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005『ネルといっしょに』
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やくもあやかし物語・2
005『ネルといっしょに』
あ、ところで、なんで電話なんか置いてんのぉ?
食堂からの帰り道、階段を上りながらネルが聞く。
わたしの机の上には古い黒電話が置いてある。
いまは通じなくなった交換手さんの黒電話。
相手が普通の人間だったら「ただのディスプレーだよ」とか適当に言っとくんだけど、ネルはエルフだ。
エルフってのは、そもそもファンタジーの住人だから、多少の不思議は分かるだろうと思って踊り場のところで立ち止まって話す。
「うちのご先祖に樺太の真岡ってとこで電話交換手をやっていた女の人がいたんだけどね……」
「カラフトのマカオ?」
「アハハ、マオカだよ(^_^;)」
地名から説明しなくちゃならなかった。
スマホで地図を出して、樺太がサハリンだというところから説明。
「え、昔は日本領だったんだ!」
ネルは賢い子で、ざっと読んだだけで、樺太や北方領土の事情を理解してくれた。
「ふうん……ウクライナとかだけじゃなかったんだね、ロシアに領土取られたのは」
「それで、なんで、交換手の女の子は逃げなかったの?」
交換手の女の人たちが最後まで逃げずに仕事して、最後は毒を呑んで死んだのは理解できないみたい。
わたしも、うまく説明できなかったし。
「さわってもいいかい?」
部屋に戻ると、さっそく黒電話の前に立った。
「あ、うん。なにも聞こえないけどね」
すぐに受話器を上げるかと思ったら、ネルは、電話機の本体を愛しむように両手で挟んだ。
お母さんが幼子の頬っぺたを触ってるみたいだ。
「この電話、まだ生きてるような気がするよ」
「え、そうなの?」
「うん、エルフはね、森の木を触ってね、こんな風に話をするんだよ。エルフは長生きだけど、森の木はもっと長生きだからね、いろんなことを話してくれる。この電話にも同じようなのを感じるよ」
「そ、そうなんだ」
「えい!」
「わ(#'〇'#)!」
急に耳を引っ張られてビックリする。
「ヤクモも耳が伸びたら聞こえるかもぉ(^▽^)」
「も、もう、ネルったら(;`O´)o」
「アハハ、ねえ、探検に行こう!」
「え……でも、夕食後は就寝まで外に出ちゃいけないって……ほら、校則に載ってるよ」
壁に貼ってある校則を指さす。
「それは学校の外って意味だろ、敷地の中なら構わないさ」
構わないはずなのに、なぜ物置の窓から出るのかは聞かなかった(^_^;)。
学校は王宮の敷地の中にあって、王宮の敷地は山手線の内側よりも広いらしい。
「王宮の敷地ってことで自然環境を護ってるんだ、いいアイデアだ……」
敷地の半分近くを占めるヤマセン湖の岸辺で、一人ごちるネル。
「月が出ているのに霞んでるね」
「そうだな、この湖は面白いかもしれない……ん……森の中に何かいる」
「あ、ちょ……」
「走るな、気づかれる」
「と、言われてもぉ」
「ごめん」
30センチは身長差があるので、とうぜん脚の長さも違う訳で、それに気づいたネルはゆっくりにしてくれる。
「ニュンペーだ、隠れるよ」
ムギュ……押しつぶされそうになる。
「ごめん、力加減がむつかしい」
「ニュンペーって?」
「えと、ニンフのことだ……湖が、ここまで伸びてるんだな、無邪気に水浴びしてる」
「えと……見えないんだけど」
「ああ、ちょっとこっち向いて」
「ウ、なにすんの!」
ヘッドロックされたかと思うと、右手で目をグリグリされる。
「ほれ、見てみ」
「わあ……きれいな子たちだねぇ」
「よかった、ヤクモは怖がらない子なんだ」
「あはは、以前はふつうに見えてたからね」
「そうか、そうだろうね……でも、ここの敷地は広い。悪い奴もいるかもしれないから深入りはしないようにしよう」
「そだね」
「ちょっと、待ってて」
「え?」
深入りしないようにって言ったばかりなのに。
ネルは、どんどん森の中に入っていくとニンフのセンターみたいな子と親し気に言葉を交わした。
なにを話しているんだろう?
ケラケラ笑って、ちょっと羨ましいかも。
え、ネルがこっちを指さして、ヤバイ、みんなこっち向いたぁ!
シューー
風が吹くような音がしたかと思うと、ネルが戻ってきている。
「裸眼で見えるようになったら会いにおいでってさ」
「裸眼?」
「ほら、グリグリ。100回瞬きする間だけ妖精とかが見えるんだ」
「あ、そうなんだ」
試しに森の奥を見ると、もうニンフたちは見えなかった。
「気になることを聞いたよ」
「え、なに?」
「実は……ヤバイ、誰か来る。こっちから逃げるよ!」
「ちょ、ネル!」
どこをどう通ったのか分からないルートで部屋に戻る。
お風呂に入ったら、あちこち蚊にかまれていたよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド
005『ネルといっしょに』
あ、ところで、なんで電話なんか置いてんのぉ?
食堂からの帰り道、階段を上りながらネルが聞く。
わたしの机の上には古い黒電話が置いてある。
いまは通じなくなった交換手さんの黒電話。
相手が普通の人間だったら「ただのディスプレーだよ」とか適当に言っとくんだけど、ネルはエルフだ。
エルフってのは、そもそもファンタジーの住人だから、多少の不思議は分かるだろうと思って踊り場のところで立ち止まって話す。
「うちのご先祖に樺太の真岡ってとこで電話交換手をやっていた女の人がいたんだけどね……」
「カラフトのマカオ?」
「アハハ、マオカだよ(^_^;)」
地名から説明しなくちゃならなかった。
スマホで地図を出して、樺太がサハリンだというところから説明。
「え、昔は日本領だったんだ!」
ネルは賢い子で、ざっと読んだだけで、樺太や北方領土の事情を理解してくれた。
「ふうん……ウクライナとかだけじゃなかったんだね、ロシアに領土取られたのは」
「それで、なんで、交換手の女の子は逃げなかったの?」
交換手の女の人たちが最後まで逃げずに仕事して、最後は毒を呑んで死んだのは理解できないみたい。
わたしも、うまく説明できなかったし。
「さわってもいいかい?」
部屋に戻ると、さっそく黒電話の前に立った。
「あ、うん。なにも聞こえないけどね」
すぐに受話器を上げるかと思ったら、ネルは、電話機の本体を愛しむように両手で挟んだ。
お母さんが幼子の頬っぺたを触ってるみたいだ。
「この電話、まだ生きてるような気がするよ」
「え、そうなの?」
「うん、エルフはね、森の木を触ってね、こんな風に話をするんだよ。エルフは長生きだけど、森の木はもっと長生きだからね、いろんなことを話してくれる。この電話にも同じようなのを感じるよ」
「そ、そうなんだ」
「えい!」
「わ(#'〇'#)!」
急に耳を引っ張られてビックリする。
「ヤクモも耳が伸びたら聞こえるかもぉ(^▽^)」
「も、もう、ネルったら(;`O´)o」
「アハハ、ねえ、探検に行こう!」
「え……でも、夕食後は就寝まで外に出ちゃいけないって……ほら、校則に載ってるよ」
壁に貼ってある校則を指さす。
「それは学校の外って意味だろ、敷地の中なら構わないさ」
構わないはずなのに、なぜ物置の窓から出るのかは聞かなかった(^_^;)。
学校は王宮の敷地の中にあって、王宮の敷地は山手線の内側よりも広いらしい。
「王宮の敷地ってことで自然環境を護ってるんだ、いいアイデアだ……」
敷地の半分近くを占めるヤマセン湖の岸辺で、一人ごちるネル。
「月が出ているのに霞んでるね」
「そうだな、この湖は面白いかもしれない……ん……森の中に何かいる」
「あ、ちょ……」
「走るな、気づかれる」
「と、言われてもぉ」
「ごめん」
30センチは身長差があるので、とうぜん脚の長さも違う訳で、それに気づいたネルはゆっくりにしてくれる。
「ニュンペーだ、隠れるよ」
ムギュ……押しつぶされそうになる。
「ごめん、力加減がむつかしい」
「ニュンペーって?」
「えと、ニンフのことだ……湖が、ここまで伸びてるんだな、無邪気に水浴びしてる」
「えと……見えないんだけど」
「ああ、ちょっとこっち向いて」
「ウ、なにすんの!」
ヘッドロックされたかと思うと、右手で目をグリグリされる。
「ほれ、見てみ」
「わあ……きれいな子たちだねぇ」
「よかった、ヤクモは怖がらない子なんだ」
「あはは、以前はふつうに見えてたからね」
「そうか、そうだろうね……でも、ここの敷地は広い。悪い奴もいるかもしれないから深入りはしないようにしよう」
「そだね」
「ちょっと、待ってて」
「え?」
深入りしないようにって言ったばかりなのに。
ネルは、どんどん森の中に入っていくとニンフのセンターみたいな子と親し気に言葉を交わした。
なにを話しているんだろう?
ケラケラ笑って、ちょっと羨ましいかも。
え、ネルがこっちを指さして、ヤバイ、みんなこっち向いたぁ!
シューー
風が吹くような音がしたかと思うと、ネルが戻ってきている。
「裸眼で見えるようになったら会いにおいでってさ」
「裸眼?」
「ほら、グリグリ。100回瞬きする間だけ妖精とかが見えるんだ」
「あ、そうなんだ」
試しに森の奥を見ると、もうニンフたちは見えなかった。
「気になることを聞いたよ」
「え、なに?」
「実は……ヤバイ、誰か来る。こっちから逃げるよ!」
「ちょ、ネル!」
どこをどう通ったのか分からないルートで部屋に戻る。
お風呂に入ったら、あちこち蚊にかまれていたよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
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酒井 詩 コトハ 聴講生
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