千差万別な世界を覗き見る ―三題噺―

神凪凛薇

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日常

なんの変哲もない雨の日  ――「天使の梯子」「ブレスレット」「駆ける」

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テーマは「天使の梯子」「ブレスレット」「駆ける」
閑話休題、という訳ではありませんが、ただただのんびりとした日常を描いてみたかったのでこの様に。
山もオチも特になく、2人の高校生がじゃれ合っているだけのお話です。
(いろいろと年代がバレそうですね。。)
**********

 一日は長い。一週間は短い。一ヶ月はあっという間。一年に至っては気付いたら終わっている。

 青年は、うーんと伸びをした。受験勉強に圧迫されるスケジュールを送っているから、と言い訳をしているうちに運藤不足に陥った体は、バキバキとそれは立派な音をたてた。毎日授業がだるいなぁと思っているうちに、気付いたら受験生となり、勝負の日は目前である。時の流れは早いのぉ、と呟くと後ろからこつんと教科書の角で殴られた。

 「なにジジイ臭いこと言ってんだ」
 「高校生なんてもうジジイだろ」
 「おいおい勘弁してくれ。大学生こそ花だって思ってんのに高校生でジジイって言われたら、大学生は化石になっちまう」
 「それ、社会人になったらどうなるんだ?」
 「……微生物によって分解済み?」

 後ろから近寄ってきた悪友が、うーんと首を傾げながら前の席に座った。行儀悪く背凭れを前にして、その上に腕を乗せつつ回答してくる。分解済みってと思わず吹き出すと、悪友はニヤリと笑った。

 「今日の生物のテストで出てきたとこじゃん?」
 「社会人で分解済みって、モノホンのジジイは一周回って生まれてくるんじゃね?」
 「超最高やん。リタイアして金もあっての自由期間にハッピーだよ」

 なかなかどうして斜め上な回答に、降参と手を上げる。俺の勝ちだなと顔に書いている悪友が浮かべる勝ち誇った顔が非常に癪に障る。先程やられたように教科書で殴り掛かるも、ひょいと避けられて半眼になる。腹を抱えて笑う悪友をじっとりとにらみつけていると、涙を拭いながらニヤニヤ笑ってこちらを見てきた。

 「ぼうりょくはんたーい。いいじゃんか、リア充にちょっとくらい意地悪したってよ」
 「まぁ悔しかったら彼女紹介してきやがれ」

 今度はこちら側の番だとばかりに、腕に輝くブレスレットを見せつける。彼女からの誕生日プレゼントだと散々自慢したことをしっかり根に持っているようだ。これを使わない手はない。煽りに煽ってやるぞとニンマリ笑ってやると、悪友はそっぽを向いた。

 「あー、主人公はふと窓の外を見た。外は土砂降りだった。この時の主人公の心情を答えなさい」
 「雑過ぎて、国語の模試に出そうで出ないだろ。ついでに答えは非常にハッピーである。まる」

 そんな訳あるか!と綺麗に突っ込んでくれる悪友と顔を見合わせて、揃って二人は吹き出した。明るい二人の雰囲気とは正反対に、窓の外では本当にどしゃ降りの雨が降っていた。




 「いいよなぁ、彼女からのプレゼントとか。俺もそう言う彼女欲しい」
 「作ればいいじゃんか」
 「つくれたら苦労しないわ!あーもうこのウザい奴、どっか消えねぇかなぁ。ほら、トラックに突っ込まれて異世界転移とか」
 「お、いいねぇ。楽しそう」
 「うわ、全く効いてねぇ」

 暗に異世界に飛ばされて彼女と疎遠になってしまえ、と非常にわかりにくい皮肉を言ったのだが、案の定通じて居なかったようだ。寧ろ楽しそうに異世界へと意識を飛ばしている。つまんねぇの、とそっぽを向く悪友に、いやいやと心底楽しそうと少年は言う。

 「いいじゃん。異世界に飛ばされたらって考えるのは中二病を患う若者の特権だ。ついでにそう言う場合は得てして、この恋人のブレスレットが伝説級のアイテムに変身するものなのさ」
 「へぃへぃ。惚気ご馳走様。でもまぁ鉄板だよなぁ。ただのブレスレットだと思ったら、ラスボス倒すその瞬間に絶対絶命に陥りヤバいってなって、突然ブレスレットから不思議な力がー、的な?」
 「そうそう。その力でラスボスが倒せるとか、生き返るとか?」
 「やべぇブレスレットじゃん。厳重にしとかなきゃ。つか、それよこせ」
 「何でだよ」
 「俺が異世界転移した時に備える」
 「さっさと彼女作ってその彼女から貰って備えろ馬鹿。なんで他人の彼女からもらったブレスレットがレアアイテムになるんだよ」
 「ちぇっ。ダメか。捨ててやろうかと思ったのに」
 「それが狙いか鬼め!」

 どこまでも恨めしそうにブレスレットを見つめる悪友。どうしても気になるらしい。リア充め、俺も彼女欲しい、青春したい、と無駄な呻き声を上げている。流石にあきれ果てて青年は悪友の頭を見下ろした。

 「彼女作れないくせにうるせぇなぁ。そんなに言うなら俺が青春ごっこに付き合ってやろうか?」
 「野郎二人でどうやってだよ。意味分かんねー」
 「うーん、河原を走る?あれ?夕日の下で殴り合うだっけ?」
 「夕日にむかって走ると河原で殴り合いじゃね?……つか、いつの時代だよ?!」
 「エモいだろ?」
 「ああ、うん。お前に期待した俺が悪かった」

 もう絡まんから勘弁してくれ、と項垂れた悪友に、声を上げて笑い転げる。面白いからもっと惚気てやろう、と心に決めたのは内緒である。まぁ心底嫌そうな顔をしているから、バレているのだろうが。さて、次はどう弄ってやろうかと考えて居たその時。スマホが音を鳴らし、2人してそれを覗き込む。

 「あ、やべ。こんな時間かよ。塾だわ」
 「彼女からの連絡かと思えば、塾の時間のアラームかよ。色気ねぇなぁ」
 「一応受験生だっての。面倒だけどな」
 「受験なぁ。面倒だな。模試どうだった?判定は、ってかそもそも志望どこだっけ?」

 のろのろと帰り支度をしながら、受験についてああでもない、こうでもない、と愚痴をはく。試験制度をころころ変えられると対策しようがないから止めて欲しい、と言ってもどうしようもないことを口にしてうっぷんを晴らしつつ、ペタペタと玄関へとむかっていく。昔のセンターってヤツは完全マークシートだったらしいぜ、と羨ましがりながら外へ出たら。

 「お、あれって天使の梯子ってやつか?」
 「めっちゃ綺麗やん。後で上げとこ」

 圧迫感すら感じた強い雨が上がり、どんよりと重くらい灰色をしていた空は、いつの間にかその色を明るくし、ところどころの隙間から光が差し込んでいた。雨上がり特有の土の湿った匂いがどこか清々しく感じられ、空の色って案外気持ちに反映されるもんなんだな、と思わず国語の模試の問題を思い出す。そんな呑気な事を考えて居ると、突然隣の悪友がニヤリと笑って駆け出した。

 「は?」
 「青春ごっこ。付き合ってくれんだろ?じゃあ、あの光のしたまでダッシュ!」
 「いや、河原も夕日も関係なくね?!」

 そうは突っこみつつも、つられて駆け出す。負けた方が罰ゲーム!と言われ、慌ててスピードを上げる。先にスタートするなんて卑怯だぞ、と叫びつつ青年は知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
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