ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

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108≪シリコンの秘密≫

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新 ここは世田谷豪徳寺・10(惣一編)

108≪シリコンの秘密≫




 大容量メモリーには、とんでもないものが入っていた。

 どうしたものか案じた末に、ある処理をして、さつきに返した。

「え、シリコンから取り出してないの?」

「ああ、ちょっとヤバイものじゃないかと思ってな。多分近々警察が来る。提出を求められたら素直に出すんだ……いや、元通りバンパーに貼っておこう」

 しかし、この貼り直しが難しい。どうやら交差点でぶつかりかけた車から、特殊な銃のようなもので吹きつけられている。貼りついた角度は速度を持った分、角度を持っていたし、飛沫も着いていた。
 だが、悩んでいるといきなり肩を押されてメモリーカード入りのシリコンは上手い具合に擦れてバンパーにくっついた。

「ねえ、ソーニー、映画観に行こうよ。ARISEの新作観たい!」

「あのなあ、さくら、もう17歳なんだから、くっつくのはよせ。いい歳してブラコンと思われるぞ」

「ブラコン? あたしは今のサイズで十分満足してる」

「ばか、ブラジャーじゃない。ブラザーだ!」

「いいじゃないよ、本当の兄妹なんだからさ」

「映画だったら、さつきといけよ。あいつの方が専門だ」
「お姉ちゃんは御託多すぎ。こういうのは素人同士がいいの」

 ARISEは、オレも古くからのファンだ。池袋のシネコンの朝一を条件に引き受けた。

 ルパン三世のフィギュアは妹二人も気にいって、テレビの横に置くのを許してくれた。
 こういうものが一つあると、空間に潤いというか遊び心が出ていい。ただ骨董好きの親父にはヒンシュクだった。お袋も異議なしだったので、親父はダッシュボードの上の九谷を備前焼に替えた。九谷とルパン三世はオレが見ても合わない。

 その親父が九谷を箱にしまって立ちかけたところに、インタホンが鳴った。モニターにはいかにも刑事という顔が二つ並んでいる。

「すみません、世田谷署の者なんですが、ちょっとお宅の車見せていただけませんか?」

 そう言って、ポリス章をカメラにかざした。

「ああ、あたしの車なんで、あたしが出ます」
「さつき、初めて見たってことでな」
「うん、分かった」

 オレは、リビングの隙間から刑事二人の映像を撮った。数分でバンパーのシリコンが発見された。

「先日、青山通りの交差点で、信号無視の車に当てられそうになったでしょ。そのとき、その車がとっさに付けていったものなんです。詳しいことは言えませんが、これお預かりしていきます」

 そう言って、刑事たちは引き上げた。さつきは見事にとぼけ通していた。

「なんだか、変なオッサンたちが来てるよ」

 さくらが、おずおずとオレを部屋まで呼びに来た。刑事たちが帰ってから一時間ほどたってからのことである。

「オレが相手する」

 出てみると、所轄の刑事と中央警務隊に情報保全隊まで揃っていた。で、やはりシリコンのことを聞かれた。

「機密に関わることなので、所轄の刑事さん外してもらえますか」

 刑事は、素直に道路まで後退した。

「で、物は、佐倉二尉?」
「刑事と名乗る二人に渡しました。これが、その二人です」
「……こいつはC国のエージェントだ。どうして自衛官の君が居ながら、易々と渡してしまったんだ」
「渡さなければ、家族に類が及びます。ただ、中身のデータは改ざんしておきました。コピーがこれです。ビフォーアフターになっています」

 情報保全隊の担当者は、すぐに手持ちのタブレットにかけて確認した。担当者は吹き出した。

「これは、君……」

「超極秘機密です、70年前の」
「旧海軍の空母赤城の諸元と運用記録じゃないか」
「相手は『あかぎ』としか言っていないようですから、変換して書き換えておきました。この一両日で動きがあると思いますが、それは、そちらで処置願います」
「分かった。機転を利かしてくれてありがとう」
「国民の生命財産を守るのが任務ですから。で、うちの家族も国民の一員ですから」
「任せてくれ、君のご一家には類が及ばないようにする」

 あくる日、C国の駐在武官が都内で任意同行を求められた。むろん外交官特権で拒否されるが、当局がマークしたと宣言したのに等しい。その外交官はその日のうちに本国に呼び戻された。そして、海自の幹部自衛官が一人逮捕された。ハニートラップにかかった上のことらしい。

 とりあえず、家族という国民が守れてよかった。
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