「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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28 留学生との対面

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 マティルド様と朝の挨拶を交わした後、わたくしたちはきゅっと唇を結びましたわ。
 これから、国賓の留学生の方々との対面ですもの。
 多少とはいえ、緊張した空気が張り詰めていますわね。

「ギーズ公爵令嬢、並びにボワセロー侯爵令嬢がおいでになりました」

 すっと開かれたドアを通り、応接テーブルの手前で立ち止まりましたわ。
 マティルド様もわたくしより半歩ほど下がったところに佇んでいらっしゃることをそれとなく確認いたしました。
 そして、もはや体に染み付いているお辞儀カーテシーを優雅に。
 もちろん、マティルド様もいっしょにですわ。

「留学生の皆様、ごきげんよう。初めてお目にかかります、アリアンヌ=マルゼリアスティーナ・ド・ギーズと申しますわ。以後、お見知り置きくださいまし。こちらはボワセロー侯爵令嬢ですわ」

 マティルド様の自己紹介、久しぶりに聞きますわぁ!

「初めてお目にかかります、マティルド=ディアーヌ・ド・ボワセローと申します。以後お見知り置きを」

 そうしてまた一歩下がられましたので、わたくしはにっこりとした笑顔を見せましたわ。

「この度は遠いスウェーデンよりようこそおいでくださいました。慣れない所も多いかとは存じますので、何かあればわたくしかボワセロー侯爵令嬢にお伝えくださいまし」

 そうしてもう一度お辞儀カーテシーをいたしました。
 これで初対面での挨拶は完璧ですわねっ!

「ギーズ公爵令嬢、ボワセロー侯爵令嬢、どうぞおかけください」

 学園長である初老の男性――ウー伯爵――の声で、わたくしたちは空いていたソファにそっと座りましたわ。
 ようやく留学生の方々のお顔をしっかりと眺められますわね……。
 そうして全員をさっと一瞥し、案の定、茶色《マロン》に近い金髪《ブローンド》が目に入りましたわ。
 ……そう、目に入ってしまいましたわ。
 やはり、留学生のうちのお一人だったのです。

「ギーズ公爵令嬢、先ほどぶりですね。私はオラフ=ブルーノ・フォン・ケーニヒスマルクと申します」

 彼は先ほどの廊下の一件のときとは全くの別人のように見えますわね。
 身だしなみがきちっとしているというのもあるのでしょう。
 けれども。
 何より、そえ、その表情ですわ!
 陰りなど一片もなく、自信に満ちあふれた笑顔を浮かべていらっしゃいますわ。
 そしてさらには、余裕綽々この世に憂いなどございません、人生オールハッピーといった空気感をまとっていらっしゃる。

 おやおやまぁまぁ。
 羨ましい限りですわ。
 ご存知の通り、今のは完全なる嫌味ですわ。
 あくまでも心のなかの、ではございますけれども。
 オーホホホ!
 ごめんあそばせ。

「ケーニヒスマルク伯爵子息、今後良い関係を築ければ幸いですわ」

 そう、わたくしは鮮やかに微笑んで見せましたの。
 わたくしは断固として手合わせなどいたしませんわ。
 ケーニヒスマルク伯爵子息はそれを望んでいらっしゃるようですけれども――目は口ほどに物を言う、ですわ――、わたくしは曲がりなりにもギーズ家の名を背負う令嬢ですもの。
 それは無理なお話ですわ。
 対面が許しませんもの。

 ――ということで、さあ、宣戦布告ですわ!
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