たちが列を作っていた。

「予約が取れたの……夢みたい!」
「クリスティン様に、“私だけの香り”を作っていただけるなんて!」
「今日のためにドレスも新調したの!」

ルイは静かに言った。

「クリスティン様。すでに二ヶ月先まで予約が埋まっております。」

クリスティンは微笑んだ。

「ありがとう。お祖母様の意志を継いだ甲斐があるわね。」



★おもてなしの間(商談室)

サロンの奥へ案内されると、
そこはまるで小さな王宮のような華やかな空間だった。

淡い金のレースカーテン。
壁には祖母が描いた香りのスケッチ。
テーブルには上品な焼き菓子と、香りの邪魔にならない淡い紅茶。

「本日はようこそお越しくださいました。」

クリスティンの柔らかい声に、
令嬢たちは皆、緊張と期待で息を呑む。

商談は必ず 紅茶とお菓子を供する“おもてなし” から始まる。

「どんな場面で使いたい香りですか?」
「恋人に会う時? 舞踏会? それとも……自分の勇気が欲しい時?」

令嬢は頬を染めて語り出す。

「わたくし……好きな方がいまして……」
「新しい人生を始めたいのです」
「婚約者と距離があって……少しでも自信がほしい」

クリスティンは丁寧に紙に書き留める。

「ええ、すべて香りにしましょう。」

紅茶の香りがふわりと広がり、
そのひとときが、令嬢たちにとって特別な“癒しの時間”になる。



★無香の“調香室”で、魔法のような調合

商談が終わると、
令嬢は“無香調香室”へと案内される。

白を基調にした部屋。
外の空気や香りが一切入らない、
調香師にとって“聖域”のような空間。

助手が言う。

「こちらではお菓子や飲み物は出せません。
香りの邪魔になるので。」

ルイが並ぶ瓶を指先でなぞりながら、

「香りはあなたの人生そのものです。
どうぞ深呼吸して、正直な感覚を教えてください。」

クリスティンは瓶をひとつ持ち上げる。

「これは“ローズ・オブ・イブニング”。
落ち着きと愛情を象徴する香り」

次にレモンの香り。

「これは“新しい始まり”を表すベルガモット」

香りを組み合わせながら、
クリスティンは令嬢の表情の変化を読み取っていく。

「……この香り……好きです……!」
「じゃあこれは“あなたの心が求める香り”ね。」

そして最後に必ず聞く。

「この香りを、いつ使いたいですか?」

令嬢が答える。

「告白の前日に……」
「家を継ぐ覚悟を決めた夜に……」
「新しい自分になりたい朝に……」

クリスティンは頷き、
その目的に合わせた最終調香を行う。



★香りが完成し、お届けへ

完成した香水は、
小瓶にリボンを添えて丁寧に梱包される。

「本日調合した香りは、三日後にお届けします。
香りが落ち着いた“最も美しい状態”で。」

令嬢たちの顔は喜びで輝き、
中には泣き出す者もいた。

「わたし……こんなに素敵な香りを持つ人生があったなんて……!」

サロンは、
わずか三日で “社交界の新名所” となった。

口コミは一気に広がり――

「プロポーズされました!」
「舞踏会で注目を浴びました!」
「夫との中が良くなりました!」

クリスティンの香りは、
誰かの人生をそっと押し出す“魔法”として大人気に。

彼女は調香師として、
そして一人の女性として――
過去とは比べものにならないほど輝いていた。

オーディン家、破綻寸前で泣きつく(完全門前払い)

クリスティンの香水サロン “MY OWN PERFUME” が開いて三ヶ月。

街には美しい香りが風に乗り、
「恋を呼ぶ香り」
「勇気をくれる香り」
「真実の自分に戻れる香り」
と、どれもが大評判。

特に、
クリスティンが作ったある特別な香り――

《ロマンス・ラプソディ》

これは〝身につけると運命の出会いが訪れる〟と噂になり、
貴婦人から使用人の娘にまで、爆発的流行を見せていた。

街にはこんな話が飛び交っている。

「この香りをつけて舞踏会に行ったら求婚されたの!」
「婚約者と仲直りできましたわ!」
「うちの娘、初めて恋を……!」

香りは国中に広がり、
ついには 遠方の王侯貴族からも注文が殺到。

ルイ「クリスティン様……ついに国外からの注文が入りました。」
クリスティン「まあ、嬉しいわ。祖母も喜ぶはず。」

サロンは連日予約で満席。
街の経済すら動かすほどの一大ブームとなっていた。



★その頃:倒れかけのオーディン家

一方……

オーディン家の屋敷は、
人影もまばらになり、空気は重苦しい。

父「……領地収入が……もう半年も赤字だ……」
母「どうして……クリスティンがいた時は安定していたのに……」
姉「仕事を全部押しつけていたのよ。
今さら分かったの?この家の“無能っぷり”が。」

そして当のオーディンは――

顔色は土のように青く、
目の下には深いクマ。
アデルにも逃げられ、
家中から責められ、もう心が折れかけていた。

父が決断する。

「……クリスティンに助けを求めるしかない。」

姉「無理よ。あれだけ酷い目に遭わせておいて、何を顔向けするの?」

母「でも……領地が滅ぶ……」

そんな家族会議の末、
オーディンは震えながら頷いた。

「……行く……
俺が……行くしか……」



★香水サロン前――情けない訪問

その日、クリスティンのサロンは満員。
外には馬車が何台も連なり、
華やかな女性たちが順番を待っている。

そこへ――

ボロボロになったオーディンが現れた。

「ク……クリスティン……
たのむ……領地が……家が……」

ルイは無表情で扉を閉じた。

バタン。

オーディン「なっ……!?」
ルイ「本日は予約のお客様以外、お断りしております。」
オーディン「俺は……夫……だろ……?」
ルイ「元、です。」

オーディン、撃沈。

「領地経営も財務も、
クリスティン様に押しつけていたあなたが、
今さら何を言うのです。」

オーディンの膝が崩れ落ちる。

「……お願いだ……助けてくれ……
あの家には……クリスティン以外、誰も……」

ルイは静かに一礼した。

「申し訳ありませんが――
あなたにお見せする香りはありません。
どうぞお引き取りを。」

扉が再び閉じられた。

完全門前払い。

外で待っていた令嬢たちがひそひそと話し出す。

「あれ、オーディン様じゃない?」
「前の夫、って噂の?」
「みじめね……」
「クリスティン様に捨てられた理由、分かるわ。」

女性たちの視線が冷たく突き刺さる。

オーディンは、
国中が憧れる“恋を呼ぶ香り”のサロンの前で――
唯一、香りすら与えてもらえない男になった。



★その頃:サロン内は祝祭のような賑わい

クリスティンは調香室で新しい注文に取り組んでいた。

「今日はどんな香りを?」
「“自分を愛する勇気”をください。」

クリスティンは微笑み、瓶に手を伸ばす。

「ええ。あなたにぴったりの香り……作りますね。」

再生、恋、希望。
それらを香りに変える魔法の時間。

サロンに満ちる幸福の気配は、
オーディン家には決して戻らなかった。
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