『愛に狂う香り、愛を選ぶ香り ――離婚から始まる私の香り』

夢窓(ゆめまど)

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香り研究部の解析――判明する“禁忌の事実”

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城内・香り研究部(アロマティック・ラボ)。
白い壁に香気結界が張られ、厳重な防御の中、
複数の研究員が街から採取した“黒い芳香粒子”を前に凍りついていた。

ルシオンとクリスティンが到着すると、
学者たちはほぼ青ざめていた。



■ 研究部長の声が震える

「……これが、街の空気に混ざっていた物質です」

透明な瓶の中——
黒と紫が混ざるような、ねじれた香りの霧。

クリスティンは眉を寄せた。

「これ……香りが死んでるみたい。
花から抽出した香りじゃないわ。何を……?」

研究員は震える指で資料を差し出す。



■ 恐怖の解析報告

「ジャルディンが使っている香りは……
**“殺香(さつこう)”と呼ばれる禁忌の技術です。」」

ルシオン「……殺す香り、だと?」

「はい。
香りそのものを分解し、
人の感情・神経・呼吸器に直接干渉する“侵食香” に変える技術……。

これは本来——
王国が研究を禁じ、犯罪として処刑対象になった香技です。」

クリスティン
「処刑対象……!?」

研究員の顔が引きつる。



■ 解析が示す“異常”

「今の香り災害……
実は、まだ“弱い段階”でした」

ルシオン「弱い……?」

「街で倒れた人々は、
黒香の“表層”に触れただけです。

本来、この香りは——
吸った瞬間、心臓が止まる。

毒より速い。
魔法より確実。

……ですが、今回使われたのは“抑制版”。」

クリスティン
「抑制版? じゃあ、どうしてそんな中途半端なことを——」

研究員のひとりが震えながら言った。

「……対象に“免疫”を作るため、です。」



■ 研究部、全員戦慄

クリスティン「免疫?
香りに免疫なんて——」

研究部長
「あります。
しかし、普通は“微量の香りを体に慣らす”行為は、
個人の調香師が自分の香り用にするものです。

……でも今回の黒香は、
街全体に“ジャルディンの香りへの依存性”を植えるものです。」

ルシオン
「依存……!?
つまり、次に強い香りを流せば——」

研究員
「はい。
街をまるごと支配できます。
彼の香りなしでは呼吸が辛くなる状態に……。」

クリスティン、息を呑む。



■ そして恐ろしい核心

研究部長は震える声で続ける。

「もっと怖いことがわかりました。
この“黒香”……原料の一部に——」

紙をめくる指が震える。

「……“クリスティン様の香り成分” が混ざっています」

クリスティン
「――は?」

ルシオン
「なんだと……!?」

研究員
「あなたが若い頃身につけていた香りです。
恐らく、
あなたを愛し、執着していた者でなければ採れない香り——。

ジャルディンの香りは、
クリスティン様を核にして作られている。

だからこそ、街を侵食できるほど強いのです」

クリスティンの全身が震えた。



■ 研究部長の総括

「まとめます。

・街は“依存香”によってすでに汚染されている
・ジャルディンはあなたの香りを核にして黒香を生み出している
・彼は次に、本物の“殺香”を発動させる可能性が高い」

静寂。

研究員が震える声で言った。

「……クリスティン様。
あなたが倒れたら、街は救えません」

ルシオンはクリスティンの肩を抱いた。

「だから言っただろ、狙われてるって」

クリスティンは唇をかみしめた。

「……最悪ね。
私が核にされてるなんて……許さないわ、絶対」

香り護符――ルシオンの想い

香り研究部を出た直後。
城の廊下は静まり返っていた。
遠くで誰かが咳き込む声が響く。
街の香災害は、まだ収まっていない。

クリスティンは深く息をつき、ルシオンに言った。

「……私、ジャルディンに“核”にされてるなんて。
気味が悪いわ」

ルシオンは横顔を見て、少し眉を寄せた。

「怖かっただろう?」

クリスティンはわずかに頷いた。

「ええ。正直に言えば……怖い」

その瞬間だった。
ルシオンは懐から、小さな銀のケースを取り出した。

それは指輪の箱にも見える。
クリスティンの胸が、ほんの少しだけ高鳴った。

「な、なにその箱?」

ルシオンは、照れを押し隠すように咳払いをした。

「……渡したいものがある」

ケースを開くと、
中には 透明な香り石と細い鎖のネックレス が入っていた。

美しい。
それだけで胸が震えるほどに。



■ ルシオンの説明

「これは〈香り護符(アロマ・タリスマン)〉だ。
通常の香石とは違う。
“特定の香りだけを弾く結界”を張る」

クリスティンは息を呑んだ。

「それって……まさか」

「ジャルディンの香りを、遮断する。
お前の体に入り込ませないためのものだ」



■ クリスティン、動揺

「……そんな貴重なもの、誰が作ったの?」

ルシオンは目をそらした。

「俺だ」

「え?」

「……前から、お前のことは護らなくちゃと思っていたから。
こうなる前から、ずっと準備してたんだ」

(“前から”……?
私、そんなに危なっかしかった?)

クリスティンの胸が熱くなる。
だが同時に疑問も湧く。

「どうして……私なんかのために?」

ルシオンは、真っ直ぐに彼女を見た。

表情は落ち着いているのに、
瞳は燃えるように熱かった。

「“なんか”じゃない。
お前は……大切だからだ」

クリスティンは一瞬、目をそむけた。
心臓が跳ねる。



■ ほぼ告白のような言葉

ルシオンは一歩、近づいた。

「香りの世界で核にされるほど、
誰かに深く愛されるのは確かに恐ろしいことだ。
でもな、クリスティン」

彼はそっと護符を取り出し、
彼女の首元へそっと手を伸ばした。

「“誰かの所有物”じゃなくていい。
自由でいい。
……だけど」

クリスティン「……だけど?」

ルシオンは低く、優しく言った。

「危険な目に遭う時くらいは……俺を頼れ」

その声が、胸の奥まで染み込む。

(こんなの……
まるで、告白みたいじゃない)



■ 護符を付ける瞬間

ルシオンは彼女の首に、
香り護符のネックレスをそっとかける。

クリスティンはわずかに身をすくめた。

「……触るわよ、首」

「いい。
触れていいから……つけさせてくれ」

彼の指が、軽く鎖に触れた。
火が走るように、胸が熱くなる。

カチリ、と留め具の音。

護符がクリスティンの胸元で揺れた。

ルシオンは言う。

「これで、ジャルディンの香りはお前に届かない。
……お前を守るのは、俺だ」

クリスティンは顔が熱くなるのを感じた。

「そんな言い方……
誤解するじゃない……」

ルシオンは少しだけ笑った。

「誤解じゃない」

ジャルディン視点――護符に触れた瞬間、狂気は破裂する

暗い部屋。
黒い香煙がゆらゆらと揺れている。

ジャルディンは瞳を閉じ、
香りで世界の“気配”を読む。

――その瞬間。
彼は息を呑んだ。

胸の奥で、何かが強烈に“弾かれた”のだ。

「…………あれは……何?」

クリスティンの香りが、
突然、壁に遮られたように遠ざかる。

まるで、
彼女が“誰かの腕の中に隠された”ように。

不快な、鋭い痛み。

鼻の奥が焼ける。

「……嘘だろう?」

ジャルディンは震える声で呟いた。



■ “護符”の存在を感じ取る

彼はクリスティンを核にした香りで世界を把握してきた。
香りは繋がり。
繋がりは所有。
所有は愛。

その“繋がり”が、
突然、断たれたのだ。

反射的に、ジャルディンの指先が震える。

「……誰の……香りだ……?」

香の防壁。
魔術の結界。
調香師の意図。

この3つが綺麗に重なり、
クリスティンを包み込んでいる。

――それはまるで、
彼女が 他の男に抱きしめられている ような感覚。

ジャルディンの喉がひきつる。

「……誰?」

声が殺気で震えた。



■ 狂気がにじみ出す独白

「クリスティンを閉じ込めて……
僕以外の男には絶対触れさせないはずだった。

君は僕の花園で、
純粋な香りだけを身にまとって、生きる予定だったんだ。

なのに……なんで……?」

彼の指先が、机をギリッと締めつける。

「誰が……君の首に“何か”をかけた?」

その言葉を言った瞬間、
彼の中で赤黒い嫉妬が弾けた。



■ ルシオンの香りを察知する

体の奥に、微かな香りが刺さる。

強く、潔癖で、剣みたいに直線的な……
男の香り。

「ルシオン……?」

その名を呟いた瞬間、
ジャルディンの表情が、ゆっくりと、怖いほど歪んだ。

「……君が……
クリスティンの香りに触れたの?」

手が震える。
爪が皮膚を傷つけるほど。

「首に……触れた?
肌に……触れたんだ……?」

倒れそうなほどの衝撃。

「許さない……」

震えが怒りに変わる。



■ 発狂寸前の嫉妬

「護符なんて……!
そんなものを、クリスティンが“常に身に着ける”なんて……!」

声が割れる。

「僕の香りを……拒絶するために……
他の男の香りが守ってるなんて……」

壁に手をつき、頭を打ちつけるようにして呟く。

「……いやだ……いやだ、嫌だ……
彼女の肌に触れる男なんて……!」

香煙が激しく揺れ、
部屋の空気が黒く濁っていく。

「クリスティン……
君を愛してるのは僕だけだ。
世界で一番、深く、狂ってるほどに」

ゆっくりと笑い出した。

「護符なんて……壊すよ。
壊す。
全部壊す。

君の香りを奪い返すまで……
僕は本気で狂う」

その瞳は、完全に壊れていた。
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