12 / 30
12 夕暮れの石畳
しおりを挟む
ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……。
これは……学園に併設されている教会の、六時の鐘の音ですわ……なんてことでしょう……。
すっかり時を忘れて読書にふけっておりましたわ。
窓の外の太陽は、いつもより低い位置で輝いていらっしゃいますわ。
「ギーズ公爵令嬢、退館の時間です」
「ええ、ありがとう存じましたわ」
司書の方に促されつつ、ヴェルサイユ中等学園図書館を出ましたわ。
厩舎の方向へと続く石畳を辿っておりますと、ふと前方の木陰にどなたかが佇んでいらっしゃるのが見えましたわ。
「アリア」
……!
なんで……どうして、こんなところに、いらっしゃるんですの……?
初夏の爽やかな風に、さらさらとホワイトブロンドを揺らされていらっしゃる、愛しいお方。
これ以上心をかき乱されないために、今日はもう会いたくなかったお方。
「ラファエル王太子殿下……ごきげんよう」
ラファエル王太子殿下の前髪の間からのぞく、燃ゆる若葉色の瞳が切なげに細められましたわ。
ささいな仕草一つ一つとっても気品があって美しいのですけれども……なぜ、そのような表情を浮かべられるのでしょう。
「アリア」
「はい」
いつにない彼の不思議な態度に、小首を傾げてしまいますわ。
「アリア」
「どう、いたしましたの……?」
お願いですから、そんなに切なげに、わたくしの名前を何度も呼ばないでくださいまし。
胸が苦しくなってしまいますもの……。
「アリア……アリア……」
おかしいですわ。
いつもは王太子らしく自信に満ち溢れていらっしゃるというのに……なぜ、そんなにわたくしの名前を呼ばれるんですの……?
そのとき不意に、ラファエル王太子殿下の滑らかな頬に、涙がつーっと伝っていらっしゃることに気が付きましたわ。
「ぇ……ど、どういたしましたの?!」
淑女らしくといったことも何もかもを忘れ、駆け寄りましたわ。
わたくしの名をただただ呼ぶだけのラファエル王太子殿下のお姿に、胸が苦しくなりますわ。
慌てて手巾を差し出しますと――わたくしの手ごと掴まれ、引き寄せられましたわ?!
「ら、ラファエル王太子殿下……?」
「アリア……」
そのまま固く抱きすくめられましたが――状況を理解できませんわ。
これは、一体……?
「殿下ぁ~、どこにいるんですかぁ~?」
唐突に入り込んできたそれに、思わずびくりと体を跳ねさせてしまいましたわ。
この声は、シャロウン男爵令嬢のものですわね……。
ラファエル王太子殿下は身を強張らせ、ひどく哀しげなかすれた声でもう一度わたくしの名を呼びますと、身を翻して石畳を歩いて行ってしまわれました。
きっと、シャロウン男爵令嬢のもとへといらっしゃるのでしょう……。
どういたしましょう……ラファエル王太子殿下の御心が、理解できませんわ……。
見渡す限り誰もいない世界で、わたくしは一人佇み、目を伏せて痛む心を押し隠しましたわ。
わたくしは、ギーズ家の誇り高き令嬢ですもの……矜持を……。
はらりと落ちた雫を皮切りに、とうとうこらえきれなくなった涙に暮れましたわ……。
これは……学園に併設されている教会の、六時の鐘の音ですわ……なんてことでしょう……。
すっかり時を忘れて読書にふけっておりましたわ。
窓の外の太陽は、いつもより低い位置で輝いていらっしゃいますわ。
「ギーズ公爵令嬢、退館の時間です」
「ええ、ありがとう存じましたわ」
司書の方に促されつつ、ヴェルサイユ中等学園図書館を出ましたわ。
厩舎の方向へと続く石畳を辿っておりますと、ふと前方の木陰にどなたかが佇んでいらっしゃるのが見えましたわ。
「アリア」
……!
なんで……どうして、こんなところに、いらっしゃるんですの……?
初夏の爽やかな風に、さらさらとホワイトブロンドを揺らされていらっしゃる、愛しいお方。
これ以上心をかき乱されないために、今日はもう会いたくなかったお方。
「ラファエル王太子殿下……ごきげんよう」
ラファエル王太子殿下の前髪の間からのぞく、燃ゆる若葉色の瞳が切なげに細められましたわ。
ささいな仕草一つ一つとっても気品があって美しいのですけれども……なぜ、そのような表情を浮かべられるのでしょう。
「アリア」
「はい」
いつにない彼の不思議な態度に、小首を傾げてしまいますわ。
「アリア」
「どう、いたしましたの……?」
お願いですから、そんなに切なげに、わたくしの名前を何度も呼ばないでくださいまし。
胸が苦しくなってしまいますもの……。
「アリア……アリア……」
おかしいですわ。
いつもは王太子らしく自信に満ち溢れていらっしゃるというのに……なぜ、そんなにわたくしの名前を呼ばれるんですの……?
そのとき不意に、ラファエル王太子殿下の滑らかな頬に、涙がつーっと伝っていらっしゃることに気が付きましたわ。
「ぇ……ど、どういたしましたの?!」
淑女らしくといったことも何もかもを忘れ、駆け寄りましたわ。
わたくしの名をただただ呼ぶだけのラファエル王太子殿下のお姿に、胸が苦しくなりますわ。
慌てて手巾を差し出しますと――わたくしの手ごと掴まれ、引き寄せられましたわ?!
「ら、ラファエル王太子殿下……?」
「アリア……」
そのまま固く抱きすくめられましたが――状況を理解できませんわ。
これは、一体……?
「殿下ぁ~、どこにいるんですかぁ~?」
唐突に入り込んできたそれに、思わずびくりと体を跳ねさせてしまいましたわ。
この声は、シャロウン男爵令嬢のものですわね……。
ラファエル王太子殿下は身を強張らせ、ひどく哀しげなかすれた声でもう一度わたくしの名を呼びますと、身を翻して石畳を歩いて行ってしまわれました。
きっと、シャロウン男爵令嬢のもとへといらっしゃるのでしょう……。
どういたしましょう……ラファエル王太子殿下の御心が、理解できませんわ……。
見渡す限り誰もいない世界で、わたくしは一人佇み、目を伏せて痛む心を押し隠しましたわ。
わたくしは、ギーズ家の誇り高き令嬢ですもの……矜持を……。
はらりと落ちた雫を皮切りに、とうとうこらえきれなくなった涙に暮れましたわ……。
149
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~
真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。
自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。
回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの?
*後編投稿済み。これにて完結です。
*ハピエンではないので注意。
【完結】仕方がないので結婚しましょう
七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』
アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。
そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。
アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。
そして、その度に正論で打ちのめされてきた。
本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。
果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!?
*高低差がかなりあるお話です
*小説家になろうでも掲載しています
【短編】婚約解消を望もうとも、婚約者から言葉を聞かない限りは応じませんわ
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
伯爵令嬢のディアナ・アルヴィエは実家と絶縁し、婚約者であるアーレントの実家である辺境領の屋敷で暮らしていた。魔物討伐や結界の管理などを担う即戦力としていたディアナは、アーレンが成人したら結婚する。
はずだった。
王都に突如現れた黒竜討伐へと赴いた婚約者アーレンと様の部下だと名乗る使いから婚約解消の知らせが届く。それと同時に辺境地の結界に亀裂が入り、答え合わせは後回しとなるのだが、同時にカルト集団の奇襲を受けてしまい──!?
両親に愛されなかった令嬢が幸せを受け入れるまでのお話。
年下情緒不安定ヤンデレ騎士×自尊心の低い年上大魔法使いのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる