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15 消えたデート
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昨日――金曜日は、何事もなく終わりましたわ。
そして、土曜日である本日は学園の授業は午前中しかございませんわ。
ですので、普段ならば午後はラファエル王太子殿下とのデートをしていたのですけれども……。
届いていたお手紙に目を通しますと、何とも悲しいお知らせが書かれておりましたの。
「レア。ラファエル王太子殿下は、本日いらっしゃらないそうですわ」
これまで一度として、急に予定を取りやめられるというようなことはございませんでしたわ。
……まあ、いずれはこうなるだろうということは存じておりましたもの。
ただ、それが予想よりも早かったと言うだけですわ。
「では、街に出るのは取りやめるということでよろしいですか?」
街……気分転換には、ちょうどよろしいかもしれませんわね。
「……いえ、街には出かけますわ。たまにはゆっくりしたいのですもの」
「かしこまりました」
緊張したわけでもないというのに乾いてしまっていた口に紅茶を含み、手に持っていたカップをソーサーに戻しましたわ。
……この作法も、ラファエル王太子殿下に嫁ぐからと、寝る間も惜しんで必死に練習しましたのに……。
にじみそうになった涙を慌てて抑え込み、ティースタンドからマカロンを一つ取りましたわ。
「お嬢様、馬車の準備が整いました」
「わかりましたわ」
もう一度紅茶を飲んでから、街に繰り出しましたわ。
「――あ、お嬢様! あれなんてどうです?」
「まあ、なんて美味しそうなパンなんですの!? さあレア、行きますわよ!」
レアとともに、美味しそうなものを販売していらっしゃるお店を探して歩き回るのは、予想以上に楽しいものでしたわ。
あら、あの屋台の串焼きもなかなか美味しそうですわね。
……こんなに自由に解き放たれたような気持ちになったのは、ずいぶんと久しぶりなような気がいたしますわねぇ。
そうして街を満喫していると、ふと、信じがたい光景が目に入ってしまいましたの。
あれは……一体、どういうことなのでしょう?
「殿下ぁ、おすすめのカフェって、どこなんですか?」
「老舗とまではいかないが、結構昔からあるところなんだ。詳しくは――まあ、楽しみにしていてくれ」
「は~い!」
雑踏の中へと消えてゆく、ラファエル王太子殿下とシャロウン男爵令嬢。
わたくしとのデートではなく、シャロウン男爵令嬢とのデートをお選びになったのですわね……。
パンを買ってきたレアが戻ってくるまで、わたくしはお二人の背を見失った場所を見つめたまま、硬直しておりましたわ。
「お嬢様……どうしたんですか……?」
はっと、放心状態から戻りったわたくしは、こらえきれずにレアに抱きつきましたわ。
そして、彼女の肩口に目元を押し付けると、わたくしの頭の上でふっと微笑んだような気配のした後、「失礼します」と優しく背をさすってくださったのですわ。
服が濡れてしまうことなど気にもせず、慈愛に包み込んでくださったんですの。
レアはどこまでも清らかで、素晴らしいお方ですのね……。
ここ最近の出来事ですっかり泣き虫になってしまったわたくしが顔を上げるまで、レアはずっとそのままでいてくださいましたわ。
そして、土曜日である本日は学園の授業は午前中しかございませんわ。
ですので、普段ならば午後はラファエル王太子殿下とのデートをしていたのですけれども……。
届いていたお手紙に目を通しますと、何とも悲しいお知らせが書かれておりましたの。
「レア。ラファエル王太子殿下は、本日いらっしゃらないそうですわ」
これまで一度として、急に予定を取りやめられるというようなことはございませんでしたわ。
……まあ、いずれはこうなるだろうということは存じておりましたもの。
ただ、それが予想よりも早かったと言うだけですわ。
「では、街に出るのは取りやめるということでよろしいですか?」
街……気分転換には、ちょうどよろしいかもしれませんわね。
「……いえ、街には出かけますわ。たまにはゆっくりしたいのですもの」
「かしこまりました」
緊張したわけでもないというのに乾いてしまっていた口に紅茶を含み、手に持っていたカップをソーサーに戻しましたわ。
……この作法も、ラファエル王太子殿下に嫁ぐからと、寝る間も惜しんで必死に練習しましたのに……。
にじみそうになった涙を慌てて抑え込み、ティースタンドからマカロンを一つ取りましたわ。
「お嬢様、馬車の準備が整いました」
「わかりましたわ」
もう一度紅茶を飲んでから、街に繰り出しましたわ。
「――あ、お嬢様! あれなんてどうです?」
「まあ、なんて美味しそうなパンなんですの!? さあレア、行きますわよ!」
レアとともに、美味しそうなものを販売していらっしゃるお店を探して歩き回るのは、予想以上に楽しいものでしたわ。
あら、あの屋台の串焼きもなかなか美味しそうですわね。
……こんなに自由に解き放たれたような気持ちになったのは、ずいぶんと久しぶりなような気がいたしますわねぇ。
そうして街を満喫していると、ふと、信じがたい光景が目に入ってしまいましたの。
あれは……一体、どういうことなのでしょう?
「殿下ぁ、おすすめのカフェって、どこなんですか?」
「老舗とまではいかないが、結構昔からあるところなんだ。詳しくは――まあ、楽しみにしていてくれ」
「は~い!」
雑踏の中へと消えてゆく、ラファエル王太子殿下とシャロウン男爵令嬢。
わたくしとのデートではなく、シャロウン男爵令嬢とのデートをお選びになったのですわね……。
パンを買ってきたレアが戻ってくるまで、わたくしはお二人の背を見失った場所を見つめたまま、硬直しておりましたわ。
「お嬢様……どうしたんですか……?」
はっと、放心状態から戻りったわたくしは、こらえきれずにレアに抱きつきましたわ。
そして、彼女の肩口に目元を押し付けると、わたくしの頭の上でふっと微笑んだような気配のした後、「失礼します」と優しく背をさすってくださったのですわ。
服が濡れてしまうことなど気にもせず、慈愛に包み込んでくださったんですの。
レアはどこまでも清らかで、素晴らしいお方ですのね……。
ここ最近の出来事ですっかり泣き虫になってしまったわたくしが顔を上げるまで、レアはずっとそのままでいてくださいましたわ。
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