「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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3 我が家の精鋭侍女

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 お家に帰ってまいりましたわ……。
 門の向こうに消えてゆく、ラフィ殿下の乗っている馬車。
 うぅぅ……。

「しばらく一人でお部屋にこもりますわ」
「かしこまりました」

 表面上は冷静沈着に――やっぱりラフィ殿下と離れるだなんて、悲しすぎますわ……。

「呼んでいただけましたら、洗顔用のお水をご用意いたしますので」
「・・・わかりましたわ」

 本当になんなんですの、この侍女は?!
 今朝もこの方でしたわよ、わたくしの類まれなる猫かぶりを見破ったのは。
 お部屋にこもりましたら、お行儀が悪いですけれども、ベッドにダイブ、でございます。
 とても気持ちよいですけれども……やっぱり、寂しいですわね。
 それに、ちょっと胸の奥が苦しいですわ……。

 別に、ラフィ殿下にわたくしと同じ気持ちを持ってほしいなどという烏滸おこがましいことは考えておりませんの。
 ただ、ラフィ殿下の黄身について語るお姿を見ると……わたくしにはその表情を引き出せるだけの魅力がない、ということを実感してしまうのですわ。
 わたくしは卵の黄身に――お菓子の材料にすら劣る、という現実を知ってしまったのです。
 お菓子に罪はございませんが、やはり少々気が滅入りますわね……。

 さあ、塞ぎ込んでいても仕方ありませんわ、現実は変わりませんもの。
 ベルを鳴らしますと、やっぱり猫かぶり見破り侍女がお水を持ってきてくださりましたわ。

「お嬢様、早く洗いましょう。せっかくの美しい顔が」
「ええ、お願いしますわ」

 さすがは我が家の精鋭侍女ですわね、手つきが丁寧で心地好いですわ。

「そういえば、セリーヌはどうしましたの?」
「夜逃げいたしました。どうやらご一緒していた男性に騙されたそうでして――借金まみれになってしまったそうです」
「まぁ……」

 あのセリーヌが……健気で良い方でしたのに、残念ですわ。

「居場所はわかりませんの?」
「……申し訳ございません」

 やっぱりそうですわよね。
 なぜ悲しむべき現実というものはこう、一度に降り掛かってくるんですの?

「改めてご挨拶させていただきます。お嬢様の専属侍女になりました、レア・ブシェと申します」
「よろしくお願いしますわ」

 こうして、新しい人間関係というものは出来上がってゆくのですわ……。
 ・・・わたくし、妙に感傷的になってはいませんこと?

「それから、お嬢様」
「はい」

 慈愛に満ちた微笑みを浮かべたレアは――ラフィ殿下ほどではございませんが、癒し効果がありますわね。
 それに、浄化効果もあるようですわ。

「お気に触ったら申し訳ないのですが……わたしの前では素のお嬢様でいてください」

 数秒間、目を瞬かせて固まってしまいましたわ。
 だって、あまりにも思いもよらないことで思考が追いつかなかったのですもの。

「猫かぶりは、私の前では無意味ですので。ならばむしろ、気楽になさったほうがよろしいかと思ったんです」

 侍女の鏡、ですわね。
 主人の心に寄り添えるって、とても大事なことなんですのよ。

「ありがとう存じますわ」

 心からの感謝、ですわね。
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