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38《佐倉一尉の憂鬱》
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第38話《佐倉一尉の憂鬱》惣一
「あかぎ」と「かが」が並んだ姿は壮観だ。
二隻は同型艦だがスペックに開きがある。「あかぎ」は建造中に将来の垂直離着戦闘攻撃機の搭載を想定し、甲板を張り直すなど大幅な改変が行われて工期が伸び、皮肉にも二番艦の「かが」の進水が先になり、やっと艤装段階で追いつき、公試が同時になった。
設計変更をやった分「あかぎ」には不具合が多く、昨年末には公試を中止し、横須賀に戻って改修工事をやるハメになった。
まあ、そのおかげで、年末年始の休暇がとれ、代々木公園で防大同期の明菜に会うことが出来た。
今年は、どうやら波乱の年になりそうだ。
今日は「あかぎ」と「かが」が並んで一般公開をやっている。
近年は、自衛隊に対する国民の理解も深まり、我が国最新最大の護衛艦二隻が並んでの公開で、朝から横須賀の埠頭はごったがえしている。広報部からの連絡では、三万の見学者が来るらしい。「あかぎ」も「かが」も空母型護衛艦なので、見学者の興味は飛行甲板と格納庫及び搭載機のオスプレイに集中し、砲雷科は、ややヒマである。
しかし、個人的には憂鬱なことがある……妹が二人揃ってやってくるのだ。
上の妹のさつきは陸さんと事故を起こし、A新聞を筆頭に単純な交通事故をややこしくされ、その決着を「あかぎ」の見学で大団円にもっていこうという親父らしい、オレにとってははた迷惑なアイデア。
さらに頭が痛いのは、さくらが付いてくることだ。
さくらは、ついこないだまで、普通の女子高生だったが、オレにはよく分からない事情で女優兼モデルの駆けだしになってしまった。ひたすらトバッチリが来ないことを祈るばかり。
「班長、妹さんが来られるそうですね」
地獄耳の杉野一曹が聞きつけていた。
「自分は公務なんで、あくまで、一般観覧者として……」
「状況は把握してます。臨機応変、お任せください!」
この年上の部下は扱いにくい……。
左舷ハープーンの横で突っ立て居た。一応説明のパネルなど用意してあるが、飛んでこそのミサイルである。キャニスター(発射装置)そのものは見ても面白くないので、たいがいの人が通り過ぎていく。
「あ、Harpoon block IIだ。これGPSが付いた最新型ですね」
さつきのオトモダチが興味を示した。陸自のレオタードだ。
「失礼ね、レオタールさんよ」
さつきが突っこんでくる。
「いや、どうもフランス語は苦手で……さつきもメール送るんならカタカナにしてくれよ」
「あのメールは、お父さんが……」
「アハハ、ボクが横文字にしてもらったんです。レオタードの方がインパクトありますから」
アッケラカンと笑う顔は、どう見ても原宿あたりのニイチャンだ。制服でも着てりゃそれらしく見えるんだろうが、入隊してようやく一年ぐらい。私服だと完全に元の人格に戻ってしまっている。ルーキーの良さだろう。
しかし早く消えてもらいたい。明らかにマスコミと分かるオッサン・ニイチャン・ネエチャンが集まりはじめた。
「班長、艦長からです」
杉野一曹がインカムを寄こした。
「……はい、了解しました。え……良い部下?」
潮焼けした「良い部下たる杉野一曹」に持ち場を任せると、オレは海自的微笑をたたえながら二人を案内した。飛行甲板はエレベーターの試乗を待つ人たちが列をなしていた。
三基のエレベーターがフル稼働しているので、待つと言っても五分かそこらだが、今のオレは無限の長さに感じる。
「あ、ソーニイ! お姉ちゃん!」
なんと、さくらが芸能記者を引き連れて現れた。「え、さくらさんのご兄姉ですか!?」女性レポーターが叫ぶと、みなの視線が一斉に集まった。海自スマイルが最大戦速になった。
「へえ、広いエレベーターですね!」
レオタードが注目を引く。一士のペーペーながら、自分に与えられた任務は良く分かっているようだ。それをごく自然にやれるのは、若さか個性か……。
「これなら、うちの90式でも載せられそうですね」
「ああ、楽勝楽勝。ただし、おたくのヘリはダメね」
「え、ずっと軽いのに」
「ロ-ターがたためないからね。海自の男気はねローターといっしょ。普段はたたんでおくの」
そう言って、明菜の前でローターを広げられない自分を思ったが、そんなことが顔に出るようじゃ、海自のオフィサーは務まらない。
「ソーニイ、なんかコンサートやってるよ!」
さくらが喜んだ。海自の音楽隊が、うちと「かが」に別れて格納庫でミニコンサートをやっている。
「あ、いま売り出し中の佐倉さくらさんがいらっしゃいました。さくらさん一曲どうですか?」
MCの女性隊員が、目ざとく水を向けた。冷や汗が流れた。さくらのオンチは生まれつきだ。
「はい、恋するフォーチュンクッキーやりま~す(^▽^)/」
ご陽気に手を上げた。海自スマイルがひきつってきた。
ところが……。
歌い出すと、けっこういけてる。やはりハシクレとは言え芸能人。どこかでボイトレでもやってるのだろうか。今や国民的盆踊りになったフォーチュンクッキーをツーコーラスも踊らされた。
「踊る海上自衛隊」で、動画サイトに投稿されたのにはまいった。
みなさん。けして検索してクリックなどなさいませんよう!
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子 忠八の妹
明菜 惣一の女友達
香取 北町警察の巡査
タクミ Takoumi Leotard 陸自隊員
第38話《佐倉一尉の憂鬱》惣一
「あかぎ」と「かが」が並んだ姿は壮観だ。
二隻は同型艦だがスペックに開きがある。「あかぎ」は建造中に将来の垂直離着戦闘攻撃機の搭載を想定し、甲板を張り直すなど大幅な改変が行われて工期が伸び、皮肉にも二番艦の「かが」の進水が先になり、やっと艤装段階で追いつき、公試が同時になった。
設計変更をやった分「あかぎ」には不具合が多く、昨年末には公試を中止し、横須賀に戻って改修工事をやるハメになった。
まあ、そのおかげで、年末年始の休暇がとれ、代々木公園で防大同期の明菜に会うことが出来た。
今年は、どうやら波乱の年になりそうだ。
今日は「あかぎ」と「かが」が並んで一般公開をやっている。
近年は、自衛隊に対する国民の理解も深まり、我が国最新最大の護衛艦二隻が並んでの公開で、朝から横須賀の埠頭はごったがえしている。広報部からの連絡では、三万の見学者が来るらしい。「あかぎ」も「かが」も空母型護衛艦なので、見学者の興味は飛行甲板と格納庫及び搭載機のオスプレイに集中し、砲雷科は、ややヒマである。
しかし、個人的には憂鬱なことがある……妹が二人揃ってやってくるのだ。
上の妹のさつきは陸さんと事故を起こし、A新聞を筆頭に単純な交通事故をややこしくされ、その決着を「あかぎ」の見学で大団円にもっていこうという親父らしい、オレにとってははた迷惑なアイデア。
さらに頭が痛いのは、さくらが付いてくることだ。
さくらは、ついこないだまで、普通の女子高生だったが、オレにはよく分からない事情で女優兼モデルの駆けだしになってしまった。ひたすらトバッチリが来ないことを祈るばかり。
「班長、妹さんが来られるそうですね」
地獄耳の杉野一曹が聞きつけていた。
「自分は公務なんで、あくまで、一般観覧者として……」
「状況は把握してます。臨機応変、お任せください!」
この年上の部下は扱いにくい……。
左舷ハープーンの横で突っ立て居た。一応説明のパネルなど用意してあるが、飛んでこそのミサイルである。キャニスター(発射装置)そのものは見ても面白くないので、たいがいの人が通り過ぎていく。
「あ、Harpoon block IIだ。これGPSが付いた最新型ですね」
さつきのオトモダチが興味を示した。陸自のレオタードだ。
「失礼ね、レオタールさんよ」
さつきが突っこんでくる。
「いや、どうもフランス語は苦手で……さつきもメール送るんならカタカナにしてくれよ」
「あのメールは、お父さんが……」
「アハハ、ボクが横文字にしてもらったんです。レオタードの方がインパクトありますから」
アッケラカンと笑う顔は、どう見ても原宿あたりのニイチャンだ。制服でも着てりゃそれらしく見えるんだろうが、入隊してようやく一年ぐらい。私服だと完全に元の人格に戻ってしまっている。ルーキーの良さだろう。
しかし早く消えてもらいたい。明らかにマスコミと分かるオッサン・ニイチャン・ネエチャンが集まりはじめた。
「班長、艦長からです」
杉野一曹がインカムを寄こした。
「……はい、了解しました。え……良い部下?」
潮焼けした「良い部下たる杉野一曹」に持ち場を任せると、オレは海自的微笑をたたえながら二人を案内した。飛行甲板はエレベーターの試乗を待つ人たちが列をなしていた。
三基のエレベーターがフル稼働しているので、待つと言っても五分かそこらだが、今のオレは無限の長さに感じる。
「あ、ソーニイ! お姉ちゃん!」
なんと、さくらが芸能記者を引き連れて現れた。「え、さくらさんのご兄姉ですか!?」女性レポーターが叫ぶと、みなの視線が一斉に集まった。海自スマイルが最大戦速になった。
「へえ、広いエレベーターですね!」
レオタードが注目を引く。一士のペーペーながら、自分に与えられた任務は良く分かっているようだ。それをごく自然にやれるのは、若さか個性か……。
「これなら、うちの90式でも載せられそうですね」
「ああ、楽勝楽勝。ただし、おたくのヘリはダメね」
「え、ずっと軽いのに」
「ロ-ターがたためないからね。海自の男気はねローターといっしょ。普段はたたんでおくの」
そう言って、明菜の前でローターを広げられない自分を思ったが、そんなことが顔に出るようじゃ、海自のオフィサーは務まらない。
「ソーニイ、なんかコンサートやってるよ!」
さくらが喜んだ。海自の音楽隊が、うちと「かが」に別れて格納庫でミニコンサートをやっている。
「あ、いま売り出し中の佐倉さくらさんがいらっしゃいました。さくらさん一曲どうですか?」
MCの女性隊員が、目ざとく水を向けた。冷や汗が流れた。さくらのオンチは生まれつきだ。
「はい、恋するフォーチュンクッキーやりま~す(^▽^)/」
ご陽気に手を上げた。海自スマイルがひきつってきた。
ところが……。
歌い出すと、けっこういけてる。やはりハシクレとは言え芸能人。どこかでボイトレでもやってるのだろうか。今や国民的盆踊りになったフォーチュンクッキーをツーコーラスも踊らされた。
「踊る海上自衛隊」で、動画サイトに投稿されたのにはまいった。
みなさん。けして検索してクリックなどなさいませんよう!
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米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
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原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
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