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66『特認三等陸尉に任ずる』
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第66話《特認三等陸尉に任ずる》さつき
フランスにいるとき、よく夢を見た。
クロウド君の夢が多かったけど、あの緊急事態を共に乗り越えたためだと思っていた。とくにクロウド君に特別な気持ちを持ったためだとは思わなかった。ミッション・コイビトの時のドキドキは単なる吊り橋効果に過ぎない。
その証拠と言ってはなんだけど、起きているときに、懐かしく思い出すことはあっても、連絡をとって会いたいとまでは思わなかった。
第一、夢の細部は覚えていない。なんとなくタクミ君が仕事をしている……そんなことぐらいしか覚えていない。
「それがハッキングなんですよ」
一佐が言った。
「さつきさんが見た夢はハッキングされると、夢を見た本人の記憶は、とても薄いものになってしまうんです」
「削除されてるってことですか?」
「コンピューターのように完全な削除はできませんが……ほんの一カ月前なんです。NATOの関係者との防衛関係の話がC国に漏れていることが分かりました。まだ協議段階の内容なので、防衛省にさえ入ってきていない内容です。その内容を知っているのは小林一佐と通訳のクロウド・レオタール三曹だけなんです。二人には悪いが身辺調査もやりました。正直行き詰まり、たどり着いたのが、さつきさん、貴女なんです」
「どうして……」
「調査方法は申し上げられませんが、さつきさんの寮の近くにC国の女がアパートを借りたことをつきとめました。そして、この女がC国の工作員だったのです」
「それって、あたしの知っている人ですか?」
あたしは、クレルモンの大学関係者や近所のアジア系の女性を思い浮かべたが、思い当たる人間はいなかった。
「近所のパン屋で働いていた武藤利加子ですよ」
「え……彼女日本人ですよ。字は違うけど氷室冴子さんの小説の主人公と同じ名前で、それで仲良くなって、よくお店や、休みの日には公園なんかで……でも、ほんの立ち話です」
「そうやって、あなたの心の鍵を開けていたんです。ある程度親しい人間でないと頭脳のハッキングなんかできないんです」
「……そんな」
武藤利加子は、パン屋でバイトしながら、音楽の勉強をしていた。ときどき公園でギターを弾いて小さな声で歌っていた。歌の趣味はわたしといっしょ……それって!?
「そう、心をシンクロさせていたんですよ」
「でも、まだ、ほんの二十歳くらいの子でしたよ」
「実年齢は40を超えています。さつきさんに合わせたんですよ。それくらいに化ける奴は自衛隊にもいます。梅田のトイレで出くわした女子高生は二人とも見かけの倍は歳くってますから」
「……そんな」
あたしは、ここに来て、ほとんど「どうして」と「そんな」しか口にしていなかった。
「柿崎君、入ってきてくれ」
一佐がいうと「失礼します」と声がかかり、一曹の階級章をつけた女性自衛官が入ってきた。
「彼女が、しばらくのあいだ貴女の世話係になります」
「柿崎君子です。よろしくお願いします」
「あの……どういうことなんでしょう?」
「あなたの心をハッキングするためには、あなたの半径500メートル以内にいなければできません。しばらく、この駐屯地内で暮らしていただきます。申し訳ありません」
「あたし……幽閉されるんですか?」
「昼間は自由になさってください。ただ、夜は駐屯地内で過ごしていただきます」
「隊内で日常的に起居出来るのは決まりで自衛官に決まっていますので、三尉待遇の特認自衛官になっていただきます」
「これが辞令です。面倒ですが起立願いますか」
室内にいる自衛官がみな起立した。
「では、司令、お願いします」
「わたしの前にきてください」
駐屯地の一佐が、机の前を示した。あたしは兄の記憶を元に気をつけした。
「任。佐倉さつき。特認三等陸尉に任ずる。令和六年五月十七日。防衛大臣某。S駐屯地司令、斉藤元一佐伝達」
「まあ、あとは気楽にやりましょう。わたしのことは柿崎でも君ちゃんでもすきなように呼んでください」
「は、はい……」
「够朋友gòu péngyou!」
「あ、あの時の女子高生!」
ナンチャッテ女子高生はニヤリと笑った。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
坂東 はるか さくらの先輩女優
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子 忠八の妹
明菜 惣一の女友達
香取 北町警察の巡査
クロウド Claude Leotard 陸自隊員
第66話《特認三等陸尉に任ずる》さつき
フランスにいるとき、よく夢を見た。
クロウド君の夢が多かったけど、あの緊急事態を共に乗り越えたためだと思っていた。とくにクロウド君に特別な気持ちを持ったためだとは思わなかった。ミッション・コイビトの時のドキドキは単なる吊り橋効果に過ぎない。
その証拠と言ってはなんだけど、起きているときに、懐かしく思い出すことはあっても、連絡をとって会いたいとまでは思わなかった。
第一、夢の細部は覚えていない。なんとなくタクミ君が仕事をしている……そんなことぐらいしか覚えていない。
「それがハッキングなんですよ」
一佐が言った。
「さつきさんが見た夢はハッキングされると、夢を見た本人の記憶は、とても薄いものになってしまうんです」
「削除されてるってことですか?」
「コンピューターのように完全な削除はできませんが……ほんの一カ月前なんです。NATOの関係者との防衛関係の話がC国に漏れていることが分かりました。まだ協議段階の内容なので、防衛省にさえ入ってきていない内容です。その内容を知っているのは小林一佐と通訳のクロウド・レオタール三曹だけなんです。二人には悪いが身辺調査もやりました。正直行き詰まり、たどり着いたのが、さつきさん、貴女なんです」
「どうして……」
「調査方法は申し上げられませんが、さつきさんの寮の近くにC国の女がアパートを借りたことをつきとめました。そして、この女がC国の工作員だったのです」
「それって、あたしの知っている人ですか?」
あたしは、クレルモンの大学関係者や近所のアジア系の女性を思い浮かべたが、思い当たる人間はいなかった。
「近所のパン屋で働いていた武藤利加子ですよ」
「え……彼女日本人ですよ。字は違うけど氷室冴子さんの小説の主人公と同じ名前で、それで仲良くなって、よくお店や、休みの日には公園なんかで……でも、ほんの立ち話です」
「そうやって、あなたの心の鍵を開けていたんです。ある程度親しい人間でないと頭脳のハッキングなんかできないんです」
「……そんな」
武藤利加子は、パン屋でバイトしながら、音楽の勉強をしていた。ときどき公園でギターを弾いて小さな声で歌っていた。歌の趣味はわたしといっしょ……それって!?
「そう、心をシンクロさせていたんですよ」
「でも、まだ、ほんの二十歳くらいの子でしたよ」
「実年齢は40を超えています。さつきさんに合わせたんですよ。それくらいに化ける奴は自衛隊にもいます。梅田のトイレで出くわした女子高生は二人とも見かけの倍は歳くってますから」
「……そんな」
あたしは、ここに来て、ほとんど「どうして」と「そんな」しか口にしていなかった。
「柿崎君、入ってきてくれ」
一佐がいうと「失礼します」と声がかかり、一曹の階級章をつけた女性自衛官が入ってきた。
「彼女が、しばらくのあいだ貴女の世話係になります」
「柿崎君子です。よろしくお願いします」
「あの……どういうことなんでしょう?」
「あなたの心をハッキングするためには、あなたの半径500メートル以内にいなければできません。しばらく、この駐屯地内で暮らしていただきます。申し訳ありません」
「あたし……幽閉されるんですか?」
「昼間は自由になさってください。ただ、夜は駐屯地内で過ごしていただきます」
「隊内で日常的に起居出来るのは決まりで自衛官に決まっていますので、三尉待遇の特認自衛官になっていただきます」
「これが辞令です。面倒ですが起立願いますか」
室内にいる自衛官がみな起立した。
「では、司令、お願いします」
「わたしの前にきてください」
駐屯地の一佐が、机の前を示した。あたしは兄の記憶を元に気をつけした。
「任。佐倉さつき。特認三等陸尉に任ずる。令和六年五月十七日。防衛大臣某。S駐屯地司令、斉藤元一佐伝達」
「まあ、あとは気楽にやりましょう。わたしのことは柿崎でも君ちゃんでもすきなように呼んでください」
「は、はい……」
「够朋友gòu péngyou!」
「あ、あの時の女子高生!」
ナンチャッテ女子高生はニヤリと笑った。
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佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
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山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
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