やくもあやかし物語・2

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
8 / 84

008『先代ボビーの墓参り・2』

しおりを挟む
やくもあやかし物語・2

008『先代ボビーの墓参り・2』 




 王室墓地はまるで小さな森だよ。


 王宮の敷地は山手線の内側よりも広い。

 でもね、国王が力に任せて広げたわけじゃないんだよ。

 宮殿の周囲は豊かな自然に恵まれていて、その自然を守るために王宮の敷地にしたんだよ。

 他の国なら国立公園とかにするんだけど、そうすると国立公園法とかの法律を作って、管理するためのお役所とか作って、とうぜんお役人の数も増えて大変。

 それで、百何十年か前に「じゃあ、ぜんぶ王宮の敷地ということにしよう」と王さまが言って今に至っている。

 王宮の敷地は一般の国民もお出入り自由なんだけど、ヤマセンブルグの国民は王室に敬意を払っていて、けして無茶なことはしない。

 無茶っていうのは、勝手に家を建てたり、木を切ったり、地面を掘り返して鉱物資源を取って行ったりしないということよ。

 でもね、木の実を取ったり薪を拾ったり、時期と場所を限って狩りをしたりはOK。



「難しい言葉で『慣習法』というんだ」



 墓地に向かいつつ、ソフィー先生が教えてくれる。

「かんしゅうほう?」

「ああ、法律には実定法と慣習法がある。実定法は議会で決める普通の法律だ。慣習法とは、昔からある習慣を法律と同じ効力があるとしてみんなで大切にする取り決めだ。例えば、商売の取引の慣習……これはむつかしいなあ」

「日の丸がそうだったじゃない?」

 王女さまが付け加えられる。

「そうそう、日本の日の丸は長い間国旗とは明記されてなかったんだ」

「え、そうなんですか!?」

「ああ、日本人のほとんどが『あたりまえ』と思っていたんで、あえて法律では縛らなかった。でも『法律で定められていないものに敬礼なんかできるか』と、左翼が体制批判の道具にしたんでな、20世紀の終りに法律で国旗にしたんだ。それまで、日の丸を国旗たらしめていたのが慣習法だ」

「他にもあるわよ」

 詩さんが指を立てる。

「え、なんですか?」

「日本語」

「ええ?」

「法律で決めたわけじゃないのに、みんな日本語喋ってるでしょ? べつに国語法とかで縛ってないのによ」

「え、ああ……」

 ちょっと虚を突かれたっぽい。

「もともと、ここいらは農民が薪や木の身を取ったり、羊を放し飼いにしたりする共同の土地、日本の言葉では入会地というんだが、それが半分近く。動物や妖精の棲家とされる森が半分近く。残りの僅かが王宮の敷地だった。しかし、産業革命が起こって土地の所有権をはっきりさせようという風潮が出てきた。所有権をはっきりさせて持ち主が大農場を開いたり、石炭や鉱物資源を漁ったりする動きだ。それを防ぐために全てを王宮の敷地ということにして、乱開発されることから防いできたんだ」

「ちょうど、境目にうち(王室)の墓地もあったしね、王宮と墓地を結ぶ線から北側を、そういうことにしたの……ということで、ここからが墓地の聖域。いちおう、お祈りしてから入るわね」

「お祈りって、どんな……」

「十秒ほど頭を下げてくれるだけでいいから」

 王女さまが先頭で頭を下げる。

 墓地の森の前、ご先祖と精霊に敬意をはらってる感じで、ちょっと清々しい。

 チラ見すると、子犬のボビーまで大人しく俯いて可愛かった(^_^;)。



☆彡主な登場人物 

やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン  教頭先生
カーナボン卿     校長先生
酒井 詩       コトハ 聴講生
同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...