『愛に狂う香り、愛を選ぶ香り ――離婚から始まる私の香り』

夢窓(ゆめまど)

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激しい愛

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<そして彼は――暗闇の道へ>

ジャルディンは姿を消した。
だが噂は残った。

「天才調香師が失踪した」
「禁断の香りの研究を始めた」
「“黒香師”として裏市場を支配している」

クリスティンはその噂を聞かないようにしていた。
聞けば胸が裂けそうだったから。

しかし今、
彼の印が目の前にある。

ルイが低く問う。

「……クリスティン様。
まさか――黒香師があなたを狙う理由は……」

クリスティンは悲しそうに微笑んだ。

「理由なんて一つよ。
ジャルディンはずっと、
私を想っていてくれたの。」

「でも私は……
他の家に嫁いでしまった。」

ルイは息を呑む。

「それで……彼の心はゆがんだのですか。」

「ええ。
愛の香りを作る才能があったのに――
私がいなくなったせいで、
“人を支配する香り”へ堕ちてしまった。」



<サロンの扉の前に、ジャルディンが現れる>

夕暮れ。

静かな香水サロンの前に、
黒いコートの男が立っていた。

風が彼の髪を揺らす。

その瞳は、かつてクリスティンが恋した少年のものではなく、
闇を抱えた男の目だった。

だが、面影はそのまま。
相変わらず美しい。

ジャルディン「……久しぶりだね、クリス。」

クリスティンの身体が小さく震えた。

クリスティン「……ジャルディン。」

男の唇が皮肉げに歪む。

「俺たち、まだ終わってないよね?」

クリスティンは息を呑む。

「あなた……どうして……?」

ジャルディンは、一歩、彼女に近づいた。

「君が恋を呼ぶ香りを作った。
俺の知らない男たちが、君の香りを身につける。
……許せると思う?」

初恋の面影が、
狂気と執着に染まっていた。

そして彼は静かに告げる。

「クリス。
君は俺のものだ。
香りも――心も――全部。」

黒香師と調香師。
愛がゆがみ、世界を分けた二人は、
いよいよ“本当の再会”をしてしまった。


<クリスティンの心の叫び>

ジャルディンが一歩近づいた瞬間、
クリスティンの胸の奥で――
“本能”が鋭く鳴り響いた。

近づくな。
この男は危険だ。
死ぬ――。

あの日の光景が、鮮明によみがえる。

暗い湖。
冷たい水。
息ができない。
もがいても浮かばない。

そして――

「君を奪われるくらいなら、いっそ……」

ジャルディンの狂った声。

クリスティンは震える指で胸を押さえ、
彼の瞳をまっすぐ見返した。

「ジャルディン。
愛していたから許せる?
そんなわけ、ないわ。」

ジャルディンの表情が凍る。

だが彼女は決して視線をそらさない。

「私はあなたに“殺されかけた”のよ。」

夕暮れの光が、二人の間に鋭い影を落とす。

「愛しているからって、
どうして私を水に沈めたの?」

「どうして“奪われるくらいなら死んでほしい”なんて思ったの?」

クリスティンの声は震えていたが、
その言葉だけは鋭く、まっすぐだった。

「私はね、ジャルディン。
あの時の恐怖を、一生忘れない。」

「水の中で、息ができなくて、
助けも呼べなくて、
世界が遠のいていく中で――
ただ一つだけ本能が叫んだの。」

“この人は、もう愛してはいけない”。

ジャルディンの手がわずかに震える。

クリスティンは続けた。

「愛しているから殺す。
そんな愛は、愛じゃない。」

「あなたのそばにいたら――
私はまた死にかけるわ。」

「だから、許さない。
許したら、
また私はあなたの狂気に引きずり込まれる。」

クリスティンは静かに、
けれど決然と告げた。

「愛していた。
でも――もう二度と、あなたには触れられない。」

「私は、生きていたい。」

その一言が、
ジャルディンの胸に深く突き刺さった。


沈黙の中、ジャルディンの瞳がふっと揺れた。
彼は、ひどく優しい声で囁いた。

「……君を守るためだったんだよ、クリス。」

クリスティンの眉が険しくなる。

ジャルディンは続けた。

「君は誰より美しい。
誰より純粋で、繊細で……
この世界に触れれば、いずれ壊れてしまう。」

「だから、俺の手の中に閉じ込めて……
君を“傷つかない場所”に置いておきたかった。」

その声は柔らかく、
まるで恋人に語りかけるように甘やかだった。

けれど、その甘さの中に潜むものは――
深い狂気。

ジャルディンの指が空をなぞる。

「水に沈めたのは……君を汚されたくなかったからだ。
泥にも、罪にも、男たちにも、
この世界の悪意にも触れてほしくなかった。」

「俺の中に閉じ込めたかった……
誰にも触れさせず、傷つけさせず……
“完全な美しさのまま”保存したかった。」

クリスティンは震える唇で言った。

「それは……守るじゃないわ。」

ジャルディンの目が細くなる。

「君は分かっていない……この世界の男たちがどれほど汚れていて、
君のような光に触れれば破壊したくなるほど欲望を抱くのか……」

彼の声は優しいのに、刃のように鋭い。

クリスティンははっきりと首を振った。



<クリスティンの答え>

「私は泥だらけでも、生きている方を選ぶ。」

空気がぴたりと止まった。

「あなたの言う“美しさ”なんて、私にはいらない。」

「傷ついても、汚れても、悩んでも……
それでも私は、私の人生を、自分の足で歩く。」

クリスティンは強く息を吸い込んだ。

「だからあなたの香りは許せない。
人を閉じ込め、縛り、消そうとする香りなんて……絶対に。」

「私は戦うわ。
香りで人を支配しようとするあなたと。」

ジャルディンの喉がかすかに震えた。



★ジャルディンの“ゆがんだ愛”の結末

ジャルディンは、クリスティンの強い意志に
一瞬だけ息を呑んだように見えた。

しかしそのあと――
ゆっくりと微笑んだ。

それは泣いているようで、
狂っているようでもある笑み。

「……やはり、君は美しい。」

クリスティン「……何を……?」

「泥だらけでも生きたいと言える君は……
俺の想像を超えて、美しい。」

そして、自嘲のように呟いた。

「私は……汚れすぎたのだな。」

「君を愛しすぎて、
君を守ろうとして、
君を壊そうとした。」

細い指がクリスティンに触れかけて――
すぐに引っ込められた。

「黒香師になった時点で、
私はもう……君の隣に立つ資格を失った。」

その目には、悲しみも後悔も憎しみもない。
ただ、愛だけが――壊れたまま残っていた。

ジャルディンは一歩下がり、
黒いコートの裾を揺らした。

「……だが、クリス。」

「君が“戦う”というのなら――
俺は“全力で迎え撃つ”。」

「それが……
君への最後の愛だ。」

闇の中へ、ジャルディンは消えた。

初恋は完全に終わり、
美しい形を捨て、
二人は“敵”になった。
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