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妖精姫は、そっと微笑む――婚約破棄は華麗に
「帝国の姫君、その真実」
しおりを挟む◆「ご報告いたします。婚約は、王子の有責で終わりました」
玉座の間。
重々しい空気の中、ギデオン・ヴェルクナーが淡々と口を開く。
「まず、ご報告させていただきました件ですが、
王太子殿下が、リリベッタ嬢との婚約を正式に自ら破棄されたこと、確かに確認済みです」
ギデオンは書類をぴたりと揃えて言った。
「その件につきましては、問題なく――婚約破棄、受理されました」
「……うむ。それで、リリベッタ嬢の身柄はどうなっている?」
国王が問うと、ギデオンはさらりと続ける。
「はい。リリベッタ嬢はすでに、公爵ハリス・シュタインハルト様と新たに婚約されました」
「……は?」
「正式な申し込みが、こちらに届いております。
したがいまして、王太子殿下との婚約はすでに無効であり、効力は失われておりますので、問題はありません。」
「早い! 早すぎるだろう!!」
国王が椅子から立ち上がった。重臣たちもざわめく。
「こんな短期間で再婚約!? 何をしている! これは外交問題だぞ! 戦争になりかねん!」
「どうして止めなかったんだ、ギデオン!」
「まさか、我が国の王女扱いしていた令嬢が、“皇女”として自らの国に帰国し、“王配”を得て”外交カード”として機能するとは……!」
ざわつく玉座の間。
その中心で、当の王太子は呆然としていた。
「……あれ? 俺? やばい?」
その一言に、ギデオンは静かに、微笑みすら見せず、こう告げた。
「……王子やっとお気づきになられましたか」
その場に座り込むハインツ。
王太子にあるまじき“泣きそうな顔”に、周囲の貴族たちはそっと目を逸らした。
公爵邸にて、
「おい、ギデオン。この前の“リリベッタは皇国の王女”って、どういうことだ。もっと詳しく話せ」
ハリスの問いに、ギデオンは頷いた。
再度、皇国からの、返事を持ってきたギデオン。
「……では、順を追って説明いたしましょう。これは、帝国の最深部にかかわる話になります」
◆
「リリベッタ様の母上は、“帝国”――正式には『皇国アルヴェルツ』の前皇帝の“側妃”でした。
しかも、現在の皇帝陛下の実妹にあたります」
「妹!? じゃあ今の皇帝は……リリベッタの、伯父?」
「はい。そして、リリベッタ様自身は“前皇帝の娘”――つまり、皇位継承権を持つ、帝国血統の直系です」
ハリスの手から、茶器が落ちた。
「じゃ、じゃあ、リリィって……とんでもなく高貴な血筋じゃないか……!」
「ええ。そもそも今回の婚約は、政略結婚というより“恩義と血統による友好の証”として我が国が無理矢理、進めたものでした」
◆
ギデオンの語る、過去の真実――
数年前、皇国では内乱が起こった。
前皇帝の治世下、派閥争いが激化し、ついにクーデターに発展。その際、皇帝の側妃であったリリベッタの母は、愛娘を連れて国外へ脱出した。
亡命先となったのが、我が王国。そして、その受け入れを秘密裏に引き受けたのが――当時のエヴァレット公爵、すなわちハリスの父だった。
「……母娘の命を守るため、エヴァレット家の庇護を受け、“後妻”として身を隠したのです。
リリベッタ様は、それ以降“公爵令嬢”として育てられましたが、正体はずっと秘密にされていた」
「じゃあ、俺たちはずっと……」
「はい。“妹”として育てながら、絶対に手を出してはならないとされた理由はそこにあります」
◆
やがて帝国の混乱は、現在の皇帝――リリベッタの伯父の勝利で収束。
皇国アルヴェルツは、再び強大な国家として復興を遂げた。
その際、前皇帝の遺児であるリリベッタの存在が外交上問題になる可能性もあった。
「しかし国王陛下は、皇帝の姪であるリリベッタ様を“次代の友好の象徴”として活かす道を選ばれました。
そして、我が国の王太子――ハインツ殿下との婚約話が結ばれたのです」
「……じゃあ、王太子とリリィの結婚式って、実質“国交正常化の象徴”だったのか」
「その通りです。結婚式には、帝国皇帝陛下ご自身が来訪される予定でした。
それが友好国への“信頼の証”になるはずだった」
「……それが、今や“破談”だと?」
ギデオンは、眉をひとつだけぴくりと上げた。
「王太子の軽率な言動によって、です。おまけにローラ嬢への過剰な肩入れ、侮辱的な破棄宣言……外交上、最悪の対応です」
「……完全に、国際問題だな」
「ですが、逆に言えば」
ギデオンは目を細めて、ハリスを見た。
「公爵家嫡男との婚約に切り替えることは、“傷ついた皇女を、王国の名門が守る”という美しい物語になります。……体裁的には、十分に挽回可能です」
ハリスは天を仰ぎ、唸るように呟いた。
「……なんだよ、俺、気づけば姫抱いて戦略カードになってたのか……!」
「ようやくお気づきに」
「褒めてないわ!」
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