『愛に狂う香り、愛を選ぶ香り ――離婚から始まる私の香り』

夢窓(ゆめまど)

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最終章、これからも

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研究所崩落――二人の脱出

――手をつないで走る、生存本能のアクション

黒い広間の香陣が完全に相殺された瞬間。

ゴゴゴゴゴ……ッ!!

石造りの天井が軋み、
壁の裂け目から砂が落ち始めた。

ルシオンが即座に状況を察し、叫ぶ。

「崩れる!
クリスティン、こっちに来い!!」

クリスティンはよろめきながらも立ち上がる。

床が揺れ、
香陣の残骸が砕け散り、
黒い灰が舞う。

天井の石柱がひとつ落ちた。

ドシャァンッ!!

「きゃっ……!」

ルシオンが即座に彼女の手をつかむ。

その握り方は強くて、
絶対に離す気がない。

「手を、離すな。
絶対にだ!」

「離さない!
あなたこそ、置いていかないで!」

二人は走り出す。

坑道が崩れ、階段が落ち、
どこもかしこも瓦礫で塞がれていく。

ルシオンはクリスティンの手を引き、
右へ、左へ、瞬時に判断しながら突き進む。

「こっちだ、急げ!
出口は上だ!」

「わかった!」

息が切れても止まらない。
何度も倒れそうになるクリスティンを
ルシオンは片腕で支え続ける。

途中、通路が大きく裂けた。

向こう側まで距離がありすぎる。

「む、無理よ……!」

「飛べ!
俺が引き上げる!」

クリスティンは決死の覚悟で跳ぶ。

手が届くか――その瞬間。

がしっ!!

ルシオンの手がクリスティンの手首を掴む。

「大丈夫だ、離さない!!」

引き上げられ、再び走り出す。

最後の階段が崩れ落ちる寸前、
二人は勢いそのまま地上への扉へ飛び込んだ。

バァン!!

直後、研究所全体が轟音とともに崩れ落ちた。



✦ 地上――自由の風

――クリスティン、その場に座り込み涙する“静けさ

外の空気は、ひどく眩しく、温かかった。

草の匂い。
土の匂い。
太陽の匂い。

闇と香毒に満ちた地下とは違う――
“生きている匂い”。

クリスティンはそのまま地面に崩れ落ち、
手で草を掴んだ。

「……生きてる……
私……生きて……外に……出たのね……」

風が頬を撫で、髪を揺らす。

その優しさに、体の力がふっと抜けた。

もう、閉じ込められていない。
誰の香りにも縛られていない。
自分の呼吸が、自分の意志でできる。

その当たり前が、
涙が滲むほどに愛しかった。

「クリスティン……」

ルシオンがそばにしゃがみ込む。

クリスティンは涙を拭いもせず、
小さく笑った。

「ルシオン……ありがとう……
本当に……ありがとう……
私……自由よ……やっと……」

ルシオンは彼女の手に触れ、
その指先にそっと口づけた。

「……よかった。
お前が自由でいてくれるなら……
俺はそれでいい」

クリスティンの涙がまた一粒落ちる。

「怖かった……
死ぬより……“閉じ込められる”のが怖かった……」

ルシオンは彼女の肩を抱き寄せる。

「もう怖くない。
俺がいる。
二度と誰にも閉じ込めさせない」

空は青く、風は優しく、
世界は静かだった。

もうジェラルディンの香りはない。
黒い香陣もない。
香りの牢獄もない。

クリスティンは自分の胸に手を当て、小さく呟いた。

「……私は、生きるわ。
自由に。
自分の香りで……これからを歩く」

その言葉に嘘は一つもなかった。


逃避行のはじまり――二人の距離が縮まる“恋の助走”

研究所崩落から二日。
王家の捜索が迫る前に、二人は国境へ抜けるため馬車で移動していた。

助手のルイは、結局また王家の研究室に戻され、
クリスティンとルシオンの安全は確保されないとわかったからだ。

夜の森の外れ、小さな焚き火の前。

クリスティンは肩を寄せ合う距離で座っていた。

ルシオンが火をかきながら言う。

「……俺たち、完全に追われる身だな。
逃げ切れると思うか?」

「逃げ切ってみせるわよ。
あなたと一緒ならね」

「自由の香りと、新しい人生」

逃避行の旅は、ようやく終わりを迎えた。

森を抜けた先の静かな平原。
柔らかな朝日が、クリスティンの頬を照らしている。

隣にはルシオン。
その腕の中には、守るべき新しい命。

彼女は空を見上げ、小さく息を吸う。

クリスティン
「……香りが、とても澄んでいるわ。
やっと、“私の人生”の匂いがする」

ジェラルディンの狂った愛も、
王家の欲望も、
オーディンの裏切りも――
すべてが過去の影となって、風の彼方へ流れていった。

クリスティンは手を胸に当てる。

ルシオンは黙って隣に立つ。
口数の少ない男なのに、その瞳は温かかった。

ルシオン
「……お前が望むなら、俺が隣で守る。
これからもずっと、だ」

クリスティンはふっと微笑む。

「一緒に歩きましょう。
香りの道を、自由に。
そして……幸せに」

ふたりは手を取り合い、
静かな平原の向こうへ歩き出した。

そこにあるのは、
追われる日々でも、狂気でもなく――

“自由と未来の香り”。

そして物語は、柔らかな風の中で幕を閉じる。




お読みいただき、ありがとうございます。
香りと感情が交差する物語を、最後までお付き合いいただけたことに感謝します。
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