王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。

夢窓(ゆめまど)

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妖精姫は皇帝国の王女です。

「皇帝とのめぐりあいーーそして、ギデオンは今日も詳細です」

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帝国――皇国アルヴェルツの白き王宮。

深紅の絨毯が敷かれた謁見の間。その中央に、黄金と赤の正装を纏った男が立っていた。

リリベッタは、ギデオンと並んで扉をくぐるなり、迷うことなく駆け出した。
「お兄様!」

「……っ、リリィ……!」
皇帝・レオノール四世は、姪の姿を確認するなり、表情を緩めて両腕を広げた。

小さな少女だったはずの姪が、美しく成長し、泣き笑いで抱きついてくる。

「もう、大きな赤ちゃんだ。相変わらず」

「だって……だって、会いたかったのよ……!」
リリベッタは顔を埋めたまま、くすくすと笑いながら泣いていた。

レオノール
「……お前と別れたのは、五歳の時だったな」

皇帝は、やさしくリリベッタの背を撫でながら言った。

「クーデターの鎮圧には三年かかった。その頃には……おまえの母が、ハリスの父君と再婚していた」

リリィ
「うん……知ってる。でも、幸せだったの。公爵家での暮らしも、お義兄様たちも、みんな」

「そうか。よかった」
レオノールはふっと目を細め、続けた。

「……お前の婚約者が、最悪だと聞いて、心配していたよ」

その言葉に、隣で控えていたギデオンが、すかさず一歩前に出た。

「その件なら、私のほうが詳しく報告がございます」

「ほう?」

ギデオンは手帳を開いて、いつもの調子で淡々と語り始めた。

「まず、王太子殿下は“婚約者に逃げられて俺ちょっとまずい?”状態まで転がり落ちました。
政務はローラ嬢のご機嫌と花占いが優先。言動の軽率さ、嫉妬心からの誤認断罪、全記録ございます」

「……あいかわらず面白そうだな、ギデオン」

皇帝は苦笑しながら手を挙げて止めた。

「その話、あとで“お茶請け”としてまとめておいてくれ。君のレポートは、皆が大笑いするからな」

「承知いたしました。最新レポート、“王太子様の大失態・春の陣”は小冊子サイズでお渡し可能です」

「冊子……!」
隣でハリスが思わず頭を抱えた。

「……帝国、ノリがいいな……」

「心が広いんです。自国の姫を傷つけた相手には、寛容と皮肉で返すのが皇国流ですから」
ギデオンがさらりと告げると、皇帝も満足げに頷いた。

「では、リリベッタ。……もう“政略の娘”ではなく、“我が家族”として、この場に立ってくれてうれしい」

「……うん。私も、“姪”として、ここに戻れてよかった。これからは、叔父様と呼ぶわ。」

「だが、最終的にどこに帰るかは――おまえ自身が決めていい」

リリベッタは、ギデオンとハリスを振り返った。

そして微笑む。

「はい。……でも、私の心はもう、決まっています」


白薔薇のアーチをくぐった先に、皇宮の奥庭が広がっていた。

陽を浴びて咲き誇る薔薇たちの中に、ひとりの女性が立っていた。
金と真紅を織り込んだドレス、そしてどこか懐かしい笑顔――

「リリベッタちゃん……まあ、なんて可愛いのかしら!」

その声に振り向いたリリベッタは、ぱっと笑顔を咲かせた。

「おばさま!」

「私の姪が、こんなに見目麗しく育って……胸がいっぱいだわ」

皇后はそっとリリベッタの手を取り、目元を綻ばせる。

「覚えているかしら? 私の息子、ヨーゼフ。昔、あなたとよく遊んでいたのよ」

「もちろんです。泥んこになった思い出まで、はっきり」

「ふふ、あの子、最近すっかり大人になってね。でも“姫様と結婚する”って言ってたのよ、あの頃」

「まあ!」

「リリィ、僕はあの時から一筋だったんだよ?」
花の奥から現れたのは、皇子ヨーゼフ。少し照れた笑みを浮かべながら、彼は軽く礼を取った。

「こうして会えて嬉しいよ。リリィ……いや、リリベッタ姫」

「私も、おふたりに会えて嬉しいです。こうして迎えていただいて、本当に……」

「あなたの好きだった薔薇の庭園、元どおりにしてあるのよ。ほら、あの噴水も」

皇后が示す先には、幼いリリベッタが駆け回っていた小道と、彼女が落ちて泣いた記憶のある小さな噴水。

あの日と同じ、優しい風が吹いていた。

「今日の午後は、婚約者さんとここでお茶をなさいな。素敵な方ね、あの公爵家の坊や」

ハリス
「……“坊や”呼ばわりはちょっと失礼だと思いますけど」

物陰から聞こえた声に、皇后とヨーゼフがくすくすと笑った。

「こっちの国に来ない? リリィ。ねえ、ヨーゼフ?」

「大歓迎だよ。あ、それと……僕、側近ほしいんだけど、ハリスお願いしてもいい?」

リリィ
「側近……?」

「裏切らない人材。前のクーデター、あれ側近が原因だったし」
ヨーゼフは芝生に腰を下ろし、真剣な顔で言った。

「でさ、ハリスとギデオンってすごく良くない? ギデオンのあのレポート、浮気できないレベルで監視されてて。
正直、信頼しかない」

「……あれは本人が読み返しても恥ずかしいらしいですけど?」

と、ちょうど通りかかったギデオンが涼しい顔で返す。

「最新号“王太子の愚行録・春夏総集編”は、製本して陛下の書庫にございます」

「やめて!? お笑い本にしないで!?」笑



陽光の中、薔薇の香りと笑い声が混ざって庭園に溶けていく。

リリベッタは、ひとつ深呼吸して、そっと呟いた。

「……この国も、やっぱり大好きです」

それでも、彼女の視線の先には――遠くから微笑むハリスの姿があった。


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